ハリソン君の素晴らしいブログZ

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『特捜最前線』#114―1

2018-10-09 00:00:07 | 刑事ドラマ'70年代









 
『大都会 PART II 』第3話の籠城犯は、人質女性を下着姿で踊らせるに止まりました。そこはアクション活劇のドラマですから、生々しい描写はあえて避けたのでしょう。

その点『特捜最前線』は容赦なしですw 一見地味なんだけど、実は刑事ドラマ史上で最もハードな番組は、これだったかも知れません。

密室に男と女が閉じ込められたら、果たしてどうなるか? 生命の危険に直面した時、人間は一体どんな本性を見せるのか?

決して後味の良いエピソードとは言えない第114話ですが、籠城事件の本当の恐ろしさが見事に描かれてます。これを観れば、他の刑事ドラマにおける籠城犯の描写が如何に甘くてリアルじゃないかが、よく分かる筈です。

また、藤岡 弘さん演じる桜井警部補の、あまりにストイック過ぎるキャラクターにも要注目ですw 今どきの役者さんが演じたら「んなヤツはおらんやろ~」としか思えない、藤岡さんでなければ成立しない刑事像かと思います。


☆第114話『サラ金ジャック・射殺犯桜井刑事!』

(1979.6.6.OA/脚本=長坂秀佳/監督=天野利彦)

クローバー金融というサラ金のオフィスに、散弾銃を持った男(風間 健)が押し入ります。犯人は此処の暴利とも言える利子に苦しみ、カネに困ってと言うよりも復讐が目的みたいです。

犯人は、気の弱そうな受付嬢=三沢美保(日向明子)に「こっちへ来い!」と恫喝します。恐怖に震える美保は、救いを求めるように店長(山本 清)を見るのですが……

「三沢くん、おっしゃる通りにして!」

「!?」

自分の身を守る為なら、部下を、それもか弱い女性を犯人に差し出そうとする、鬼畜な店長。如何にも狡猾そうなこのオヤジこそが、これから起こる悲劇の元凶と言えましょう。

非常警報でパトカーが到着し、犯人が外に気を取られたスキに、若い男性社員が犯人に飛びかかります。が、反射的に犯人は引き金を引き、彼を射殺してしまう……

「俺のせいじゃねえ! 俺のせいじゃねえぞ!」

警察に建物を囲まれた上に殺人まで犯し、犯人がヤケッパチになる条件が早くも揃ってしまいました。店は閉め切られ、社員と警備員、お客も合わせて男女10数名が人質です。

警察も包囲はしたものの突入するワケにも行かず、双方硬直状態のまま夜を迎える事になります。

警視庁「特命課」の課長=神代警視正(二谷英明)は、状況把握の為に桜井警部補(藤岡 弘)を派遣、他のメンバーは全員待機させます。

特命課というだけあって、このチームは通常の捜査体制では手に負えない事件のみ扱う特殊部署で、上からの指令が無い限り基本的には動きません。ただし後継番組『相棒』の「特命係」みたいに窓際部署じゃなくて、選び抜かれたエリート集団って設定なんですね。

それはハミダシ刑事の集まりである『太陽にほえろ!』との明確な違いを打ち出す狙いだったと思われ、ベテランの船村警部補(大滝秀治)が「オヤジさん」と呼ばれる以外、ニックネームらしき呼び名も一切無かったと記憶します。

ただし、観てると特命課の刑事たちは七曲署のハミダシ刑事たち以上に熱く(というか暑苦しいw)、他の部署にいたら確実にはみ出しそうな人ばっかりですw

特に今回の主役である桜井さんは、ビジュアルも含めて強烈かつ濃厚です。皆さん覚悟して下さいw

さて、現場に桜井が到着したものの、内部状況が全く分からないまま朝を迎える事になります。

すると突然、建物内から銃声が聞こえます。人質に危機が迫ってると感じた桜井は、課長に報告もせず単独で建物内に侵入するのでした。

「特命課の桜井だ! 武器は持ってない! 木谷! 貴様と話がしたい!」

最初に観た時はスルーしてたんだけど、なぜ桜井が犯人の名前を既に知ってるのか、まったく説明されてないんですよねw 建物内部の様子は何も見えないのに、特命課は犯人が使用する散弾銃の機種まで把握してる!

これは恐らく、刑事たちがそれを調べるシーンを編集でカットしたワケでも、脚本のうっかりミスでもないだろうと私は思います。

創り手が描きたいのは、捜査や謎解きの過程じゃなくて、あくまで「人間」なんですよね。『太陽にほえろ!』が築き上げた「刑事のドラマ」を、さらにとことん突き詰めたのが『特捜最前線』なんです。

だから、脚本上の矛盾を承知の上で「そんな枝葉はどうでもいい、もっと本質を見てくれ!」っていう心意気(開き直りとも言うw)を示してるんだと私は思います。実際、初見の時は気づいてなかった事だし。

「木谷。見える所まで入っていいか?」

灯りは全て消され、暗闇で何も見えない中、桜井は奥へと進んで行きます。やがて、散弾銃を抱えてデスク上に座ってる犯人と、その上の天井に穴が開いてるのが見えて来ます。先ほどの銃声は、天井に向けた威嚇射撃だったようです。

犯人は今のところ、散弾銃の銃口を天井に向けたままで、桜井を撃つ気は無さそうに見えます。

桜井は、ゆっくり慎重に上着を開いて見せ、丸腰である事を犯人に確認させようと……するのかと思いきや、いきなり腰のホルスターからコルトローマンMkーIIIを抜くや、犯人目掛けて発砲するではないですか!

ちょうど現場に到着した橘警部(本郷功次郎)、紅林警部補(横光克彦)、吉野巡査部長(誠 直也)、津上巡査長(荒木しげる)が、その銃声を聞いて建物内になだれ込みます。

犯人は既に死亡、桜井は店員の三沢美保に自分の上着を羽織らせ、抱きかかえながら外へ出て行くのでした。

翌日、警察による記者会見が開かれ、マスコミの前で店長が語ります。

「犯人は意外に紳士的とでも申しますか、決して悪い方ではないと、このような気が致しました」

同じく現場にいた、中年の警備員も証言します。

「あれは正当防衛なんかじゃない。人殺しですよ!」

つまり、犯人は温和な人間で、撃つ気も全く無かったのに、いきなり桜井が撃ち殺したと言うのです。しかも最初に「武器は持ってない」と言っておきながらの騙し討ち。

事態を重く見た警察上層部は、すぐに査問会を開くのですが……

なんと桜井は30分も遅刻して来て、今まで何処に行っていたのか問われると、ふてぶてしい態度でこう答えるのでした。

「女の所です」

「女? どこの女かね!? き、君は査問会を愚弄するのか!?」

これ以降、何を問われても桜井は徹底黙秘を貫きます。桜井を信じ、何とかフォローしようとする仲間の刑事たちに対しても黙秘を続け、全くとりつく島なし!

証人として出席した客のサラリーマンも店長も警備員も全員、桜井が理由も無く犯人を射殺した事を裏付ける証言をするんだけど、被告人たる桜井は一切反論しないどころか、ずっと鉛筆で鶴?か何か(とにかく鳥)の絵を描いてて、やる気ゼロ!

唯一、これまで精神的ショックで静養してた三沢美保が出席し、何かを言おうとした時だけ、桜井は鬼のような形相で彼女を睨みつけます。

「……う、撃とうとしました! 犯人は、桜井さんを撃とうとしました!」

美保は、最初に言おうとした言葉を呑み込み、今とっさに思いついた事を言ってる……つまり、桜井があの濃すぎる顔と尋常ならざる眼力で、彼女に圧力をかけ、嘘を言わせてるように見えます。

査問する側の立場にいる神代課長が、そんな美保を追及します。

「どういう風にですか? 犯人と同じようにやってみて下さい。あなたが見た通りでいいんです。出来ないワケが無いでしょう?」

結局、美保は「何も見てなかった」と証言を覆し、彼女を脅したように見えた桜井の印象は、前にも増して最悪になっちゃいました。このままじゃ桜井は懲戒免職どころか、完全に殺人容疑者です。

結局、3時間半の査問会で桜井が答えたのはたったの一言、「女の所にいた」……おまけに30分もの遅刻、不利を承知の黙秘権。

「これじゃあいくら桜井さんを信じてあげたいと思っても、もしかしたらあの証言通りじゃないかって、嫌でも考えちゃいますよ!」

仲間の刑事たちは、もはやお手上げ。桜井があの態度じゃ庇いようがありません。だけど老練の船村=大滝秀治さんが、あの独特な早口トークでこう言いました。

「キミたち、今まで桜井くんが言い訳したの聞いた事があるかい? 正しいと信じてやった事の言い訳はしない。そういう男だよ、あの男は」

だとすると、証人たちが嘘をついてる事になる。刑事たちは桜井を信じ、人質になりながら査問会には出席しなかった人物たちを1人1人訪ね、入念に話を聞き込みます。

その結果、犯人はクローバー金融に対して明らかな敵意を示し、特に店長に対しては終始、罵声を浴びせていた事が判明。店長自身の証言とは大きく食い違ってます。

しかも店長が、三沢美保に犯人の命令を聞くように促していた事実を、中年の女性社員が証言します。

「じゃあ彼女、何かされたんですか?」

「知らないわ。私の所からは何も見えなかったし……嫁入り前の娘が何をされたかなんて、そんなこと聞くもんじゃありませんよ」

彼女が犯人に何をされたか、ほとんどバラしてるのと同じですw しかし、だからと言って桜井の犯人射殺が正当なものである理由にはなりません。

それどころか、桜井は犯人を背後から撃っていた事まで判明し、状況は悪くなる一方です。

さらに、査問会に30分も遅刻したあの時、桜井は三沢美保の自宅を訪れ、外に連れ出してた事まで判っちゃいます。

つまり、状況証拠から話をまとめると、桜井は最初から犯人を殺すつもりで建物に入り、丸腰であるように見せかけて犯人を背後から撃ち殺し、査問会に先駆けて三沢美保を脅迫し、自分に有利な証言をさせようとした……

最低最悪の人間じゃないスか!w 次なる査問会で以上の状況証拠を突きつけられ、弁明を求められた桜井は、なぜかあの濃すぎる顔を半笑いにさせ、こう答えるのでした。

「私は……当査問会の裁定に従う覚悟でおります」

弁明する気、ゼロ! しかも半笑い!w 一体、桜井は何を考えてるのか!? 彼はもしかしたら、本当に単なる殺人鬼なのでは?

いや、そんな事より、三沢美保があの時、犯人から具体的にどんな事をされたのか!? 何より重要な問題は、そこですよねw

(つづく)
 

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1 コメント

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Unknown (Unknown)
2021-11-05 02:48:41
犯人は一人殺してるんだから、いい人も何もないよね。これだけで充分、射殺されて当然ですよ!
桜井さんが査問委員会にかけられる自体おかしいでしょ!
橘さん、桜井を助けるために奔走してるのに、その桜井に殴られるなんて可哀想!

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