ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

『ル・モンド』、東京電力を叱る!

2011-03-17 20:12:57 | 経済・ビジネス
東北関東大震災は、今でも多くの避難者の皆さんに大変な苦労を強いています。ガソリンがない、灯油がない、水がない、食糧がない、薬がない、着替えがない、トイレが使えない・・・避難先で亡くなる方も出始めている逼迫した状況の中で、もう一つ大きな問題が同時進行で進んでいます。言うまでもなく、福島原子力発電所での事故。

日本政府は20km以内の人には避難指示、20~30kmの範囲では屋内退避要請を出していますが、アメリカ政府は福島原発から80km以内に居住している自国民に退避を勧告。それどころか、フランス、スイス、オーストリアなど多くの国々が、日本にいる自国民に、日本から出国するか、日本国内でも南(西日本)へ退避するよう勧告しています。

こうした勧告はジャーナリストにも適応されるようで、France2もTF1も、16日夜のニュースから特派員が東京ではなく大阪から状況を伝えていました。東京も危ない!

この危機感は、日本人の一部も共有しているようで、フランスのニュース番組が、お父さんは仕事で東京を離れられないが、幼い子供たちへの放射能の影響を恐れて、お母さんと小さな子どもたちだけで大阪など西日本へ向かっている様子を紹介していました。新幹線は満席でした。

どうしてこんなに長引いているのだ、対応が遅いじゃないか、本当に大丈夫なのか・・・国民のイライラ、政府や東京電力への不満は募るばかりですが、『ル・モンド』東京特派員のPhilippe Mesmer(フィリップ・メスメール氏:NHKのフランス語ニュースを読んだり、声優などとしても活躍中)が、16日の記事(電子版)で東電への非難の声を上げています。タイトルは、“Tepco, une enterprise trop sûre d’elle-même”(東京電力、自己過信に満ちた企業)・・・

日本が直面している壊滅的な原発事故は、福島原発を管理運営している東京電力への疑いの眼差しを生じさせている。東電は世界第4位の電力会社で、電力産業の民営化に伴い1951年に誕生した。現在1都8県に電力を供給しており、ニューヨークとロンドンにもオフィスを構えている。2009年度、東電は2,860万の契約者に29万187ギガワットの電力を供給し、400億ユーロ(約4兆8,000億円)の売り上げを上げている。

この影響力の大きな会社は、その質の良いサービス、特に日本の他の電力会社9社よりも優れたサービスを提供していることをうたい文句にしている。その質は、効率性、特に停電が世界でも最も少ない電力会社のひとつであることによって裏付けられている。この信頼感は、技術者にとって大きな魅力であり、最も優れた技術者たちが東電で働くことを望んでいる。

この素晴らしい好循環が、実は欠点となっている。東電は重大な事故が起きると、対応が取れなくなってしまうのだ。今回の福島第一原発で起きている事故への対応が、残念ながらその典型的な事例となっている。東電は、先週土曜日(12日)、最初の事故が起きるや示されたアメリカと国際原子力機関(IAEA:仏語ではAIEA、l’Agence international de l’énergie atomique)からの支援の申し出を断っている。また、繰り返し起きている事故の発表も遅れたうえに、分かりにくい内容で、多くの質問に答えることさえしなかった。そのことがついに政府の直接的介入となった。

15日(火曜日)朝、菅首相は東電の本社へ赴き、経営陣とかなりぎすぎすした打ち合わせを行ったようだ。「爆発がテレビの画面に映し出されてから政府に連絡があるまで1時間以上もかかったとは何たることだ」。

菅首相はまた、原発の事故現場から社員の大部分を引き上げ、対応を子会社に任せようとした東電の対応を、次のように激しく非難したようだ。「あなたたちがこの問題に直面しているのだ。現場を離れるなど、もってのほか。起こりうることすべてに対応すべきだ。今この状況で引き上げたら、東電は最後を迎えることになる」。

菅首相の怒りに先立ち、14日(月曜日)、東電の清水正孝社長が会見を開いたが、すぐさま批判の対象となった。最初の事故から29時間も経ってからの初めての会見であり、週末の間、東電幹部たちは多くの質問に異口同音に次のように答えるだけだった。「状況について調査を続けています」。

東電にとってコミュニケーションのまずさはこれが初めてではない。習慣的であるとすら言える。2002年には、過去20年の間に200以上ものうその報告をしていたことが政府の調査で明らかになり、経営陣が辞職した。2007年には、原子力安全保安院(NISA)によって、1978年から2002年の間に97件もの火災が発生しており、そのうちの19件は非常に重大な火災であったにもかかわらず、政府に報告がなされなかったことが公表された。この件数は電力会社10社の総件数だが、東電が最も大きな非難の対象となった。

規律違反を是正するようにという繰り返しの要請にもかかわらず、東電の体質は変わらなかった。2007年11月には、柏崎刈羽原発での火災と放射能漏れに関する正確な報告が遅かったことが批判された。この透明性の欠如は、住民に大きな不安を与え、運転再開まで21カ月も要することになった。

そして今回、多くの日本人にとって受け入れがたい対応は、東電に対して残っていた僅かばかりの信用をも失わせることになるかもしれない。

・・・ということで、エリート社員、エリート企業による問題隠しが指摘されています。民間企業となって60年。とは言うものの、社会的インフラ、ライフラインを担う企業であり、公共性が強いだけに「お上的体質」が抜けず、ガラス張りの運営・対応ができなのかもしれません。

電力や原子力発電について、自分たちより詳しい人間はいない、だから少々のことは隠し立てしても明らかになることはない。つまり、臭いものに蓋。そのような体質を持つ企業なのでしょう。社員も、新入社員のときはまったく違っていたとしても、いつの間にか社風に染まるものです。人間は強い人ばかりではない。やがては立派な東電マンとなって、問題をいかに上手に隠すかということに、せっかくの才能・知識・経験を使うようになってしまう・・・ご本人にとっても、日本社会にとっても、残念なことです。

しかし、こうしたことは、なにも東電、あるいは電力企業に限った話ではないのではないでしょうか。ガス器具メーカーの件もありました。食品関連の産地偽装など、枚挙にいとまがありません。個人の倫理観よりも、企業の業績、企業の価値観が優先されてしまう社会。一糸乱れぬ集団としての行動も、復興、再興といった場合には良い結果を生み出しますが、裏目に出ると、残念な結果になってしまう。

世の中、簡単にはいきません。そして、人生も思うようにはいきません。

などと、諦観に浸っている暇があったら、被災者の皆さんへの協力支援です!
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