☆第310話『再会』(1978.7.7.OA/脚本=長野 洋/監督=櫻井一孝)
銀行帰りのOLがエレベーター内で絞殺され、会社の金240万円が強奪される事件が発生。捜査を開始した藤堂チームは、事件直後にサラ金の借金約90万円を一括返済した、競馬狂のサラリーマン=安田(潮 哲也)に眼をつけます。
返済期日ギリギリにタイミング良く競馬で大穴を当てた、という安田の供述は如何にも怪しい。もし彼が犯人なら、残った現金約150万円を必ず動かすだろうと見たボス(石原裕次郎)は、安田の徹底マークを刑事たちに指示。ゴリさん(竜 雷太)とロッキー(木之元 亮)が安田の住む公団団地を張り込むことになります。
で、向かいのビル屋上から双眼鏡で安田の部屋を監視してたゴリさんが、ちょっと女性の着替えでも覗いてやろうと思ったのかどうか分からないけど、隣室に双眼鏡を向けてみたら驚いた!
広島から最近引っ越して来たばかりという、その部屋に住む夫婦の奥さんがなんと、かつて自分の婚約者だった女性=小林道代(武原英子)なのでした。
現在は岩崎姓となった道代は、2年前にゴリさんと挙式寸前までいきながら、叔父が会社の汚職に関わったせいで警察官と結婚出来なくなり、ゴリさんに刑事を続けさせる為に身を引いて、広島の実家へと帰ってしまったのでした。(第200話『すべてを賭けて』)
さすがのゴリさんも動揺を隠せません。決して嫌いで別れたワケじゃない元カノが今、目の前で他の男と生活を共にし、夜な夜なあんな事やこんな事をしてるに決まってるんだから。
かくも拷問みたいな任務に黙って耐えるドMなゴリさんですが、容疑者である安田が隣室の道代に電話を借りに行ったのを見て、いよいよ動かざるを得なくなります。(昭和の時代、ご近所さんの電話を使わせてもらう行為はそんなに珍しくありませんでした)
「安田はどこへ電話してましたか?」
突然訪ねて来たゴリさんの顔を見て驚いた道代は、向かいのビルに眼をやって更に驚きます。何しろ顔じゅう毛だらけの大男が双眼鏡で、食い入るようにこちらを覗いているのだから。
「見張ってらしたんですか?」
「どこへ電話したのか教えて下さい」
感情を圧し殺し、あくまで刑事としての質問を繰り返すゴリさんに、道代は切ない表情で、安田が職場に電話して「風邪を引いたから休む」と言っていたことを伝えます。
ゴリさんは礼を言うと、帰り際に「出来る限り、カーテンは閉めて頂けますか」という言葉を残し、部屋を出て行くのでした。
風邪はもちろん仮病で、外出した安田は婚約者と会ってデートします。尾行していたゴリさんは二人の様子を見て、つい道代とラブラブだった頃の回想に浸ってしまい、その隙に安田を見失うという大ポカをやらかしちゃいます。
もし、安田が張り込みに気づいてて、計画的にゴリさんをまいたのだとすれば、例の150万円をどこかに隠した可能性が高い。
責任を痛感し、トボトボと張り込み場所に戻るゴリさんを待っていたのは、毛むくじゃらの新米刑事ではなく、シュッとした顔のさわやか殿下(小野寺 昭)でした。
「会いましたよ、小林……いや、岩崎道代さんに」
殿下は、ゴリさんと道代の出逢いから別れまでのいきさつを全部知っており、何かと相談に乗った仲でもあります。
「こんな形で会うとは、不思議なもんですね」
「……うまくいってるんだろうか」
「え? ご主人とですか? そこまでは……」
ゴリさんは、かつて道代にプレゼントした熊の縫いぐるみが、今も彼女の部屋に飾られているのを見てしまったのでした。
「いいんだろうか?」
「え?」
「俺はこれまでに、何十回となく張り込みをやって来た。ホシを挙げる為に、何の疑問もなくやって来た。だが……彼女の毎日を見てる間に、俺たちにそこまで他人の生活を覗き込むことが許されるんだろうかって……」
「…………」
「そうだろ? ホシだけじゃない。その家族や、周りにいる関係ない人たちの生活の中にまで、まるで土足で踏み込むような真似が、許されるんだろうか……そんな権利が、本当に俺たちにあるのかな」
「…………」
急にそんな疑問を持たれても返事に窮する殿下ですが、その答えは道代が示してくれました。それまで閉めていたカーテンをあえて開いた彼女は、こちらに一礼して見せたのでした。
「ゴリさん、道代さんは解ってくれたんですよ! 僕らの仕事を理解してくれたんです。そうでしょ? だからこそ、僕らが見張ってるのを知りながら、あの人は……」
良いシーンですよね。本来、道代は理不尽さも含めて刑事の仕事をよく理解していたからこそ、ゴリさんから天職を奪いたくなくて別離を選んだ人なんです。
その想いが2年経った今でも変わってないことを、当時の2人をよく知る殿下の前で、彼女はゴリさんに示したワケです。
今回の殿下は、我々視聴者の代弁者でもあるんですよね。我々もまた、ゴリさんと道代の出逢いから別れをずっと見て来たワケですから、これはグッと来ずにはいられない。何年も続く長寿番組でしか味わえない感動です。
さて、安田がゴリさんの尾行をまいた事でかえって確信を得た刑事たちは、彼の足取りを徹底的に調べ尽くし、ついに現金150万円の行方に辿り着きます。
安田は電車の網棚にわざと現金を置き忘れ、ほとぼりが冷めてから紛失届けを出して取り戻そうとしていた。諦めてカネを燃やしてしまえば、殺人の証拠は残らなかったかも知れないのに、欲をかいたばかりにボロが出ちゃった。カネの為に人を殺した男ならではの末路です。
お礼がてら、ゴリさんは道代に事件の解決を報告します。
「フィアンセの方、可哀想……幸せになるって、難しいんですね」
「……幸せですか?」
「えっ?」
「縫いぐるみを見ました。あなたに、まるで子供にプレゼントするみたいだって笑われた、あの縫いぐるみです。もしご主人が何も御存知ないんだったら、捨てちゃって下さい」
「石塚さん、主人は何もかも知ってますのよ。私、あなたを愛したこと、後悔しないって申し上げた筈です。決して忘れないとも。だって、主人に恥ずかしい事したワケじゃありませんもの」
「…………」
「それに主人はね、何もかも知った上で、私に結婚を申し込んでくれたんです。なので石塚さん。私、いま幸せです」
「これからもずっと、お幸せに」
「あなたも」
多少なりとも恋愛を経験すれば、なかなかこうはいかない事を痛感しますよね。別れた男を忘れないどころか、大切な想い出として心に刻み、なおかつ幸せですと断言し、こちらを安心させてくれる女性なんて、そうそういるもんじゃないでしょう。
これは創り手たち(主に男性)の願望と、ゴリさんというキャラクターへの愛がぎっしり詰まったエピソード。夢ですよ、夢w
いや勿論、ゴリさんみたいに誠実に生きていればこんな事もあり得るんでしょうけど、私みたいなボンクラにはなかなか出来ないから夢なんです。
それはともかく、かつての恋人が事件に直接絡むんじゃなくて、たまたま張り込み先の隣室に彼女がいたという、この設定の妙。思いつきそうでなかなか思いつくもんじゃありません。
それを悲劇じゃなく、後味爽やかな好エピソードに仕上げてくれる『太陽にほえろ!』という番組を、私は愛してやみません。
ちなみに本エピソードの放映は1978年の7月7日、七夕の夜でした。
ウルトラマンやウルトラセブン、仮面ライダーV3あたりは刑事ドラマで悪い事ばっかしてましたよねw 正義のヒーローのイメージを守り通したのは1号ライダーぐらいでしょうか?
ちなみにV3はGメン75と刑事くんでは刑事やってましたよ(^-^)