ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

OECDからフランスへ、教員給与に関する三つのレッスン。

2011-09-24 22:01:05 | 社会
「経済協力開発機構」というよりも、“OECD”(Orgaization for Economic Co-operation)の方が日本でも通りがよくなっていますね。1961年に設立された国際機関で、経済成長、開発、貿易などについて協議し、国際経済全般にわたって広く貢献することを目的としています。

設立当初は欧米+トルコの24カ国がメンバーでしたが、今日では34カ国に増えています。経済発展した国々が加盟するため、「先進国クラブ」とも呼ばれています。日本が加盟したのは、1964年。昭和39年ですから、東京オリンピックの開催された年(このへんの年代、何ら確認することなく、すぐ思い出せるのは、50代以上でしょうか。昭和は遠くなりにけり、ですね)。経済的に先進国として認められた年だったのでしょうね。その後、アジアからは、1996年に韓国が加盟しています。

このOECD、フランス語では、例によって語順が異なり、“OCDE”(Organisation de coopération et de développement économique)となります。パリに本部を置くこの国際機関は、国際経済に寄与すべく、様々な調査を行い、その結果を公表する、という活動も行っています。その調査の一つに、教員給与の国際比較があります。もちろん、国同士の比較だけでなく、時系列的な比較もできるようになっています。

小学校から高校までの教員給与。加盟34カ国の中で、どのような差があり、それぞれの国にどのような特徴があるのでしょうか。調査結果を、フランスにスポットを当てて、13日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

OCDEは、例年行っている年次報告、“Regard sur l’éducation”(教育への視点)を13日に公表したが、その中で教員給与について詳細に取り扱っている。フランスでは来年の大統領選へ向けた前哨戦で、教員給与の問題がメインテーマの一つになろうとしているというタイミングで発表されたことになる。右派にとっても、左派においても、教員給与の再評価が課題となっており、OCDEのデータはその論戦を過熱させることになる。

<OCDEからのレッスン. 1>

「フランスにおける小学校、中学校の教員給与の平均は、OCDE加盟34カ国の平均を下回っている。新任の教師の場合も、15年の経験を持つ教師の場合も、状況は同じだ。退職直前の給与だけは、OCDE平均を少し上回っている」と、OCDEのアナリストであるエリック・シャルボニエ(Eric Charbonnier)は語っている。

15年の経験を持つ教員の基本給(le salaire statutaire)、つまりボーナスや残業代を除いた給与に基づく2009年の年収は、小学校教師の場合、フランスでは24,422ユーロ(約254万円:1ユーロ=104円換算)だったのに対し、OCDE加盟国平均は28,507ユーロ(約296万円)だった。中学校教師の場合は、フランスの26,267ユーロ(約273万円)に対し、30,549ユーロ(約318万円)。高校では、フランスの教師が26,484ユーロ(約275万円)だったのに対し、加盟国平均では32,030ユーロ(約333万円)となっている。

OCDEの調査では含まれていないが、より正確を期すには、基本給にボーナスと残業料を付け加える必要がある。ボーナスは、基本給のおよそ10%程度になるのが一般的だ。

<OCDEからのレッスン.2>

「1995年以降、OCDE加盟34カ国のうち、3分の2ほどの国々では教員給与が上昇しているが、フランスではそうなっていない」と、エリック・シャルボニエは説明している。最も大きく上昇したのは、エストニア、チェコ、トルコの3カ国だ。その上昇率は50%を超えている。上昇傾向を示さなかった国々は、オーストラリア、フランス、日本、スイスなどだ。

2005年の給与を基準値として100とした場合、インフレ分を調整した教員給与は、フランスにおいては減少していることが分かる。小学校教師の場合、1995年の指標は107だったが、2005年の100をはさんで、2009年に95と、減少を続けていることが分かる。同じように、中学校教師では、109(1995年)、100(2005年、)95(2009年)。高校教師では、108(1995年)、100(2005年)、95(2009年)と、いずれも減少している。一方、OCDE加盟国平均では、小学校、中学校、高校ともに、2005年の100に対し、2009年では107と上昇している。

OCDEのデータは、2011年秋の新学年からリュック・シャテル(Luc Chatel)国民教育相が導入した教員初期給与の改定が反映されていない。しかし、給与改定と言っても、改善されるのは採用後8年間だけで、その後はベースアップも急激に縮小される。データに含まれないもう1点、残業代だが、フランスの全教員合計で15億ユーロ(約1,560億円)に達している。しかし、教員間で、非常なアンバランスが見られる。残業を強いられている教師もいれば、残業がしたくてもない教師もいる。こうした勘案されていないデータ・状況があるとはいえ、OCDEの調査結果が無効だというわけではない。

<OCDEからのレッスン.3>

OCDE加盟のほとんどの国で、国民一人当たりのGDP(le PIB par habitant)に占める教育費の割合は、2000年から2009年にかけて減少している。最も大きく減少した国々は、オーストラリア、韓国、フランス、日本、スイスだ。しかし、これらの国々のうち、オーストラリアとフランス以外は、それでも額としてはOECD全加盟国平均を上回っている。逆に、増加した国は、デンマーク、ポルトガル、チェコの3カ国だ。

・・・ということで、フランスでは、教員給与が減少。今年、若干のテコ入れをしたものの、他の先進国に比べると、低いレベルに留まっているようです。小・中学校だけでなく、アグレガシオン(agrégation:1級教員資格、あるいは教授資格とも訳されています)など、難関な資格を得て高校の教壇に立っても、給与面で報われることは少ない。これで、教師の質は保たれるのでしょうか。

フランスより少しはましとは言え、日本も同じ問題を抱えているようです。「人は城、人は石垣」・・・武田信玄が言ったとも伝えられていますが、基本は、人間。特に天然資源に恵まれていない日本では、人的資源が国の礎とも言われていました。しかし、今日では、どうでしょう。業種によっては、人件費どころか、生産コストとして計算されている給与もあります。

また、教員を取り囲む環境も、荒れる学校、モンスター・ペアレントと、困難さを増しています。子供たちの教育という、国の将来を左右しかねない事業を担う教員の質を上げる一要素として、その給与を考えることも必要なのではないでしょうか。ただし、日本の場合、さまざまな残業が多く、その内容の検討は必要かもしれないですが。

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