新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ

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野党の政策も総取りする安倍政権

2015年11月28日 | 政治

 

企業も指導したがる首相

2015年11月28日

 

 来年夏の参院選、あるいは衆参同日選挙に向けて、安倍政権は票につながるなら、何でも飲み込もうとしています。野党が掲げてきた経済政策でも、かまうものかと取り込んでいます。これでは野党も安倍政権になかなか対抗できません。与党と野党の境界線が低くなりました。

 

 なりふり構わないという点では、「規制緩和で経済構造の転換を進める」といいながら、民間の自主性に任せるべき分野に政権、政府がどんどん介入しているのです。安倍首相は設備投資の拡大、賃上げ要求を直接しています。このような要求はかつての政権ではありませんでした。規制緩和と経済介入を同時に進めるという矛盾に満ちています。本来、保守党は自由に立脚した経済思想のはずなのに、安倍政権は国家主導型経済を信奉しているようです。

 

緊急対策で実現できる話ではない

 

 まず、安倍政権は「1億総活躍国民会議」を開き、盛りたくさんの緊急政策を決めました。名目国内総生産(GDP)600兆円に向けた法人税の引き下げ、希望出生率1・8%に向けた保育所整備、介護離職ゼロに向けた高齢者の自宅待機解消などなど。それぞれ達成に時間がかかるのに「緊急政策」という宣伝文句を添え、すぐにでもできそうだと思わせるのは選挙対策からでしょう。

 

 日経新聞の社説は「道筋も財源も不透明な対策」との見出しです。「各省庁の従来からの施策を寄せ集めただけ」、「保育にしても介護にしても人材の確保が必要なのに、この分野では人手不足の状態にある」などと、指摘しています。朝日も読売も同じようなトーンの社説です。

 

 安倍政権が打ち出している経済対策の個別の項目に注文をつけるより、大局的にみて、経済政策がどのような流れになっているかの分析がメディアには欲しいですね。私は野党が主張しそうな政策項目がほとんど取り入れられており、与野党の差が消えつつあるということではないのか、と思います。安全保障政策など除けば、野党は安倍政権への対抗軸を作れない。ここに野党が存在感を失っている最大の理由があるのでないでしょうか。

 

政策を横取りされる野党

 

 対策の中に、「最低賃金を全国平均で1000円とする」というのがありあます。民主党は「そもそもわれわれが主張してきたことだ」といっています。要するに、政策を横取りされたのです。このような例ほかにもたくさんあるでしょう。野党が自民党に横取りされたといっても、だれもが賛成しやすい「1億総活躍のため」、「GDP600兆円のため」という目標への手段であれば、文句をつけにくいのでしょう。

 

 そもそも野党は自分たちが政権を取ったら、どのような政策を推進するのか用意し、絶えず表明しておかないから横取りが横行するのです。選挙直前になって、あわてて公約をまとめようとしているから、こういうことが起きるのですね。

 

 もっと基本的なことをいえば、冷戦構造の終結で「自由主義か社会民主主義か」という対抗軸がなくなってしまい、特に経済政策では与野党間の差をつけにくくなりました。それでも格差拡大という大問題があります。マネー中心に回る市場主義が生みだす社会的、経済的、資産的格差が拡大しており、その是正を民主党あたりが掲げればよいのに、何をしているのでしょうね。

 

首相の声より市場の声に従う企業

 

 もうひとつ。安倍政権の特色は国家主導型経済にあります。「民間設備投資を拡大せよなどと、首相は要求すべきではない。民のことは民に」、「賃上げも民間企業に任せるべき次元の問題のはずだ」ということですね。安倍首相は経済実態にうといのか、「国家最高の指導者である自分が指示すれば、経済界は動かざるを得ない、従わざるを得ない」との錯覚があるのでしょう。

 

 民間企業は首相に従うのではなく、市場に従う存在です。首相に従って国家間、あるいは企業間の競争に負けても、首相、つまり政府が救済してくれることはない、と知っているからです。財界トップが首相との官民対話の会議に臨み、首相の要求にじっと耳を傾けている先進国は他にありますかね。財界のトップは「われわれは首相ではなく、市場の声を聞く」くらいのことを言って欲しかったですね。

 



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