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ミサイル防衛に新型の“イージス・システム搭載艦”,岸防衛大臣が自民党国防関連会合で提案

2020-12-09 20:00:38 | 防衛・安全保障
■まや型イージス艦ではなく新型
 政府はミサイル防衛に中止となったイージスアショア陸上配備ミサイル防衛システムに代わる新型艦建造を進めるもようです。

 “イージス・システム搭載艦”とは。岸防衛大臣は12月9日の自民党国防関連会合においてミサイル防衛に当る新型艦をイージス艦とは表現せずイージス・システム搭載艦としました。この新型艦は、現在建造が進む最新型のイージス艦まや型とは異なった新型艦となる事を示しており、これがミサイル防衛計画全般への不確定要素を突き付ける様おもう。

 まや型増備を行うべき、最適解はこの点です。SPY-1レーダーの後継にSPY-6が配備され、同じSPY-1を搭載するアメリカのアーレイバーク級も後期型が小規模な設計変更でSPY-6レーダーへ対応しています。勿論安い費用ではありませんが、まや型設計図は既に存在するのですから、新規に設計するよりも遥かに安価です、設計費という現実を視るべきです。

 イージスアショア。もともとは山口県と秋田県に配置し日本全土を弾道ミサイルの悪夢から防衛するものでした、北朝鮮が弾道ミサイルへの核弾頭搭載を進めている以上、日本は、核兵器なんて怖くないし広島長崎どんと来い、という姿勢を国民全体が示せない限り悪夢が続く事となり、その為に弾道ミサイル防衛システムを1999年より開発してきました。

 山口秋田へのイージスアショア配置が決定し、事項要求として事実上の予算青天助の政治決定とされたのは今年度予算でしたが、問題が発生します、弾道ミサイルを迎撃するスタンダードSM-3のブースター、上昇中に切り離すブースターが基地敷地外に落下する問題を解決できず、イージスアショア配備計画が白紙撤回されてしまったのですね。その代替だ。

 ブースター問題ですが、自衛隊は過去にあったものの丁寧な説明により克服しています、それは現在の航空自衛隊が運用する戦域防空ミサイルペトリオットの前型であるナイキ地対空ミサイルで、ナイキミサイルは固定陣地からの運用とブースター切り離し方式を採用していました。危険性はゼロでないが核の脅威は更に大きく、地元を説得すべきでした。

 ブースター問題での陸上配備型弾道ミサイル防衛システムの代替案として、今回のイージス・システム搭載艦が提示されたのですが、問題があります、陸上配備イージスシステムにはSPY-7レーダーという海上自衛隊がこれまでに導入したイージスシステムとは全く別系統のシステムが採用されており、簡単に陸上からフネへ載せ替える訳には参りません。

 SPY-7レーダーはアメリカがアラスカ州などに配備するべく陸上配備用に開発されたもの、高性能ではありますが弾道ミサイル防衛に特化しており、海軍のSPY-1,その後継となる最新型SPY-6のように巡航ミサイルや対艦ミサイルによりイージス艦そのものを攻撃する脅威への対処は想定していません、なにしろアラスカに配備するものだから必要ないのです。

 イージス・システム搭載艦は現在のところ、SPY-7レーダー搭載を念頭に考慮されているようですが、陸上用に開発されたSPY-7が海上に配備した場合に振動の影響、日本海の波浪が十年二十年運用する場合にどのような影響を及ぼすかは未知数ですし、潮風は精密機器を消耗させ、アラスカに配備するSPY-7は艦艇用SPY-6とは根本から違う不確定要素が。

 SPY-7レーダーになぜ拘るのでしょうか、理由は簡単で既に発注している為です。発注したものをキャンセルして全額戻ってくると考えてはなりません、一例を示しますとNATOではユーロファイター戦闘機やユーロコプタータイガー戦闘ヘリコプターが配備計画下方修正となった際に、契約分の50%から65%は違約金として発生しています、これが普通だ。

 しかし、SPY-7に拘る事で必要な再設計を行った場合の費用の方が大きくなる可能性を無視してはなりません、一旦陸上に建設した上でシステムを第三国に輸出する選択肢とするか、ミサイル発射装置のみをブースター問題のない地域、海沿いの京都の経ヶ岬分屯基地や、ナイキ時代にブースター問題を受容した青森の車力分屯基地に配備する選択肢もある。

 まや型であればミサイル防衛にそのまま対応する事が出来るのですが、SPY-7をそのまま運用するのであれば、イージス・システム搭載艦は、護衛艦そのものが対艦ミサイルにより攻撃された場合から防護する、例えばOPS-50のようなレーダーシステムとESSM短射程ミサイルを搭載せねばなりません、北朝鮮は潜水艦を増強中であり、この脅威もある。

 まや型ならば、巡航ミサイルが百発単位で接近した場合でも対処できますし、飛行聯隊規模航空攻撃にも対抗し得ます。そもそもSPY-7を搭載の場合はもともと陸上配備する場合とは通信ネットワークの様式が違い、海軍データリンクNIFC-CAとの連接性も、日本が独自で開発しなければなりません、そこまで日本の財政状況が良いようには思えないのです。

 イージス艦増強、勿論問題皆無という訳ではありません、イージスアショアは海上自衛隊の人員不足と護衛艦不足に対し、陸上自衛隊をミサイル防衛に充てて、その分だけイージス艦を本来の艦隊防空任務に戻すという目的がありました。イージス艦は洋上に居続けるには限度があり、数年に一度は造船所に入渠し大規模整備を行う必要があり、どうするか。

 まや型増強をイージスアショア予定数の2基に対応した2隻とするのではなく、3隻から4隻とし、ミサイル防衛専従の護衛隊を自衛艦隊直轄に置く、そして複数クルー制を採用し、極力洋上での作戦期間を長くする選択肢が考えられます。その為には人員を増員するほかありません。すると実は陸上型と周辺住民丁寧説得の方が、防衛費は抑えられるようにも。

 SPY-7を搭載する護衛艦に固執するならば、既存艦の設計を応用できる新型艦として、ひゅうが型護衛艦の様なものが考えられるのかもしれません。アメリカ海軍の指揮艦ブルーリッジがイオージマ級強襲揚陸艦設計を応用したように、SPY-7の大きな重量でも満載排水量19000tの護衛艦ならば対応でき、飛行甲板中央部にSPY-7を置けば、良いのです。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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コメント (9)
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