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韓国文大統領の訪朝前向き対応は「米朝戦争」の可能性を高める

2018-02-14 18:49:44 | 日記
2018.2.14

韓国文大統領の訪朝前向き対応は「米朝戦争」の可能性を高める


武藤正敏:元・在韓国特命全権大使

幕開けした平昌オリンピックを
北朝鮮の偽装平和工作が“ハイジャック”

2月9日に幕を開けた平昌オリンピックは、平和なスポーツの祭典という本来の趣旨から外れ、北朝鮮の「偽装平和攻勢」と、これを無条件に歓迎する韓国の文在寅大統領の「政治ショー」に“ハイジャック”された観がある。

その極めつきが、金正恩・朝鮮労働党委員長が妹の金与正氏に託した、文大統領に対する北朝鮮訪問への招待だ。

訪朝への招待は「想定外だった」との指摘があるが、筆者は想定していた。

現に、当日朝のテレビ出演の際、「午餐会で北朝鮮はどう出るか」と聞かれ、「金正恩委員長が文大統領氏を招待し、南北首脳会談をやろうと言い出すのではないか」と述べていた。

筆者がそう考えた理由は、今回のオリンピックを通じて、北朝鮮は生きるか死ぬかの外交をやっているからだ。


北朝鮮にオリンピックに出てほしいとの思いで、全てのことに妥協する韓国とは根本的に違う。そこをまず理解する必要がある。

金与正氏派遣を、最初から考えていたかは定かではない。

しかし文政権が、「核ミサイルは、韓国ではなく米国に向けられている」という金正恩委員長の発言に反論しないばかりか、軍事パレードの中止も求めなかったことから、北朝鮮側は「韓国は抱き込める」と判断し、金与正氏の訪韓や訪朝への招待を最終的に決めたのではないだろうか。

韓国における金与正氏の立ち振る舞いは、堂々としていて冗談も言うことができ、「この人となら対話できる」とのイメージを与えたが、そうした北朝鮮の“微笑外交”で南北統一を前面に出した姿は、北朝鮮の残忍さを忘れさせる雰囲気を作り出そうとしたものであった。

しかし、北朝鮮が目指すのは「赤化統一」であり、仮に連邦制の統一であっても北朝鮮ペースでの統一である。

そのことを決して忘れてはならない。

寄り添い笑顔絶やさぬ文大統領
想定を上回る親北姿勢

むしろ想定外だったのは、文大統領の方だ。

常に金与正氏と、同じく訪韓した最高人民会議常任委員長の金永南氏に寄り添って笑顔を絶やさないなど、到底、日米韓の連携による「最大限の圧力」を目指していた韓国の大統領とは思えない姿だった。

筆者が、拙著「韓国人に生まれなくてよかった」や、ダイヤモンド・オンラインの連載で述べてきたように、文大統領が北朝鮮に対して無防備だということは理解していたものの、金与正氏などに対し、まるで恋人や親友と接するかのように振る舞ったことに、強い違和感を覚えたのは筆者だけではないだろう。

だが、北朝鮮側の一連の行動は、常に計算されたものだった。

まず、オリンピックへの参加の意思を伝え、韓国の懐柔にかかる。その上で、モランボン管弦楽団の派遣を通じて、北朝鮮の魅力と柔らかいイメージを振りまいた。


文化行事は、政治宣伝色の強いモランボン楽団ではなく、三池淵管弦楽団を主体としていたが、その団長にモランボンの団長である玄松月氏を据え、モランボンの団員も潜り込ませるなど、“モランボン色”の強いものだった。

そんな三池淵管弦楽団や美女応援団は、南北統一を前面に掲げ、北朝鮮が平和的な統一を求めているかのような幻想を与えていた。

ただ、その裏では「北朝鮮はオリンピックには出ない」などと言って脅しをかけ、あらゆることで韓国に譲歩求めていたし、三池淵管弦楽団の公演では入場料収入を得ていた。

また、夜中に突然、万景峰92の派遣を伝え、韓国に受け入れを迫っていた。

五輪前日に強行した軍事パレードでも
韓国を取り込むことを忘れず

こうしたオリンピックに関わる動きとは別に、北朝鮮はオリンピック開会式前日、軍創建記念日の軍事パレードを強行した。

昨年まで軍創建記念日は、4月25日の朝鮮人民軍の正規軍創設の日だった。それを今年は、金日成が抗日遊撃隊を創設したとする2月8日に急遽変更した。

軍創建記念日を変更してまで軍事パレードを行うことは、共にオリンピックを祝おうとする姿勢ではなく、「核ミサイル開発は放棄しない」「米国の軍事圧力には決して屈しない」というアピール以外のなにものでもない。


ただ、韓国を取り込もうとする意図も垣間見せた。前回のパレードは2時間50分続いたが、今回は半分の1時間半で終了。

外国人特派員を締め出し、国内行事とした。また、初めて生中継せず、録画中継とした。パレードには、火星15と見られるICBMも登場したが、金正恩委員長は演説で核ミサイル開発には触れず、米国の脅威のみ強調した。

こうした姿勢の背景には、米国を悪者とする一方で、韓国は対話の相手だとする雰囲気を醸成しようとする意図が見える。

そのため、この程度の規模が適当だと考えたのだろう。

テレビ中継をやめたのは、暗殺を恐れて常に隠れて行動している金正恩委員長が、自分に対する攻撃を恐れたからだと見るのが適当だろう。

北朝鮮が韓国と対話を
求めるのは苦しい時

2月10日、金与正氏は、文大統領が開催した昼食会において、金正恩委員長の「特使」の資格で訪韓したと明らかにした上で親書を渡し、さらに口頭で、「文大統領と早い時期に会う用意がある。都合のいい時期に北を訪問するよう要請する」とのメッセージを伝達した。

これに対し文大統領は、「今後、環境を整えて訪朝を実現させよう」と前向きに回答をしたようだ。

文大統領の訪朝を要請した、北朝鮮の意図は何であろうか。

北朝鮮にとって、本来の対話の相手は米国である。しかし米国は、対話の前提として、北朝鮮に核ミサイル開発の放棄を求めており、実現の可能性は低い。そればかりか、米国の軍事的圧力や、国際社会の経済制裁は強まるばかりだ。

国内情勢も厳しさを増している。北朝鮮が核実験を急ぐのは、ミサイル発射の他、スキー場や遊園地などの放漫経営で、父である金正日氏から引き継いだ“秘密資金”が枯渇してきているからだと言われる。

このように、内外ともに北朝鮮は追い詰められた状態にある。そこで目を付けたのが、融和姿勢をかたくなに貫く文政権だったというわけだ。

90年代の中盤、当時の米クリントン政権が、北朝鮮攻撃を真剣に検討した時期があった。

しかし、北朝鮮への攻撃は報復を招き、韓国に多大な犠牲が及ぶとの情勢分析があり、当時の金泳三大統領から、攻撃を思いとどまるよう強い要請があり、攻撃は中止された。


しかし、現在の状況は当時と違い、核が搭載されたミサイルが、米国まで到達するまでに開発が進んだことで、米国は“本気”になっている。また、米国の圧力を受けて、これまで北朝鮮を支援してきた中国も制裁を強化しており、米国側にまわりつつある。

こうした状況を一番深刻に考えているのが金正恩委員長であり、起死回生の策として、

「韓国を使って米国と対抗していこう」

「韓国を使って核ミサイル開発の時間を稼ごう」「韓国を通じて経済制裁をなし崩しにし、核ミサイル開発の資金を捻出しよう」と打ち出したのが、今回の訪朝要請だったというわけだ。

北朝鮮が韓国との対話に乗り出すのは、いつも米国の強硬姿勢で苦しい立場に追い込まれたとき。
つまり、韓国は“盾”として利用されているのである。


今後を占う鍵となるのは
米韓合同軍事演習

では、米軍は北朝鮮を攻撃するのか、そしてそれはいつなのか。

北朝鮮にとって一番危険なのは、「米韓合同軍事演習」のタイミングだ。米国の原子力空母、原子力潜水艦、そして最新鋭の戦闘機が朝鮮半島周辺に集結し、北朝鮮を攻撃する態勢が整うからだ。

北朝鮮が、文大統領を招待して南北首脳会談を行おうとする最大の目的は、こうした米韓合同軍事演習を中止させることにある。

オリンピックのための南北会談を行っている期間は、米韓合同軍事演習を延期するよう文大統領が要請し、米トランプ大統領も了解した。

それを今度は、南北首脳会談を行うことを口実に、完全な中止に追い込もうと考えているのだ。

ただ、米韓合同軍事演習の中止は、米韓軍事同盟を反故にしかねないだけに、韓国としても慎重な対応が必要だ。

にもかかわらず、安倍晋三首相が日韓首脳会談において、「オリンピック後が正念場だ。米韓合同軍事演習を延期する段階ではない。

演習は予定通り進めることが重要だ」と述べたのに対し、文大統領は「これは韓国の主権の問題であり、内政に関する問題だ。首相がこの問題を直接取り上げるのは困る」と応じた。


こうした発言から見えるのは、文大統領にとって、金正恩委員長との首脳会談を実現させるためであれば、米韓合同軍事演習さえ見直しの対象にしているということだ。

北朝鮮への「最大限の圧力」を継続するためには、米韓合同軍事演習は予定通り実施することが不可欠であるにもかかわらずだ。

そういう意味では、オリンピック・パラリンピック後に米韓合同軍事演習が行われるかどうかが、今後を占う鍵となる。

米国はこれまで、「演習は行う」と明言してきた。

しかし、米韓合同軍事演習が行われれば、北朝鮮は再び態度を硬化させ、南北首脳会談を白紙に戻すだろう。

そのため文大統領は、何としてでも演習を予定通り4月頃に行うことは避けようとするのではないか。その時、米国がどういう行動に出るかだ。

ペンス米副大統領は
文大統領に強い警戒感

2月8日、米国のペンス副大統領は、文大統領と会談。このときペンス副大統領は、「米国は、北朝鮮が核兵器だけでなく、弾道ミサイル計画を放棄する日まで最大限の圧迫を続け、韓国と肩を並べ努力する」と述べ、北朝鮮の揺さぶりにひるむことなく、米国に同調するよう迫った。

これに対し、韓国の大統領府は、「最大限の制裁と圧迫を通じ、北朝鮮を非核化に導く原則を再確認」したと説明。

しかし文大統領は、会談の冒頭、記者団に公開された部分で、「われわれはこの機会を最大限活用し、北朝鮮の非核化と、朝鮮半島の平和定着のため、(金正恩委員長を)引っ張り出すよう努力しよう」と述べ、圧力ではなく対話を重視する姿勢をにじませた。

そもそもペンス副大統領の訪韓は、文大統領が北朝鮮との関係に前のめりにならないよう、釘をさすことが目的だった。

だから、開会式には、北朝鮮に拘禁され瀕死の状態で帰国した直後に死亡した、ワームビアさんの父親も招待された。


ペンス副大統領は訪韓中、平澤にある韓国海軍第2艦隊司令部も訪問し、脱北者と面会した。そこで、「北朝鮮は自国民を拘禁、拷問し、飢えさせる政権だ」「全世界が今夜、北朝鮮の“微笑外交“を目にする。真実が伝わるようにするのが重要だ」と語った。

そして、開会式のレセプションには遅れて姿を現し、着席していた数人に挨拶したものの、金永南氏ら北朝鮮関係者に一切接触せずに無視、食事もしないで会場を後にした。

当初は、集合写真撮影後に立ち去る予定だったが、文大統領から「友人に会うよう」に促されたため、少しだけ立ち寄った。しかし、集合写真には参加せず、北朝鮮とは一切対話する意思がないことを見せつけた。

だが、当の文大統領は、安倍首相の言葉に耳を貸さず、ペンス副大統領の無言の抗議にも応じなかった。

こうした中で今後、米国はどう出るか。最初の試金石が米韓合同軍事演習だろう。

仮に、米韓合同軍事演習を中止する事態となった時、米国は韓国抜きで行動に出ることを覚悟するのか、それとも北朝鮮の核ミサイル放棄を諦め、管理する方式を模索するのか。その時、中国がどう出るのか。決断の時期が刻々と迫ってきている。

(元在韓国特命全権大使 武藤正敏)


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