ハリソン君の素晴らしいブログZ

新旧の刑事ドラマを中心に素晴らしい作品をご紹介する、実に素晴らしいブログです。

『俺たちの勲章』#01

2023-10-01 21:48:03 | 刑事ドラマ'70年代

『傷だらけの天使』が萩原健一さんの『太陽にほえろ!』卒業記念作ならば、1975年の4月から9月に全19話が放映された『俺たちの勲章』は松田優作さんの『太陽〜』卒業記念作。いずれも日本テレビ&東宝のタッグによる“青春アクション”ドラマです。

デビュー作『われら青春!』を終えたばかりの中村雅俊さんが相棒役ゆえ、後に『俺たちの旅』や『俺たちの朝』等へと連なる日テレ「俺たちシリーズ」の1作目と思いがちだけど、あちらは『ゆうひが丘の総理大臣』等も手掛けたユニオン映画の制作ですから、別ラインと捉えた方が良いかも?

一方、沖雅也さん主演の『俺たちは天使だ!』は東宝の制作ゆえ、『太陽にほえろ!』というドでかい幹から東宝(アクション系)の俺たちシリーズと、ユニオン映画(青春ドラマ系)の俺たちシリーズとに枝分かれして行った感じですね。

何にせよ、それら全てを企画された岡田晋吉プロデューサーの巨大「ユニバース」であり、優作さんと雅俊さん、そしてメインライターの鎌田敏夫さんはまさに、その象徴とも言える存在。

岡田さんが自作ベスト1に『俺たちの勲章』を挙げておられるのはきっと、“アクション”と“青春”の象徴たる御三方が揃った「集大成」との自負がお在りだからなんでしょう。

ちなみに初回ゲストは関根恵子(現・高橋惠子)さん。前回レビューした『傷天』#19のマカロニ&シンコに続いて、ジーパン&シンコの再会となります。




☆第1話『射殺』(1975.4.2.OA/脚本=鎌田敏夫/監督=澤田幸弘)

まずは横浜・相模警察署の捜査第一係に所属するハミダシ刑事=中野祐二(松田優作)の“アクション”シーンで物語は幕を開けます。

阿藤快をリーダーとする若者3人組が、売上金を狙って管内のスケート場を襲撃するらしいとの情報を得た中野は、あえて誰にも知らせずに彼らを待ち伏せ、犯行に及ぶのを見届けてから愛銃マグナム44をぶっ放し……



有無を言わさぬ一方的な暴力で、あっという間に全てを解決しちゃうのでした。素晴らしい!w



もちろん上司の野上係長(北村和夫)にはこっぴどく叱られるけど、そんなのは日常茶飯事。

ところが今回、全身から“青春”オーラを発する見慣れぬ男がクレームをつけて来ました。



「あなたはなぜ、事件を未然に防ごうとしなかったんですか?」

「ああ? なにが?」

「時間は充分あった筈です」

「オマエなにが言いたいんだ?」

「あなたが適切な手を打っていれば、あの3人は犯罪者にならずに済んだかも知れないと言ってるんです」



「だけどね、犯罪者を捕まえんのがオレの仕事なんだよ」



「犯罪者を1人でも増やさないことも、刑事の仕事だと思います!」

スリーピースの背広に身を包んだその男の名は、仙台の所轄署から転任して来たばかりの爽やか刑事=五十嵐貴久(中村雅俊)。

この2人の名前(祐二と貴久)が後に、『あぶない刑事』の主役コンビ(タカとユージ)へと受け継がれることになる。『あぶデカ』はセントラル・アーツの制作だけど岡田Pも企画に名を連ねてますから、同じユニバースに属する作品と言えます。

「あっそう。ま、それはそれでいいんじゃないの? あんたの考えからいけば、あのチンピラたちにスケート場を襲うのやめてくれませんか?って頼めばいいんだ。なるほどね」

「…………」

「だけどさ、スケート場を襲うのはやめるかも知れないけど、代わりに銀行襲うかも知んないよ?」

「!!」

そう、強盗を企てる阿藤快みたいなヤツらに、正論なんか通じやしない。五十嵐は刑事の理想像かも知れないけど、中野みたいに規格外な刑事もいないと凶悪犯とは渡り合えない。

だからこそ2人が一緒に行動し、互いの長所を学んで成長していくワケだけど、時は’70年代。先発の『傷だらけの天使』がそうであったように「青春」すなわち「挫折」ですから、そうは上手くいきません。

ただ、テーマが挫折であってもタッチは明るく、その見やすさも『傷天』と(引いては全ての岡田ユニバース作品と)共通しており、中野と五十嵐の対立はウェットじゃないし長引きません。

そのあと中野のいきつけである和風スナック「あすか」で昼食を共にする頃には、同じ劇団「文学座」の先輩・後輩である2人の独特な連帯感が伝わって来ます。(ちなみに上司役の北村和夫さんも文学座の大先輩)



気っ風のいい「あすか」の女主人=香子にはやはり岡田ユニバースの常連だった結城美栄子さん。そして人手不足だから仕方なく雇われてる店員「人手不足ちゃん」こと健次には、プライベートでも優作さんと親しかった佐藤蛾次郎さんが扮してます。



さて、中野と五十嵐にコンビ初のミッションが下されます。横浜で暴力団員が次々に殺された事件の凶器と思われる拳銃が、甲府で使用されたから「捜査協力してこい」と野上係長は言うのでした。

「またいつもの厄介払いですか」

「うるさい、私が行けと言ったら文句言わずに行けばいいんだ!」



中野のツッコミはまさに図星で、実は五十嵐も正義感が強すぎて融通が効かない厄介者ゆえ、なるだけ地方に出張させるべく中野と組まされた。

横浜を拠点としつつ、こうして2人がよその所轄に「とばされて」アウェイな状況下で捜査する、地方ロケを主体とした構成も『俺たちの勲章』の大きな特長。一方に『太陽にほえろ!』というスタンダードがあるがゆえの変化球です。



そんな2人に同情しつつ「無駄遣いしちゃダメよ」と出張費を手渡し、お尻を触られて「いやん、エッチ!」と頬を赤らめるのが事務員=雪子(坂口良子)のお仕事。何から何まで現在じゃあり得ない描写です。



資料室の生き字引き=宮本室長(柳生 博)と……



その助手を務める職員=上野原(山西道広)も数少ない2人の味方。柳生さんは雅俊さんの、山西さんは優作さんの主演作でいつも脇を固める名バイプレーヤー。



そして中野がいつも仕事の合間にデートする謎の美女は、本職ファッションモデルの鹿間マリさん。最終回に至るまでセリフは一言も発しません。

で、甲府に着いた2人は……



ただでさえアウェイなのに、たまたま入った店のラーメンが口に合わず「甲府の食い物は不味いっスね」なんてわざわざ言ったもんで、地元警察の島貫キャップ(中谷一郎)をいきなり怒らせます。

「甲府をバカにするなっ!💢」



そりゃ確かに2人が悪いw お陰で仲間外れにされ、何ひとつ情報を教えてもらえない中、中野と五十嵐は意外に地道な捜査で大きな手掛かりを掴みます。



それが関根恵子さん扮する、一見平凡な専業主婦の由美子。



横浜で数人のチンピラを殺した犯人(若い男らしい)は、どうやら彼女に会うために甲府を訪れ、公衆電話からその自宅に連絡した。そこで通りかかったパトロール巡査に職務質問され、とっさに銃を乱射して逃げたのでした。

けれど由美子は資産家の息子と結婚したばかりで、犯人のことは何も知らないと言う。



『太陽にほえろ!』では日本の連ドラ初となる女性刑事、『傷だらけの天使』ではちょっとおバカな水商売女、そして今回は清楚な奥さんと、若くして多彩な役柄をソツなくこなす関根恵子さんは、やっぱり大した女優さんです。



さて、近くに掘っ立て小屋を見つけた中野と五十嵐は、これまた地道に由美子を張り込みます。

青春のほろ苦さを描くにはリアリティーが必要不可欠で、そこは『太陽にほえろ!』もしっかり守ってました。現実の警察組織はどうこうってリアリティーじゃなく、人間の描き方に関するリアリティー。岡田Pのポリシーですよね。



で、犯人=修(富川澈夫)から再び連絡を受け、由美子が動き出します。どうやら2人はかつてチョメチョメな関係で、あるチョメチョメな事件をきっかけに由美子が姿を消し、修はその行方をずっと探してた。

修(オサム)っていう役名が『傷だらけの天使』の萩原健一さんと同じなのはたぶん偶然じゃなく、オマージュというか「楽屋落ち」みたいなもんでしょう。



そしてデパートの家具売り場で密会する、修と由美子。

「私、もう、あなたと関係ないのよ」

「分かってるよ、分かってる」

「あの人たちを殺してくれって、頼んだワケじゃないわ」

「お前のために殺したんじゃない、オレ自身のために殺したんだ」

どうやら修の殺しは復讐代行。もし、前回レビューした『傷天』#19のラストで修か亨が殺しを完遂してたら、きっと同じ末路を辿ったことでしょう。



↑ジーパンとシンコのキスシーンじゃありません。修を捕まえに来た中野を必死に止めようとする由美子は、どうやら修が嫌いで姿を消したワケじゃなさそうです。

「バカだよ、あんたっ!」



そんな由美子を突き飛ばし、中野と五十嵐は修を追跡します。

一般市民の軽トラやバイクを平気で強奪しちゃう『俺たちの勲章』の追跡シーンはどこかユーモラスで、そこにも生真面目な『太陽にほえろ!』との差別化が感じられます。



その道中、銃砲店に押し入って3丁の猟銃を奪った修は、山中の建設現場へと逃げ込むのでした。



追跡シーンだけじゃなく、銃撃戦の描き方も『太陽〜』とは随分違います。きっと、この第1話を観た人のほとんどが、これから展開する中野と五十嵐のやり取りを一番よく憶えてるんじゃないでしょうか?



まず中野が、五十嵐に援護射撃を命じて突っ込んで行くんだけど、五十嵐は安全装置を外すことを忘れて1発も撃てず、中野が慌てて戻って来る。

「オマエ、なんで撃たないんだよ!?」

「だって弾が出ないんですよ!」

「じゃあ分かった、オレが援護するからオマエ行け!」

「そんな、オレが撃たれたらどうするんですか!?」

「イチかバチかやってみろよ!」

「そんなメチャクチャな!?」

で、五十嵐が決死の覚悟で突っ込んで行くと……



中野がタバコを一服し始めてw、今度は五十嵐が慌てて戻ってくる。



「アーチッチ、アッチ!」

「どうして撃ってくんないんですかあーっ!?」

「ああ、悪い。ここからじゃ届かないんだよ」

「冗談は顔だけにして下さいよ!!」

優作さんが考えたアドリブかと思いきや、タバコで一服しちゃうくだりは脚本にもしっかり書かれてたみたいですw 『あぶない刑事』の時代ならともかく’70年代でこの描写は相当「攻めてる」んじゃないでしょうか?

さて、この辺りで地元警察が駆けつけて来て、2人は逮捕を急ぎます。

見よ! 岡田ユニバースの“アクション”を象徴する、優作さんのこのフォーム!



絶妙な手足の長さとそのバランス、しなやかさと俊敏さ。ただ斜面を駆け上がってるだけなのに超絶カッコいい!

「走る姿を“世界一”美しく見せられる俳優」って岡田さんが仰るほどのもんかどうかは判らないけど、確かに少なくとも日本のスター俳優で優作さんよりカッコ良く走る人は見たことありません。

それに比べて“青春”担当の雅俊さんは……w



この場面は(優作さんとの対比で)わざとカッコ悪く演じてるにせよ、普通に走る姿を見ても雅俊さんの動きは相当ダサい!

以降、いろんな刑事物でいろんなコンビが『俺たちの勲章』を意識してたけど、バランス的に最も近かったのは『太陽にほえろ!』におけるブルース(又野誠治)&マイコン(石原良純)かと思います。特に良純さんは雅俊さんのダサさを忠実に……どころか数倍濃い味つけで再現されてました。まったく無意識にw



閑話休題。修を説得させるつもりだったんでしょう、地元警察はこの修羅場に由美子を連れて来ました。

それで余計に逆上した修が猟銃を撃ちまくり、1人の警官が被弾して倒れる姿を見て、たまらず由美子は駆け出します。



「やめて! もう何もかも! やめて!」



それこそ、由美子と心中したがってる修の思うツボ。修が彼女に猟銃を向けて、中野がマグナムを構え、五十嵐がダッシュします。



そしてタックルを受けた由美子が、五十嵐もろとも斜面を転がり落ちていく!



女優さんがやるにはあまりに危険なスタントだけど、ちゃんとご本人が演じておられます。そこが昭和アクションドラマの凄味!



間一髪! いや、ほぼ同時に中野と修が発砲し、修が斜面を落下していきます。

致命傷を与えたのは明らかに中野のマグナムだけど、よく見ると修は自分自身の腹に銃口を向けており、中野は結果的に彼の自害を阻止したことになる。



死んだ修は、由美子に電話した公衆ボックスに、ツーショット写真を半分に破いた片方(由美子が写ってる側)を残してました。それで彼女への想いを断ち切ったつもりだったんでしょう。

「忘れて欲しかった……忘れて欲しかったから私、オサムちゃんの前からいなくなったのに……」

かつて由美子は、横浜でデート中にチンピラたちに絡まれ、修の眼の前で輪姦されてしまった。修はその復讐を果たし、彼女に別れを告げるために甲府を訪れ、いずれにせよ自殺する気だったんでしょう。

「死にたかった……私も一緒に死にたかった!」



泣きじゃくる由美子を見て、五十嵐も思わずもらい泣き。中野はただ黙って、引き裂かれたカップルの写真をさらに破いていくのでした。

中野と五十嵐はいったい、何をしに甲府くんだりまで来たのか? 初回からいきなり、なんともやるせない結末。これが’70年代を象徴する「挫折のドラマ」なんですね。

けど、救いもありました。地元警察の島貫キャップが、帰りの電車に乗る2人をわざわざ見送りに来て、由美子が旦那さんの待つ家にちゃんと戻ったこと、そして2人に伝言を残したことも教えてくれます。

「彼女、泣いてくれた刑事さんによろしくって言ってたぞ」

さらに2丁のラーメンを岡持ちから取り出し、「これが甲府の味だ」とニッコリ。このへんが『太陽にほえろ!』と共通する希望のスピリット、言わば「岡田イズム」なんだと私は思います。

恐らく松田優作さんはもっとクールでハードな刑事を演じたかった筈で、その欲求が翌々年の『大都会PART2』でようやく満たされ、刑事役に一旦ピリオドを打つことになったんだと勝手に推察してます。



そんなワケで、『俺たちの勲章』も基本的には“挫折”のドラマで、主役の2人が奮闘するも為す術なく、キレイな女性が不幸のどん底に落ちてくストーリーが大半を占めてます。

が、松田優作のアクション、中村雅俊の青春、そして鎌田敏夫の残酷が一挙に楽しめる贅沢さは、他じゃ味わえません。

以降、篠ひろ子、浅茅陽子、三浦真弓、金沢碧、真野響子、夏純子、そして五十嵐淳子(この共演をきっかけに雅俊さんと結婚)etcと続いていくゲスト女優陣の豪華さも含め、岡田ユニバースを代表する1本として見逃せない名作です。


 


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