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いままで通りF-22の導入を望む 浜田防衛大臣記者会見[6月9日]

2009-06-09 22:17:39 | 防衛・安全保障

◆次期戦闘機(F-X)選定

 F-22の取得を望む日本に対し、アメリカ側から提示されたのはF-35,F-35の計画はまだ完了には遠い道筋があるものの、それまでF-4を運用しなくてはならないのかが気にかかるところであるが、本日、浜田防衛大臣は記者会見にて、やはりF-22の取得を望む声明を出した。

Img_9347  防衛省HPの2009年6月9日防衛大臣記者会見の内容は、北朝鮮に関する臨検について、そしてF-22の次期戦闘機として導入に関する内容、敵基地攻撃能力について議論には慎重を要する内容、などである。ここに一部を引用する。↓

 記者:ペンタゴンのモレル報道官が、日本に対してF-35をゲイツ国防長官が有力候補として推奨しているということをしゃべっていますけれども、・・・。

Img_6653  浜田大臣:それは今まで通り、F-Xの調査対象機種の中でのF-22の可能性であり、それがだめならば、F-35に限らず、他のものも選択肢に入れながら考えていかなければならないと思っています。現実にF-35に対する情報については、まだ出来上がった航空機がないので、そういった意味では検討の材料がない。F-22がだめだったら、そういった多機種色々なことを選択肢の中に入れながらやっていくことになると思いますけれども、基本は我々としては、まだF-22を引き続き選択肢として追求していきたいというふうに思っております。[引用ここまで][全文http://www.mod.go.jp/]

Img_9902_1  この記者会見について考察をすると、少数の航空機で防空を担うにはF-22が必要、という日本の切実な国情が透けて見える。航空自衛隊としては、決められた数少ない戦闘機定数の中で、島嶼部を含めれば北米大陸東海岸や中国沿岸よりもはるかに広大な日本列島の防空を担わなければならないという厳しい現状があり、他方で、これまで、周辺諸国と比較し、比較的世代の新しい戦闘機を運用することで、数的劣勢を補ってきた、という背景があり、次期戦闘機選定に際しては、他の候補機よりも世代が新しく、かつ多機能性よりも要撃機としての性能の高さが選定の背景にあることを示している。

Img_2098  ここで気づかされるのは、日米間の意思疎通における欠缺だ。なぜ、少数機での防空にこだわるのか。日本側としては、周辺国への脅威を与えないという配慮(もちろんこれだけではないが)から戦闘機定数は防衛大綱に上限が示されている。この防衛大綱に定められた機数上限に触れない範囲内で、最大限の抑止力を確保したい、という思惑がありF-4の後継機にF-22を必要としているのだが、米国側としては、F-22は機密保護の観点から輸出出来ないのであり、周辺国への配慮が機数に起因するという認識は無いのだろう。周辺国の新世代機の増加が問題ならば、日本も周辺国の新世代機と同世代の機体を増加させれば抑止力は維持できるのではないか、ということだ。

Img_5721  策源地攻撃能力、記者会見においては敵基地攻撃能力について触れられており、その手段について具体的に踏み込んだものではないのだが、慎重にあるべき、と間接的に触れられていた。さて、政府に助言した識者は、だいたい想像がつくのだが、トマホークミサイルの護衛艦への搭載により、策源地攻撃能力を付与させるという案が提示されている。トマホークは射程3000km、高性能なミサイルであり、弾道ミサイルなどの関連施設を外科手術的に取り除くには理想的な装備といえる。

Img_07502  海面すれすれを飛翔し、地形を縫うように飛行、命中するトマホークは、米海軍により水上戦闘艦から発射、戦闘開始を象徴する映像として垂直発射器より飛翔するトマホークはメディアに流され、様々な任務に投入、高い成果を上げているが、射程が長い一方で、亜音速で飛行することから、命中までは一時間程度を要し、開発施設や工場に対しては高い効果が期待できる一方で、日本に脅威を及ぼしている弾道ミサイル“ノドン”や“スカッド”の移動発射機に対しては、最新の情報をリアルタイムに入手し射撃したとしても、ミサイルが正確に命中した時には既に移動後となる可能性も高い。

Img_0095  策源地攻撃の手段として必要となるのは、ミサイルだけではなく、やはり肉眼で目標を発見し、即座に打撃を加え無力化することが出来る航空機とその支援能力ではないかといえるのだが、ここで思うのは、年末の防衛大綱改訂に戦闘機定数の上限を思い切って95年防衛大綱のラインまで引き上げ、その上で、対地攻撃能力を有する多用途戦闘機をライセンス生産した方が、日本の防衛力全体に資する点は大きいのではないか、と考える。

Img_8201  F-22を40機導入するコストで、他の機体であればどの程度導入できるか、F-22の場合、ライセンス生産が認められないという前提は当然国内での整備能力、同時に稼働率に大きく響く。数を質で補うことは従来、航空戦では不可能と考えられてきたが、データリンクによる共同交戦能力という概念が情報RMAにより確立した今日、個々の機体性能が全般の作戦能力に及ぼす影響は低下しつつある。

Img_9332  現状の飛行隊定数では、確かにSu-27などの比較的世代の新しい航空機を周辺国が多数配備している今日にあっては、数の上から有事の際には航空優勢の確保に課題が生じることは確かである。他方で、飛行隊定数を上方修正し、加えてデータリンク能力の強化、航空機の近代化改修の頻度を高めることにより、航空自衛隊の能力全般として、必要とされる任務を完遂することは可能なのではないだろうか。

Img_0185_1  同時に忘れてはならないのは、現在開発が難航しているC-1輸送機後継機、次期輸送機C-X,そして遠くない将来にはT-4練習機の用途廃止と代替機導入という課題が生じ、F-X選定を遅らせることは、それだけ、その他の航空機の調達時期と重なる可能性を示している。年間の防衛予算は上限がある為、様々な航空自衛隊向け航空機が予算の争奪戦を繰り広げ、結果、生産数縮小やそれに伴う単価高騰につながりかねない。

 年末の防衛大綱改訂、そこに冷戦終結後一貫して削減されてきた戦闘機定数を冷戦終結直後のラインへ上方修正し、飛行隊定数を増加させることで抑止力を維持する、その機体は多機能性能を重視する、というような視点もあってしかるべきなのではなかろうか。

HARUNA

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8 コメント

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航空機の定数の引き上げについてはやはりパイロッ... (通りすがり)
2009-06-09 22:33:35
航空機の定数の引き上げについてはやはりパイロットの育成が問題でしょうね。自衛隊は慢性的に人員不足であるということをよく耳にしますが、パイロットに関してはどうなんでしょうね。
返信する
こんばんは。 (とんぺい)
2009-06-09 22:58:25
こんばんは。
何でまたF-22??って感じです。少数で、という
大綱があるにせよ、1機250億円(4機+アルファ
で「ひゅうが」が装備できる)で少なくともライセンス
生産はなしなんて、アメリカの利しかなく、
政府・行政嫌いの自分としては、「絶対に裏がある」
としか思えません。「ピーナッツ」以上のね。
何せF-22ってアメリカでは生産中止になったの
ですよね。不思議~!!
1機100億円くらい?にこなれたF-15で代替すれ
ばいいのです。
F-22の装備は、「国営マンガ喫茶」と同じくらいの
無駄!(あちらはつぶれそうだけれど)
国防は重視すべき、と常々思っていても、こうも税金
を湯水の如く無駄遣いしようとする連中には腹立ち
で一杯です。
あ、総額はそう上がらないのかもしれませんが、
1機250億円!のものを、アメリカのためみたいに
買わされるのが許せません!!
あと、大綱はどうなんでしょうね?戦車にせよ、
戦闘機にせよ、狭いくせに長い海岸線で、仮想敵に
広く面するこの国では、数が大事かと思います。
74式戦車だって、防衛費全体からすれば維持費
なんか大したことないはず。修理・改修して現役
維持をすすめ、とにかく員数を多くすることが第一
で、それが変に某国らに気を遣っているから、こんな
バカな話になるのでしょう。
返信する
確かに完全輸入だと稼働率は酷い事になりそうですね、 (蒼い)
2009-06-10 01:22:37
確かに完全輸入だと稼働率は酷い事になりそうですね、
昔ヘリでまともに動かせずに問題になったことありましたよね?
導入機数が少ないうえに、整備すら出来ないとなるとF-22は(F-35も似たようなもんですよね?)
厳しいでしょうね。

策源地攻撃ですけど国外からいろいろ批判的な意見がではじめてますね。

http://www.nytimes.com/2009/06/05/opinion/05iht-edgorbachev.html?_r=1&ref=global
Such calls have already been heard in Japan, where North Korea’s nuclear test has
given the proponents of remilitarization a new card to play. A U.S. assistant secretary of defense,
Wallace Gregson, has said that the United States would be ready to support Japan’s
acquiring a capability for preemptive strikes at enemy bases. Even the main taboo of post-war Japan ― a
cquiring nuclear weapons ― may be in jeopardy.

グルバチョフですが、北朝鮮情勢を踏まえての発言です。

それから中国海軍の張召忠少将のブログでの発言。
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2009&d=0609&f=politics_0609_008.shtml

現状ではまだ大綱に載るかは不明ですから、ちょっと懸念が出始めたという程度ですが、
年末に受けてこの方針のまま大綱がでると、結構騒ぎになるかもしれません。

アメリカも高官が敵基地攻撃能力を支持すると言ってはいますが、
http://komoriy.iza.ne.jp/blog/entry/1061132
中国に市場や国債を大量に買ってもらっている、北朝鮮への対応で協力が必要となると、
中露韓が騒ぎだした場合、個人的な見解だったとか、支持を撤回する可能性もあるんじゃないでしょうか?

策源地攻撃は政治的にも外交的にも、技術的にも導入には相当時間がかかりそうな気がします。
返信する
通りすがり 様 (はるな)
2009-06-10 08:58:00
通りすがり 様

ウイングマークを持っている方でもデスクワークに就かれている方もいますので、一度に機体を増強するのではなく順次増強していけば、転換と新しく養成とで、対応は出来ると思います。ただ、イスラエル空軍なんかは機体よりはるかに多いパイロットを養成し、一機当たりの出撃回数を増加させ、全体の空軍力の底上げに繋げたそうで、パイロットの数というのは、もう少し多めに養成してもいいのかな、と。

とんぺい 殿
最近はベテランパイロットにより、多少改善はされたようですが、F-15E×18機&E-3AWACSvsF-22×4で、イーグルがAWACS共々完敗したり、性能差は物凄く、日米合同演習でF-22と模擬空戦を実施したパイロットからの要求もあるでしょうから、その反映でしょうね。
何分、高いのは確かですが、導入当時のF-15にしても為替レートの関係上、3機で、しらね型ヘリコプター護衛艦の建造費に匹敵しますので、これは致し方ないのかな、と。他方、通常空軍の一個飛行隊は18~24機で編成されるとのことですが、F-22は12機と、海軍の空母航空団並の少なさですので、飛行隊あたりの調達価格、というのも一つ考慮に入れる必要があるのではないでしょうか。
ユーロファイターにしても、直輸入で150億は確実に越えますから、・・・、それにF-15Jは三菱重工がライセンス生産のラインを閉じてしまっていますので仮に再生産するにしても、生産ラインを一から整備する必要があり、ちょっと現実的ではないのかな、と。
防衛大綱ですが、おそらく、戦車と火砲は、さらに削られる可能性が高いです。日本国内で戦車戦が起こる可能性と、ミサイル防衛や海賊対処も含めたシーレーン防衛が実際に行われる可能性を比較すると、どうしても後者の方が優先されますので、現状の600から、450、もしかしたらさらに削られるのかも・・・、防衛産業維持という観点を踏まえれば別の結果になるとも思うのですが。

蒼い 様
NYTIMEsについて、新聞は、報道と言論の機関ですので、様々な見解があってしかるべきなのですが、・・・、ううむ、なんで核兵器まで話が飛ぶのかな、と。
中国海軍の方、・・・、少将なのにブログで自由に発言しているのは驚きなのですが、さすがパイロットもHPをもっていて、スクランブル発進の際に米軍機にアドレスをアピールする国・・・。
この方の主旨は、訳文に即してみれば、策源地攻撃能力の中でも、明言しているのはトマホークの保有に反対しているようで・・・。
しかし、まあ、反対があろうと賛成があろうと、策源地攻撃能力は、既にJDAMを保有している訳ですし、現段階でも航空機を用いた場合限定的なものはある訳で、昨今の一連の動きは段階的、予算的な意味合いが背景にあるのだともいえるのですけどね。
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どーもこんばんわです。久方ぶりに書かせていただ... (たりたり)
2009-06-11 02:02:18
どーもこんばんわです。久方ぶりに書かせていただきます。

現場のパイロットの方々はやはり優位な最新鋭機に乗られたいのではないでしょうか。
前大戦では型遅れや性能不足の機体で、多くの方が亡くなっていますし、、、とりあえずあてがわれたものに命をかけさせる、という状況にならなければ良いですね。
返信する
たりたり 様 お久しぶりです (はるな)
2009-06-11 08:03:02
たりたり 様 お久しぶりです

確かに、現場が最も優れた機体を必要とするのは判るのですよね、少なくとも数的優勢を背景にしたSu-27やSu-30に対して有利な条件で対応できるような機体。

F-22と共同訓練を行い、認識したのだと思います。

他方、近代化改修を怠ればかなり不利な条件で任務に臨むこととなりますので、新規の機体導入もさることながら、既存の機体を全般的に近代化し、能力を言底上げする必要もあるのかな、と。

現行のF-15に関しても、逆に近代化改修を励行すれば、ステルス性以外の点では、かなり伸びしろが残る機体だと思います。

F-2にも当てはまることですが。
返信する
ご無沙汰しています。 (軽トラックの稲妻)
2009-06-13 09:55:33
ご無沙汰しています。

小生、仕様書を通じた仕事をする身(購入者・販売者双方の立場で)。私が目にした範囲では、どうにも不公平感を感じてしまいます。

八方美人に振舞ったつもりが、総スカンを食らうなんて事が無ければ良いのですが。

詳細を語り始めると憂鬱になるのでこの辺でやめて起きます。

それでは。
返信する
軽トラックの稲妻 様 (はるな)
2009-06-13 11:45:25
軽トラックの稲妻 様

駐屯地祭シーズンがひと段落し、奈良・大津・大久保・桂と、展開を考えていた行事が軒並み中止になるに及んで、ひとつ、国宝級電気機関車が並ぶ近江鉄道ミュージアムでも行こうかと考えている今日この頃。

F-22の導入の可否、最近、実はF-4後継機導入とは、ある程度距離を置いて考えた方がいい命題なのでは、とおもったりもします。また、F-22を求め続けることで、導入できればそれで良し、次善の結果に繋ぐためには導入できない、という位置づけでも時間が稼げれば、それでもいい、という状況があるのかな、と。
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