ハリソン君の素晴らしいブログZ

新旧の刑事ドラマを中心に素晴らしい作品をご紹介する、実に素晴らしいブログです。

『はみだし刑事情熱系』2―#02

2019-04-05 00:00:20 | 刑事ドラマ'90年代









 
『はぐれ刑事純情派』の系譜に属するヒューマン刑事ドラマですが、柴田恭兵さん主演って事で、より若く、熱く、アクティブな内容で我々を楽しませてくれました。

全8シリーズの内、今回レビューするのはPART2の第2話。チョイスした理由は、たまたまBS放映されてたからですw

同じ系譜に属すると言っても、以前レビューした『はぐれ刑事~』の第1シリーズから10年近く経っており、ドラマの作り自体にかなり変化が見られます。

まず、撮影ツールがフィルムからビデオに変わってること。そして基本は1話完結ながら、主人公たちのサイドストーリーに連続性を持たせてること等が、現在の連ドラのフォーマットに近づいてます。

また、警視庁特別広域捜査隊のリーダーに扮する風吹ジュンはじめ、前田 愛、黒谷友香、加藤麻里、樹木希林と、レギュラーキャストの半数以上を女性が占めてる点が、時代の流れを如実に表してますよね。


☆第2話『復讐の婚約破棄!』

(1997.10.15.OA/脚本=尾西兼一/監督=一倉治雄)

事件の内容はもう、この際どーでもいいw

以前の記事に書いた通り、事件(被害者や犯人の心情)と刑事の心情とを半ば強引にリンクさせちゃう『太陽にほえろ!』的な作劇が、この『はみデカ』の大きな特徴であり見所だと思うんだけど、このエピソードは違ってました。

事件で描かれたのは男女の愛で、主人公の高見兵吾(柴田恭兵)が抱える問題とは質が異なるもんで、そうなると(少なくとも私は)ドラマへの興味が半減しちゃいます。

だから、メインで描かれる事件や捜査活動よりも、兵吾とその娘=みゆき(前田 愛)との「あしながおじさん」的な関係しか記憶に残りません。いや、シリーズを通して描かれる、この父娘の物語(ある種のラブストーリー)こそが、むしろ本作のメインテーマなんですね。

その証拠に、毎回ラストシーンにテロップ表示される川柳のほとんどが、みゆきに対する兵吾の想いを謳ったもの……だったような気がします。

あの川柳を毎回考えるのって、さぞ大変だった事と思います。『ゆうひが丘の総理大臣』等でもやってたけど、脚本家にとっては地獄なんじゃないでしょうか?(他に担当者がいたかも知れないけど)

それはともかく、この第2シリーズでは、みゆきの反抗期(自我の目覚め)が描かれており、先にレビューした『はぐれ刑事~』と被る要素もあったりします。

みゆきは、兵吾と玲子(風吹ジュン)との間に出来た娘なんだけど、まだ幼い内に2人が離婚してしまい、彼女は父親の顔を憶えてない。

で、警視庁に新設された広域捜査隊で、上司と部下の関係で元夫婦が再会してしまう。優秀で実直な玲子が上司(課長)で、出世の見込みが無いハミダシ刑事の兵吾が部下。

父親が自分を捨てて逃げた悪人だと思ってるみゆきは、玲子の下で働く兵吾を「親友」として認識してる。玲子も兵吾も、今さら本当のことが言えないっていう設定。

兵吾は父親を名乗りたいんだけど、みゆきが「私、一生かけて父親を憎むことにしたの」なんて言い出すもんだから、余計に何も言えなくなっちゃう。その言葉の裏には、父親への想いを断ち切って自立したいっていう、自我の目覚めがあるワケです。

そんな時期だから、母親の玲子とも何かと衝突しちゃう。些細なことで激しく口論する母娘を目撃した兵吾は、大いに気を揉むことになります。

「どうしたんだよ、いつものみゆきちゃんらしくないじゃないか」

「いつもの私って何? 大人の言いなりになってるイイ子ぶった私ってこと?」

「…………」

「私、イイ子になりたかった。お父さんいないこと、お母さん問い詰めたりしちゃ駄目だとか……お母さんと2人だから、しっかりしなきゃとか、いつも周りを気にして生きて来て……そしたら、周りからもイイ子だって見られて、だから……だからっていうか……イイ子になりたかったの。けど、それって違うんじゃないかって……」

「…………」

「だって、そうやってたら、ここ(胸)んとこにモヤモヤしたものがどんどん膨らんでくるのが、分かるんだもん……それがパチンと弾けたら……」

「…………」

「だから、私は私なんだって……自分の足で、ちゃんと立って生きて行かなきゃって。もう周りを気にしてちゃ駄目だって……そう決めたっていうか……なんか、最近ヘンだよね、私……」

「……そんなことない」

「ヘンだよ……自分でそう思うもん」

兵吾がたった一言だけ返した言葉が、以前レビューした『はぐれ刑事純情派』1―#20で安浦刑事(藤田まこと)が娘のユカ(小川範子)に返した一言「そんな事は無いさ」とほとんど同じなのが笑えますw

こんな時、父親は……っていうか、男は無力ですよね。けど、そうやって、ただ黙って聞いてあげるのが正解なのかも知れません。とにかく父親は、男は、大きな愛を持って受け止めるしか無い。このドラマはやっぱり、兵吾とみゆきのラブストーリーなんだと思います。

みゆきを演じた前田愛さんは、当時14歳。『あっぱれさんま大先生』の生徒役で注目されたジュニアアイドルだけど、『はぐれ刑事~』の小川範子さんに引けを取らない確かな演技力で、このシリーズを支えておられました。現在は中村勘九郎さんの妻にして、2児の母親。それでもまだ30台なんですね。

ちなみに第1・第2シリーズのエンディング主題歌を唄ったのは中島みゆきさん。「みゆき」っていう役名の由来かと思われます。
 
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『はみだし刑事情熱系』1―#22

2019-04-04 00:00:06 | 刑事ドラマ'90年代









 
なんだかんだあって、紆余曲折を経て、高見兵吾(柴田恭兵)は実の娘である根岸みゆき(前田 愛)と「親友」の絆を結びました。

みゆきがまだ物心つかない内に妻=玲子(風吹ジュン)と別れ、言わば娘を捨てた身である兵吾は、上司と部下という関係で十数年ぶりに再会した玲子から「父親であることを絶対みゆきに言わないで」と釘を刺されたせいもあり、半年経っても本当のことが言えない、親しくなればなるほど言えないでいるのでした。

ところが、やっぱり色々あって玲子の気持ちが変わって来た。前回(第21話)のラストシーンで、玲子から「みゆきに本当のことを言ってあげて」と告げられた兵吾は、大いに動揺し……


☆第22話『最終回スペシャル/広域殺人!記憶喪失の女』

(1997.3.26.OA/脚本=今井詔二/監督=一倉治雄)

「や、やめた……やっぱ今日は勘弁してくれ」

玲子に呼び出されてやって来た、みゆきの屈託ない笑顔を見て、覚悟を決めてた筈の兵吾が怖じ気づきます。

「逃げるの?」

「気持ちの整理がつかないんだよ!」

背を向け、逃げるように去っていく兵吾に、失望した玲子が言い放ちます。

「卑怯者!」

女性に、しかもかつて妻だった人に真顔で言われるにはあまりにキツイ言葉です。

なぜ兵吾は、卑怯者呼ばわりされても本当のことが言えないのか? 最大の理由は番組の視聴率が好調でシリーズ化が決まったからだけどw、それじゃ視聴者は納得しません。なのでPART1最終回は、兵吾が父親を名乗れない本当の理由がメインテーマとなりました。

それはさておき、殺人事件が発生します。被害者は、兵吾と大学の同期生で親友だった、鹿児島北署の横山警部補(深水三章)。その現場で血まみれのコートを着た錯乱状態の女(牧瀬里穂)も発見され、自ら「私が殺したんです!」なんて言うもんだから、広域捜査隊は即座に彼女を保護し、まずは入院させます。

その女はどうやら記憶喪失症で自分の名前すら憶えてない。小柄な彼女が屈強な横山警部補を殺せるとは思えず、おそらく事件に巻き込まれたショックで記憶が封印されたと見た兵吾たちは、まず彼女の身元から捜査を開始します。

現場近くに放置された車に彼女の免許証が残っており、まずは相馬未知子という名前が判明。そして彼女は3年前に亡くなった父親の納骨で鹿児島へ行き、そこで横山警部補と知り合ったらしいことも判って来ます。

兵吾は、東京で横山と再会した時に「鹿児島北署は腐ってる」という彼の言葉を聞いており、もしかすると署内の不祥事を告発しようとして彼は殺された、つまり真犯人は警察内部にいるのでは?と睨みます。

そんな折りに鹿児島北署の刑事二人(山西道広、金田明夫)が、未知子の身柄を引き取りに上京して来ます。もし、本当に犯人が署内の人間だとすれば、唯一の目撃者である未知子は消されてしまうかも知れない!

兵吾は徳丸本部長(愛川欽也)の命令に逆らって未知子の身柄引き渡しを拒否。自分が彼女を鹿児島へ連れて行き、記憶を取り戻させると宣言し、警察手帳を玲子に返上します。

「無理やり連れて行けば拉致誘拐よ! その時はあなたを逮捕します!」

もちろん、親友の仇討ちに燃える兵吾にそんな脅しは通じません。いや、兵吾だけでなく、広域捜査隊メンバー全員がクビを覚悟で兵吾を援護し、玲子を困らせるのでした。

なぜみんな、自分の命令を聞いてくれないの?と嘆く玲子に、ベテランの杉浦警部(平泉 成)が言います。

「寂しいんです……みんな寂しいんですよ。課長の口から、高見を逮捕していいと出た。今まで半年間築き上げて来たものが、全部崩れていく!……みんな、寂しいんです」

昨今の刑事ドラマは「天才の主人公とその他の凡人たち」みたいな構図ばかりで、こういう対等なチームの絆が描かれなくなりました。人と人との繋がりが希薄になりがちな時代だからこそ、せめてドラマ世界ぐらいはこうあって欲しいもんです。

さて、いくら兵吾たちが躍起になっても、肝心の未知子が前向きになってくれなきゃどうしょうもありません。

「どうせ犯人を見つけて手柄を立てたいだけなんでしょ?」

恐ろしい記憶をわざわざ掘り起こす気になれない未知子に、兵吾は正直な気持ちをぶつけます。

「ああ、そうだ。その通りだ! 俺は犯人を見つけたいさ! 殺された横山は、俺の親友だったんだ」

「 !! 」

「あいつ、いつも言ってた。刑事という仕事に誇りを持ってるって。一生懸命やれば、どっかで何かが良くなるって。そんな毎日が嬉しいって。俺は、あいつのそういう気持ちを踏みにじったヤツが許せないんだ!」

髭を剃って爽やかになった西崎刑事(風間トオル)も助け船を出します。

「キミはどうしても忘れたい記憶があるんじゃないのか。それを忘れるのは簡単だけど、忘れてはいけない記憶なんだ。キミのお父さんだってそう思ってると思う」

「…………」

未知子には多恵子という年配女性が付き添っており、彼女は「そんな危険な目には遭わせられない」と強く反対するんだけど、兵吾たちの熱意にほだされた未知子は鹿児島行きに同意します。そしてそれを心配する多恵子も、一緒に鹿児島までついて行くのでした。

亡くなった未知子の父親と親しかったという多恵子を演じるのは、木の実ナナさん。鹿児島の如何にも怪しい刑事が山西道広さんで、さらに横山警部補の妹が長谷部香苗さん。明らかに『あぶない刑事』メンバーを意図的に集めた、最終回スペシャルならではのゲスト陣です。

しかし単なる付き添いのオバサン役で木の実さんが出演するワケないし、兵吾たちの捜査に反対したり、わざわざ鹿児島までついて来る言動からして「もしかして敵の回し者?」なんて思うんだけど、実はそうじゃない別の秘密が彼女にはあるのでした。

なぜ多恵子は、友人の娘とは言え未知子のことをそこまで心配するのか?

杉浦警部の調べにより、多恵子は22年前に離婚しており、その時2歳だった娘を夫のところに残して行ったことが判って、兵吾は全てを察します。そして同時に未知子も、多恵子の荷物の中に、独身である筈の彼女の家族写真を見つけて……

事件の真相も徐々に明らかになって行きます。鹿児島における自らの経路を辿る内、未知子は父親が死んで天涯孤独になった時に自殺未遂をやらかしたこと、それを偶然見かけ、親身になって励ましてくれたのが横山警部補だったこと、そして彼の捜査に協力しようとして事件に巻き込まれたこと等を思い出すのでした。

だけど肝心の犯人の顔だけが思い出せず、苦しむ未知子を見かねて、多恵子が兵吾たちに抗議します。

「もういいじゃないですか、犯人のことは。この子は今つらい思いをしてるんです。この子のことだけを考えて、犯人のことは後で考えれば……」

そんな多恵子の言葉を遮ったのは誰あろう、当の未知子でした。

「あなたに、この子だとか、未知子だとか、呼ばれたくないわ」

「え……なに言ってるの? 私は心配だったから……」

「あなたになんか心配して欲しくないって言ってるの。父と私を捨てたあなたなんかに!」

「!! ……そう、知ってたの」

「許せない……あなたの顔なんて、二度と見たくない!」

「……ごめんね……ごめんなさい」

たまらずその場から立ち去った多恵子は、荷物をまとめ、未知子の父親……つまりかつての夫の墓に別れを告げに行くんだけど、それを予想した兵吾が待ち構えてました。

「どうして、母親だと名乗らなかったんだ?」

「……名乗れるワケないわよ」

多恵子は以前、自分の死期を悟った夫から「未知子に母親だと名乗ってやってくれ」と頼まれたのに、やはり名乗れなかったと告白します。

「名乗れないんじゃなくて、名乗る資格が無いの。子供を捨てて、いろんな可能性を試してみたいって、そんなこと言って家を飛び出した女には……」

そんな多恵子の気持ちが、兵吾には痛いほどよく解ります。多恵子が去った後も彼女を罵り続ける未知子に、兵吾は口を挟まずにはいられません。

「そんな言い方するもんじゃない。仮にもキミの……」

「仮にも親? 冗談じゃない、親っていうのは産んだからなれるもんじゃないでしょ? 親らしいこと何ひとつして来ないで……」

兵吾は、多恵子が元夫から「名乗ってくれ」と頼まれた事実を未知子に伝えます。

「嬉しかったと思うな。あの人、名乗っていいって言われて、凄く嬉しかったと思うな。……でも、ふと考えるんだ。何して来たんだろうって。何もして来なかったのに、親なんて呼ばれていいのかなって……」

「…………」

「だから俺は決めたんだ。名乗らないって。名乗っちゃいけないんだって」

「?」

いつの間にか「俺」の話になってて未知子は戸惑うんだけど、構わず兵吾は続けます。

「今更さ、どのツラ下げてさ……でも不思議なんだ。やっぱり、お父さんって、呼ばれたいって思うんだ。いっぱい甘えて欲しいって思うんだ。お父さんって呼ばれて、思いっきり抱きついて欲しいって思うんだ」

「…………」

後ろで広域捜査隊の同僚たちも聞いてることを忘れて、兵吾は涙を流しながら語り続けます。

「メシ一緒に食うだろ? 食べ終わったら、言うんだ。ご馳走になりましたって……そう言うんだ、他人だからさ……帰る時は、さよならって言うんだぞ? 他人だからさ。俺はもう、そういう生活……もう……」

「…………」

「はっきり言うよ。俺はそういう生活を、後悔してる。娘と別れてから、11年間だ。俺は毎日毎日後悔して来た。あの人もおんなじだ。あの人、俺の倍の22年間も、毎日毎日後悔して来たんだ!」

以前にも書きましたけど、この『はみだし刑事情熱系』で一番泣かされるのは、兵吾が娘を想う気持ちと、事件の内容とがシンクロした瞬間なんですよね。

その回かぎりのゲストにまつわる人情話だけじゃ、少なくとも私は泣きません。ずっと親しんで来た主人公の気持ちに共感して初めて泣いちゃうワケです。

『太陽にほえろ!』が画期的で素晴らしかったのも、刑事を単なる事件の傍観者にせず、強引を承知の上で刑事と犯人、あるいは事件関係者との「シンクロ」を描くことに徹してたから。平成の時代になってもはや「古い」「ダサい」と云われてたその作劇を、忠実に継承してくれたのが『はみデカ』であり、今回のPART1最終話はその最たるものと言えましょう。

だけど、兵吾の11年間の苦悩や、この半年間の葛藤を、未知子は知りません。たとえ知っててもそれどころじゃない。

「ウソよ……そんなの絶対ウソよ! あの人は後悔なんかしていない。自分の好き勝手な事して幸せだったのよ! あの人が後悔なんか、してるワケがない!」

もはや母娘の和解は絶望的かと思われたけど、それを救ったのは皮肉にも事件の真犯人でした。未知子には兵吾たちが張り付いて近寄れないと悟った犯人は、帰路につこうとした多恵子を拉致し、助けたければ1人で来いと未知子を脅迫して来ます。

もちろん兵吾たちの活躍によって二人とも救われるんだけど、多恵子が殺されそうになった時、思わず未知子が叫ぶんですよね。「お母さん!」って。

そして母娘が抱き合う感動のクライマックスになるワケだけど、そのテの人情劇は古典中の古典で見飽きてますから、前述のとおり普通なら泣きません。木の実ナナさんのソウルフルな演技には貰い泣きするんだけど、号泣まではいかない。

だけど『はみデカ』の場合、抱き合う二人を見つめる主人公=高見兵吾の心情に共鳴して、私は号泣しちゃう。ありがちな人情劇でも、兵吾の眼を通して見ると感じ方が違うワケです。

だからこのドラマは、事件が兵吾の心情とどれくらいシンクロするかで感動指数が違って来る。今回はさすがの最終回スペシャルで涙を搾り取られました。

ところで真犯人の正体ですが、兵吾を目の敵にする鹿児島北署の刑事たちの中で、ただ1人だけ協力的な刑事を演じたのが、金田明夫さん。彼が真犯人に決まってますw

謎解きメインの番組ならば致命傷になりかねない分かり易さだけど、『はみデカ』にとって真犯人の正体など二の次、三の次だから何の問題もありません。これは犯人のドラマじゃない、あくまで刑事のドラマなんだから。

もちろん、正体がバレた金田さんには、兵吾たちが3人がかりでフルボッコの刑を食らわせますw 何度でも言います。日本よ、これが刑事ドラマだ。

「泣いたんだって? 鹿児島で。男泣きだって?」

東京に戻った部下たちから事細かにいきさつを聞いた玲子は、兵吾を食事に誘って冷やかします。

「あのバカども……」

「それで、私も考えたんだ。あなたが名乗りたくないんなら、名乗らなくていいって」

「…………」

「そりゃあ、親として、私達みゆきにズルい事してるのかも知れない。いけない事をしてるのかも知れない。でも、世の中には仕方のない事ってあると思うの」

「…………」

「正直言って、私嬉しかったの。名乗ってって言われてワアって飛び上がって喜ぶ人よりも、名乗れない、名乗る資格は俺には無いっていう人間の方がずっとステキだと思うの」

「…………」

「言ってやりたい。言えないけど、心の中でみゆきに言ってやりたい。あんたの父さんは、なかなかだぞって」

「……すまない」

そこに、みゆきがやって来ます。食事は食事でも、親子3人揃っての外食は今回が初めて。もちろん、みゆきは兵吾が父親であることを知りませんから、あっけらかんとしたもんです。

兵吾にディナーを奢ってもらえると聞いてはしゃぐみゆきに、玲子はこう言います。

「ただしね、条件があるの。食べた後で、ご馳走になりましたって言わないでくれって。それに、別れ際にさよならって言うのも勘弁だって」

玲子はそんな細かい事まで報告を受けてたんですねw でも、それも兵吾の人徳でしょう。そして玲子もまた優しい!

「そっか、家族の気分を味わいたいのね、兵吾くん。いいでしょういいでしょう、味わわせてあげようじゃないの」

みゆきは兵吾の腕に抱きついて、無邪気に言います。

「行こ。お父さん」

「 !! 」

「どうしたの? 早く行こうよ、お父さん」

ここでまた、私は号泣しちゃいました。ハッピーなんだけど、同時に切なくもあるんですよね。そこが『はみだし刑事情熱系』の素晴らしさ。第3話で兵吾に父親を名乗らせなくて本当に良かったと思いますw

『たとえ嘘 それでも今日は オヤジ記念日』

ラストシーン恒例の川柳は、俵万智さんの『サラダ記念日』をもじったもの。俵さんのは口語短歌であって川柳とはまた違うんだけどw

いやあ~しかし、やっぱり『はみデカ』は良いです。放映当時はそこまでハマってなかった筈なのに、自分が高見兵吾の年齢を越えてしまった事や、再三書いてるように本当の意味での「刑事ドラマ」が絶滅してしまった現状が、この作品をより輝かしく、愛しいものに感じさせるんでしょう。

メインゲストの牧瀬里穂さんは当時25歳。1989年、自らスカートを捲って純白パンツを丸出しにする武田薬品「ハイシー」ドリンクのCM(あれにはホント度肝を抜かれました)、そしてJR東海「クリスマス・エクスプレス」のCM等で一躍脚光を浴び、翌'90年には相米慎二監督『東京上空いらっしゃいませ』と市川準監督『つぐみ』という二大若手巨匠による映画への主演で各映画賞を総なめ。まさに平成時代の幕開けに彗星のごとく現れた女優さんで、私も大いに注目してました。

パンツを丸出しにしようがセミヌードを披露しようが全くエロを感じさせないw、そしてデビューから30年経っても年齢を感じさせない、まさに永遠の美少女ですよね。

しかし出演本数は意外と少なく、加藤雅也さんと漫才コンビみたいな夫婦を演じた朝ドラ『まんぷく』は実に10年ぶりの連ドラ出演。刑事ドラマへのゲスト出演はおそらくこの『はみだし刑事情熱系PART1』最終回が唯一かと思われます。
 
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『はみだし刑事情熱系』1―#10

2019-04-03 00:00:16 | 刑事ドラマ'90年代









 
☆第10話『凶弾!涙の逃亡者』

(1996.12.18.OA/脚本=今井詔二/監督=村川 透)

吉松(梶原 善)という現職の制服警官が、街中でいきなり市民を拳銃で撃って逃走するという、前代未聞の事件が発生。

撃たれた穂積という男は幸い軽傷で済み、モデルプロダクションのマネージャーである彼は、吉松巡査がマキコ(久野真紀子)という所属モデルにぞっこんで、彼女が芸能界で売れなかったことを恨んで襲撃して来たんだと証言します。

警察組織の面汚しとして全国の警察官を敵に回した吉松だけど、広域捜査隊が調べを進めるにつれ、どうやら彼の犯行は単なる逆恨みじゃないことが分かって来ます。

吉松がぞっこんだったというマキコは今、麻薬中毒の治療で入院しており、どうやら彼女を麻薬浸けにしたのは暴力団と繋がる穂積らしい。

マキコとは同郷で、彼女を追って上京し、彼女を守るために警察官になった吉村は、その使命を果たすべく犯行に及び、今また再び穂積を狙おうとしてる。

そのやり方は間違ってるにせよ、兵吾(柴田恭兵)はじめ広域捜査隊メンバーたちは、ピュアすぎる吉松にいつしかシンパシーを抱くようになり、だからこそこれ以上の罪を犯させんと奔走します。

兵吾は、吉松からモデルプロダクションの捜査を依頼されながら無視した麻薬課の刑事を暴力で説得しw、情報を聞き出します。

一方、兵吾の元妻で課長の玲子(風吹ジュン)は、吉松の復讐を阻止できるのはマキコしかいないと考え、麻薬に溺れた自分にそんな資格は無いと固辞する彼女を懸命に説得します。

「資格じゃないわ、責任よ! 愛されてたことが分かったなら、愛しててくれた人にあなたは責任を取るべきなのよ! きちんと」

「責任……」

「そう」

しかし、間に合わなかった。撮影スタジオに現れてしまった吉松は、穂積をガードする兵吾たちに銃口を向けます。が、兵吾はこの時の為に携帯してた筈の拳銃を抜こうとしません。

「悲しいじゃねえか。いくら彼女の為とは言っても、おまえ警察官だろうが! 拳銃の訓練は人を殺す為にやってたのか?」

「お前らに何が分かる? マキコは子供の頃から俺に夢をくれたんだ。体の弱かった俺をずっと守ってくれた。今度は俺が守る番なんだよ!」

「吉松、守るって意味を教えてやるよ。守るってのはな、命を懸けるって事なんだ! 相手の命を奪う事じゃない、命を懸けて相手を守るって事なんだ!」

西崎(風間トオル)、杉浦(平泉 成)、たまき(黒谷友香)、秋本(梅垣義明)、工藤(志村東吾)も、誰ひとり拳銃を抜かずに吉松と向き合います。

「お前、まだ分かんないのか? 高見さんが守ろうとしてるのは穂積じゃないぞ、お前だ! お前を殺人犯にしたくないから守ろうとしてるんだ!」

「高見さん、自分も付き合いますよ。俺もこいつを犯罪者にしたくない」

「俺もっス!」

「私も!」

こういう刑事どうしの熱い絆やぶつかり合いの描き方がやっぱり『太陽にほえろ!』なんですよね。同じチームワークでも団長に絶対服従の『西部警察』とは質が違うワケです。

「撃てよ、吉松。お前を守りたいって言うこれだけの仲間を、撃って気が済むんだったら撃て! 吉松、仲間じゃねえか俺たち。そうだろ?」

上から目線じゃなく、同じ組織で働く仲間として接する兵吾たちを、吉松は撃つことが出来ないのでした。

捜査本部に連行される吉松を待っていたのは、虚ろだった表情に輝きを取り戻したように見えるマキコでした。

「あんたバカよ、私なんかの為に……でも、ありがとう。今度は、私があんたを守る。……ううん、違う。お互い、守り合って、支え合って、生きていこ。ね?」

『はみだし刑事情熱系』って、娘=みゆき(前田 愛)を想う兵吾の気持ちが事件とシンクロするかしないかで、感動の度合いが違って来るような気がします。今回は男女の純愛がテーマなもんで(少なくとも私は)いまいちハートに響いて来ないんだけど、そのぶん兵吾以外の刑事たちの熱い心意気が描かれたのは救いでした。

私自身がまだ若かった当時は、そういうのがこっ恥ずかしかったりしたんだけど、今は素直に「いいなあ」「やっぱコレだよなあ」って思います。それは自分が歳を食ったせいなのか、こういう熱いドラマが無くなったせいなのか……まあ両方なんでしょう。

セクシー画像はマキコ役の久野真紀子さん、出演当時29歳。モデル出身の女優さんで、Vシネマ『XX美しき狩人』等における大胆なヌード&艶技で注目を集めた方です。

刑事ドラマは他に『風の刑事・東京発!』『はぐれ刑事純情派』『相棒』『その男、副署長』『最強のふたり』等、テレ朝作品へのゲスト出演が多いようで、2005年以降は「クノ真季子」の芸名で活動されてます。
 
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『はみだし刑事情熱系』1―#05

2019-04-02 00:00:15 | 刑事ドラマ'90年代









 
☆第5話『狙われた女刑事!』

(1996.11.13.OA/脚本=尾西兼一/監督=村川 透)

覚醒剤の取引現場に踏み込む高見兵吾(柴田恭兵)ら広域特別捜査隊の格闘アクションで幕を開ける冒頭シーンで「掴み」はバッチリ。

何度でも言いますけど、これが本当の意味での「刑事ドラマ」です。ただ突っ立って謎解きするだけなら探偵でも家政婦でも三毛猫でも務まるんだから。全力疾走で悪党を追い、ぶん殴り、時にはショットガンで撃ち殺す。それが許されるのはドラマ世界の刑事さんだけなんだから。

特撮ヒーローでさえ暴力を控えなきゃいけない昨今のテレビ業界は、いびつであり異常であり滑稽です。毒なくして毒を制することは出来ない。何も出来ない我々小市民に替わって悪を成敗する、刑事さんやヒーローたちの暴力は言わば必要悪であり、そういうガス抜きを自主規制するから世の中がどんどんおかしくなっていくワケで、破滅です。

それはともかく、捕まった連中は20代の若者たちで、元は少年課にいた麻生たまき刑事(黒谷友香)は、その中にかつて自分が補導した男子がいることに激しいショックを受けます。彼は重度の覚醒剤中毒でまともに口も聞けないのでした。

「許せない……覚醒剤なんて絶対に許せない!」

あまりに真っ直ぐな、若き黒谷友香さんの熱すぎる演技は正直「くさい」んだけど、その懸命な姿に我々は知らず知らず肩入れしちゃうんですよね。

今回もやっぱり『太陽にほえろ!』を連想せずにいられません。俳優デビューしたばかりだったテキサス=勝野 洋さんやラガー=渡辺 徹さんらの、初期の暑苦しいお芝居とよく似てるんですよねw

ロッキー=木之元 亮さんの証言によると『太陽~』の新人俳優たちは歴代、監督から「小芝居をするな」と、とにかく「真っ直ぐ」演技しろと指導されたんだそうです。おそらく当時の黒谷さんも、同じような演技指導を受けてたんだろうと思います。

で、覚醒剤ルートを根絶させようと動く広域捜査隊は、売人らしき男をマークするんだけど、そいつが覚醒剤を狙う若者グループに拉致された上に殺されちゃう。

男は拉致される寸前にテレクラで知り合った女(未来貴子)と一緒だったことが判り、その女が犯人たちを目撃してる可能性が高いため、兵吾とたまきは聞き込みに行くんだけど、女はその男を知らないと言い、テレクラを利用したことも全面否定します。

人妻である彼女が保身のために嘘をついてるのは明らかで、たまきは必死に食い下がるんだけど、そのせいで彼女の夫婦関係を悪化させてしまう。おまけに犯人グループの中にまたしてもかつて補導した若者を見つけ、そいつにナイフで切りつけられて負傷し、たまきは「いったい私は今まで何をして来たんだろう」と、仕事へのモチベーションを無くしてしまいます。

「またショック受けた? で、どうすんの? ずっとそうやって座ってるつもり?」

刑事部屋の自席から動こうとしないたまきを見かねた課長=玲子(風吹ジュン)がゲキを飛ばします。

「だったら目障りだわ、ここにはそういう人は必要ない。第一あなたが受けたショックなんか、たかが知れてるもの」

「どういう意味ですか?」

「問題はいま街に流れ出ようとしてる覚醒剤なの。それを阻止するのが我々の仕事なの。あなたが刑事として自信を無くしたことなんか、それからでも解決出来るってことなの!」

「そんな言い方……」

「いい? 今こうしてる間にも広域捜査隊全員が走り回ってるの。人間として、刑事として、必死になって覚醒剤を追いかけてる。捜査からはみ出ようが、失敗しようが、とにかく走ってる。それが仕事だから! あなたは何よ? そこでそうやって座ってるだけじゃ何も解決出来ないじゃないの、違う?」

「…………」

「甘ったれんのもいい加減になさい! ここは学校じゃないのよ、仕事場なの。それが分からないのなら、今すぐお辞めなさい!」

「……辞めません。絶対辞めません!」

こういうシーンにはやはり『太陽にほえろ!』、引いては青春ドラマのスピリットを強く感じます。玲子の台詞をもっと荒っぽくすればボス(石原裕次郎)やゴリさん(竜 雷太)そのまんまだし、それで奮起して走り出すマカロニ(萩原健一)やジーパン(松田優作)の姿も目に浮かんで来ます。

『太陽~』の平成復活版『七曲署捜査一係』が制作されるのは、この翌年のこと。もしかすると岡田晋吉プロデューサーはこの『はみデカ』に触発されてやる気になられたのかも?(だけど同じ年に『太陽~』と真逆の方法論で創られた『踊る大捜査線』が登場し、大ヒットしちゃうんですよね)

さて、玲子のゲキにより奮起したたまきは、犯人グループに命を狙われるテレクラ人妻を守り抜き、ついに彼女から有力な証言を得ます。

かつて更正させてもらった恩など「関係ねえ!」と吐き捨て、たまきを殺そうとする犯人一派のクソガキを、駆けつけた兵吾がフルボッコにしながら、こう言います。

「関係ねえか? 知ったこっちゃねえか? 覚醒剤の為だったら人を殺そうが他人がどんなに苦しもうが関係ねえんだな? だけどな、それじゃ人間じゃねえんだよ!」

兵吾はさらに、泣きわめくクソガキの腕をへし折る寸前まで締め上げます。

「人間のフリすんじゃねえ、おら! いいか、いつか必ず覚醒剤忘れさせてやるよ。とことん付き合って、少しは人間らしくしてやるよ。5年かかろうが10年かかろうが、こちとら商売だからしつこいぞ? 覚悟しとけ!」

何度でも書きます。日本よ、これが「刑事ドラマ」だ。

突っ立って微笑みながら「おやおや、いけませんねえ」なんて言いながら謎解きする刑事さんも、それはそれでカッコいいけど、私は魅力を感じません。悪党を片っ端からぶん殴り、マグナムでぶっ殺さなきゃ刑事じゃない。男じゃない。オトコ女のトミコ!トミコ!トミコーっ!

'70年代は当たり前だったそういう光景も、'90年代まで来ると「時代遅れ」みたいに言われ、今となっては有り得ないものになっちゃいました。ほんとに『はみデカ』が最後だったかも知れません。

ストーリーには意外性がなく、予定調和と言えば確かにそうです。けど、あっと驚くどんでん返しだけが見所の謎解きドラマと、果たしてどっちが我々のハートに響いて来るか? どっちが心地好い余韻を残してくれるか? 言わずもがなです。

もういい加減、充分でしょう謎解きは? 世間の皆さん、どうして飽きないの? そろそろ悪党をぶん殴る熱い刑事さんのドラマ、真の刑事ドラマをまた見せて下さい。お願いしますよホントに。

麻生たまき刑事を2年に渡って演じられた黒谷友香さんは、当時20歳。ファッションモデル出身で、TVドラマ初レギュラーが'95年の『沙粧妙子/最後の事件』(主人公の妹役)、そして『はみデカ』以降も『特命!刑事どん亀』や『ハンチョウ/神南署安積班』シリーズ等で刑事を演じ、2時間ドラマ『トカゲの女/警視庁特殊犯罪バイク班』シリーズでは主役を張るなど、刑事ドラマに縁の深い女優さん。

勿論それ以外の役柄も幅広くこなし、主演映画『TANNKA/短歌』ではヌード&濡れ場も披露されてます。Gacktさんと共演のビューティークリニックCMにおけるセミヌードも話題になりましたね。
 
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『はみだし刑事情熱系』1―#02

2019-04-01 00:00:34 | 刑事ドラマ'90年代









 
PART1のセカンドエピソードです。初回は主人公=高見兵吾(柴田恭兵)ら広域特別捜査隊のメンバー紹介、新課長=根岸玲子(風吹ジュン)の着任、そして兵吾と元夫婦という関係、そして二人の娘である根岸みゆき(前田 愛)との再会にうろたえる兵吾など、事件も描く一方でキャラクター相関図の説明に追われた感があり、この第2話こそがいよいよ本格的な幕開け。『はみだし刑事情熱系』らしさが目一杯つまった名エピソードです。


☆第2話『副都心 爆破3秒前!』

(1996.10.23.OA/脚本=尾西兼一/監督=一倉治雄)

冒頭、兵吾が西崎刑事(風間トオル)とオープンカフェでランチしてたら、そこに偶然みゆきが通りかかり、うろたえます。みゆきは兵吾が自分の父親であるとは気づいておらず、兵吾もそれを言い出せないでいる。どうやら後ろめたさがあるようです。

で、慌ててコーヒーをこぼしちゃった兵吾に、みゆきが可愛らしいハンカチを差し出し、それを兵吾が戸惑いながら受け取った直後、すぐそばの雑居ビルが爆破されちゃう。別に兵吾たちを狙った爆破じゃないから、これもまた偶然。

『太陽にほえろ!』を起点に昭和の刑事ドラマでよく使われた、事件と刑事のプライベートを強引に結びつける「偶然」の連鎖って、平成になってからは「わざとらしい」ってことで避けられる傾向にあったんだけど、この番組だけはてらうことなく堂々とやってました。

たぶん、創り手たちも「古い」「ダサい」って言われるのを覚悟の上で、あえてやってたんだろうと思います。リアリティーやスマートさより、俺たちが描きたいのは刑事たちの愚直なまでの「情熱」なんだって。それさえ感じてくれたら、あとは笑おうがネタにしようが好きにしてくれって。

私自身も当時は「なんか、こっ恥ずかしいなぁ」なんて思いながら観てましたけど、今となっては懐かしいし、潔い創り手たちの姿勢を素直にカッコいいと思えます。

さて、今回の爆発は小規模だったお陰で、数人が怪我を負っただけで済みました。が、次なる爆破を予告する電話が広域捜査隊の本部に、しかもなぜか兵吾を名指しで掛かって来るのでした。

予告どおり、今度はデパートの地下駐車場が爆破されます。予告電話の男は工務店からダイナマイト15本を盗んでおり、残りは7本。それを街中で一度に使えば、今度こそ犠牲者が出ることは避けられないでしょう。

刑事たちの必死の捜査により、不審な男を現場で目撃した市民が複数見つかり、その証言を元に作成された似顔絵から、建設会社で最近リストラに遭った中年男=羽村(斉藤洋介)に容疑が絞られます。

しかし、なぜ羽村が自分を指名して来たのか、兵吾には全く身に覚えがありません。

この展開は『太陽にほえろ!』の第2話『時限爆弾 街に消える』と非常によく似てます。番組のコンセプト自体が『太陽~』にかなり近いこと、そして今回の脚本担当が『太陽~』でデビューされた尾西兼一さんであることも踏まえると、似てるのは決して偶然じゃないだろうと思います。

その『太陽~』第2話と部分的に似た話は先発の『五番目の刑事』にもあり、更にそれにも元ネタがあるやも知れず、よく出来たプロットというのはそうして受け継がれていくもんなのでしょう。

「いつまでも思い上がってるんじゃないぞ、高見兵吾。今度こそお前の無力さを思い知らせてやる。花火大会、楽しみにしてるんだな」

次なる爆破を予告して来た羽村の言葉から、兵吾は自分の身の回り、つまり広域捜査隊本部がある臨海副都心(お台場)のどこかに爆弾が仕掛けられたと確信します。

ちなみに同じお台場を舞台にした『踊る大捜査線』がスタートするのは、この翌年。『はみデカ』の方が一足早かったワケですね。「ゆりかもめ」が開通したばかりの新名所で、広域捜査隊も新設されたばかりという設定。当時の警視庁管内には所轄署がちょうど100あった為、番組企画時の仮タイトルは『101番目の刑事』だったそうです。

それはともかく、兵吾は上司である玲子の待機命令を無視して、本部を飛び出して行きます。目撃者を探して必死に走り回る兵吾は、みゆきと同じぐらいの年頃の少女(浜丘麻矢)に声をかけ、似顔絵とそっくりな男がお台場駅の方へ歩いて行ったとの証言を得ます。

「本当に間違いないのか?」

「私、大人みたいに嘘つかないわ!」

何やら少女の様子がおかしいんだけど、爆破の予告時刻が迫っており、兵吾はうしろ髪を引かれつつお台場駅へと走ります。

そして、兵吾からの連絡を受けた西崎が羽村を発見、身柄を確保します。時限爆弾はすでに仕掛けられた後で、兵吾と西崎はその場所を暴力で吐かせようとするんだけど、羽村は頑として口を割りません。『踊る大捜査線』以降の刑事ドラマは取調べでいっさい暴力を使わなく(使えなく)なりますから、こんな光景が見られるのもこれが最後だったかも知れません。

さて、行き詰まった兵吾は、爆弾を仕掛けた場所へ行けば必ず羽村が動揺するだろうと考え、彼を外へ連れ出そうとします。これもまた『太陽にほえろ!』第2話で山さん(露口 茂)が用いた心理作戦と同じです。

で、容疑者をあえて野に放つようなやり方を本部長の徳丸(愛川欽也)は認めないんだけど、そこで玲子が言うんですよね。

「分かったわ。やりたきゃおやりなさい。責任は私が取るわ」

これもまた『太陽にほえろ!』におけるボス(石原裕次郎)の決め台詞と同じ。

さらに、お台場公園で明らかに動揺を見せた羽村を落とすべく、兵吾が用いたのは「土下座」というド直球の説得法。これも『太陽~』第2話で山さんがやっており、その時は空振りに終わって結局暴力で吐かせるんだけどw、時は流れて'90年代、果たして兵吾の場合は……

「いいか、お前の造った爆弾で人が死んでみろ。お前の娘は殺人犯の娘になるんだぞ? そんな目に遭わせたいのか? 人殺しになりたいのか? 人殺しの娘にさせたいのかっ!?」

羽村には小学生の娘がいるのでした。『はみだし刑事情熱系』のメインテーマと言っても過言じゃない、愛する娘=みゆきへの兵吾の想い。つまり親子愛が、頑なだった羽村の心をついに動かすのでした。

「頼む、この通り! 今ならまだ間に合うんだ! 娘さんをそんな目に遭わせないでやってくれよ、頼むよ!!」

兵吾の眼に本気を見た羽村は、公園のゴミ箱に爆弾を隠したことを白状し、これにて一件落着……かと思いきや、あろうことか、隠した筈の爆弾が無くなってる! この展開も『太陽にほえろ!』第2話と全く同じです。

「ほ、本当に此処に仕掛けたんです、青い紙袋に入れて!」

「紙袋!?」

ここからの展開は『はみデカ』オリジナル。兵吾は、先ほど証言してくれた例の少女が青い紙袋を下げてたのを思い出し、今度は彼女を探して奔走します。

そして少女を発見したのは、爆破予定の19時まで残り僅か4分という瀬戸際。けど兵吾は、力づくで少女から紙袋を奪うという手っ取り早い解決法を選択しません。緊急時なら普通そうするやろ!なんていう糞リアリズムには囚われない、そこがやっぱり昭和スピリットなんですよね。

少女は公衆電話で爆破予告する羽村をたまたま目撃し、紙袋の中身が爆弾であることを知っていた。そう、自殺するつもりでゴミ箱から紙袋を拾って来たのでした。

ハッキリとした動機は分からないけど、彼女が人間に対して、特に大人たちに対して絶望してることだけは、兵吾にも察しがつきます。そう、世の中は破滅なんです。

兵吾は、駆けつけた同僚たちや大勢の警官隊を待機させ、懸命に少女を説得します。ここで強引に爆破を阻止したとしても、彼女が自殺をやめなければ何の解決にもならない。そう考えるのが高見兵吾という人間なんです。

「なあ、ホントはそんな気なんか無いんだろ?」

「私はそんな弱虫なんかじゃない!」

「……弱虫でいいじゃないか。死なない弱虫の方が、ホントは強くて、ずっと素敵なんだ」

このくだりは『はみデカ』オリジナルって書きましたけど、実は『太陽にほえろ!』中期の名作『銀河鉄道』(第301話) で、やはり少年の自殺を山さんが止めようとしたシーンに(台詞も)よく似てます。

ただ、兵吾の場合は同じ年頃の愛する娘=みゆきへの想いも加わりますから、その言葉がより切実に聞こえ、我々のハートをも揺さぶって来ます。

「何かあったら、いつでもオジサンとこに来ればいい、な? オジサンと友達になろう」

「なに言ってんのよ、みんな口先ばっかり!」

「口先だけじゃないさ、オレに出来ることがあったら何でもするさ。どうしたらいい? どうして欲しいんだよ?」

「…………私と一緒に、死んでよ」

「…………分かった。ひとりで死ぬんじゃ寂しいもんな。付き合うよ。一緒に死のう」

爆破時刻まで残り3分を切っており、現場にいる全員の冷や汗が止まらなくなるんだけど、兵吾は諦めません。

「あと2分30秒だ。……まだやり残したことがあるんじゃないのか? 好きな男の子とデートしたり、美味しいものを食べたりさ……他にもいろいろ。でも、死んじゃったらおしまいなんだ、何も出来やしないんだ。何もだぞ?」

「…………」

兵吾は、ライトアップされた夜のレインボーブリッジに眼をやります。

「綺麗だな……悔しいなぁ、こんな景色よりもっと美しい景色がいっぱいあるんだ。胸がドキドキするようなさ、ホントに綺麗な景色が……」

「…………」

兵吾の眼から涙がこぼれ、釣られるように少女も涙を流します。

「音楽だっていいじゃないか。イヤなことなんてすぐ忘れちまう、そういう音楽、どうして聴かないんだよ? 本でいいさ、たった一行でいいんだ。心が洗われるような、そういう一行があるんだぞ? そういう本にどうして出逢えないかな……」

「…………」

「生きてたら、そういう素敵なものにいっぱい出逢えるんだ。勿体ないよ……死んじゃダメなんだぞ、な? 死んじゃダメだよ! ダメなんだよ!」

涙ながらに説得……というより懇願する兵吾に、少女はついに心を扉を開けるのでした。

「…………ごめんなさい!」

兵吾が少女から紙袋を受け取ったとき、時刻は午後6時59分。爆発まで残り1分も無い!

これが現実なら、爆弾処理は専門の処理班に任せなきゃいけないんだけど、そんな糞リアリズムにロマンはありません。主人公が自ら何とかするのがドラマってもんです。当たり前です。

爆弾を抱えた兵吾は西崎と二人で覆面パトカーを猛スピードでかっ飛ばし、間一髪、爆発と同時にお台場の海へとダイブするのでした。

当時はまだ爆破シーンにCGは使われてません。街中での爆破も本物だし、このシーンでも恭兵さんと風間さんが実際に、本物の炎を背に受けて決死のダイブを演じておられます。

これですよ、これが本当の意味での「刑事ドラマ」ですよ! ただ突っ立ってひたすら謎解きするだけの紙芝居に、ロマンなど欠片もありません。日本のテレビドラマは、一体いつからこのスピリットを、情熱を失っちゃったのか? 哀しいです。本当に哀しいです。ああチョメチョメ。

良い時代でした。つくづく良い時代でした。まさか日本の刑事ドラマがやがて謎解きゲーム一辺倒になっちゃうなんて、まったく夢にも思ってませんでした。哀しくて哀しくて、沸々と怒りが沸いて来ます。はあ…………

閑話休題。事件は解決し、兵吾はあらためて取調室で羽村と向き合います。

「聞いてなかったな。どうしてオレを選んだのか」

兵吾は、最初に雑居ビルが爆破された時、野次馬の中に羽村がいたことだけは思い出したけど、彼がなぜ自分を名指しで挑発して来たのか、それがサッパリ分からない。

ちなみに『太陽にほえろ!』第2話の犯人の場合、かつてマカロニ(萩原健一)に職務質問されて足止めを食らい、大事な就職試験に間に合わなかったことが発端でした。

「……会社クビになったら、私には何も無かった。家の者までもが、白い眼で見てるような気がして……今までの人生、全部ムダに思えて……だから、吹き飛ばしてやろうと思った」

「…………」

「そんな時、爆発現場で見たアンタ……輝いてた。私に比べて、アンタは生き生きとしてた。だから、妬ましくなったのかも知れない」

危険を顧みずに市民たちを避難させ、駆けつけた警官隊に指示を出す兵吾の懸命な姿が、虚無状態だった羽村の眼にはあまりに眩しく映ったんでしょう。

「……羽村、もう一度やり直すんだ。娘さんの為にも」

「しかし、こんな事しでかしてしまって!」

「出来るさ。娘さんのことを想う気持ちがあれば、必ずやり直せる」

「…………はい」

今回、羽村に爆弾の隠し場所を自白させたのも、少女の自殺を思いとどまらせたのも、愛する娘に対する兵吾の想いがあればこそ。このドラマのヒロインは玲子でもなければ麻生刑事(黒谷友香)でもなく、まだ中学生のみゆきなんですよね。

『娘から 借りたハンカチ 汗ふけず』

毎回のラストシーンで披露される兵吾の川柳も、みゆきへの想いを謳ったものが多かったように記憶します。

ちなみに当初はこの次の回(つまりPART1第3話)あたりで、兵吾がみゆきに自分が父親であることを告白する予定だったとか。そこからよくぞあんな何年も引っ張ったもんですw

いやぁ~しかし、やっぱり『はみデカ』は良いです。そして本エピソードのベースになった『太陽にほえろ!』が如何に素晴らしかったか。

ビデオ撮りではあるけれど『はみだし刑事情熱系』は、『太陽にほえろ!』のスピリットをストレートに受け継いだ、本当の意味で「刑事ドラマ」と呼べる最後の作品じゃないでしょうか?

特に今回みたいにスリリングで熱いエピソードを観てしまうと、もう現在の刑事ドラマ(の名を語る謎解きゲーム番組)は観る気が失せてしまいます。

ホントに、なんでこんな事になっちゃったのか? おそらく答えは至極単純で、大半の女性視聴者がアクションやサスペンスよりもミステリーを好むから。現在のテレビ業界がいかに女性客の顔色しか見てないか、って事だろうと思います。

自殺志願の少女に扮した浜丘麻矢さんは、当時13歳。'92年頃から子役として活躍し、みゆき役の前田愛さんと同様、当時の「チャイドル(チャイルド・アイドル)」ブームを支えた若手女優さんの一人です。

ボーイッシュで太陽みたいに明るい前田愛さんとは対照的な、ちょっとアンニュイな雰囲気が今回の起用に繋がったものと思われます。最近ご結婚されたらしく、Wikipediaの出演リストは2015年で途絶えてます。
 
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