源氏物語と共に

源氏物語関連

橋姫の阿闍梨(あざり)

2008-10-07 11:32:47 | 登場人物
橋姫には阿闍梨(あざり)が出てきます。


この阿闍梨は、橋姫の展開で重要な役目を担っているように思います。


この阿闍梨は、(実は源氏と藤壺の子である)冷泉院と親しくしていて、
引退した冷泉院が光源氏亡き後も特に薫を可愛がっている事から、
薫は院の所でこの阿闍梨と知りあいます。


そして、この阿闍梨は宇治八の宮と仏典で交流があることから、
憂いをかかえて仏道心のある薫に八の宮の存在を教えます。
生きた聖(ひじり)であると。


その言葉を受けて冷泉院は紹介状を書き、阿闍梨も薫を八の宮に紹介します。
薫は八の宮を訪れ、その人柄に尊敬して交流を深めて行くうちに
3年経って、宇治の八の宮の娘達にも出会ってしまう展開になるのです。


まるで末摘花のように、ひっそり暮らしていた貧乏な八の宮に
薫が尊敬している人だからと院も大事に思うようになって、
急にスポットライトがあたります。


八の宮は桐壺帝の8番目の子供で、源氏の年の離れた弟です。
(ちなみに、冷泉帝は10番目)
源氏が須磨に行った時に右大臣派によって
冷泉帝の皇太子を廃するために次の帝位にと勝手に担ぎ込まれた人です。


源氏が復活してからはすっかり忘れられた存在になりました。


世事にうとく、使用人にまで逃げられ、とても貧乏に暮らしている様子は
末摘花を彷彿させます。
しかし、こちらの八の宮は清貧という感じがします。


薫に八の宮を教える阿闍梨とは、誰か。


冷泉院の側で親しくする僧で思い出すのは、
藤壺と光源氏の秘密を知っていて、藤壺崩御の後に
冷泉帝(当時)に真実を伝えた夜居の僧都です。(薄雲)


しかしこの薄雲の時にすでに彼は70歳。
時間的に可能なのか勉強不足で不明です。


そして薫は久しく訪れていないと宇治に向かって行く時に
何故か涙を流すのです。


有明の月のまだ夜深くさしいづるほどに、供も少なくして出発する薫。


霧で道が見えなくなる繁き野を分け入り宇治に向かいます。


おりしも荒々しい風が吹き、ほろほろと木の葉が落ち乱れ
霧で濡れてしまう薫は心細くなって感慨にひたり涙を流し、歌を詠みます。


「山おろしにたへぬ木の葉の露よりもあやなくもろきわが涙かな」(橋姫)


何となく宇治でこれから何か起きそうな、
秘密が露見するようなそんな伏線がしませんか。
(ここの有明の月からの原文はとても綺麗だと思います)


実際、薫が行ってみると、八の宮が仏道で留守。
娘達を覗き見る事になり、大君とも知り合い
ここの女房として流れついた弁に袋を渡され、
いよいよ自分の真実の父を知る事になります。


深読みかもしれませんが、橋姫で、紫式部は阿闍梨を出すことによって上手に
橋姫の巻は秘密露見の巻と伏線にしているといったら考えすぎでしょうか。


舞台を宇治=憂しに移して
物語の姫達のようにひっそりと上品にくらしている八の宮と姫君達。


薫の訪れによって、八の宮の存在もクローズアップされていくのは
読者にとっても嬉しい事です。


大塚ひかりさんは「カラダで感じる源氏物語」(筑摩書房)で、
読者は不幸な貧乏話が好きといわれていました。
源氏物語にはそういうヒロインが多くて読者を共感させると。


ここですぐに匂宮に娘達の存在を知らせる展開は
ちょっと薫には浅はかで早すぎるように思いますが、
結局、その後中の君は匂宮の子供を生む事になります。


紫式部は出家した後に宇治十帖を書いたのでしょうか。
それとも特に人生の憂いを感じた頃に書いたのでしょうか。
今後も興味深く読みたいと思います。