ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

トロイ・デービスを知っていますか・・・フランス人が大きな関心を寄せたアメリカ人。

2011-09-23 21:17:57 | 社会
アメリカ南部において、今なお色濃く残る黒人への人種差別。古くは、1967年製作の映画、『夜の大捜査線』(“In the Heart of the Night”:第40回アカデミー賞の作品賞、主演男優賞(ロッド・スタイガー)、脚本賞など5部門を受賞)にも、差別の実態が描かれています。シドニー・ポワチエ(Sydney Poitier)の演技が今でも脳裏に蘇ります。警察や司法の場でさえ、差別が優先されてしまう。正義や平等など、存在しないに等しい。

その伝統が、21世紀の今も息づいている。そう思わずにいられない死刑執行がディープ・サウス、ジョージア州で行われました。

その死刑囚の名は、トロイ・デービス(Troy Davis)。1989年8月、ファースト・フード店の駐車場で、非番だった白人警官を射殺した疑いで逮捕され、本人は一貫して無罪を主張していましたが、死刑判決を受けてしまいました。物的証拠もなく、あいまいな証言に基づく判決に、アムネスティ・インターナショナル(100万を超える署名を集めました。うち日本支部からは1,959人分の署名)をはじめ多くの団体が、そして世界中の人々が助命嘆願を行ったにもかかわらず、アメリカは死刑執行を認めました。執行されたのは、アメリカ東部時間、21日深夜のことでした。

人権の本場・フランスでは、刑の停止請求などの段階から、大きな関心を集め、21日には、パリで死刑執行に対する反対集会も開かれました。その刑の執行を、22日の『ル・モンド』(電子版)は、次のように伝えています。

多くの反対運動にもかかわらず、トニー・デービスに奇跡は起きなかった。彼がアメリカ東部時間23時8分に、薬物注射により死刑執行されたと、ジョージア州ジャクソンの刑務所が発表した。

刑の執行直前、この42歳のアフリカ系アメリカ人は、1991年に有罪判決を受けた白人警官殺害に自分は全く関わっていないと繰り返し述べた。刑の執行に、犠牲者の家族と共に立ち会った現地のジャーナリストによると、「自分の犯した犯罪ではない。自分は武器を持っていなかったのだから」と、トロイ・デービスは語ったそうだ。「自分の命を奪おうとしている人々に、神のご加護を」と、デービスは付け加えた。ジャクソン市にある刑務所の周辺に集まったデモ参加者たちは、刑の執行停止を願っていた。

デモ参加者たちは、「お願いだから、トロイ・デービスを死なせないで」とか、「私がトロイ・デービスだ」などと口々に叫んだ。デモは21日の午後早くから始まったが、周囲を多くの警官に取り囲まれ、少なくとも2人が逮捕された。

当初は19時とされていた刑の執行は、連邦最高裁の最終決定が出るのを待って4時間延期されたが、最終的に執行の許可が出された。刑の執行開始から15分ほどでデービスの死が確認された。刑務所前に詰めかけた数百人のデモ参加者は、司法の最高機関による執行停止という、ありえそうもない決定に一縷の望みをつないでいただけに、刑が執行されたという知らせにすっかり意気消沈してしまった。

フランス政府は、すぐさま遺憾の意を表明した。「寛大な処分を求めた多くの声が聞き届けられなかったことを非常に残念に思う」というコミュニケを外務省が発表した。

1989年にサバナの駐車場で警官、マーク・マクフェイル(Mark MacPhail)が銃で殺された事件で死刑の判決を受けたトロイ・デービスは、その有罪判決に疑いをはさむ司法関係の働きかけにより、すでに3度、刑の執行を延期されてきた。公判では、9人の目撃者が発砲したのはトロイ・デービスだと証言したが、犯行に使われた凶器は発見されず、いかなる指紋やDNA(仏語ではADN)も採取されなかった。しかもその後、9人のうち7人の証人が自らの証言を取り消し、数人は警察によってデービスを犯人にするよう強制されたと語っている。

トロイ・デービスの弁護人は、デービスの無罪を証明する新たな証拠があるとして、刑の執行を延期するよう嘆願していたが、その最後の努力に連邦最高裁はあっさりとけりをつけた。ブライアン・ケイマー(Brian Kammer)弁護士が21日朝に提出した請願書は、殺された警官の検視を行った監察医の報告に誤りがあると訴えていた。しかし、この請願は、郡裁判所、次いでジョージア州最高裁、そして連邦最高裁で却下されてしまった。前夜、ジョージア州の恩赦仮釈放委員会(le Commité des grâces de Géorgie)が嘆願を棄却しており、刑の執行への道筋はすでに付けられていた。その決定の後、トロイ・デービスは20年来過ごしてきた刑務所内から支援者に向けて、彼の死によって正義の戦いが終わるわけではない、というメッセージを発した。

オバマ大統領は、21日夕方、介入する意図のないことを表明した。ホワイト・ハウスのカーニー(Jay Carney)報道官は、今回のような特有な事件に大統領が関与することはないと、語っている。CNNのインタビューに、殺された警官の母親は、息子の死以来、味わってきた地獄の苦しみの後で、トロイ・デービスの刑の執行が安堵と安寧をもたらすよう願っていると答えた。

トロイ・デービスへはジミー・カーター元大統領(ジョージア州出身)やベネディクト16世(Benoît XVI)、女優のスーザン・サランドン(Susan Sarandon)などからの支援が寄せられ、また数百の支援デモが世界各地で行われた。『ニューヨーク・タイムズ』は、デービス事件における調書や証拠には多くの誤りがあると批判するとともに、今回の件によって死刑の残酷さが改めて示されると指摘していた。

トロイ・デービスの死刑執行の数時間前、人種差別による殺人罪で死刑判決を受けていたクー・クラックス・クラン(Ku Klux Klan:KKK:白人至上主義の秘密結社)のメンバー、44歳のローレンス・ブリュワー(Lawrence Brewer)の刑がテキサス州で執行された。アメリカでは2010年、年間で46件の死刑が執行されている。

・・・ということで、アメリカ国内はもちろん、世界の多くの国々から寄せられた批判、嘆願にもかかわらず、トロイ・デービスは死刑に処されてしまいました。事件自体は、殺されたのが白人の警官、容疑者は黒人、場所はディープ・サウスのジョージア。どうしても、黒人の誰かを死刑にしないと気が済まない・・・

同じ日に、KKKのメンバーが人種差別による殺人罪で死刑になったという話題が、アメリカの良心を少しは語っているようです。しかし、それでも、隠しようのないほどの人種差別の意識。インディアンやインディオなどいわゆる先住民を大量に虐殺し、不足した労働力を補うべく、アフリカから労働力を奴隷として輸入した歴史。その歴史そのままに今日でも人種による蔑視を改めようとしない人々。皮膚の色が違うことだけで、差別してしまう・・・

トロイ・デービスへの支援を表明していたフランス人とフランスのメディア。しかし、彼の死から1日と経っていない22日・・・

 パリ近郊モーの警察裁判所で22日、顔全体を覆う服装で市役所を訪れて検挙されたイスラム系女性2人に対する公判が行われ、被告にそれぞれ120ユーロ(約1万2300円)と80ユーロの罰金刑が言い渡された。仏メディアが伝えた。
 フランスで4月、公共の場所で全身を覆う衣装の着用を禁じる法律が欧州の国レベルで初めて施行されて以降、裁判で判決が言い渡されたのは初めて。2人は判決を不服として控訴する意向を示している。 
(9月23日:時事)

宗教、習慣の違いを、法律で取り締まろうとするフランス。死刑と罰金では話が違う、という意見もあるかもしれませんが、根っこは同じ。異なるものへの、不寛容。

他国の問題ははっきり見えるのに、自国の課題は見えにくい・・・「他国」を「他人」に、「自国」を「自分」に置き換えれば・・・自戒です。

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。