源氏物語と共に

源氏物語関連

女楽 (若菜下)の衣装

2007-12-10 16:33:50 | 

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(若菜下)


正月二十日ばかりになれば、空もをかしきほどに、風ぬるく吹きて、
御前の梅も盛りになりゆく・・略


童女(わらはべ)は、かたちすぐれたる四人、
赤色に桜の汗衫(かざみ)、薄色の織物の袙(あこめ)、
浮き紋の表(うへ)の袴、紅のうちたる、さまもてなしすぐれたる限りを召したり。


女御の御方にも、御しつらへなど、いとどあらたまれるころのくもりなきに
おのおのいどましく尽くしたるよそほひども、あざやかに二なし。
童女は青色に蘇芳の汗衫(かざみ)、唐綾の表(うへ)の袴、袙は山吹なる唐の綺を
同じさまにととのへたり。


明石の御方のは、ことことしからで、紅梅二人、桜二人、あをじの限りにて
袙濃く薄く、うち目などえならで着せたまへり。


宮の御方にも、かくつどひたまふべく聞きたまひて、
童女(わらはべ)の姿ばかりは、ことにつくろはせたまへり。
青丹(あをに)に柳の汗衫、葡萄染の袙など、ことに好ましくめづらしきさまにあらねど、おほかたのけはひのいかめしく気高きことさへ、いと並びなし。


<青丹(あをに)>
長崎盛兼氏によれば、表 青(濃い気アリ)裏 青(淡い気アリ)
四季に着用。
青丹とは昔化粧の黛に用いた黒ずんだ青粘土の事で、青土とも書かれる。
青丹の語は青土とは別にあお(緑)と丹(たん)赤の配色をいうこともある。
奈良の都にの色彩美をたたえる青丹吉(あおによし)がそれであるとの事。


新潮古典集大成の注釈には、表裏とも濃い青に黄色を加えたもの。表着とある。


また吉岡幸雄氏は青丹は暗い黄緑色で、岩緑青(いわろくしょう)といわれ、
奈良にかかる枕詞(まくらことば)とある。


<柳>
長崎盛兼氏によれば、やなぎは早春、猫柳の枝に芽生えた、白いうぶ毛の新芽の色を表したものであるとの事。柳の色目は<薄柳>とも称される。
したがって、やなぎの色目は薄い緑で表されるようだ。
柳は古い時代に中国から伝わり、猫柳と枝垂れ柳の二系列があるとの事。
かさねは、表が白で裏は薄青。
柳にちなんだ色目は他に面柳、青柳、黄柳、花柳、柳かさねなどがあるとの事。


吉岡幸雄氏は柳色について柳の葉の3月~4月にかけて萌え出るような色とある。
葉の表は淡い黄色がかった緑色といわれている。
堀川通りに流れていた大川を東にまげて鴨川にしたところから、
京は洪水に弱かった。そのため根がよく張って水の流れに耐える柳はうってつけで
ここかしこに植えられたとある。
柳の細く垂れ下がるさまは美しく染められた糸にもたとえられて柳糸といわれるそうだ。


確かに、堀川や鴨川、木屋町に流れる川にも柳はあったように思う。


<あをじ>
古典集大成の注釈によれば青磁色の汗衫。



この女楽の童女の色彩は大変美しい・。
紫の上は桜・紅の汗衫
明石女御は緑・蘇芳に山吹
明石の上は紅梅・桜に青磁
女三宮は緑に蘇芳。


紅梅の木が盛りの頃にその色彩は見事であろう。


女楽の女性達の様子。



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女三宮
二月の中の十日ばかりの青柳のわずかにしだれりはじめたるここちして、
鶯の羽風にも乱れぬべく、あえやかにみたまふ。
桜の細長に御髪(おぐし)は左右(ひだりみぎ)よりこぼれかかりて、柳の糸のさましたり。


明石女御
同じやうなる御なまめき姿の、今少しにほひ加わりて、もてなしけはひ心にくく、
よしさましたまひて、よく咲きこぼれる藤の花の、夏にかかりて
かたはらに並ぶ花なき朝ぼらけのここちぞしたまへる。
さるは、いとふくよかなるほどに・・略
紅梅の御衣(おんぞ)に御髪(おぐし)のかかりはらはらときよらにて
火影(ほかげ)の御姿、世になくうつくしげなるに、


紫の上
葡萄染めにやあらむ、色濃き小袿(こうちき)、薄蘇芳の細長に、
御髪(おぐし)のたまれるほど、こちたくゆるるかに、大きさなどよきほどに、
様体(やうたい)あらまほしく、あたりに満ちたるここちして、
花といはば、桜にたとへても、なほものよりすぐれたるけはひことにものしたまふ。


明石の上
かかる御あたりに明石はけおさるべきを、いとさしもあらず、
もてなしなどけしきばみはづかしく。心の底ゆかしきさまして、
そこはかとなくあてになまめかしく見ゆ。
柳の織物の細長、萌黄にやあらむ、小袿着て、うすものの裳(も)のはかなげなる
引きかけて、ことさら卑下したけれど、けはひ思ひなしも心にくく、
あなづらはしからず・・略・・
五月待つ花橘、花も実も具しておし折れるかをりおぼゆ。


素晴らしき六条院の女性達の様子である。


身分の低い明石の上は女房達がするように、
裳を引きかけてへりくだって卑下したというけれど、
見下せないとある。彼女はさすがに明石女御の生母である。


女三宮は琴(きん)、紫の上は和琴、明石女御は筝の琴、明石の上は琵琶。


琵琶は優れて上手めき、神さびたる手つかい、澄み果てて面白く、
和琴もなつかしく愛敬(あいぎょう)つきたる爪音にめずらしく今めき、華やかである
筝の琴も美しくなまめかし。
琴(きん)はまだ若き方なれど、
光源氏に習いたまふ盛りなれば、たどたどしからず、上手になっておられると、
夕霧は感じたようだ。


この素晴らしい女楽を頂点に、いよいよ源氏物語は悲劇へ向かっていく。
源氏物語の音楽については、
山田孝雄先生の<源氏物語の音楽>が有名だが、もうないので古本で探してほしいと思う。
最近、中川正美先生の<源氏物語と音楽>和泉書院2007年izumibooks14を
偶然に見つけた。
音楽に興味のある方はこの本も参考にしてください。



写真は別冊太陽<源氏物語の色>より。
上から紫の上、明石の上、明石女御(中左)、女三宮(中右)


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徳川美術館

2007-12-07 17:02:04 | その他

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源氏物語絵巻の復元図を展示という事で
名古屋の徳川美術館へ行ってきました。


1000年前の国宝源氏物語絵巻では判らなかった絵柄が
新たに最新の技術で判明しました。


細かな衣装の模様、調度品、几帳、襖に描かれた絵まで繊細に復元されていました。
単にその巻の図を描いたというだけでなく、
月の光、衣装の模様の透け具合、場面にあった草花の靡き具合まで繊細に描かれていました。


実際に絵を沢山載せる事はできませんが、
特に宇治十帖の橋姫では、銀で月の光をそして、銀と白で宇治の霞を表現していた事に
大変感動しました。


「よみがえる源氏物語絵巻NHK名古屋取材班」NHK出版の本から特別にその図を載せます。
もしダメでしたら、ごめんなさいm(__)m


NHKのビデオでも見ましたが、
本当に昔の絵師の技術の高さには驚くばかり。
場面の心まで表現しています。


薫が宇治の大君中の君を見る場面、
宇治独特の白い霞の表現と、場面を横切る銀の月の光の表現が
素晴らしい源氏物語の世界をしみじみと感じさせると思います。


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