Moving

脱ネガティブを計るべく、浮きつ沈みつ漂う女の戯言日記

魔王

2010-01-17 | 戯言あれこれ
夜闇と風を切って、馬を走らせて行くの誰?
それは、子を連れた父親であった
父は子を腕にしっかりと抱きよせていた
温もりをわけあって

ぼうや、何が怖くて顔を埋めるんだい?

お父さん、魔王がいるよ
王冠と衣をつけた恐ろしい魔王がいるよ

ぼうや、大丈夫 あれは夜に揺れる夜霧の影だよ

かわいいぼうや ぼくのところへおいで
一緒に遊ぼうよ 楽しいよ!
岸にはお花がたくさん咲いているんだ
ぼくのママに言って素敵な金の服も いっぱいあげるよ

お父さん お父さん! 魔王が僕に恐ろしい約束を囁きかけてくる
お父さんは聞こえないの?

怖がるな 大丈夫だ
あれは木枯らしが風に鳴っているんだ

美しいな少年よ さあ一緒に行こうよ
私の娘が きっと君をもてなすことだろう
私の娘が 夜の舞いを踊って
一緒に踊ったり、君を揺すったり、歌を歌ったりしてくれるよ

お父さん お父さん! あれが見えないの?
魔王の娘が、あの暗い闇に現れたよ!

息子よ 私の息子よ わからないのか
あれは年老いた柳の木じゃないか

君を愛しているんだ 君は美しくて魅力的だ
そしてね 嫌だというのなら無理にでも連れて行くぞ!

お父さん お父さん! 魔王に連れて行かれるよ!
魔王が僕をひっぱっていくよ!

父は震えて馬を駆った
喘ぐ子を腕にしっかりと抱きかかえて
ようやく館にたどりついたが
その腕のなか、子供はすでに息絶えていた


ねぇ坊や、何がそんなに怖かったの?
何もあなたを頭から食べたりしない。この街も人も。
飲み込もうとしてたのは、他でもないあなた自身の心の弱い部分だった
のではないのかな。
それは私も持っているし、誰しもが抱えているもの。
だから恥ずべき事ではないし、必要以上に己を卑下する事もない。
今夜ぐっすり眠ったら、明日はまた暖かな陽が昇るよ。
あなたにはあなたの世界があると言ったその場所を、しっかりと輝かせて。