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トランプ新大統領の外交国防戦略【05】 核戦力の強化期すトランプ氏とプーチン大統領の核近代化

2017-01-09 20:15:39 | 国際・政治
■米ロの核戦力への齟齬と危機
 21世紀に入りひと段落した今日、20世紀の時代で幕を閉じた戦略核兵器による核軍拡競争の暗雲が再び広がりつつある端緒へ差し掛かったのでしょうか。

 トランプ次期大統領、“米政権交代トランプ氏、核軍拡が必要とツイート”としましてNHK等様々な報道機関で大きく取り上げられた通り核兵器の増強を示唆しました。ただ、核兵器そのものよりもアメリカにとり重大な課題は運搬手段旧式化です。核兵器だけでは抑止力は形成できず、相手に投射する戦略爆撃機や大陸間弾道ミサイル等運搬手段が重要です。

 核戦力の中枢である戦略爆撃機は依然としてB-52が現役でB-21計画はトランプ氏のF-35見直し計画を受け、この技術的成果を応用する事で開発費用を低減する計画に不透明さが出たかたち。オハイオ級戦略ミサイル原潜の老朽化も進む、後継艦は2030年竣工計画ですが、それまで半世紀近く前の戦略ミサイル原潜がアメリカ唯一の第二次反撃核戦力となる。

 オバマ政権下では精密誘導兵器と特殊部隊への通常戦力近代化の転換という前ブッシュ政権の国防戦略を継承しつつ、核戦力への依存度は慎重に低減する施策を採ってきましたが、核への回帰という指針を示したトランプ次期大統領です。しかし、この発言に対し、ロシアは具体的にアメリカのミサイル防衛システムを突破可能な新兵器を開発する構えです。

 ロシアのプーチン大統領はモスクワで12月23日、1年を締めくくる記者会見を開き、核戦力の近代化をさらに推し進める方針を示しました。イランからの攻撃を警戒し整備された東欧ミサイル防衛システム配備がロシアからの欧州への核攻撃能力を無力化するという危惧を受け、NATOにはロシアを攻撃する核戦力があるがロシアの手段が無力化されるとの状況を防ぐべく、核戦力近代化が進められていたものですが今回の発言はこれを増強する構え。

 東欧ミサイル防衛システム配備は、結果として冷戦後に進んだNATOとの短い蜜月を破綻させることとなりましたが、ロシア政府はアメリカ次期政権へ欧州のロシアにとっての地政学的要件配慮を求め、応じられる事、即ちミサイル防衛システムの撤去を期待していた可能性がありました。しかし、この東欧でのミサイル防衛システムに対しての次期トランプ政権からの大きな言及は無い。

 ロシアはSS-27/RT-2PM2大陸間弾道弾やSS-NX-30/3M14潜水艦発射弾道弾等ミサイル防衛システムを突破可能な将来ミサイル開発により置き換える構想です、既に核戦力近代化の一歩としてSS-27/RT-2PM2大陸間弾道弾やSS-NX-30/3M14潜水艦発射弾道弾の試験が進められ、このミサイルは迎撃システム回避能力や対迎撃無力化機能が採用されています。

 核運搬手段の近代化にもロシアは重点的に取り組んでおり、前述のSS-27/RT-2PM2やSS-NX-30/3M14に加え、空軍は冷戦時代の超音速戦略爆撃機Tu-160の再生産を開始、海軍はタイフーン級戦略ミサイル原潜を置き換えるボレイ級戦略ミサイル原潜の量産を開始、一番艦ユーリイドルゴルーキイ就役を皮切りに3隻を建造し8隻量産が進められています。

 米ロの核軍拡は、冷静に注視すればロシアの核戦力近代化はミサイル防衛への対抗手段としての質的近代化が進められている一方、アメリカの核戦力強化は弾頭数強化に繋がるのか運搬手段更新を進めるのか、方向性が不透明です。しかし、ロシアとの信頼醸成努力を怠った場合、核弾頭運搬能力で例えば中国と比較しても100倍の核戦力を維持するロシアとの関係悪化は世界へ次の不確定要素を与える懸念があります。

北大路機関:はるな くらま
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