つぐない

子供が自転車で事故を起こした。

自転車同士の出会い頭の事故で、相手の方は顔面を20針も縫う大怪我。
うちの子が左折の際一時停止も減速もせず突っ込んだ形で、相手の自転車は
前輪にロックがかかり、そのままハンドルを握ったまま回転して顔で全部を
受け止めるようになってしまったそうだ。
額と鼻には消えない傷痕が残り、ムチ打ち、右半身の痺れ等々・・・。
うちの子には一切怪我がなかった。

これまでにも危ない兆候はあったので、子供が自転車に乗る際にはいつも
周りをよく見ろ、スピードを出し過ぎるな・・と注意をしていたけれど、
本人には通じていなかったようで事故は起こるべくして起きたというのが
素直な感想だ。
一番悲しかったのは、当の子供に大変な事をしたという自覚が全くなかった事。
目の前で相手が救急車で運ばれ自分も警察署で事情聴取を受けたというのに、
その後そのまま友人のところへ遊びに行き、私への連絡は「事故を起こした。」
とのメール1通だけ。
いくら電話してもメールしても応答がない為、大した事故ではなかったのか・・
と思っていた私は、仕事が終わり帰宅して警察からのメモを読んで初めて相手の
方が怪我をした事を知り、慌てて謝罪の連絡を入れたのだった。

相手も自分も使えるような保険に何も入っていなかった為、直接会って示談を
する事に。
自転車の事故でも相手への賠償に相当な金額がかかる事は予想出来たので、
私はどうしたものか途方に暮れた。

相手の方は奥さんと2人のお子さんのいるスポーツインストラクターをやっている
40代の男性で、初めてお会いした時顔中包帯だらけで隙間から覗く部分は腫れて
変色するという痛々しいお姿だった。
でもこの方がスポーツマン気質のすごくさっぱりとした良い方で、いつまでも
あっちが痛いこっちが痛いと言って長引かせるのは嫌なので・・と、ほとんど
実損分のみと思われるような金額で早めに示談にしましょうと言って下さった。
その後何か後遺症が残ったり後から具合の悪いところが出てきたとしても、
自分は一切何も言わないしそれについて一筆書いてもいいですからと。

それでも今の自分に払える金額ではなかったので親に頭を下げて借金させて
貰うしかなかったけれど、訴訟となれば何百万とかかるケースなだけにこれは
もう相手の方の優しさに心から感謝するばかりだった。
提示された金額が余りに最低限だったので、申し訳なくて気持ちで10万円を
上乗せさせて頂き、どうにか示談は済ませる事が出来た。

しかし、問題はここからである。
子供にどうしたら事の重大さを把握させる事が出来るのか。
このまま同じ事を繰り返さぬよう、身を持ってわからせるにはどうしたら
よいのか。

当初全く反省が感じられなかった子供に、弁護士に相談したり親に会ったりと
奔走していた私に代わり、そこでハニーが真剣に子供と向き合って諭してくれた。
男になって凄んで殴って。
子供も痣になったけど、ハニーの手も腫れてしまった。
これには子供も相当ショックだったらしく、そこから少しずつ態度が変わり始めた。
それ以来謹慎として、ゲームもテレビも携帯も禁止し毎日一時間正座して反省文を
書いている。
もう一月近くこの日々が続いている。私もテレビは観ていない。

償うという事はどういう事なのか、自分の起こした事への責任、相手の方への
感謝とお詫びの気持ちを毎日考えながら過ごしている。
この事故から私達親子が学んだ事は余りにも大きい。
謹慎生活の続く今、簡単に全てが改善されるものでもなくまた新たな岐路に
立たされている。
迷惑をかけた人達、心配をかけた人達の為にも乗り越えて行かねばなるまい。