PART1のセカンドエピソードです。初回は主人公=高見兵吾(柴田恭兵)ら広域特別捜査隊のメンバー紹介、新課長=根岸玲子(風吹ジュン)の着任、そして兵吾と元夫婦という関係、そして二人の娘である根岸みゆき(前田 愛)との再会にうろたえる兵吾など、事件も描く一方でキャラクター相関図の説明に追われた感があり、この第2話こそがいよいよ本格的な幕開け。『はみだし刑事情熱系』らしさが目一杯つまった名エピソードです。
☆第2話『副都心 爆破3秒前!』
(1996.10.23.OA/脚本=尾西兼一/監督=一倉治雄)
冒頭、兵吾が西崎刑事(風間トオル)とオープンカフェでランチしてたら、そこに偶然みゆきが通りかかり、うろたえます。みゆきは兵吾が自分の父親であるとは気づいておらず、兵吾もそれを言い出せないでいる。どうやら後ろめたさがあるようです。
で、慌ててコーヒーをこぼしちゃった兵吾に、みゆきが可愛らしいハンカチを差し出し、それを兵吾が戸惑いながら受け取った直後、すぐそばの雑居ビルが爆破されちゃう。別に兵吾たちを狙った爆破じゃないから、これもまた偶然。
『太陽にほえろ!』を起点に昭和の刑事ドラマでよく使われた、事件と刑事のプライベートを強引に結びつける「偶然」の連鎖って、平成になってからは「わざとらしい」ってことで避けられる傾向にあったんだけど、この番組だけはてらうことなく堂々とやってました。
たぶん、創り手たちも「古い」「ダサい」って言われるのを覚悟の上で、あえてやってたんだろうと思います。リアリティーやスマートさより、俺たちが描きたいのは刑事たちの愚直なまでの「情熱」なんだって。それさえ感じてくれたら、あとは笑おうがネタにしようが好きにしてくれって。
私自身も当時は「なんか、こっ恥ずかしいなぁ」なんて思いながら観てましたけど、今となっては懐かしいし、潔い創り手たちの姿勢を素直にカッコいいと思えます。
さて、今回の爆発は小規模だったお陰で、数人が怪我を負っただけで済みました。が、次なる爆破を予告する電話が広域捜査隊の本部に、しかもなぜか兵吾を名指しで掛かって来るのでした。
予告どおり、今度はデパートの地下駐車場が爆破されます。予告電話の男は工務店からダイナマイト15本を盗んでおり、残りは7本。それを街中で一度に使えば、今度こそ犠牲者が出ることは避けられないでしょう。
刑事たちの必死の捜査により、不審な男を現場で目撃した市民が複数見つかり、その証言を元に作成された似顔絵から、建設会社で最近リストラに遭った中年男=羽村(斉藤洋介)に容疑が絞られます。
しかし、なぜ羽村が自分を指名して来たのか、兵吾には全く身に覚えがありません。
この展開は『太陽にほえろ!』の第2話『時限爆弾 街に消える』と非常によく似てます。番組のコンセプト自体が『太陽~』にかなり近いこと、そして今回の脚本担当が『太陽~』でデビューされた尾西兼一さんであることも踏まえると、似てるのは決して偶然じゃないだろうと思います。
その『太陽~』第2話と部分的に似た話は先発の『五番目の刑事』にもあり、更にそれにも元ネタがあるやも知れず、よく出来たプロットというのはそうして受け継がれていくもんなのでしょう。
「いつまでも思い上がってるんじゃないぞ、高見兵吾。今度こそお前の無力さを思い知らせてやる。花火大会、楽しみにしてるんだな」
次なる爆破を予告して来た羽村の言葉から、兵吾は自分の身の回り、つまり広域捜査隊本部がある臨海副都心(お台場)のどこかに爆弾が仕掛けられたと確信します。
ちなみに同じお台場を舞台にした『踊る大捜査線』がスタートするのは、この翌年。『はみデカ』の方が一足早かったワケですね。「ゆりかもめ」が開通したばかりの新名所で、広域捜査隊も新設されたばかりという設定。当時の警視庁管内には所轄署がちょうど100あった為、番組企画時の仮タイトルは『101番目の刑事』だったそうです。
それはともかく、兵吾は上司である玲子の待機命令を無視して、本部を飛び出して行きます。目撃者を探して必死に走り回る兵吾は、みゆきと同じぐらいの年頃の少女(浜丘麻矢)に声をかけ、似顔絵とそっくりな男がお台場駅の方へ歩いて行ったとの証言を得ます。
「本当に間違いないのか?」
「私、大人みたいに嘘つかないわ!」
何やら少女の様子がおかしいんだけど、爆破の予告時刻が迫っており、兵吾はうしろ髪を引かれつつお台場駅へと走ります。
そして、兵吾からの連絡を受けた西崎が羽村を発見、身柄を確保します。時限爆弾はすでに仕掛けられた後で、兵吾と西崎はその場所を暴力で吐かせようとするんだけど、羽村は頑として口を割りません。『踊る大捜査線』以降の刑事ドラマは取調べでいっさい暴力を使わなく(使えなく)なりますから、こんな光景が見られるのもこれが最後だったかも知れません。
さて、行き詰まった兵吾は、爆弾を仕掛けた場所へ行けば必ず羽村が動揺するだろうと考え、彼を外へ連れ出そうとします。これもまた『太陽にほえろ!』第2話で山さん(露口 茂)が用いた心理作戦と同じです。
で、容疑者をあえて野に放つようなやり方を本部長の徳丸(愛川欽也)は認めないんだけど、そこで玲子が言うんですよね。
「分かったわ。やりたきゃおやりなさい。責任は私が取るわ」
これもまた『太陽にほえろ!』におけるボス(石原裕次郎)の決め台詞と同じ。
さらに、お台場公園で明らかに動揺を見せた羽村を落とすべく、兵吾が用いたのは「土下座」というド直球の説得法。これも『太陽~』第2話で山さんがやっており、その時は空振りに終わって結局暴力で吐かせるんだけどw、時は流れて'90年代、果たして兵吾の場合は……
「いいか、お前の造った爆弾で人が死んでみろ。お前の娘は殺人犯の娘になるんだぞ? そんな目に遭わせたいのか? 人殺しになりたいのか? 人殺しの娘にさせたいのかっ!?」
羽村には小学生の娘がいるのでした。『はみだし刑事情熱系』のメインテーマと言っても過言じゃない、愛する娘=みゆきへの兵吾の想い。つまり親子愛が、頑なだった羽村の心をついに動かすのでした。
「頼む、この通り! 今ならまだ間に合うんだ! 娘さんをそんな目に遭わせないでやってくれよ、頼むよ!!」
兵吾の眼に本気を見た羽村は、公園のゴミ箱に爆弾を隠したことを白状し、これにて一件落着……かと思いきや、あろうことか、隠した筈の爆弾が無くなってる! この展開も『太陽にほえろ!』第2話と全く同じです。
「ほ、本当に此処に仕掛けたんです、青い紙袋に入れて!」
「紙袋!?」
ここからの展開は『はみデカ』オリジナル。兵吾は、先ほど証言してくれた例の少女が青い紙袋を下げてたのを思い出し、今度は彼女を探して奔走します。
そして少女を発見したのは、爆破予定の19時まで残り僅か4分という瀬戸際。けど兵吾は、力づくで少女から紙袋を奪うという手っ取り早い解決法を選択しません。緊急時なら普通そうするやろ!なんていう糞リアリズムには囚われない、そこがやっぱり昭和スピリットなんですよね。
少女は公衆電話で爆破予告する羽村をたまたま目撃し、紙袋の中身が爆弾であることを知っていた。そう、自殺するつもりでゴミ箱から紙袋を拾って来たのでした。
ハッキリとした動機は分からないけど、彼女が人間に対して、特に大人たちに対して絶望してることだけは、兵吾にも察しがつきます。そう、世の中は破滅なんです。
兵吾は、駆けつけた同僚たちや大勢の警官隊を待機させ、懸命に少女を説得します。ここで強引に爆破を阻止したとしても、彼女が自殺をやめなければ何の解決にもならない。そう考えるのが高見兵吾という人間なんです。
「なあ、ホントはそんな気なんか無いんだろ?」
「私はそんな弱虫なんかじゃない!」
「……弱虫でいいじゃないか。死なない弱虫の方が、ホントは強くて、ずっと素敵なんだ」
このくだりは『はみデカ』オリジナルって書きましたけど、実は『太陽にほえろ!』中期の名作『銀河鉄道』(第301話) で、やはり少年の自殺を山さんが止めようとしたシーンに(台詞も)よく似てます。
ただ、兵吾の場合は同じ年頃の愛する娘=みゆきへの想いも加わりますから、その言葉がより切実に聞こえ、我々のハートをも揺さぶって来ます。
「何かあったら、いつでもオジサンとこに来ればいい、な? オジサンと友達になろう」
「なに言ってんのよ、みんな口先ばっかり!」
「口先だけじゃないさ、オレに出来ることがあったら何でもするさ。どうしたらいい? どうして欲しいんだよ?」
「…………私と一緒に、死んでよ」
「…………分かった。ひとりで死ぬんじゃ寂しいもんな。付き合うよ。一緒に死のう」
爆破時刻まで残り3分を切っており、現場にいる全員の冷や汗が止まらなくなるんだけど、兵吾は諦めません。
「あと2分30秒だ。……まだやり残したことがあるんじゃないのか? 好きな男の子とデートしたり、美味しいものを食べたりさ……他にもいろいろ。でも、死んじゃったらおしまいなんだ、何も出来やしないんだ。何もだぞ?」
「…………」
兵吾は、ライトアップされた夜のレインボーブリッジに眼をやります。
「綺麗だな……悔しいなぁ、こんな景色よりもっと美しい景色がいっぱいあるんだ。胸がドキドキするようなさ、ホントに綺麗な景色が……」
「…………」
兵吾の眼から涙がこぼれ、釣られるように少女も涙を流します。
「音楽だっていいじゃないか。イヤなことなんてすぐ忘れちまう、そういう音楽、どうして聴かないんだよ? 本でいいさ、たった一行でいいんだ。心が洗われるような、そういう一行があるんだぞ? そういう本にどうして出逢えないかな……」
「…………」
「生きてたら、そういう素敵なものにいっぱい出逢えるんだ。勿体ないよ……死んじゃダメなんだぞ、な? 死んじゃダメだよ! ダメなんだよ!」
涙ながらに説得……というより懇願する兵吾に、少女はついに心を扉を開けるのでした。
「…………ごめんなさい!」
兵吾が少女から紙袋を受け取ったとき、時刻は午後6時59分。爆発まで残り1分も無い!
これが現実なら、爆弾処理は専門の処理班に任せなきゃいけないんだけど、そんな糞リアリズムにロマンはありません。主人公が自ら何とかするのがドラマってもんです。当たり前です。
爆弾を抱えた兵吾は西崎と二人で覆面パトカーを猛スピードでかっ飛ばし、間一髪、爆発と同時にお台場の海へとダイブするのでした。
当時はまだ爆破シーンにCGは使われてません。街中での爆破も本物だし、このシーンでも恭兵さんと風間さんが実際に、本物の炎を背に受けて決死のダイブを演じておられます。
これですよ、これが本当の意味での「刑事ドラマ」ですよ! ただ突っ立ってひたすら謎解きするだけの紙芝居に、ロマンなど欠片もありません。日本のテレビドラマは、一体いつからこのスピリットを、情熱を失っちゃったのか? 哀しいです。本当に哀しいです。ああチョメチョメ。
良い時代でした。つくづく良い時代でした。まさか日本の刑事ドラマがやがて謎解きゲーム一辺倒になっちゃうなんて、まったく夢にも思ってませんでした。哀しくて哀しくて、沸々と怒りが沸いて来ます。はあ…………
閑話休題。事件は解決し、兵吾はあらためて取調室で羽村と向き合います。
「聞いてなかったな。どうしてオレを選んだのか」
兵吾は、最初に雑居ビルが爆破された時、野次馬の中に羽村がいたことだけは思い出したけど、彼がなぜ自分を名指しで挑発して来たのか、それがサッパリ分からない。
ちなみに『太陽にほえろ!』第2話の犯人の場合、かつてマカロニ(萩原健一)に職務質問されて足止めを食らい、大事な就職試験に間に合わなかったことが発端でした。
「……会社クビになったら、私には何も無かった。家の者までもが、白い眼で見てるような気がして……今までの人生、全部ムダに思えて……だから、吹き飛ばしてやろうと思った」
「…………」
「そんな時、爆発現場で見たアンタ……輝いてた。私に比べて、アンタは生き生きとしてた。だから、妬ましくなったのかも知れない」
危険を顧みずに市民たちを避難させ、駆けつけた警官隊に指示を出す兵吾の懸命な姿が、虚無状態だった羽村の眼にはあまりに眩しく映ったんでしょう。
「……羽村、もう一度やり直すんだ。娘さんの為にも」
「しかし、こんな事しでかしてしまって!」
「出来るさ。娘さんのことを想う気持ちがあれば、必ずやり直せる」
「…………はい」
今回、羽村に爆弾の隠し場所を自白させたのも、少女の自殺を思いとどまらせたのも、愛する娘に対する兵吾の想いがあればこそ。このドラマのヒロインは玲子でもなければ麻生刑事(黒谷友香)でもなく、まだ中学生のみゆきなんですよね。
『娘から 借りたハンカチ 汗ふけず』
毎回のラストシーンで披露される兵吾の川柳も、みゆきへの想いを謳ったものが多かったように記憶します。
ちなみに当初はこの次の回(つまりPART1第3話)あたりで、兵吾がみゆきに自分が父親であることを告白する予定だったとか。そこからよくぞあんな何年も引っ張ったもんですw
いやぁ~しかし、やっぱり『はみデカ』は良いです。そして本エピソードのベースになった『太陽にほえろ!』が如何に素晴らしかったか。
ビデオ撮りではあるけれど『はみだし刑事情熱系』は、『太陽にほえろ!』のスピリットをストレートに受け継いだ、本当の意味で「刑事ドラマ」と呼べる最後の作品じゃないでしょうか?
特に今回みたいにスリリングで熱いエピソードを観てしまうと、もう現在の刑事ドラマ(の名を語る謎解きゲーム番組)は観る気が失せてしまいます。
ホントに、なんでこんな事になっちゃったのか? おそらく答えは至極単純で、大半の女性視聴者がアクションやサスペンスよりもミステリーを好むから。現在のテレビ業界がいかに女性客の顔色しか見てないか、って事だろうと思います。
自殺志願の少女に扮した浜丘麻矢さんは、当時13歳。'92年頃から子役として活躍し、みゆき役の前田愛さんと同様、当時の「チャイドル(チャイルド・アイドル)」ブームを支えた若手女優さんの一人です。
ボーイッシュで太陽みたいに明るい前田愛さんとは対照的な、ちょっとアンニュイな雰囲気が今回の起用に繋がったものと思われます。最近ご結婚されたらしく、Wikipediaの出演リストは2015年で途絶えてます。