ハリソン君の素晴らしいブログZ

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『あさひが丘の大統領』#17

2020-10-22 00:55:03 | 探偵・青春・アクションドラマ









 
さて、'79年秋にスタートした『あさひが丘の大統領』も2クール目に突入し、恐らく期待通りでなかったであろう評判や視聴率を反映してか、テコ入れと思わしき変化が表れて来ました。

1つは、この回からレギュラーとなる女子生徒役=壇まゆみさんの投入。先日レビューした『太陽にほえろ!』#394におけるチョイ役出演はカメラテストだったのかも知れません。

そしてもう1つの変化は、我らがハンソク先生=大西 元(宮内 淳)のマイルド化ですw もみあげは相変わらず長いけど、暴論めいた発言が聞かれなくなり、生徒に対する嫌がらせめいた行動も見られず、すっかり彼らの良き理解者となって、まるでハカイダーやデスラーが正義の味方に寝返ったみたいな有様でw、気のせいかも知れないけど登場場面も減ってるように感じます。

主役のキャラクターや役割が変わると、自ずと他の登場人物や番組の内容自体も変わって来ます。ハンソク先生がいい人になった事でどんな変化が生まれたか、そして作品は何を得て何を失ったのか、そのあたりを検証しながらレビューしたいと思います。


☆第17話『ただ君に一眼逢いたい!』

(1980.2.20.OA/脚本=鎌田敏夫/監督=斎藤光正)

ライバル校である県立西高から美少女で優等生の星野知子(壇まゆみ)が自分たちのクラスに転入し、しかも同じ寮で暮らすことになって水野(井上純一)ら落ちこぼれグループは大喜び。さっそく親衛隊を結成して知子をストーキングします。

ところが彼らとは別に、1人で、知子の登下校のみならず授業中までやって来て、遠くからじっと彼女を見つめる本格派のストーカーが現れたから驚いた!

実はその男、県立西高で知子とクラスメイトだった八木沢(松原英樹)という生徒なんだけど、ほとんど会話もしたことが無いと彼女は言います。

もちろん親衛隊としては放置するワケにいかず、水野たちは逃げる八木沢を捕まえ、なぜ授業をサボってまで知子をウォッチングしに来るのか問い詰めます。最初は頑なに口を閉ざしてた八木沢だけど、知子本人にまで「迷惑してるの」と言われてしまい、ついに口を割ります。

「オレは、ただ……キミが見たかったんだよ。見たかった……それだけなんだよ」

あまりにストレートな告白に、知子も水野らも思わず息を呑みます。

「1年の時からずっとそうだった……学校行ったらキミがいて、キミと同じ教室にいて……ただ、それだけで良かった。星野くん、キミと同じ教室にいれる、ただそれだけで良かったんだよ!」

八木沢は知子が風邪で休んだだけで寂しくて、その1日をどう過ごせば良いやら分からなかったぐらいなのに、突然彼女は転校してしまった。

「これからは、ずっとキミに会えないなんて、オレ、どうしていいか……どうしていいか分からないんだよ!」

ここまで言われて嬉しくない女性はいないんじゃないでしょうか? ましてや八木沢くん、ルックスも決して悪くない。これまで眼中にも無かった筈の相手なのに、なんだか知子の頬が赤くなって来ちゃいました。

ところが!

「星野くん、もうキミには迷惑かけないよ! 会いに来たりしないよ! ごめん! ごめんよ星野くん!」

知子がキュンキュンしてることに全く気づかないまま、八木沢はあっという間に走り去ってしまうのでした。

「どうして会いに来ないんだ、アイツは!」

翌日から本当に八木沢が姿を見せなくなってしまい、知子は勿論のこと、なぜか水野たちまでポッカリと心に穴が空いたような気分になり、今度は逆に八木沢の背中を押そうとします。

もちろん、生真面目な涼子先生(片平なぎさ)を筆頭に学園の教師たちは、授業をサボってストーキングするような行為を許すワケにはいかず、水野たちに釘を刺すのですが……

「オレたち、初めて若いって言えるヤツに逢ったんですよ。オレたち初めて、青春らしく生きてるヤツに逢ったんだ」

だから「簡単に諦められちゃ困る」ってことで、水野たちは八木沢の応援をやめようとしません。

さて…………

物語はすでに中盤まで進んでますが、まだハンソク先生の名前が文面に出て来ません。画面にはちゃんと登場してるんだけど、物語を動かすような言動をほとんどしてないんですよね。

水野たちが今回やってるようなことは、以前ならハンソク先生がやってたはず。この辺りから、ストーリーを動かす役目をもっぱら水野や長尾(藤谷美和子)らが務めるようになり、ハンソク先生は一歩引いてそれを見守る立場にシフトしていきます。『太陽にほえろ!』の石原裕次郎さんみたいなもんで、当然出番も減っちゃうワケです。

前作『ゆうひが丘の総理大臣』は最終回でソーリ先生(中村雅俊)が学園を去って行ったけど、この『あさひが丘~』の最終回ではなんと、生徒の1人に過ぎなかった筈の水野が学園を去っていく!(ハンソク先生は他の生徒たちと一緒に彼を見送るだけ)

当時よく購読した『ザ・ベストワン』等のテレビ雑誌も、主役の宮内さんより生徒役の井上純一さんや大村波彦さん、田中浩二さんなどジャニーズっぽい俳優さん(井上さんは実際にジャニーズ所属)にスポットを当てるようになってました。

だけどそれは、ハンソク先生の評判や人気とは関係なく、時代がそういう流れになって来ただけの事かも知れません。しばらくすると『ザ・ベストワン』のグラビア頁も「たのきんトリオ」だの「シブがき隊」だのに占領され、私はウンザリして買わなくなりましたから。

閑話休題。

水野たちに背中を押され、数日ぶりにあさひが丘にやって来た八木沢を見て、知子もじっとしてられなくなります。帰ろうとする彼を駅のホームまで追いかけ、その手を握り、今にもキスしそうになるんだけど、駆けつけた涼子先生と野口先生(秋野太作)に止められちゃいます。

「八木沢くん、日曜日に会おう! 日曜日! 日曜日に、海で!」

八木沢を乗せて走り出した電車に向かって、知子はそう叫ぶのでした。

ついこないだまで眼中にも無かった相手にそこまで?って思うけど、若い頃の恋愛なんて、多分こんなもん。こう言っちゃ何だけど、うまく火を点けさえすりゃキスぐらい簡単に出来ちゃう。

だからこそ、生徒たちを預かってる立場の教師としては黙って見過ごすワケにいきません。涼子先生はブーイングを覚悟の上で「日曜日は外出禁止!」という、なかなかムチャなお達しを寮生たちに下します。

当然、そういうやり方を何より嫌うハンソク先生は抗議するのですが……

「大西先生が仰りたいことは分かってます。男と女がいて、お互いに好きで、そこで何か起きても、それは二人の責任じゃないか、人間はもっと自由なんだって、そう仰りたいんでしょ?」

「…………」

「私だって本当はあの二人にそう言ってやりたいです。でも私は教師なんです。あの二人を、このままにしておくワケにはいきません。あの二人の将来のために……」

「…………」

そう言われて黙っちゃうハンソクは、なんだか物足りません。まるで猛犬が牙を抜かれちゃったみたいに感じます。それだけ人間として教師として成長したのかも知れないけど……

ハンソク先生は以前のように噛みつきもしなければ暴走もせず、寮で同室の野口先生に愚痴をこぼすだけ。

「人間って不自由なもんだよな……教師としてとか、将来のためとか……自分で自分を縛って……」

「そうだよ。動物はもっと自分の欲望に忠実に生きてる。それで社会を構成してる。人間がいちばん不自由なんだよ」

「…………」

そして日曜日。水野たちの助けにより寮を脱出した知子は、八木沢が待つ海へと向かいます。が、そこに立ちはだかったのは誰あろう、ハンソク先生でした。

「星野、涼子先生だってツラいんだ!」

「何がですか!?」

「教師だって事がだよ! 教師でいなければならない事がだよ! 解ってやれ!」

「解ったらどうしろって言うんですか?!」

「どうしろとは言わん。星野、解ってやればそれでいいんだ。行ってこい。お前は自由だ」

「えっ……」

「涼子先生の気持ちは解る。しかしオレは、やっぱりお前たちは自由だと思う。人間1人1人自由だと思う。例えいくつでもな。行ってこい、星野」

生徒たちの良き理解者であるばかりか、あえて悪役を買って出た涼子先生のことも理解し、陰でフォローしてやるハンソク先生。いいヤツです。大人です。まるで別人ですw

かくして、海岸で知子と再会した八木沢は、彼女を強く抱きしめ、激しくベロチュウし、小さなおっぱいを揉みまくり、一心不乱にチョメチョメチョメチョメする……のかと思いきや!

「もう、キミには会いに来ないよ」

「えっ?」

「卒業するまで……オレが一人前になるまで」

「なぜ?」

「オレは、キミが好きだから。会えば会うほど、好きになるから。自分で、自分をどうしようもなくなるから」

「そんなこといい……いいのよ……卒業するまでって、なぜそんなこと」

「………………」

もし、教師たちの妨害によりこのとき逢えなかったら、二人はさらに燃え上がって、いくところまでいく……つまりチョメチョメしてたかも知れません。チョメチョメチョメチョメ。

でも、ハンソク先生は信じてくれた。八木沢はその気持ちに応えたんでしょう。

「よ~し!」

「走るのね?」

「うん、一緒に!」

出た! 出ましたよ! 夕日に向かってダッシュ勝平!

「やっぱりオレ、卒業するまで会いに来ないよ! 星野くんも頑張ってね!」

こういうのをパロディーじゃなく大真面目にやれたドラマは、この『あさひが丘の大統領』が最後だったかも知れません。これと同時期にTBSの『3年B組金八先生』は女子中学生の妊娠問題をリアルに描き、センセーショナルを巻き起こしてました。時代が、人々の価値観が、テレビ番組の内容が大きく転換する、まさに過渡期だったんですよね。

さあ、如何なもんでしょうか? 過去の『あさひが丘~』レビューで私は再三「ハンソク先生の好感度が低すぎる!」って文句を書いて来ましたけど、いざこうして彼がいい人になっちゃうと、えっ、こんなに?!ってくらいに影が薄くなって、驚きを禁じ得ません。

以前は、無気力な生徒たちにハンソク先生が刺激を与え、自ら壁となってぶつかり合うことで互いに成長してた筈が、今や水野たちが勝手に成長し、壁になる役目は涼子先生が引き受け、ハンソク先生の存在価値がちょっと見えにくくなったように感じます。

お陰でストレスが軽減され観易くなったのは確かだけど、これじゃごく普通の青春ドラマで何だかつまんない。物凄く勝手な言い草だけど、ハンソクのあまりにガキっぽい言動にこそ『あさひが丘~』らしさが集約されてたんだってことに、私は今更ながら気づかされました。

物足りない。すこぶる物足りない。ハンソク先生はやっぱり馬鹿なままでいなくちゃいけない。ほんと勝手だけど私はそう思います。

知子役の壇まゆみさんは当時18歳。女優デビューは'80年のNHK大河ドラマ『獅子の時代』とWikipediaには記されてますが、改名前の「三留真由美」名義で出演された前述の『太陽にほえろ!』#394が恐らくドラマ初出演作と思われます。

『あさひが丘~』にはこのあと最終回までレギュラー出演され、NHKの朝ドラ『なっちゃんの写真館』やTBSポーラテレビ小説『発車オーライ』等にもレギュラー出演。'84年には『太陽にほえろ!』#624に再びゲスト出演、Wikipediaで見る限りだと刑事物には『太陽~』しか出ておられません。

'81年には歌手デビューも果たされてますが、'80年代いっぱいで芸能界から身を引かれた模様です。
 


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2 コメント

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Unknown (ちい)
2020-10-23 17:32:44
こんばんは。
9月の中頃に、初めてコメントさせて頂いたちいです。

あさひが丘の大統領の解説楽しみにしておりました。
ボン刑事が血まみれで殉職したのを見たのは、私がまだ小学生のガキンチョだった事もあり、もう宮内さんが死んてしまったような錯覚を起こしておりましたが、この番組を見て、宮内さんが元気な事、先生なら番組内で死ぬ事はないだろうという安心感を持って毎週楽しみにしておりました。

賛否両論ある番組だったようですが、私はハンソク先生も好きでした。
これからもあさひが丘の大統領の解説を楽しみにしていますね。
Unknown (harrison2018)
2020-10-23 22:00:40
ちいさん、ありがとうございます。

確かに学園ドラマで主役の先生が死んじゃった例はたぶん無いですよねw やれば画期的かも知れませんw

'80年当時はホントに世の中の価値観が大きく変わって行った時期で、『あさひが丘~』に限らず『太陽にほえろ!』もその他の長寿番組も、変化に対応するのが大変だったろうと思います。

いま振り返るとその試行錯誤こそが興味深く、レビューし甲斐があります。これからもどんどんレビューしたいと思ってます!

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