一風斎の趣味的生活/もっと活字を!

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新派大悲劇『椿姫』!?

2007-04-15 09:41:24 | Essay
『白野弁十郎』という芝居があります。
原作があって、フランスの劇作家エドモン・ロスタン(Edmond Eugene Alexis Rostand, 1868 - 1918)の『シラノ・ド・ベルジュラック』。岡本綺堂の弟子の額田六福(ぬかだろっぷく、1890 - 1948)が翻案したのが、この芝居です。
このような翻案ができるのは、物語構造に「日本的なるもの」があるからでしょう。
例えば、シラノのロクサーヌに対する「秘めたる恋」や、クリスチャンの恋へ協力する「男の心意気」など。

なぜ『シラノ・ド・ベルジュルラック』と、その翻案劇『白野弁十郎』を思い出したか、と言えば、昨日、たまさかオペラ『椿姫』などを聴いたからですね。
まず、水谷八重子(初代)が、アレクサンドル・デュマ・フィス原作の『椿姫』を、赤毛芝居(西欧人に扮しての芝居)でやったことが想い浮かびました。これ、どこかで読んだ話なので、詳細は定かではありませんが、確か、相手役のアルマン・デュヴァル(オペラではアルフレード・ジェルモン)を森雅之がやったと記憶しています。
しかも、これ、興行サイドの意向ではなく、水谷のたっての希望だったらしい。

新派の水谷八重子と赤毛芝居というのは、水と油のように思えますが、意外とそうでもないのね。
その藝歴を見てみると、若い頃には島村抱月や小山内薫に認められ、『アンナ・カレーニナ』で松井須磨子と共に出演している(なんと男役に扮して『ハムレット』なども演じている)。
新派に関係し始めたのは、その後、関東大震災前後らしいから、水谷は赤毛芝居にまんざら縁がなかったわけでもない。

でも、『椿姫』の場合は、水谷の藝歴だけに理由があるとは思えません。
というのは、『シラノ・ド・ベルジュルラック』の場合と同様に、物語構造に「日本的なるもの」があるからとも思えるのです。

ちょっと考えると、『椿姫』の場合も、簡単に翻案できそうな気がします。
『椿姫』と呼ばれるデミ・モンドの女マルグリッド・ゴーティエは、そのまま芸者にすることができるでしょう。
プロバンスの田舎から出てきたアルマン・デュヴァルも、明治時代の地方素封家の息子が上京してきた形。
この二人の仲が、素封家であるアルマンの父親に割かれるというのも、まるで『婦系図(おんなけいず)』の世界。マルグリッドが死の床に着くのも、「千年も万年も生きたいわ」の『不如帰(ほととぎす)』浪さんを連想させます。

そう考えると、なんで赤毛芝居にして、翻案を考えなかったかが、かえって不思議にも思えます。
新派大悲劇『椿姫』なんてのも、見てみたい気がしますけどね。

デュマ・フィス、新庄嘉章訳
『椿姫』
新潮文庫
定価:620円 (税込)
ISBN978-4102009017

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