ハリソン君の素晴らしいブログZ

新旧の刑事ドラマを中心に素晴らしい作品をご紹介する、実に素晴らしいブログです。

『フィッシュストーリー』

2018-10-15 12:00:20 | 多部未華子









 
井坂幸太郎さんの小説を脚本=林 民夫&監督=中村義洋の『ルート225』コンビが映画化した、2009年公開の作品です。

我々が読んだり観たりしてスカッとする、つまりカタルシスを感じる物語のパターンの1つに、「ボンクラが世界を危機から救う」ってのがあります。

本作でもネタに使われてる『アルマゲドン』がストレートな典型例で、それが『ギャラクシー・クエスト』みたいなコメディになると、人助けする気などサラサラ無い主人公がトラブルに巻き込まれ、結果的に人類の救世主になっちゃったりする。

『マトリックス』のキアヌ・リーヴスもそうでした。ハッキングで小銭を稼ぐボンクラオタク、つまり我々と変わんないダメ人間が救世主になるからこそ面白い。

この『フィッシュストーリー』では、彗星衝突の危機に見舞われた2012年(公開当時じゃ近未来)の地球を、1975年にひっそり解散した売れないパンクバンドの楽曲が、物凄く間接的にw、人類の危機を救ってくれます。(直接的に救うのは我らがミューズ=多部未華子さん!)

そして、もう1つ。巧みに張り巡らされた伏線や、全く無関係と思われた複数のエピソードが、クライマックスで見事に繋がるドンデン返しのカタルシス。

本作では1953年に出版された海外小説『フィッシュストーリー』の翻訳にまつわるエピソードを起点に、1975年のパンクバンド「逆鱗」のレコーディング、1982年の大学生の合コン、1999年のアルマゲドン騒動、2009年のシージャック事件と、時代も場所も全く無関係に見えるエピソード達が、彗星爆破というクライマックスで見事にリンクしちゃう。

原作がどんな構成になってるのか知らないけど、少なくとも映画版は、この2種類の大きなカタルシスを同時に提供しちゃうという、荒技とも言える試みを見事に成功させた、稀有な作品じゃないでしょうか?

もちろん、かなり無理はあります。設定も展開も強引極まりないんだけど、この作品なら許せちゃう。許さざるを得ないんです。

何しろ、最初からこれは「フィッシュストーリー=ほら話」だって宣言しちゃってますからw、それを承知で観た以上「あり得ない」などと野暮なツッコミは出来ないワケです。

だけど、それにしたって相当なテクニックと労力なくしては成立しないであろう、実に見事な作品です。創り手たちをリスペクトして止みません。

百聞は一見に如かず。全く売れなかったパンクのレコードが、一体どうやって人類を破滅の危機から救ってくれるのか、未見の方は是非ともその眼でご確認を。

伊藤淳史、高良健吾、大森南朋、森山未来、濱田 岳、江口のりこ、波岡一喜、滝藤賢一etcと、キャスト陣も素晴らしい顔ぶれです。

そして我らが多部未華子さんは、修学旅行帰りに居眠りしてフェリーを乗り過ごした挙げ句、シージャック事件に巻き込まれちゃう、2009年の不運な女子高生=麻美を演じておられます。

そんな麻美が、地球の直接的な救世主になっちゃういきさつも大きな見所で、それこそ本作最大のホラ話なんだけど、多部ちゃんが演じると嘘が現実に見えちゃうんですよね、いつもながら。

しかも、多部ちゃんでなければ表現出来ないであろう笑いの要素が、本作唯一の萌えポイントにもなってて、少ない出番なのに「ヒロイン」の役割をパーフェクトに果たしておられます。

まったく、これだけ壮大なストーリーの中で、クライマックスの見せ場を一気にさらっちゃう多部未華子の底力、まさに恐るべしです。

ホラ話になんかつき合えないと仰る方にまではオススメしませんが(ドキュメンタリーだけ観てればよろしい)、日常の憂さをスカッと晴らしたい方は是非! 観ないと破滅です。
 


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2 コメント

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>gonbeさん (ハリソン君)
2018-10-16 12:07:48
なるほど、題材とニュアンス的なものだけ原作から頂戴して、あとは映画独自の解釈で作り上げた作品なワケですね。数少ない成功例なのかも知れません。

ホラ話だと自ら言い切った開き直りの勝利とも言えるしw、ぼんくら者たちに対する愛がこもってる良さもあり、様々な要素がうまく化学反応し合った奇跡の映画って感じがしますね。
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カタルシス! (gonbe5515)
2018-10-16 10:13:03
この映画は何度も観てしまいますねえ。
観るたびに新しい発見がある。繰り返しの鑑賞に耐える映画だと思います。

私は逆鱗の曲が好きで、地球を救うことになる例の一曲の、「僕の孤独が魚だったら 巨大さと獰猛さに クジラでさえ逃げ出す」という歌詞に、そこはかとなく哲学的なものを感じてしまいました。


前回観たときは、滝藤さんがこんな役で出てたんだとか、合コンの彼女の「あなたはこれまで何かに立ち向かったことがあるの」といいうセリフがとても重要な意味を持っていたんだということに気づいたりとか、とてもいい時間を過ごすことが出来ました。

この作品のもととなった伊坂幸太郎さんの作品はごく短いもので、この小説からあの映画が?というものでした。ですので、この映画の素晴らしさは脚本の勝利と申せましょう。

ほんとに、これはお勧めですよ。

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