百休庵便り

市井の民にて畏れ多くも百休と称せし者ここにありて稀に浮びくる些細浮薄なる思ひ浅学非才不届千万支離滅裂顧みず吐露するもの也

『アダージェット』と『ベニスに死す』。そして『ここはドイツの空ではない』

2023-05-29 14:32:15 | 日記

 イタリア ベネチアの島々のひとつで、ヨーロッパ屈指のリゾート リド島

1971年 イタリアの巨匠 ヴィスコンティさんが、この地を舞台に 一本の映画を撮る

トーマス・マンさん原作の『ベニスに死す』

映画を彩った音楽が、マーラーさんの作曲された『アダージェット』でした


 主人公の作曲家 グスタフ (マーラーさんと同じです) は 病気療養のため、この島を訪れます

ホテルにくつろいだ 主人公は、次のようにつぶやきます

                 (ピアノ演奏の『アダージェット』が流れています)
   覚えている
   砂時計があった 父の家にも
   砂の落ちる穴が とても狭くて
   初めのうちは 砂の高さが変わらない
   同じに見える
   砂が残り少ないのに気づくのは
   終わりのころだ
   それまでは誰も気にしない
   最後の瞬間まで
   気づいたときにはー
   時 すでに遅く
   砂は何も残っていない
         (まさに 今がそうなんや と大いに納得。じーんと心に深く沁みました)
そして ホテルで出会った美しい少年に恋をするのです
少年を追い 疫病(コレラ)が蔓延するベネチアの街をさまよう初老の男
映画のラスト
.
波頭きらめく海へと向かう少年を見つめながら、男は息絶える

やがて失われるであろう その美しさを、永遠に とどめるように・・・・
.
..
          (不思議なことに、アウトドアチェアの向きが 90度 廻っています)

 マーラーが 19歳も齢の離れた恋人 (妻となるアルマ) にささげた『アダージェット』は
倒錯の世界に身を滅ぼしてゆく芸術家の姿を、より甘美に映し出した と。

 ━━ 以上は R5.4.18 NHK-BSP『プレミアムシネマ』『ベニスに死す』と、
   R5.5.17 NHK-BSP『名曲アルバム』『アダージェット』を、オイラの気に向くままに
   編集させていただいたものです━━

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 実は、今日の日を待っていました。NHK-BSP『クラシック倶楽部』で『ラトビア放送合唱団』さんの再放送が、早朝 あったからです。

早速、録画画像を繙(ひもと)き、やりたかったことに取り掛かります。

勿論、初回放送時、録画し CDに落としていましたが、いつもと違い 楽曲切り分けすることなく、ベタで取り込んでおりました。で それを聴いていた時、この世のものとは思えないほどの めっちゃめちゃキレイな澄み切った声のアダージェットが聞こえてきたのです。

オイラはきょとんとしました。アダージェットなんてどこにも記されていないのに、どうして?。曲目リストの マーラーさん作曲分は『ここはドイツの空ではない』だけ。すると この歌は、アダージェットに詞をつけた楽曲ということに違いなさそう。

そうだとすれば、では そこで、いったい どんなことが謳われているのだろう、それを無性に知りたくなった次第でして、それが今 叶うということであります。以下、画面に表示された 寺倉正太郎さんの対訳文を、興味津々 転記させていただくとします。

    (ゴンドラ! ゴンドラ!)
    私は船から降りる ひと気ない港に
    ここはドイツの空ではない
    大理石の館に 着飾った人形
    ここで私の感じやすい心は揺さぶられる
    私たちは青銅の翼が そびえたつのを見る
    私をあなたに近づける方法はなし
    ときおり呼び掛けるだけ
    あなた方 画家は 私を永遠の生命へいざない
    アルプスへと導いてくれる
    ベネチアの水は そのまま飲んではいけない
    夕方には さまざまな音が聞こえてくる
    狭い路地 ちぎれた布地が
    スラボニアの美しい岸辺を飾る
    (岸辺!)(岸辺!)
    ここには ティツィアーノの力も 強烈な色彩もない
    (テンペラ画)
    悪趣味が 幸せな光に照らされる
    形と顔が 湿気に悩まされている
    沈黙 沈黙
    音楽は黙り込み ひそやかに涙があふれる
    ここには 緑の草原は見えず
    舟に揺られた めまいが残っている
    ここでは 芸術が色とりどりの雲に照らされて飛翔する
    そして アルプスへ (最後に)
    ベッリーニの絵が 壁からはずされた
    さまざまな形の何という豊かさ
    この静かな場所では 邪魔になることはまれだ
    ときおり呼びかける声が
    (ゴンドラ!)(ゴンドラ!)
    私は船から降りる ひと気ない港に
    ここはドイツの空ではない 大理石の館に
    10月の朝なのに もう芸術家はいない
    いつも あの旗がひるがえる 今日は日曜日だから
    あなた方 画家は 私を永遠の生命へいざない
    あなた方が いなくなったことは耐えがたく
    永遠の喜びを あきらめることもできない

どうやら、喧噪のシーズンを終えたベネチアに身を寄せた芸術家さんの、ドイツに想いを馳せつつ、当地の気の抜けた日常を前に、彷徨する自らの心のうちを綴った詞のように思えます。


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