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開城を爆破されても「北朝鮮従属」人事を敷く文在寅

2020-07-08 14:06:45 | 日記
開城を爆破されても「北朝鮮従属」人事を敷く文在寅

武藤 正敏 2020/07/08 10:00

(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)

 文在寅大統領は3日、北朝鮮を担当する新たな安全保障人事を確定し、公表した。統一部の金錬鉄(キム・ヨンチョル)長官辞任後の一連の改変人事である。新しく指名された人事は以下のとおりである。

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・国家情報院長    朴智元(パク・チウォン)元「民生党」議員

・統一部長官     李仁栄(イ・インヨン)議員

・青瓦台安保室長   徐薫(ソ・フン)国情院長

・外交安保特別補佐官 鄭義溶(チョン・ウィヨン)安保室長

・外交安保特別補佐官 任鍾皙(イム・ジョンソク)前秘書室長

 今回の人事は、北朝鮮の南北共同連絡事務所爆破と4大軍事行動の予告、そしてその後の保留を受けたものであり、前閣僚等が対北朝鮮政策に失敗した後の人事だ。特に、金錬鉄統一部長官は民弁(=「民主社会のための弁護士会」。中国にある北朝鮮レストランから集団で脱北した女性従業員らに北へ帰るよう説得してきた団体)の出身であり、米国の意向に反しても北朝鮮との関係を進めたい人間であった。しかし、同長官を介しての従北姿勢は結実しなかったのはご存じの通り。そこで人心一新となったわけだ。

 だが韓国の対北政策は、新布陣の下でも、ますます北朝鮮に寄り添ったものになりかねない。韓国が北朝鮮といかなる関係を構築していこうとしているのか、人事を通して予測してみたい

情報機関であるはずの国家情報院、北朝鮮への「密使」となり果てるのか
 そもそも国家情報院とは、北朝鮮を含むあらゆる外部の脅威から韓国を守るための安全保障の最前線機関である。国防部の主な活躍の場が戦時だとするなら、国家情報院は平時に情報を集め、安全保障を担保するのが役目である。しかし、文大統領は国情院を「国家の安全を担う機関」ではなく、「北朝鮮との交渉を行う密使」と考えているのではないかと思われる。

 北朝鮮は、常に人々の意表を突き、脅迫することで自己主張をしてきた。北朝鮮の中枢部がどうなっており、何を考えているのか外部からは誰も分からない状況が続いている。それを探るのが国家情報院だ。だが最近は、北朝鮮ばかりでなく、中国にも目を配らなければならなくなった。さらに最近ではサイバーやテロ対策までも安全保障にとって重要となっている。

 こうした重要な役割を担う情報機関のトップになるべき人材は、安全保障を脅かす情報を理解し、判断できる知識と経験が必要である。しかし、新院長候補となっている朴智元氏は数十年にわたり国内政治に没頭してきた人物だ。朴院長の北朝鮮とのかかわりは、故金大中(キム・デジュン)大統領の密使として初の南北首脳会談に合意したことがよく知られている。これを実現するため、朴氏は金正日(キム・ジョンイル)総書記に4憶5000万ドル(約484憶円)の裏金を渡した。その支援で、金正日は「苦難の行軍」の危機を乗り越え、核開発に拍車をかけ、6年後には初の核実験を行った。

 これまでの国家情報院は、情報機関としての役割を十分に果たしてきたとは言い難い。昨年9月の板門店の首脳会談の1か月前に金正恩が特別列車で訪中したことをきちんと把握していなかった。ハノイの会談が失敗するまで、米国の意向を誤解していた。このような情報で北朝鮮に適切に対峙することは不可能である。

 こうした経歴や実績から見ると、文在寅氏が朴氏に期待しているのは北朝鮮への密使の役割である。北朝鮮が「対南関係を対敵関係に転換する」とした後、韓国が特使派遣を打診したものの、北朝鮮が受け入れを拒否したと伝えられている。それが朴智元氏であれば、北朝鮮への裏金を渡した前歴から、北朝鮮が好意的に受け止め密使として受け入れると考えたのではないだろうか。朴智元氏は金大中氏の側近であり、現政権の与党の政治家ではない。その人をあえて抜擢したことには、それなりの意図があると考えるべきではないだろうか。

制裁下でも親北政策を押し通す「剛腕」を期待されて起用
 統一部長官に指名された李仁栄候補は、「親北団体」として知られる全国学生代表者協議会(全大協)初代議長で、86グループ(80年代の民主化運動にかかわった60年代生まれ)の象徴的人物であり、代表的左派の人材である。国会議員の交代が激しい韓国では、中堅以上の古参となる4選議員であり、与党ともに民主党の院内代表に昨年選出され、今年の総選挙では与党の圧勝に貢献した。

 李候補は「(対北制裁について)創意的な解決方法が必要だ」と述べている。具体的な解決方法については説明しなかったが、長官に任命されれば、韓米ワーキンググループ(韓国では、南北交流の足かせとなっているとの批判のある組織)に関連し、「ワーキンググループを通じて我々にできることと、我々が自ら判断してできることを区分するのが普段の私の考え」と述べ、南北関係及び米朝関係の進展のために国際社会の対北制裁の中でも積極的な南北交流・協力をしていくとする考え方を明らかにしている。

 政府当局者は、「(文大統領が)有力政治家を統一部長官に内定したのは、政治家の突破力に期待したため」であり、「南北関係を改善して朝鮮半島の平和体制を構築する過程で、時には米国ともぶつかることもあるだろうが、最大限に米国を説得し、韓米同盟と南北関係を同時に進めていくことができるだろう」とコメントしている。

 ちなみに、文在寅氏の最近の人事では、強引にやりたいことをやり通す実力者を任命するケースが見える。法務部長官に任命された秋美愛(チュ・ミエ)氏がその典型であり、検察の人事の大幅刷新により検事総長の孤立化を図ったこと、高位公職者犯罪捜査処設置法案を強引に国会で成立させている。

 典型的な左派人材である李長官であれば、米国の意向を忖度して躊躇うことなどしない可能性がある。これからの韓国がどうなるのか心配である。

国家安保室長は「北に最も知られている」男
 国家安保室長候補の徐薫氏は、もともと国家情報院の官僚であり、故盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領時代は国情院第3次長として北朝鮮との連絡役を務めていた人物である。北朝鮮のトップが韓国の官僚で唯一顔と名前の一致する人物と言われるほど、北朝鮮には馴染み深い人材だ。前職の国家情報院長時代も当時の国家安保室長・鄭義溶氏とともに北朝鮮への特使を務めてきた。国家安保室長が徐氏へと交代しても、北朝鮮特使の人脈は継続できることになる。

 国家安保室長の鄭氏は、大統領外交安保特別補佐官に横滑りする。ハノイの米朝首脳会談失敗で、米朝双方からの信頼をなくしていたので、一面人心を新たにすると同時に、人的関係は継続するという狙いであろう。

任鍾皙氏の「返り咲き」は文政権の一層の左傾化を象徴
 同じく大統領外交安保特別補佐官になる任鍾皙氏は、文在寅政権の初代大統領秘書室長であり、2018年の板門店南北首脳会議の準備委員長を務め、実務を統括した。

 任氏は第3代の全大協委員長であり、1989年に任氏は北朝鮮で開催された世界青年学生祭典に女子学生の林秀卿(イム・スギョン)氏を派遣、この時の林氏と金日成主席との抱擁シーンは訪北禁止時代に大きな注目を集めた。この事件によって、任氏は国家保安法違反で実刑判決を受けている。

 最年少の34歳で国会議員になった後も、「南北経済文化協力財団」の理事長などを務め、北朝鮮への支援を進めた筋金入りの「従北派」といえる。ちなみに「南北経済文化協力財団」の役割は北朝鮮の著作権事務局の業務を代行することであり、北の小説や映画作品の著作権使用権を取得し販売する業務をおこなっている。このように北朝鮮のエージェントが文政権の秘書室長をやり、今また特別補佐官として返り咲いた。北朝鮮の代弁者がまた一人韓国政府内に増えたことになる。

外交安保チームで交代しなかった康京和外交部長官が続投の理由
 今回の外交安保チームの改変で広く交代が予想されていた人で変わらなかったのは康京和(カン・ギョンファ)外交部長官である。康長官はハノイの米朝会談に臨む米国の立場を把握できず、それが会談失敗、そして文在寅氏に対する北朝鮮の攻撃的姿勢の原因ともなった。加えて、韓国外交の中で存在感もなかった。

 ただ、今回交代しなかった背景には康長官が元徴用工や元慰安婦の問題で人権の専門家として知られていたからであろう。北朝鮮問題を重視する韓国政府にあって、日本への攻撃的姿勢をとる康長官は維持したいということなのか。

次期対北朝鮮安保チームは、これまで以上に北朝鮮寄り
 対北朝鮮政策の失敗は韓国の平和が危ういものであることを露呈した。しかし、新しい布陣からこれを改める考えは一切見えてこない。

 文大統領は自分が政権についてから北朝鮮との平和が促進されたと自負している。しかしこれが真の平和であるか改めて考え直してみる必要がある。

 現在の南北間の平和は、核ミサイルを保有する北朝鮮が恣意的に条件を決める平和である。南北首脳会談で合意された板門店宣言と南北軍事合意は韓国の国防体制を弱体化させ、北朝鮮による威嚇脅迫を容易にしてしまった。それが南北共同連絡事務所の爆破という挑発行動を北朝鮮が行う素地を作ってしまった。

 また、非核化よりも南北関係を優先させたことも北朝鮮の譲歩を遠のかせている。「平和経済」という美名の下で、制裁緩和と北朝鮮との経済協力に力を入れた結果、どちらも失う結果となった。北朝鮮に「核を放棄しなくても経済発展は可能」との幻想を与え、北朝鮮に核の放棄することのインセンティブを失わせる結果となったのである。

 これまでのやり方で、北朝鮮を非核化、南北協力のテーブルに引き戻すことは困難である。それなのに今回の文政権の人事は、こうした失敗の反省を行うことなく、北朝鮮親派で主要ポストを固め、一層北朝鮮への歩み寄りを進める人事としか考えられない。

 新しい安保チームの特徴は、北朝鮮向けの編成となったことである。韓国の安保は軽視し、北朝鮮との関係改善に邁進しようとしている。対北朝鮮政策が失敗した背景は、米国に頭を押さえつけられ、北朝鮮への制裁緩和に動けなかったこと、南北の交流協力事業がおろそかになったことと考えているのだろう。その考えはますます北朝鮮ペースの「偽りの南北平和」をもたらすだけで、将来北朝鮮ペースで南北関係が進められる素地を作るだけである。また、こうした考えであれば、韓国の外交は北朝鮮一色となり、対米外交の一層の弱体化を招きかねない。

 そのような韓国に対して米国が匙を投げださないよう、日本は米国との協力をより確実なものとしていく以外ないのだろうか。

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