【武藤 正敏】韓国・文在寅、ここへきて「反日」を封印している本当のワケ GSOMIAへの対応ですべてわかる                

 

              

文在寅が「対日」歩み寄り…?

このところ、韓国では者国前法務部長官をはじめとする与党関係者たちが「竹槍」や「反日」を唱えて対日強硬ムードをリードしてきた状況が一変している。

天皇陛下の即位の礼式典に出席するため来日した韓国の李洛淵首相は、文在寅大統領の親書を安倍総理に伝達した。

ついでタイで開かれたASEAN+3会合の会場内控室で、文在寅大統領は安倍首相を控室に招き入れ、着席で11分間面談した。

 これについての韓国側の発表によれば、「両首脳は日韓関係の重要性や対話で解決するという原則を再確認した」ということであり、文在寅大統領もツイートで「意味ある出会いだった」と述べている。

ただ日本側は、安倍総理から文在寅大統領の母の死去への弔意を伝達し、天皇陛下の即位の礼への李洛淵首相の出席に謝意を示すとともに、「朝鮮半島出身労働者問題(以下「元徴用工」)については、日韓請求権協定で解決済みであるとの原則的立場を伝達した」として認識の違いが表れている。

 

日本のメディアもこの面会によって日韓関係に変化が訪れると見る向きは少ない。

文在寅大統領の対日歩み寄りの姿勢は、GSOMIA破棄を撤回するよう求める米国に対し、

韓国は努力しているという姿勢を示すとともに、失策続きの文在寅大統領として安倍総理との会談を実現し、

日韓の歩み寄りの糸口をつかんだことを国内に示し、成果を見せたかったのであろう。

「言行不一致」の文在寅政権

文在寅政権の発言や断片的な動きで文在寅政権の姿勢を判断することは危険である。

文在寅政権の対応を見る上では、具体的な意味のある行動が伴った時に初めて文在寅政権の姿勢が変わったと判断できるだろう。

 

日韓間の最大の問題は、いわゆる元徴用工問題であり、これは日韓関係の基礎をなす日韓請求権協定の効力を脅かす重大な問題である。

これについて韓国政府の抜本的な姿勢の変化が伴わない限り、日韓関係の修復はおぼつかない。

しかし、日韓の歴史問題に対する文在寅大統領の認識、元徴用工に関する大法院判決を生み出した文在寅大統領の行動から見て、極めてハードルの高い課題である。

これについて抜本的な解決策を示さず、小手先の解決案を日本に呑ませようとするのがこれまでの韓国の対応であり、文在寅大統領の「微笑外交」で韓国政府の変化を見ることは出来ない。

〔photo〕gettyimages

文喜相国会議長の「元徴用工」解決案はむしろ後退…

文喜相国会議長は、G20国会議長会議出席のため訪日したが、その際早稲田大学で講演し、韓日の企業と両国国民の自発的な寄付を募り、被害者へ支援することを柱とする『1プラス1プラスアルファ』案を提案した。

文喜相氏の案は、「両国の責任ある企業だけでなくその他の企業を含め自発的にする寄付金方式」とし、それに「両国国民の民間寄付の形式を加えるもの」だとしている。これは元徴用工を使っていた企業に直接支払いを求める形式を避けるところに意味があるのであろう。

しかし、ここから韓国政府を除いたのはむしろ後退である。

しかも、元徴用工裁判の原告団は金銭だけ加害責任を免じる内容だとしてこの案に怒りを表している。

日韓請求権協定の精神からすれば、韓国政府が元徴用工に対する補償を担うべきであり、韓国政府はそのことを説明し、韓国政府の責任で対応すべきである。韓国の多くの有識者も韓国政府の関与を肯定している。

加えて、このために行う立法措置の名称が「対日抗争期強制動員被害調査および国外強制動員犠牲者などの支援に関する特別法改正案」となっている。

文喜相議長と言えば、平成天皇陛下に謝罪を求める発言を行い、日本政府はじめ多くの日本国民の顰蹙を買ったことは記憶に新しい。

この発言について、謝罪した由であるが、こうした名称を付けるところなど、全く反省がない。要するに形だけの謝罪ではなく根本的に誤った認識を改めてもらう以外ない。言行不一致は大統領だけでなく国会議長も同様である。

 

元徴用工の問題を解決するため、国会の肯定的役割は重要である。

しかし、それは日本が決して受け入れない解決案を持ってくることではない。韓国政府が大法院の判決を覆せないという状況の下で、司法府の判断を修正するため、元徴用工に対する補償は韓国政府が行うという特別立法を制定し、これに予算を付けることである。

元徴用工にとって、最も重要なことは、これまで実質的に意味のある補償を得られていないとする思いが満たされることであり、それを韓国政府が行うことで納得させることである。

GSOMIAへの対応が試金石だ

GSOMIA離脱期限が11月22日に迫ってきた。韓国側は相変わらずGSOMIA復元の条件として日本の輸出規制措置の撤回を求めている。

青瓦台関係者は「日本側が立場を変えない限り現段階では予定通りGSOMIAを終えるという原則に変化はない」と述べている。

しかし、日本側からは一切動きはないために韓国側は焦りの色を深めている。

高まる「米国圧力」

確かに韓国の世論の60.3%がGSOMIA破棄決定を支持(東アジア研究院の4日のアンケート調査)しているだけにこれを覆す政治的負担は大きいだろう。

しかし、こうした国民世論となったのは、韓国政府が「日本の輸出規制措置は元徴用工問題に対する日本の報復であり、日本が韓国の安保を信頼できないのであれば、GSOMIAを破棄するしかない」との認識を広め、自分でハードルと高めてきたからである。

国民世論に訴えるのがこれまでの韓国政府の交渉のやり方であるが、これは韓国政府自身が解決しなければならない問題である。

 

GSOMIA破棄撤回は何も日韓関係に限った問題ではなく、むしろ米国との同盟、韓国自身の安全保障に直結する問題である。

この問題への対応さえ修正できないようでは、文在寅政権が元徴用工問題に関する抜本的な立場の修正は不可能である。

 

GSOMIA破棄を目前に控え、米国政府高官の訪韓が続いており、破棄撤回を求める米国の圧力が一層高まっている。

11月5日午後にはスティルウェル国務次官補(東アジア・大洋州担当)がソウルに到着し、6日に青瓦台、外交部関係者と会談する。

韓国が決定を変えない場合、米国はGSOMIAを対中牽制という枠組みでも眺めているため、米国が掲げるインド太平洋戦略に韓国が積極的に参加するよう求めてくる可能性もあると言われている。

韓国はこれまで中国の顔色を窺い、煮え切らない態度を示してきたが、改めて米中の板挟みとなろう。

韓国がGSOMIAを破棄したら…

また、クラーク国務省経済次官も訪韓し、11月6日に李泰鎬(イ・テホ)外交部第2次官と第4回韓米高官級経済協議会(SED)を開催する。

会議では「開発・エネルギーなどの分野の新南方政策――インド太平洋戦略の連携」だと言われている。これに関し、米国務省の資料は、韓国外交部の資料にない5G問題を盛り込み、「両国は世界で5Gなどデジタルエコノミー分野で協力する」としている。

 これは米国のファーウェイ(華為技術)叩きに直結する問題であり、THAADの配備に加え、中国との新たな摩擦のタネとなる。

さらに、トランプ大統領は、「韓国は、在韓米軍の駐留経費を毎年600億ドル払わなければならない(現在は120億ドル)」として韓国側負担の増大を求めている。

こうした米国側の要求は、韓国がGSOMIAから破棄した場合、より明確な形で顕在化して来るであろう。また、韓国がこれに応じない場合には、米韓同盟の信頼性を損なうことになりかねない。

〔photo〕gettyimages

韓国のGSOMIA破棄決定は、最終的に文在寅大統領の判断であったとのNHKの報道があった。

韓国政府がこの報道を執拗に否定しようとしていることから、おそらく事実に近いのであろう。だとすれば、米国務省の高官が韓国を訪問し、GSOMIA破棄を撤回するよう求めたくらいで、これを撤回することは文在寅大統領の面子として潔しとしないであろう。

従って、韓国との話し合いで糸口が見つかれば、米国からより高いレベルでの圧力を加えることになるのかも知れない。いずれにせよ、この問題はさらに紆余曲折があるだろう。

徴用工問題で話し合いの余地も…?

文在寅政権がGSOMIAの破棄見直しを決断すれば、それは韓国政府が日米との外交を真剣に見直し始めていることの表れと判断してもいいかも知れない。

その場合は元徴用工問題の解決について韓国政府の考えを聞いてもいいのかも知れない。

 

徴用工問題に関し、韓国政府には日本と司法府の間の板挟みになっているとの焦りが少しづつ高まっている。これまでの日韓間の交渉では、韓国政府は日本に要求するばかりで、解決案を示すことはなかったと記憶する。解決案を示してきたのは主として日本側だった。

しかし、今回は不十分とはいえ、韓国側がいろいろ案を持ってくる。ただ、それがいずれも韓国側にとって基本的な部分で妥協をためらうものばかりというだけである。

それを日本側にとって受け入れ可能なものとする案に作り替えるため、日本もただ韓国側が案を持ってくるのを待つだけではなく、具体的な要求を突き付け、韓国側をリードする姿勢を示してもいいのかも知れない。