チェルノブイリ通信
No.93
特集
チェルノブイリ、フクシマ
汚染された大地の今を知る
木村真三先生講演会・報告
2013年7月14日(日)、獨協医科大学准教授の木村真三先生を福岡へお招き
し、九州大学医学部百年講堂にて講演会を開催しました。木村先生は3・11後、当時勤めていた職を辞して福島に向かわれました。福島では各地を回って放射線量の測定に取り組んでいらっしゃいます。
今回の講演会は、木村先生の基調講演、長年チェルノブイリ支援に携わってこられたロシア語医療通訳の山田英雄さんとの対談、そして『100人の母たち』スライド上映という3部構成で企画しました。スペースの都合上、簡単な報告となりますが、詳しい報告資料もありますので、ご希望の方は事務局までお気軽にお問い合わせください。
報告/CMN理事・平川可南子
【第一部木村真三先生基調講演】
●福島だけでなく、放射能は全国を汚染した
今日は「FUKUSHIMAを風化させてはいけない」という題目でお話をさせていただきます。
今日の話は大きく3つの内容から構成されています。これからお話しすることは事実ですので、皆さんがここで見聞きされたことをぜひとも、今日来られなかった方々にお伝えください。息の長い戦いを続けていかなければ、福島というものが蔑視される。そうではなくて、これは歴史の中に刻まれる問題のひとつだ、という方向に持っていかなければならないというのが私の考えです。
まずは、「放射能は広く薄く全国を汚染した」ということをお知りおきください。他人事ではなく、自分のこととして考えてみてください。これは私からのお願いです。
福島県内だけではなくて、実は皆さんのところにも放射能が到達していたということ、だから皆さんも一度は被ばくをしています。これは認識すべきことです。長崎大学の物理学者の高辻俊宏先生という方がいらっしゃいまして、もしかしたら長崎にも放射能が届いているのではないかということで、事故直後に放射能の測定をしていただきました。すると事故からわずか2週間後、特に4月6日-13日の一週間が最大ピークになるのですが、セシウム137と134が到達していました。この長崎で検出された量というのは、塵(ちり)を集めたら、1kgあたりに換算して、飯館村蕨平(わらびたいら)の汚染土壌と同じレベルのものでした。ということは、この福岡市も一度は汚染されている、そう考えたときに「これは他人事ではないのだ」ということを理解していただきたいと思います。
福島第一原発が不幸にして事故を起こしました。震災による全交流電源喪失によってメルトダウンした結果、大量の放射能が放出され、その放射能が山々を汚染し、我々の家々を汚染し、その汚染されたものが雨とともに川を汚染し、最終的に海を汚染してしまった。こういうところから放射能というものをきちんと教育、勉強していって、放射線について学んでいくのが本来の学校教育の場であります。ところが学校の副読本として出されているものには、この部分がカットされています。「世の中には放射線は当たり前にあります」「飛行機に乗っても、レントゲンを撮っても被ばく
をする」というような話のすり替えが起きているのです。これではいけません。また、子どもたちにいきなり「放射線とは」と説明しても、絶対に伝わりません。福島の前に広島や長崎という話を入れ、きちんと歴史的な部分も含めて教育をやっていくべきではないかと思っております。
●事故による健康被害は、まだよく判っていない
2番目に、これから申し上げるのはとても重要なお話です。「健康影響は無いのではなく、まだよく判らない」ということです。事故からたった2年しか経っていない、まだ何も判っていないのに、「無い」と言うのはそもそもおかしい。これをあたかも判ったかのように政府、学者、新聞が「無い」と言うのがいけません。
「甲状腺がん新たに9人」これは福島民友新聞の記事です。一次検査、17万4000人確定、その結果の内訳が書かれています。これまでの検査実施主体の福島県立医科大学は、チェルノブイリ原発事故によるがんが見つかったのが事故の4-5年後以降だったとして、福島での検査結果について「放射能の影響は考えられない」と説明していますが、そうではありません。これはチェルノブイリ原発事故の4年後、5年後に動かざる証拠が出てしまって
IAEA(国際原子力機関)、ICRP(国際放射線防護委員会)が認めたということです。こうした甲状腺がんの発症は、4,5年後よりももっと早い時期にベラルーシでも、ウクライナでも報告が出されています。こういった現実というものが隠されているのです。
新聞報道では6月5日現在、2012年に福島県内の18歳以下を対象に調査を行った結果、17万5499人のうち、甲状腺がんになった人は12人、疑いのある人は15人、合わせて27人であったと言われています。この内容をきちんと解釈し、これからお伝えするのが真実です。
一次検査を行った方々が17万5499人です。そのうち二次検査に回った人が1140人いました。二次検査が終わった人は5月27日現在で421人、そのうち検査の結果が出た人はもっと少なく383人です。つまり、「二次検査を受けたこの383人のうち、12+15=27人の方が、がんもしくはがんの疑いがある」という結果が出された。この結果について、異常ではないという方がおかしい。
今までのデータを見てもこのような異常は見つかっておりません。
それを国や県は否定しています。
こうした20歳未満の子どもたちの場合、10万人に対して甲状腺がんが一人出るか出ないかの状況というのが今までの、事故前の罹患(りかん)率です。それが今現在、こうやって増えている。これはあくまでも私の仮説ですが、がん検診をしてこのような結果が出てきたのはスクリーニング効果ではなくて、明らかに何か異常が起きているのではないかと感じております。
●忘れた人にこそ、フクシマの現実を伝えてほしい
これは命からがら津波を回避して沖合に船を出した浪江町請戸(うけど)漁港の漁師さんからの話です。
彼は、ずっとボロボロになったサンダルを履いています。彼に尋ねると、「これ? 婚約者だったんだけど俺のこと心配で請戸漁港に車走らせてるときに、津波にのまれたんだ。そんときに「あんた、そんなもんしか履いてねえから、もうちょっといいサンダル履け」って、俺の誕生日祝いにって持ってたサンダルで、これ、形見になったんで、俺ずっと履いてんだ」と答えてくれました。こういったことが現実に起きています。
こうした言葉というものが全然伝わっていない。たった2年で忘れていいのか。ここには皆さん、意識ある方が来てくださいました。しかし本当は忘れた人たちに伝えたい。でもここで私が伝えるのは無理です。だからこそ今日皆さんが、来ていただいた一人一人が、今日来ていなかった人に「こういった話を聞いたんだ」ということを伝えてください。一人でもよいです。そうすれば倍の数になります。そうやって広げていくことが、今一番大切なことです。これが福島について語るということなのです。
また3番目として皆さんに知ってもらいたいことは、誰のための情報なのかということです。
首相官邸では、この度の非常事態、緊急事態で国民がパニックに陥るから情報を操作したと説明していますが、国民は馬鹿ではありません。冷静に判断できる知恵も知識もあります。それは正しい知識を伝えることによって、正しい判断ができるからです。この部分をまず怠っていることが問題なのです。また、専門領域を超えないことも重要です。分からないことに対しては「すみません、私の範疇(はんちゅう)を越えています、私には分かりません」とはっきり伝えることです。事実しか伝えないというのが私のスタンスです。
●信頼関係を築きながら、共に解決策を見つけ出す
放射能を知ることによって、きちんと放射能を理解しながら戦っていくことで、生活ができますよ、という話です。外部被ばくというのは物理的解釈。内部被ばくは放射性物質がもつ化学的な性質や薬物動態学などの解釈をすべて考えて理解していかなければなりません。このようなことをきちんと説明しないで、放射能をただ怖がるのもいけないし、全てのことを人任せにすることもよくありません。だから私は福島県民に対しても文句を言います。
最後に、大事なことは信頼関係を構築しながら住民の営みから抽出される問題点を見つけ出し、その中から解決策を講じていくことです。問題点を抽出することは批評家にもできますが、解決策を構築していくということを前面に出さなかったら、結局は放射能に対して戦っていくことにはなりません。
今日は呼んでくださってありがとうございます。「福島だけじゃない、これは全国のことなんだ」と感じ取ってくだされば、私はそれが一番の支援だと思っています。
No.93
特集
チェルノブイリ、フクシマ
汚染された大地の今を知る
木村真三先生講演会・報告
2013年7月14日(日)、獨協医科大学准教授の木村真三先生を福岡へお招き
し、九州大学医学部百年講堂にて講演会を開催しました。木村先生は3・11後、当時勤めていた職を辞して福島に向かわれました。福島では各地を回って放射線量の測定に取り組んでいらっしゃいます。
今回の講演会は、木村先生の基調講演、長年チェルノブイリ支援に携わってこられたロシア語医療通訳の山田英雄さんとの対談、そして『100人の母たち』スライド上映という3部構成で企画しました。スペースの都合上、簡単な報告となりますが、詳しい報告資料もありますので、ご希望の方は事務局までお気軽にお問い合わせください。
報告/CMN理事・平川可南子
【第一部木村真三先生基調講演】
●福島だけでなく、放射能は全国を汚染した
今日は「FUKUSHIMAを風化させてはいけない」という題目でお話をさせていただきます。
今日の話は大きく3つの内容から構成されています。これからお話しすることは事実ですので、皆さんがここで見聞きされたことをぜひとも、今日来られなかった方々にお伝えください。息の長い戦いを続けていかなければ、福島というものが蔑視される。そうではなくて、これは歴史の中に刻まれる問題のひとつだ、という方向に持っていかなければならないというのが私の考えです。
まずは、「放射能は広く薄く全国を汚染した」ということをお知りおきください。他人事ではなく、自分のこととして考えてみてください。これは私からのお願いです。
福島県内だけではなくて、実は皆さんのところにも放射能が到達していたということ、だから皆さんも一度は被ばくをしています。これは認識すべきことです。長崎大学の物理学者の高辻俊宏先生という方がいらっしゃいまして、もしかしたら長崎にも放射能が届いているのではないかということで、事故直後に放射能の測定をしていただきました。すると事故からわずか2週間後、特に4月6日-13日の一週間が最大ピークになるのですが、セシウム137と134が到達していました。この長崎で検出された量というのは、塵(ちり)を集めたら、1kgあたりに換算して、飯館村蕨平(わらびたいら)の汚染土壌と同じレベルのものでした。ということは、この福岡市も一度は汚染されている、そう考えたときに「これは他人事ではないのだ」ということを理解していただきたいと思います。
福島第一原発が不幸にして事故を起こしました。震災による全交流電源喪失によってメルトダウンした結果、大量の放射能が放出され、その放射能が山々を汚染し、我々の家々を汚染し、その汚染されたものが雨とともに川を汚染し、最終的に海を汚染してしまった。こういうところから放射能というものをきちんと教育、勉強していって、放射線について学んでいくのが本来の学校教育の場であります。ところが学校の副読本として出されているものには、この部分がカットされています。「世の中には放射線は当たり前にあります」「飛行機に乗っても、レントゲンを撮っても被ばく
をする」というような話のすり替えが起きているのです。これではいけません。また、子どもたちにいきなり「放射線とは」と説明しても、絶対に伝わりません。福島の前に広島や長崎という話を入れ、きちんと歴史的な部分も含めて教育をやっていくべきではないかと思っております。
●事故による健康被害は、まだよく判っていない
2番目に、これから申し上げるのはとても重要なお話です。「健康影響は無いのではなく、まだよく判らない」ということです。事故からたった2年しか経っていない、まだ何も判っていないのに、「無い」と言うのはそもそもおかしい。これをあたかも判ったかのように政府、学者、新聞が「無い」と言うのがいけません。
「甲状腺がん新たに9人」これは福島民友新聞の記事です。一次検査、17万4000人確定、その結果の内訳が書かれています。これまでの検査実施主体の福島県立医科大学は、チェルノブイリ原発事故によるがんが見つかったのが事故の4-5年後以降だったとして、福島での検査結果について「放射能の影響は考えられない」と説明していますが、そうではありません。これはチェルノブイリ原発事故の4年後、5年後に動かざる証拠が出てしまって
IAEA(国際原子力機関)、ICRP(国際放射線防護委員会)が認めたということです。こうした甲状腺がんの発症は、4,5年後よりももっと早い時期にベラルーシでも、ウクライナでも報告が出されています。こういった現実というものが隠されているのです。
新聞報道では6月5日現在、2012年に福島県内の18歳以下を対象に調査を行った結果、17万5499人のうち、甲状腺がんになった人は12人、疑いのある人は15人、合わせて27人であったと言われています。この内容をきちんと解釈し、これからお伝えするのが真実です。
一次検査を行った方々が17万5499人です。そのうち二次検査に回った人が1140人いました。二次検査が終わった人は5月27日現在で421人、そのうち検査の結果が出た人はもっと少なく383人です。つまり、「二次検査を受けたこの383人のうち、12+15=27人の方が、がんもしくはがんの疑いがある」という結果が出された。この結果について、異常ではないという方がおかしい。
今までのデータを見てもこのような異常は見つかっておりません。
それを国や県は否定しています。
こうした20歳未満の子どもたちの場合、10万人に対して甲状腺がんが一人出るか出ないかの状況というのが今までの、事故前の罹患(りかん)率です。それが今現在、こうやって増えている。これはあくまでも私の仮説ですが、がん検診をしてこのような結果が出てきたのはスクリーニング効果ではなくて、明らかに何か異常が起きているのではないかと感じております。
●忘れた人にこそ、フクシマの現実を伝えてほしい
これは命からがら津波を回避して沖合に船を出した浪江町請戸(うけど)漁港の漁師さんからの話です。
彼は、ずっとボロボロになったサンダルを履いています。彼に尋ねると、「これ? 婚約者だったんだけど俺のこと心配で請戸漁港に車走らせてるときに、津波にのまれたんだ。そんときに「あんた、そんなもんしか履いてねえから、もうちょっといいサンダル履け」って、俺の誕生日祝いにって持ってたサンダルで、これ、形見になったんで、俺ずっと履いてんだ」と答えてくれました。こういったことが現実に起きています。
こうした言葉というものが全然伝わっていない。たった2年で忘れていいのか。ここには皆さん、意識ある方が来てくださいました。しかし本当は忘れた人たちに伝えたい。でもここで私が伝えるのは無理です。だからこそ今日皆さんが、来ていただいた一人一人が、今日来ていなかった人に「こういった話を聞いたんだ」ということを伝えてください。一人でもよいです。そうすれば倍の数になります。そうやって広げていくことが、今一番大切なことです。これが福島について語るということなのです。
また3番目として皆さんに知ってもらいたいことは、誰のための情報なのかということです。
首相官邸では、この度の非常事態、緊急事態で国民がパニックに陥るから情報を操作したと説明していますが、国民は馬鹿ではありません。冷静に判断できる知恵も知識もあります。それは正しい知識を伝えることによって、正しい判断ができるからです。この部分をまず怠っていることが問題なのです。また、専門領域を超えないことも重要です。分からないことに対しては「すみません、私の範疇(はんちゅう)を越えています、私には分かりません」とはっきり伝えることです。事実しか伝えないというのが私のスタンスです。
●信頼関係を築きながら、共に解決策を見つけ出す
放射能を知ることによって、きちんと放射能を理解しながら戦っていくことで、生活ができますよ、という話です。外部被ばくというのは物理的解釈。内部被ばくは放射性物質がもつ化学的な性質や薬物動態学などの解釈をすべて考えて理解していかなければなりません。このようなことをきちんと説明しないで、放射能をただ怖がるのもいけないし、全てのことを人任せにすることもよくありません。だから私は福島県民に対しても文句を言います。
最後に、大事なことは信頼関係を構築しながら住民の営みから抽出される問題点を見つけ出し、その中から解決策を講じていくことです。問題点を抽出することは批評家にもできますが、解決策を構築していくということを前面に出さなかったら、結局は放射能に対して戦っていくことにはなりません。
今日は呼んでくださってありがとうございます。「福島だけじゃない、これは全国のことなんだ」と感じ取ってくだされば、私はそれが一番の支援だと思っています。