◆海上自衛隊こんごう型イージス艦の今後を考える
海上自衛隊のイージス艦は、艦齢24年を迎えた後はどうするのか、ということを昨日の記事で少し触れましたけれども、本日はこのことについてもう少し掘り下げてみましょう。アメリカ海軍では、イージス艦を近代化改修し、40年以上運用する計画を行っています、今回はこの話題です。
こんごう型ミサイル護衛艦はイージスシステムを搭載しての艦隊防空能力向上を期して導入された護衛艦です。満載排水量9500トンの、こんごう型は、建造当時としては海上自衛隊では空前の大型艦で、導入計画が立てられた当時、シーレーン防衛にあたる護衛艦隊がソ連のバックファイア爆撃機から運用される対艦ミサイルの脅威について真剣にその対処法が求められているときでした。就役は冷戦後とはなりましたが、1993年に、こんごう就役、1995年きりしま就役、1996年みょうこう就役、1998年には、ちょうかい、が就役しイージス艦が四個ある護衛隊群のミサイル護衛艦から成る護衛隊に配備されました。
東西冷戦が終結しますと、海上自衛隊のイージス艦は、もしかしたらばその能力を最大限に発揮することはないのではないか、と考えられていました。もともとイージスシステムは米海軍が航空母艦を中心とする空母機動部隊の護衛用に開発を始めたもので、当初は米海軍の強力な空母航空団がもつ防空能力を突破することは、どの空軍や海軍航空隊であっても実現はしないだろう、と考えられていました。しかし、イスラエル海軍の駆逐艦エイラートが、戦闘航海体制にあったものの、エジプト海軍のミサイル艇から発射されたソ連製ミサイルにより撃沈される事件のあたりから、米海軍でも対艦ミサイルにたいする防空能力の充実を求める声が高まっていき、開発に至りました。海上自衛隊の場合、航空母艦を運用していませんから、航空自衛隊のエアカバーについて、その圏外で行動する際にはイージス艦の護衛が頼りとなることとなり、加えてアメリカ側からも日本は空母を保有するよりもイージス艦を保有して有事の際には米空母とともに行動をともにしてもらいたい、という要望があったともいわれています。ところが、イージス艦に正面から攻撃を試みることが出来るような脅威というものが大きく減退したのも事実です。
こうしたなか、状況が一変する出来事がありました、湾岸戦争を契機として戦域弾道ミサイルへの備え、という概念が誕生し、結果的に強力なレーダーと管制システムを搭載するイージス艦の重要性が注目されるようになりました。近年、日本の周辺では弾道ミサイルを運用する国が増加傾向にあり、この中の国では日本列島上空を弾道ミサイルが通過する経路での実験を行う国もでてくるようになりました。こうして弾道ミサイル防衛というものの重要性は日本でも強く認識されるようになり、1998年の弾道ミサイル実験は1976年に日本の防空体制の脆弱性を指摘することとなったMiG25函館亡命事件に続く、日本の防衛力についての再検討を強いる機会となり、今日に至るわけです。この弾道ミサイル防衛という位置づけを受けた会場自衛隊のイージス艦は、必要性が上昇するとともに、近年、隣国に昨年まで一貫して国防費を二桁台の%で増加させる国があり、イージス艦は本来の任務での運用も再び想定される時代となってきたわけです。
さて、イージス艦の必要性は以上なのですが、同時に老朽化が始まっていることも確かです。米海軍は最初のイージスシステム搭載艦として、タイコンデロガを就役させたのは1983年、1982年から建造が開始された、はつゆき型がいよいよ耐用年数を迎えつつあるように、タイコンデロガ級についても耐用年数という問題が生じています。一番艦タイコンデロガは、2004年に除籍され、イージス艦のリタイアが始まった、と当時はいわれていたのですが、実は米海軍では、連装発射器に発射とその都度装填してゆく方式と、連続してミサイルを発射することの出来るVLS方式のタイコンデロガ級があったのですが、基本的に除籍されたのは、VLSを搭載していない古いタイプのイージス艦でした。古いタイプのタイコンデロガ級は、建造された27隻のタイコンデロガ級の中では5隻、22隻のタイコンデロガ級に関しては近代化されることとなっているわけです。
2008年からVLSを搭載したミサイル巡洋艦バンカーヒルをはじめ順次近代化改修に就いているのですが、2010年にはいりバンカーヒルの近代化改修が完了した、と報じられています。これはCruiser Modernizationとよばれ、イージスシステムのバージョンアップが行われました。このほかに第二マストからSPS49対空レーダーが撤去、艦橋の射撃指揮装置が最新のSPQ9Bへ換装、VLSへは従来のスタンダード対空ミサイルに加えて、一発用のスペースに通常の四倍を搭載することが出来る発展型シースパローESSMを搭載できるよう改修されていて、127ミリ砲も射程が非常に大きいGPS誘導砲弾を発射できる62口径の長砲身型に置き換えられました。また、居住区画も大きく向上されていて、長期間での任務に対応できるように改良され、総合的にはかなりの面で向上しているとのことです。
もっとも重要なのは、イージス艦の心臓部であるイージスシステムの改修で、今回のバージョンアップでは、プログラムの更新が短時間で行えるようになったものとなり、戦闘指揮を行うCICも民生用コンピュータを大量に採用したものに切り替えられました。民生用コンピュータというと、衝撃に対して脆弱性を抱えているような印象もあるのですが、この点は緩衝材などの配置で充分対応できるものですし、なによりも日進月歩で新型が改良され最新型へと循環する民生コンピュータと比べて、軍用の専用型には新型が開発されての更新頻度では心許ないところがあります。このために民生型コンピュータが採用されたのですね。
現時点で、タイコンデロガ級は、六番艦バンカーヒルが改修を終えて艦隊に復帰しているほか、七番艦モービルベイが近代化改修を受けています。順次近代化改修を行い、米海軍では2017年までにすべてのタイコンデロガ級の近代化改修を完了させる、という計画を発表しています。こうした改修により、タイコンデロガ級は全艦2030年代まで、第一線において任務を行うことが出来るようにすることが目標とされているそうです。バンカーヒルは1986年に就役していますから艦齢44年、ということを考えていることになります、航空母艦並の長期間ですね。恐らく配水管の錆や船体の経年劣化についても何らかの措置が行われているのでしょう、はるな除籍も、早まらずに航空練習艦や艦隊旗艦、航空掃海母艦あたりにしてほしかった、と44年も米軍が巡洋艦を維持するのなら、と考えてしまいます。
さて、海上自衛隊のミサイル護衛艦こんごう型は、これまで通り艦齢24年、ということを考えるのでしたら2017年に耐用年数を迎えることとなるのですけれども、米海軍に範をとって、ということならば2037年まで、そこまで行かずとも、近代化改修を実施すればもう少し長い期間は充分に運用できることを示しています。フランス海軍などはミサイル駆逐艦について船体が老朽化して、除籍させたのだけれども搭載する高価なターターシステムだけは別の駆逐艦に移植した、という話もありました。しかし、そこまで行かなくとも、こんごう型は維持できる、というように今回の米海軍の近代化改修に関する話は示しているように思えてきます。
アメリカ海軍では、ポストイージスシステムの模索を行ってきたのですけれども、新しい艦隊防空システムの開発について、そこまで切迫した状況はない、として新型駆逐艦の建造計画を一時棚上げにする形で、アーレイバーク級ミサイル駆逐艦の増強を決定しています。まだまだアメリカ海軍のイージスシステム運用は継続されるとのことで、アメリカとともに近代化を行うのであれば海上自衛隊のイージス艦についても近代化や補修について、製造元からの支援が受けられなくなることもなさそうですし、こんごう型、あたご型ともに末永く使ってほしいですね、と思うとともに、充実した防空能力をもつ、タイコンデロガ級と同じように、充実した航空機運用能力をもつ、はるな型がヘリコプターを逐次新型に切り替えることで今日なお強力な対潜中枢艦として対応していることが示すようにもともと設計に余裕のある艦艇というものは、建造には多くの費用を要するのだけれども、将来にわたって第一線で長い期間にわたり運用することができるようになるわけで、設計の余裕というものは大切であることを教えてくれているようにも思います。
HARUNA
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
予算の制約で新規建造もできなくなるだろうから、このあたりの汎用護衛艦は米国のように長寿命化させたらいいのに
MD対応改修時に相応の寿命延長工事などはされていないんでしょうか?
たかなみ型むらさめ型の近代化改修は重量のあるフェイズドアレーレーダとそれを支える剛構造の構造物を船体が支えられるか?発電機のキャパシティがあるか?がまず問題ではないかと思います。
日本の場合、輸出はできませんから、護衛艦の建造が途切れると、技術伝承が難しいという要素も考慮する必要があると思います。
また、海自で深刻なのは隊員数の維持でしょう。船はあるものの乗組員がいない…そのような状況がすでに発生しているようです。
FCS-3さんのおっしゃる通り、DD19?の予想図は、たかなみ型やむらさめ型の艦形にステルス性を加えた程度にしかみれないので、兵器(武装)や火器管制類の交換で予想以上の能力向上につながるでしょう。
まあ、防衛産業等にある程度仕事がないと防衛産業が生きていけなくなってしまったらもともこもないですが。
たかなみ型は当初、FCS-3の搭載を想定していると伝えられたのですが、むらさめ型の拡大改良型に収まっています。あすか、等を見ますとかなり軽量に収まっているようなのですが、やはり重心が大丈夫なのか、留意する必要はあるでしょう。もうひとつはコストでしょうか、ひゅうが型とほぼ同じ建造コストに収まるという22DDH、かなり船体が大型化するのに対して、建造費が抑えられているのは、ひゅうが型が搭載しているFCS-3を22DDHが省いているから、と、これが全ての理由ではないのでしょうけれども挙げられます。FCS-3の、むらさめ型、たかなみ型は以上の点から慎重にあるべきなのかな、と思います。むしろFCS-2の処理速度向上を行った方が、他の護衛艦にも寄与するやもしれません。
はるな型はFRAM工事を受けての艦齢延長ですから、こんごう型についても、FRAMを行わなければ、30年、というのは少し不安です。今回の米海軍による巡洋艦近代化計画も、一昔で言うところのFRAMにあるのでしょうけれども・・・。
むらさめ型、たかなみ型へのFCS-3の搭載ですが、FCS-は多機能レーダーですから、他の分のレーダーを統合して軽量化できないか、という一点、現在のラティスマストをFCS-3を基部とした短縮化を行いモノポールマストに置き換えて軽量化を行うという一点、これらを踏まえると可能性は少し変わってくるのではないでしょうか、もっともコスト面の問題というのは大きな問題となりますが。
米海軍では、造船業全般がかなり落ち込んでいまして軍艦以外の大型航洋艦船の建造は殆ど行われていないのではないでしょうか。
護衛艦は特殊な船舶ではありますけれども、特に重要なのは設計技術の面で、他方で、防需に頼らずとも造船業そのものは維持できるのだろう、と。ただ、これにも下限はあるということは言うまでもありません。この下限はどの程度なのか、数字については議論は必要でしょう。
乗員の問題ですが、地方隊の、現在は二桁護衛隊となっている護衛隊ですが、護衛艦の定員は低減されていますね。他方、全ての護衛艦が常時稼働状態にあるわけではありませんから、やりくりは出来ているようです。
海上自衛隊のイージス艦導入は、かなり早かったですからね。もうそんな艦齢です。対艦ミサイルの超音速化、低視認化が進んでいますから、イージスシステムもこれに応じて進歩してゆく必要があります。
ESSMですが、あの性能はどうなのでしょうかね、射程は長く、1セルあたりの搭載量が四倍にはなるのですけれども、同じく鳴り物入りで導入された航空自衛隊のJDAMについて聞こえてくる評判というものを勘案しますと、ESSM、いや、確たる証言が無いのですから明記は本来避けなければならないのですが、XRIM-4、国産も併せて研究を行うべきだったのかな、と。
FCS-2の処理速度向上、というものを行った方が、あさぎり型も含めた能力向上が行えるのでは、と考えています。
防衛産業ですが、もう一歩進めて防衛産業が維持出来なければ、国内で整備や近代化が出来ず、もしくは関連部品を輸入する羽目になってしまいますからね、防衛産業維持を行う方が抑止力の面でも内需喚起でも、そして防衛費の抑制にも寄与する、という立場をもう少し広報されてもいいのかな、と思います次第。