■国際公序転換期の兆し
アメリカ大統領選の支持層から意見を集約すれば、多極化とポストグローバリゼーションというものが見いだせるのかもしれません。
アメリカ大統領選挙はいよいよ明後日が投票日となりました、現在のところ接戦州の選挙人を制した候補者が当選するものとみられ、云い変えればどちらが優勢であるのか、共和党トランプ候補と民主党クリントン候補は、先月末のクリントン候補への優位が機密メール問題FBI再捜査により崩れて以降、僅差そのもので、全く読めない状況となっています。
トランプ候補の保護主義やアメリカ孤立主義に、定義の上では当て嵌まる施策は、本特集を開始して以来、パクスアメリカーナという第二次世界大戦後の自由と公正を基本とする国際公序を世界へ定着するためのアメリカの努力が、保護貿易主義への転換に伴う世界基軸通貨の発行国からの脱却、孤立主義による軍事的優位の放棄に繋がる危惧を示しました。変動の影響が、我が国の視点からは防衛上大きな影響がある為、安定志向を期待したいのですがここは世論とは必ずしも重ならない。
しかし、最たる問題は、その公約本体ではなく、その公約、保護主義と国際公序の牽引というアメリカの国家戦略そのものが、アメリカ世論として受け入れられなくなっているが故の、保護主義と国際公序からの離脱を志向するトランプ候補への支持へ繋がっているもので、この支持層が求める為政者は、遠かれ早かれ民主的に選ばれる事となるのでしょう。
グローバリゼーションの世紀として、自由貿易を掲げ世界貿易機関WTOを構築し、ドルを基軸通貨とするIMF国際通貨基金を主導してきたのはアメリカですが、実際のところこの維持には多くの負担を要します。完全な自由貿易と国際通貨の維持、これはアメリカ以外にはEU欧州連合にも中国にもロシアにも、当然日本も構造上できるものではありません。アメリカ以外出来ない、というものは決して中国や欧州連合の能力を侮っているものではありません。
何故ならば、基軸通貨国は自国通貨が世界中で流通させるべく大量に世界へ供給しなければならない事を意味し、これは自国の貿易収支が絶対に黒字にならない事を意味しますし、自由貿易を進める事は自国産業が自由競争において保護する事が出来なくなることに他ならず、この場合において全ての産業分野で絶対優位を確保する事は実質的に不可能です。
この部分、自由競争を国内において実施するアメリカでは、社会保障制度や教育制度において格差は有り、超大国として世界基軸通貨を担保し自由競争を進めるよりも、その弊害から格差の上位以外に位置する人々は懸念を持つ事は当然であり、特に中間層よりも下の経済層では、超大国や世界通貨の維持よりも生活の維持こそが主眼となるのは当然でしょう。
中間層が伝統的に保守化しやすい、過度な改革による社会変動の影響が波及するよりも現状維持を望む声が増大するという中間層、冷戦時代にはこの中間層が維持されたことにより、共和党も民主党も革新的な政策よりは自由主義に依拠した反共政策を軸として、個々の政策論争を討議する範疇で政権が代っていましたが、この構造が転換してしまいました。現状が維持されるならば、我が国防衛政策からは安定志向、平和主義を継続する事が出来るのですが、我が国が位置する国際公序が転換するならば、併せて転換させる必要が生じてくる。
この中でアメリカ中間層の転換はアメリカ地域研究における一つの大きな視点となっていましたが、冷戦後の自由競争の普遍化による競争へ中間層が必ずしも地位を維持できなかったという視点、生産性と物価の競争において過度な生産性と低コストを求める市場の声が市場の一員である中間層から結果的に追い落とす事となった等、保護主義志向へ向く分析も可能でしょう。
移民排斥、同盟軽視、この施策への支持は低賃金労働力競争や国防費の負担へ耐えられなくなった証明でもあり、世界通貨維持への関心低下は貿易収支赤字へ世論が理解を示す事への不支持です。妥当性のある支持行動で、故に我が国をはじめ世界は、単極化とグローバル化の時代から多極化と地域主義化への再転換を見込まねばならないのかもしれません。国際公序再構築と銘打た本論の視座はここ。
ただ、これによりアメリカが引く分、これを置き換える新しい地域秩序が必然的に成立します、これはアメリカの対外政策や通商政策への影響力が低下する事を、この要因となった施策を進める為政者とその支持者が、影響により被る一時的な不合理と混乱の実害を受け入れる事が出来るのか、一旦引いたことで生じる不安定を受け入れる事は出来るのか。
この部分について、多極化とは、アメリカの進めた自由と公正という国際公序が受けいれられないもの、これ故に多極化なのですが、影響力の維持への努力を低下させたものの影響力を維持しようとすれば当然無理が生じます、また、孤立路線への急激な変容は、地域秩序再構築の牽引者地位を総取りしようとする新興勢力間の紛争要因ともなりかねません。
誤解してはならないのは、行き過ぎた自由競争とグローバル化は、必ず弊害が生じるため、実のところ、トランプ氏が掲げる政策とその支持者への理解は充分できるものなのですが、この転換に伴う弊害を受け入れる準備はあるのか、また、この変動は日本周辺地域での地域秩序や経済政策に資源政策へも影響が及ぶ為、特に本論で主眼としたいものは、一国平和主義という防衛政策へも影響が及ぶことを留意するべきでしょう。
北大路機関:はるな くらま
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
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アメリカ大統領選の支持層から意見を集約すれば、多極化とポストグローバリゼーションというものが見いだせるのかもしれません。
アメリカ大統領選挙はいよいよ明後日が投票日となりました、現在のところ接戦州の選挙人を制した候補者が当選するものとみられ、云い変えればどちらが優勢であるのか、共和党トランプ候補と民主党クリントン候補は、先月末のクリントン候補への優位が機密メール問題FBI再捜査により崩れて以降、僅差そのもので、全く読めない状況となっています。
トランプ候補の保護主義やアメリカ孤立主義に、定義の上では当て嵌まる施策は、本特集を開始して以来、パクスアメリカーナという第二次世界大戦後の自由と公正を基本とする国際公序を世界へ定着するためのアメリカの努力が、保護貿易主義への転換に伴う世界基軸通貨の発行国からの脱却、孤立主義による軍事的優位の放棄に繋がる危惧を示しました。変動の影響が、我が国の視点からは防衛上大きな影響がある為、安定志向を期待したいのですがここは世論とは必ずしも重ならない。
しかし、最たる問題は、その公約本体ではなく、その公約、保護主義と国際公序の牽引というアメリカの国家戦略そのものが、アメリカ世論として受け入れられなくなっているが故の、保護主義と国際公序からの離脱を志向するトランプ候補への支持へ繋がっているもので、この支持層が求める為政者は、遠かれ早かれ民主的に選ばれる事となるのでしょう。
グローバリゼーションの世紀として、自由貿易を掲げ世界貿易機関WTOを構築し、ドルを基軸通貨とするIMF国際通貨基金を主導してきたのはアメリカですが、実際のところこの維持には多くの負担を要します。完全な自由貿易と国際通貨の維持、これはアメリカ以外にはEU欧州連合にも中国にもロシアにも、当然日本も構造上できるものではありません。アメリカ以外出来ない、というものは決して中国や欧州連合の能力を侮っているものではありません。
何故ならば、基軸通貨国は自国通貨が世界中で流通させるべく大量に世界へ供給しなければならない事を意味し、これは自国の貿易収支が絶対に黒字にならない事を意味しますし、自由貿易を進める事は自国産業が自由競争において保護する事が出来なくなることに他ならず、この場合において全ての産業分野で絶対優位を確保する事は実質的に不可能です。
この部分、自由競争を国内において実施するアメリカでは、社会保障制度や教育制度において格差は有り、超大国として世界基軸通貨を担保し自由競争を進めるよりも、その弊害から格差の上位以外に位置する人々は懸念を持つ事は当然であり、特に中間層よりも下の経済層では、超大国や世界通貨の維持よりも生活の維持こそが主眼となるのは当然でしょう。
中間層が伝統的に保守化しやすい、過度な改革による社会変動の影響が波及するよりも現状維持を望む声が増大するという中間層、冷戦時代にはこの中間層が維持されたことにより、共和党も民主党も革新的な政策よりは自由主義に依拠した反共政策を軸として、個々の政策論争を討議する範疇で政権が代っていましたが、この構造が転換してしまいました。現状が維持されるならば、我が国防衛政策からは安定志向、平和主義を継続する事が出来るのですが、我が国が位置する国際公序が転換するならば、併せて転換させる必要が生じてくる。
この中でアメリカ中間層の転換はアメリカ地域研究における一つの大きな視点となっていましたが、冷戦後の自由競争の普遍化による競争へ中間層が必ずしも地位を維持できなかったという視点、生産性と物価の競争において過度な生産性と低コストを求める市場の声が市場の一員である中間層から結果的に追い落とす事となった等、保護主義志向へ向く分析も可能でしょう。
移民排斥、同盟軽視、この施策への支持は低賃金労働力競争や国防費の負担へ耐えられなくなった証明でもあり、世界通貨維持への関心低下は貿易収支赤字へ世論が理解を示す事への不支持です。妥当性のある支持行動で、故に我が国をはじめ世界は、単極化とグローバル化の時代から多極化と地域主義化への再転換を見込まねばならないのかもしれません。国際公序再構築と銘打た本論の視座はここ。
ただ、これによりアメリカが引く分、これを置き換える新しい地域秩序が必然的に成立します、これはアメリカの対外政策や通商政策への影響力が低下する事を、この要因となった施策を進める為政者とその支持者が、影響により被る一時的な不合理と混乱の実害を受け入れる事が出来るのか、一旦引いたことで生じる不安定を受け入れる事は出来るのか。
この部分について、多極化とは、アメリカの進めた自由と公正という国際公序が受けいれられないもの、これ故に多極化なのですが、影響力の維持への努力を低下させたものの影響力を維持しようとすれば当然無理が生じます、また、孤立路線への急激な変容は、地域秩序再構築の牽引者地位を総取りしようとする新興勢力間の紛争要因ともなりかねません。
誤解してはならないのは、行き過ぎた自由競争とグローバル化は、必ず弊害が生じるため、実のところ、トランプ氏が掲げる政策とその支持者への理解は充分できるものなのですが、この転換に伴う弊害を受け入れる準備はあるのか、また、この変動は日本周辺地域での地域秩序や経済政策に資源政策へも影響が及ぶ為、特に本論で主眼としたいものは、一国平和主義という防衛政策へも影響が及ぶことを留意するべきでしょう。
北大路機関:はるな くらま
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