「ミズのおひたしなくなりそう。」
妻から声がかかる。
「もちろん、分かってますよ。明日採りに行く予定だったんだからね。」
そう答えていながら、心の中にはモヤモヤしたものがつっかえている。明日の天候が少々気に掛かるのだ。
梅雨前線任せの季節に入り、その動向に一喜一憂させられるこの頃、明日の天気はどうなるのだろうか。
今年の春から気象庁から発表される情報がかなり分かりやすく整理された(最初は戸惑ったけどね)。その中で、山に出掛けるときによく使うのが、『天気予報』と『アメダス』と『雨雲の動き』、そして、『天気分布予報』あたりかな(春先は気温も大事)。この中には、リアルタイムの情報と昨夜発表されたものとがあるんだけど、それらを概観して、総合的に判断するようになった。
で、明日は雨の予報なんだけど、我が『畑』に関しては、午前9時頃までは降らないみたいだ。それでは、また朝仕事ですね。
翌朝、出発の直前にもう一度、直近の状況を確認するが、大丈夫みたい。出発!
峠はガスの中
厚い雲だとは感じていたが、海抜が上がるにつれてガスが濃くなってくる。カッパを纏うかどうか迷ったけど、この高温だとかえって不快指数が増しそうなので、そのまま森に突入。
森の入り口では結構濡れたけれど、その懐に潜り込んでしまうと全然何ともないから不思議だ。
揺るぎない森の世界
この森に入ると、雨も風も嵐でさえもはね返してしまう強さというか、安心感のようなものに包まれる。
さて、この広大な森のうちの、今日は『畑その2』を訪ねてみましょう。
ここでは出始めのワラビが待っていました
『畑その2』のミズ達
本日は、前回と違って塩漬けの予定がないので、ちょっと少なめに戴いて帰ります。またまた、あっという間に終了。帰宅したらゆっくりとのんびりと下ごしらえをして料理を楽しめそうです。
実はこの畑、昨夏も訪れた折の日記が残っています。この時には、収穫を終えて帰ろうとする私の頭の中に、演歌の『夜桜お七』が繰り返し流れていたんです。
「なんでやねん?」と思っていたんですけど、今回はっきりしました。やっぱりここは、『置いてけ堀』なんですよ。
ここでは、極めて良好に成長したミズは、背丈が60センチを超えます。それがこの地でのスタンダードサイズ。ところが、これをハケゴ(腰かご)に入れても、上半分が外にはみ出すんですね。そのまま進もうとすると、はみ出した部分が藪に引っ掛かって落ちてしまうんです。そのため、気付く度に引き返して拾い直す。そんなことを繰り返すうちに、あの歌詞が頭の中を巡り始めたんではないかな。
『・・・置いてけ堀を蹴飛ばして、駆け出す指に血が滲む・・・』
そうだよね。これだけ立派なミズなんだから、普通に進んだら『置いてけ堀』状態になるのは当たり前だよ。それで行ったり来たりしていたら血が滲むわ。ちょっと面倒かもしれないけど、いちいちリュックに詰め直した方がいい。そういう作戦に切り替えて歩いたら、本日、『夜桜お七』は流れてきませんでした。でも、代わりに流れてきたのが『ロマンス』。もう既に、マタギの思考パターンが自分でも分かってきた気がするんですけど、説明は、確信がもててからにさせて戴きます。
厚い雲が押し寄せる
帰り道、湿った厚い雲が奥羽山脈を乗り越えてくるのが見えました。間もなくこちらでも雨が降り始めそうです。
多分、多少の雨が降っても、あの森の中で濡れ鼠になることはないと思います。それでも、降り出す前に帰ってこれたことに感謝です。
山の神様、天気の神様、本日もありがとうございました。無事に収穫物を持ち帰ることが出来そうです。