新渡戸稲造記念 さっぽろがん哲学外来

さっぽろがん哲学外来の活動予定や活動の様子などを
皆さんにお伝えします。皆さんの参加をお待ちしています。

がんとどう向き合うか 日野原重明氏や「がん哲学外来」の樋野興夫氏招き市民公開講座

2015年05月11日 | 樋野先生からのメッセージ
聖路加国際病院相談支援センター主催のがん診療連携拠点病院市民公開講座が9日、聖路加国際大学(東京都中央区)で催された。第1回目となる今回は、「がん哲学外来」の提唱者である順天堂大学医学部教授の樋野興夫(ひの・おきお)氏と、同院名誉院長の日野原重明氏を招いての特別講演が行われ、患者自身だけではなく周囲の人々も癌(がん)にどう向き合い、どのようにして患者と共に生きていくかが語れらた。講演会の後には、樋野氏と同院腫瘍内科部長の山内照夫氏との対談も行われた。

全国健康保険協会によると、現在日本人の2人に1人は癌にかかり、そのうち3人に1人が死亡しているという。癌は治る病気とされている一方で、死亡率もかなり高く、さらに再発の可能性も大きい。そのような癌と一緒に生きることを真正面から取り組む樋野氏は、対話型外来である「がん哲学外来」を2008年に開設し、現在「メディア・カフェ」としてその働きが全国に広がっている。

がん哲学外来とは、生きることの根源的な意味を考えようとする患者と、癌の発生と成長に哲学的な意味を見出そうする人との対話の場。一般的な癌相談やセカンドオピニオン相談とは違い、診察室ではなく病院外に設けたメディア・カフェと呼ぶ場所でお茶を飲みながら、患者やその家族の話に耳を傾ける。

がん哲学外来のモットーは、「暇げな風貌」と「偉大なるお節介」。忙しさを感じさせないゆったりした雰囲気の中で、患者の苦しみやつらさにじっくり耳を傾ける。話に共感することで、患者は笑顔を取り戻し、癌であっても自分の人生を生きることができる、と樋野氏はこれまでの経験を話す。また、話を聞くときに欠かせないのが「お茶」だと樋野氏は言う。「人間は沈黙が続くと話し出すが、その沈黙を耐える間のお茶は欠かせない」と話し会場の笑いを誘った。

がん哲学外来の背景には、樋野氏が尊敬する先人たち、内村鑑三、新渡戸稲造、矢内原忠雄、南原繁、そして元癌研究会研究所長の吉田富三の存在がある。彼らの言葉は、がん哲学外来を研究する樋野氏の支えとなっている。言葉は患者をも励ます。たとえば、「人生に期待する」ではなく、「(あなたは)人生の方から期待されている存在」だと言えば、困難にあっても落ち込むことはなくなる。自殺を試みた患者に「人は最後に死ぬという大事な仕事が残っている」と伝えたことで、生きる力を取り戻した人もいるという。

「希望は、明日死ぬとしても、目の前にある花に水をあげる行為へと導く」と樋野氏は言う。さらに、「自分の命より大切なことがあることは、役割意識と使命感を自覚させる」と、がん哲学外来が人間学であり、医療の枠を超えたものであることを示唆した。

樋野氏の講演に続いて登壇した日野原氏は、「がんになってからの生き方」というテーマで話した。日野原氏によると、癌は今、種類によって6割近くは治る病気になってきているという。ただし、癌の特徴は、肉体的、精神的、スピリチュアル的、社会的苦痛を伴う全人的苦痛(トータルペイン)の病であることを指摘した。その上で、癌になってからの生き方として、「生きる希望を持つこと」を挙げた。人間は将来において希望があるからこそ生きられるのだという。
話の中で日野原氏は、精神科医の神谷美恵子や、ホスピス運動に影響を与えた英国人医師シシリー・ソンダース、哲学者ソクラテスの言葉を通して生きることについて語った。その中で最も力を込めて話したのは、「生き方を変える」ということ。「動物は走り方を変えることはできない。鳥は飛び方を変えることはできない。しかし、人は生き方を変えることができる」このことを信じてほしいと訴えた。
最後に日野原氏は、命というのは、長さだけでなく、いかに深く生きるかということに大きな意義があると語った。

講演後の対談で、腫瘍内科が主導するオンコロジーセンターの働きについて、腫瘍内科部長で同センター長の山内氏が説明した。同センターは、外来での抗癌剤治療を集約して行っている。癌を発症し、たとえ死が間近に迫っていることが分かっても、患者は生きていることには変わりがなく、その生きている瞬間を感謝して、喜んで生きていられるよう手伝っているという。その中で、患者が最後まで生き続けたことの証しとなることが、医師としての喜びだと語った。

この日、会場は350人もの人で埋め尽くされた。今回の市民公開講座は、先着順の申し込み制だったが、人気が高く、早くから定員に達して申し込みが締め切られるほどだった。質疑応答の時間でも、「メディア・カフェをやりたい」といった声や、「病院での診察時にどういうことを医師に伝えたらいいのか」といった質問、また看護師から現場についての話があるなど、活発に質問や意見が出された。第2回の開催は近日中に告知される予定。

がん哲学校たより・61(0098)

2015年05月11日 | 樋野先生からのメッセージ
樋野先生からのおたよりです(2015.5.11配信)
第110回「がん哲学学校」
「情熱と風貌」~ すべてのものを忘れた後に残る ~

今年のゴールデンウイークは、父の3回忌で、wifeと帰郷した。92 歳の母と再会した。また、今年3月を以て、廃校になった鵜鷺小学校の活用に関して、村の人と、夜遅くまで、話合しの時をもった。各種研修会の教室の提供、Medical village 構想は、時代の要請となろう。帰京の際の、母との別れは、悲しかった。

広 島大学医学部3年生の特別講義「がん病理学~遺伝・環境・がん哲学~」の機会が与えられた。全員のレポートを帰京中の新幹線の中で、丁寧に拝読した。真摯 な感想文と、将来の医師像に対する思いの記述に感激した。まさに、「教育とは、すべてのものを忘れた後に残るものをいう」(南原繁)の言葉が、甦って来 た。教育者の役割・使命にとって、「情熱と風貌」の大切さを、再認識した。

週末、聖路加国際大学 聖路加国際病院相談支援センター主催 がん診療連携拠点病院 市民公開講座「第1回 記念特別講演“がん哲学外来”とは」(聖路加国際大学 アリスC. セントジョン メモリアルホールに於いて)で、筆者は、104歳の日野原重明先生の講演「がんになってからの生き方」の前座で、講演「がん哲学外来~本質的な人間の見直し~」する光栄を与えられた(毎日新聞 朝刊 2015年5月10日付け)。日野原先生は、演壇で、立って、power point を使用しながら、講演された。東京周辺以外にも、札幌、石巻、群馬県、長野県からと、多数の参加者があり、大盛況であった。日野原先生と一緒に写真も撮られ、参加者の皆様にとっては、忘れ得ぬ人生の想い出となる講演会となったであろう。

講演会後、wifeと東京女子医大に入院中の患者のお見舞いに立ち寄った。そして、「暮らしの保健室 かなで がん哲学外来新小岩 メディカルカフェ」開設記念セレモニーに赴いた。スタッフとの夕食会では、楽しく語り、大変盛り上がった。

休日、「がん哲学外来・まちなか メディカルカフェ in 埼玉」(さいたま メディカルタウンに於いて)に招待され、記念講演『対話の力』を行った。多数の参加者があり、スタッフも、看護師、医師、マスコミ、小学校教師、企業経営者、患者、市民と極めて多彩であり、カフェの新しいモデルとなる予感がした。

がん哲学外来について

患者さんが抱える悩みは病人としての悩みではない。人間としての悩みです。 がんという大病を得たとき、それを背負って人間としてどう生きるかという深い悩みです。それは「心のケア」というレベルではなく、自分という存在そのものを問う領域なのだと思います。ですから、「がん哲学外来」では、来られた方を「病人」の側面だけではなく、ひとりの人間としての悩みに焦点を合わせます。同じ人間として、対等の目線に立って、人間を学ぶ「人間学の場」でありたいと考えるのです …(提唱者であり当会の顧問である順天堂大教授・樋野興夫先生の著書より)

札幌の「がん哲学外来」(開設趣旨)

私達は樋野興夫先生の志に賛同し、車座になって意見交換をする運営をめざします。講演会スタイルではありません。参加者全員が同じ立場、同じ目線で耳を傾け、縁のあった方々に寄り添うことを願っています。