はれっとの旅路具

(はれっとのたびろぐ)田舎暮らしと旅日記
金沢・能登発 きまぐれ便

能登の一大祭礼:青柏祭の人形見

2006-05-03 17:44:19 | 旅日記
昨日は、青柏祭(せいはくさい)の前夜祭とも言うべき、人形見。
家族で出かけました。

青柏祭は、能登半島の中ほどにある七尾にかなり古くから伝わる祭です。
その祭りの曳山としての「でか山」は今から400年前に始まったといわれています。
人形を飾る前のでか山でか山は、20tもある大きな山車で日本海交易で栄えた能登ならではの舟形をしており、昭和58年に重要無形民俗文化財に指定されています。三町のでか山は紋によって見分けられます。丸に「山」が鍛冶町、丸に「二」が魚町、三つ巴が府中町です。この写真のでか山は、丸に山の紋(写真右上)ですから鍛冶町さんです。写真から、車輪も人の背よりも大きいことがお判り頂けると思います。
でか山には歌舞伎のワンシーンを表した飾りを施すのですが、一旦運行が始まると間近に見られないため、人形を地上で見せるのが人形見なのです。
通常、直前の一年間に新築・開店・嫁入り・誕生など慶事のあった家で行われます。
人形見を行う家は、一晩中開放して披露するので、人形宿と称されます。
でか山は鍛冶町(かんじまち)、魚町(いおまち)、府中町(ふちゅうまち)の三町が運行し、人形宿は各町三軒となっています。

昨晩の人形見ツアーは、祭りの中心である山王神社から始めました。
山王神社こども木遣り丁度、子供木遣りのライブをやっていました。木遣りは、山の運行には欠かせない謡いですが、それを子供がするのが子供木遣り、保護者の方々は真剣にビデオカメラをまわしています。彼らも大人顔負けに謡います。山王さんでの子供木遣りに選ばれるのは、極僅かなため、これも非常に名誉なこととされています。このようにして次代の担い手が生まれていきます。
四半世紀前に能登に婿入りし子供の頃から馴染んでいない私には、節回し、歌詞など一切不明ですが、思わず喉を震わせて唸る真似をしてみたくなるのは、何かしら日本人のルーツを思い起こさせる何かがあるからでしょうか。

人形は、遊女おかる。女性の人形はあまり見かけなかったような…
右手奥、今年生け花をしつらえているのは、知人のUさんでした。彼女らしい豪快な古流。見事です。
まず、こちらで振る舞い酒を2杯頂きました。

続いて市内の人形宿を訪ね歩いていきます。

普段、市内は人影も少ないのですが、青柏祭が行われるこの時期ばかりは賑わいます。
人形宿の路地には木遣りの声が流れ、路地角の隠れた宿でも大体の場所が判ります。たとえ、暗くても、七尾の町は今のところ極めて安全なのでご安心を。

ほの暗い提灯の明かりと行き交う人々。人形宿の前でだれかれ構わず振舞われるお神酒。日本の祭りの原点を今に残している数少ない祭りの一つではないでしょうか。

織田信長の人形宿この人形宿となるのは、非常に名誉なことなのですが、かつて人形宿を経験したことがある知人の話によると、単に人形を飾るだけではなく、座敷に庭をしつらえるため、わざわざ名古屋から庭師を呼び、招客への接待御膳、見物客への振舞い酒、お土産品など一切含めて、たった一晩のための経費は100万円を超えたとか…。金額は、聞き間違い・入力間違いではありませんので、念のため。今年も織田信長の人形宿は豪勢でした。
かつては民家が宿となることがほとんどのようでしたが、世情もあり今では公的な場所が多くなってしまいました。派手が過ぎるのも考えようです。
どれほどのしつらえ、接待をするかに決まりはないようで、人形宿のご亭主の考え方に拠って構わないのですが、世間の常として徐々に負けん気・見栄が出てくると派手になる一方で、歯止めがかかりません。これが逆効果で人形宿を引き受ける家庭が減るのは、残念なことです。

地元の信用金庫さんも本店が新築となり、人形宿に。
今年も4月29日から始まった花嫁のれん展で一躍有名になった一本杉商店街の近くでもあるので、店内には花嫁のれんも同時に飾ってあり、大変な人でにぎわっていました。二階のギャラリーには、話題の山之内一豊の人形が(この記事トップ写真)。ここでも、御神酒が振舞われています。
そればかりか、普段は銀行窓口の待合であるスペースにテーブル・椅子が出され、缶ビールとオードブルも振舞われています。調子よく酔いがまわった御客人からだれとなく、木遣りが始まりました。ほんとうに地域に愛されている祭りだと沁み沁み感じた次第。

こちらの信用金庫さんでは、早い間、お土産に「ながまし」が配られていたとか。祭りに欠かせないお菓子が「ながまし」。街中の和菓子屋さんではどこもありますが、この時期だけ。赤と緑の二種類です。餡は大抵漉し餡のようですが、一部に粒餡のお店もあります。一本杉商店街にある北島屋茶店さんのこちらのページの下の方に、ながましの薀蓄・由来が記されています。

青柏祭は、伝統的な日本の祭りの例に漏れず、かつて5月13日から15日と日取りが決まっていました。これでは毎年曜日が変わります。
元々西洋の風習であった七曜(日月火水木金土)が定着してしまった今日、旧来のままでは地元が誇る祭りも行く末がない。そう判断したリーダが、とてつもないことを考えました。「400年以上続いた祭りの日程を俺が変える。」神事を変えようという実はこの後が大変な事態だらけだったそうですが…
十日ほど早めればいわゆるゴールデンウィーク。今までの七尾市内。ゴールデンウィークには人っ子ひとり居ませんでした。ところが青柏祭の日程をかえた現在、人であふれかえっています。忘れかけていた祭りの価値。地元の人々は来訪客の多さにも応援されて、見直しつつあります。

鳥居醤油店さんと花嫁のれん信用金庫さんから一本杉商店街にある人形宿へ。途中、各お店のショーウィンドウから花嫁のれんを拝見しながら歩きました。中でも国登録有形文化財にもなっている鳥居醤油店さんの花嫁のれんは素晴らしいものでした。

個人的には、これから一大祭が始まる前夜のある種静かで、でも人々が行き交うこの人形見が一番気に入っています。
神秘さと色気(艶やかさ)と。
やっばり祭りは夜に限りますね。

あちらこちらの人形宿で、些か御神酒をよばれ過ぎました…。


私のような下手な腕では伝えきれるものではありませんが、腕に覚えのある写真家の方々の手にかかれば、もっと素晴らしい能登の祭り、青柏祭のワンシーンが切り取られると思います。
日本の多くの祭では、観光客の参加はできません。女性の参加もできない祭も少なくありません。その中で、でか山は誰でも綱を引いて参加することができます。
ただし、履物・服装には十分ご注意ください。サンダル・ミュール・スリッパ・下駄など「かかと」のない履物での参加は、非常に危険です。

大体でか山の運行は例年変わらないようですが、最新の情報は七尾市役所観光課(0767-53-1111)でご確認を。
次のサイトでも薀蓄や、でか山についての情報が見られます。
青柏祭でか山保存会
府中町青柏祭ファン倶楽部

さぁ、今晩から、でか山が動き始めます。