日本と世界

世界の中の日本

新しい韓国政府が貧困と所得格差の問題を解消するためにはどのような対策が必要だろうか。

2022-07-27 11:20:19 | 日記
結論に代えて

今後、新しい韓国政府が貧困と所得格差の問題を解消するためにはどのような対策が必要だろうか。

まず、高齢者対策から考えてみよう。

今後、年金が給付面において成熟すると、高齢者の経済的状況は現在よりは良くなると思われるが、大きな改善を期待することは難しい。

なぜならば韓国政府が年金の持続可能性を高めるために所得代替率を引き下げる政策を実施しているからだ。

公的年金制度が導入された1988年に70%であった所得代替率は、1997年のアジア経済危機の影響で60%まで下がり、2008年には再び50%に下方調整された。

さらに韓国政府は2009年から毎年0.5%ずつ所得代替率を引き下げ、2028年には所得代替率が40%になるように調整した。

所得代替率は40年間保険料を納め続けた被保険者を基準に設計されているので、非正規労働者の増加など雇用形態の多様化が進んでいる現状を考慮すると、多くの被保険者の所得代替率は、実際には政府が発表した基準を大きく下回ることになる。

従って、2005年7月から9%に固定されている保険料率を段階的に引き上げることにより、所得代替率の引き上げを検討する必要がある。

また、国民年金の支給開始年齢は60歳から65歳に段階的に引き上げられることが決まっており、実際の退職年齢(定年60歳)との間に差が生じることになった。

高齢者の所得を保障するためには、国民年金の支給開始年齢と定年を同じ年齢にし、所得が減少する期間をなくす対策を取らないといけないだろう。

次は働き方の多様化に対する対策だ。

非正規労働者の増加が急速に進むなかで、韓国政府は、
『期間制および短時間労働者保護等に関する法律(以下「期間制・短時間労働者法」)』、
『改正派遣労働者の保護等に関する法律(以下、「派遣法」)』、
『改正労働委員会法』などのいわゆる「非正規職保護法」を施行することで非正規職の正規職化をすすめ、非正規労働者の増加による労働市場の二極化や雇用の不安定性を緩和しようと試みた。

法律が2007年7月から施行されることにより、非正規労働者が同一事業所で2年を超過して勤務すると、無期契約労働者として見なされることになった。

しかしながら、同一事業所での勤務期間が2年にならないうちに、雇用契約が解除される「雇い止め」も頻繁に発生した。

また、「非正規職保護法」の施行により雇用期間が無期に転換された者の中でも、処遇水準が改善されず、給料や福利厚生面において正規職との格差が広がっている者も少なくなかった。
それは、韓国社会における格差の拡大につながっている。

さらに、最近韓国では新型コロナウイルスが長期化している中でギグワーカー(gig worker)が増加している。

「ギグワーク」とは、個人がインターネットの仲介プラットフォームなどを通じて企業と雇用関係を結ばずに請け負う単発の仕事のことを意味し、ギグワークを行う人は「ギグワーカー」と呼ばれる。

その代表的な例として、Uber(配車サービス)、UberEATS(オンラインフード注文・配達) 、Task Rabbit(お手伝いのマーケットプレイス)などが挙げられる。

問題は、ギグワーカーは個人事業主とみなされるため、最低賃金法による最低賃金の対象外となり、企業の福利厚生制度や公的社会保険制度も適用されないケースが多いことだ。

労働基準法などが適用されず法的に保護されない彼らをこのまま放置しておくと、新しいワーキングプアが生まれ、貧困や格差がより拡大する恐れがある。

これを防ぐためにはまず、ギグワーカーの実態を正確に把握する必要があり、それは政府の主導の下で行われるのが望ましい。

最後に若者に対する対策について触れておきたい。

韓国では高卒者の約7割が大学に進学することにより、大卒者の労働供給と企業の労働需要の間にミスマッチが発生している。

従って、今後このようなミスマッチを解消するためには、大学の数を減らす代わりに、日本のような専門学校を増やす必要がある。

つまり、現在の若者の就職難を解決するためには雇用政策よりも教育システムの構造的な改革が優先されるべきである。

また、若者が中小企業を就職先として選択できるように、中小企業の賃金水準や労働環境を改善するための支援を拡大することも重要である。

技術力や競争力のある中小企業を積極的に育成し、若者が選択できる選択肢を増やすべきである。

もちろん、最低賃金を引き上げることと低所得者に対する政府の財政支出を拡大すること等、貧困や所得格差を解消するための政府の対策も大事である。

但し、最低賃金の引き上げは企業の財政的な負担を考慮しながら、そして政府の財政支出拡大は政府の財政健全化を考慮したうえで実施されるのが望ましい。

民間企業の活躍を重視し、小さな政府を目指す新しい尹政権が2022年5月以降どのように韓国の貧困と所得格差問題を解決していくのか、今後の動向に注目したいところである8。

8 本稿は「韓国における所得格差と分配政策」『特集 所得格差と分配政策の国際比較』『DIO』2022年4月号を加筆・修正したものである。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿