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イージスアショア導入へ疑問(7):北朝鮮太平洋水爆実験示唆,日本は水爆へ如何に対応するか

2017-09-24 20:07:00 | 先端軍事テクノロジー
■THAADかイージスシステム
 イージスアショア導入へ疑問、来年度概算要求に事項要求として明示されたミサイル防衛への特集は今回の第7回が最終回です。

 北朝鮮が太平洋上での水爆実験を示唆しました。北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は核実験とミサイル実験を契機とした国連による新たな経済制裁に激しく反発、史上最高の超強硬な対応措置断行を慎重に考慮する、と発言しています。この内容についてニューヨークの国連にて記者会見に応じた北朝鮮李容浩外相は太平洋上での水爆実験を示唆した訳です。

 水爆実験を太平洋上で行う、北朝鮮の弾道ミサイル技術と核弾頭搭載能力及び大気圏再突入技術、これらを実行し機能する核兵器と運搬手段という能力を誇示するには、一度は実験を行わなければなりません。実は2009年5月27日付記事として“北朝鮮核ミサイルの脅威 その存在はどのように証明されるか”という視点からこの問題を指摘していました。

 弾道ミサイルに核弾頭を搭載し太平洋上で核爆発を伴う実験を行わない限りその能力を誇示する事は不可能である、如何に小型化された核弾頭やミサイル部品を展示し誇示しようとも、実際に起爆させる能力を示さなければ机上の威力しか持たない、と指摘し、しかし太平洋上の核実験は北朝鮮本土への核攻撃を含む強烈な反撃を招きかねず不可能だ、と。

 太平洋上にて水爆実験が強行されたならば、確実に放射性降下物は日本に降下します、核爆発が大気圏内で発生したならば、線量の多寡はあれ日本に降下しない事は有り得ません。核爆発の加害半径は通常弾頭弾道弾とは比較にならず、仮に前回北朝鮮が地下実験を行った150kt規模の威力であれば10km以内に致命的熱線被害が発生し爆風も外縁に広がる。

 日本上空を水爆弾頭を搭載した弾道ミサイルが飛翔する事となります。半径1000km単位で電子機器に永久焼損被害が及ぶ高高度核爆発による核電磁パルス脅威を含め、次元が違い、日本世論は水爆攻撃を現実的脅威と受け止めたうえで、水爆脅威に対し国運を賭けて核抑止力整備を検討するか、水爆脅威を敢えて恐れずシェルターを建設するか、となる。

 ミサイル防衛の整備如何を問わず、日本が国家として目指すべきものは全ての核兵器の廃絶であり、その第一歩としての核拡散防止レジームの維持、この為に我が国は北朝鮮の核兵器保有を絶対に許す事は出来ず、国交樹立や経済制裁解除の為には北朝鮮核廃絶が絶対に必要となります。しかし、それ以前に北朝鮮の核兵器は様々な意味で、危険なのです。

 北朝鮮の核兵器が危険、と強調できるのは何処に飛ぶか分らない危険性です。北朝鮮のミサイル技術は一定以上の水準に極めて急速に向上している為、照準を定めれば射程圏内をかなり正確に攻撃できるでしょう、しかし、それだけで核兵器が兵器体系として完成しないのは前回示した通り核兵器早期警戒網を持たず、核兵器と運搬手段のみしか有しません。

 例えば、現状北朝鮮国内で核爆発が発生した場合、中国が忍耐の限度超え北朝鮮を攻撃する場合や、ロシアが沿海州のみならず首都モスクワへ及ぶ北朝鮮核戦力を看過できなくなった状況、北朝鮮自身による地下核実験の失敗、北朝鮮指導部はどこから攻撃されたかを把握できません。すると、仕方なくアメリカへ反撃と称し攻撃を行う可能性があるのです。

 それだけでなくとも、北朝鮮の防空レーダー網は機能していませんので、国籍不明機の警戒が疎かとなっています。北朝鮮がアメリカなどの情報収集機へ公海上で緊急発進を行う事が数年に一度、我が国でも報道されますが、日本では毎年1000回以上と文字通り日常的に実施される緊急発進が日本で報道されるほどに北朝鮮の防空体制は機能していません。

 ロシア軍が通常兵器であるカリブル巡航ミサイルによりロシアへ脅威となる施設を、中国が自慢のH-6爆撃機から運用する長剣07巡航ミサイルにより核関連施設を秘密裏に攻撃した場合でも、なにしろレーダーが機能しないのだから感知できず、アメリカによるトマホークミサイル攻撃と誤解し、アメリカ本土に対し報復と称して核攻撃を行いかねません。

 このように、貧乏国が核兵器を保有するには、せめて核爆発装置と運搬手段だけではなく、もう一段貧乏になったとしても宇宙空間の早期警戒網を保持しなければならないのですが、これを行わない北朝鮮は、どこになにを理由として撃つのかがわからないという意味で、脅威なのです。即ち、冷戦時代の早期警戒網整備以前に危惧された偶発的核戦争の危機だ。

 核兵器がなければ北朝鮮は国家の維持ができないとの指摘、核兵器を放棄したならばイラクのような運命が待っていることへの恐怖感、ロシアのプーチン大統領は安倍総理との日ロ首脳会談にて北朝鮮核放棄の難しさをこう表現しました。やはり日米は核武装放棄ののちの生存戦略を日本やアメリカは中国とロシア、韓国とともに提示しなければなりません。

 冷戦時代に北朝鮮が何故核兵器を保有せず国家を維持できたのかが、一つの視点です。北朝鮮生存戦略ですが、ロシア軍か中国軍の進駐、在韓米軍に対応する形での同盟関係のみが選択肢になるのではないかと考えます。冷戦時代にはソ連の軍事援助と軍事顧問が多数北朝鮮との関係を維持していましたが、冷戦崩壊とソ連崩壊がこの関係を破綻させました。

 冷戦時代に北朝鮮が核兵器を保有せずとも、ソ連の核抑止力を信頼することで事実上、北朝鮮の体制は維持できたわけです。もちろん、ロシア軍や中国軍が北朝鮮国内へ核戦力を配備する必要はありません。駐留し、核の傘に守るという意思表示が、この代替案となるでしょう。これは同時に北朝鮮が独自に韓国へ軍事侵攻を行う事への牽制ともなります。

 アメリカは朝鮮半島より手を引くべき、北朝鮮の論調は最近このように変化しています。これは、アメリカによる北朝鮮への体制への不安が、アメリカが一方的に北朝鮮を攻撃することへの恐怖ではなく、この表現は米韓軍事同盟そのものに向けられ、在韓米軍撤退要求にも受け取れ、北朝鮮の体制存続へアメリカの脅威という定義が不明確となっています。

 北朝鮮が韓国を武力併合する際にアメリカが北朝鮮の体制を崩壊させるまで反撃を加えることを拒否する、と主張しているようにも受け止められます。北朝鮮は国家事業として核開発を進めていますが、それ以前に最大の国是は朝鮮半島南北統一です。韓国を見捨てろとの勧告、これはとてもアメリカが、もちろん日本にとっても受け入れられないでしょう。

 ミサイル防衛、北朝鮮からの弾道ミサイルによる日本本土核攻撃の脅威は、この通り条件を見る限り、非常に長く続きます。今回まで、イージスアショア導入を事項要求とした来年度概算要求に対し、THAADの方が有用で且つ迅速に導入できるのではないか、ミサイルの飛翔中間段階を迎撃するイージスシステムを用いるならばイージス艦を量産すべきではないかとしました。しかし、選択肢は多々あれ、ミサイル防衛を強化するという視点ではどちらでも、迅速に行う事が求められます。

北大路機関:はるな くらま
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