ささやかな幸せ

SUPER EIGHT、本、美術鑑賞、俳句、お茶が好き!
毎日小さな幸せを見つけて暮らしたい。

タイサンボク

2015-06-02 20:24:27 | 随筆
「上級生の悪戯に違いない」と思った。
高校の校門からロータリー越しに見える木。枝の上に白いちり紙で作った花が置いてある。上級生が3階の窓からちり紙の花を落としたのだろう。新一年生を驚かそうとして、こんなことをしたのだろうか。
「どうかしましたか?」の声に振り向くと、おじさんが立っていた。「あれです」と木を指差す。
「あぁ、タイサンボクですね。白い花が咲いていますね」ニッコリ笑うとスタスタと玄関に入っていった。
ちり紙の花だと思っていたが、本物の花だったんだ。タイサンボクって言うんだ。親切なあのおじさんは、学校関係者なのかなあ。
すると、横にいた同級生が興奮気味に言った。「校長先生だったね!高一の私たちにもきちんと話してくれたね」
校長だって?高校では、背の高い順に並ぶので、背の低い私は最後尾だった。極度の近眼なので、朝会でも校長の顔はよく見えない。朝会では、早く終わらないかなと下ばかり向いていたので、校長の顔は知らない。憧れて入学した高校の校長がペーペーの一年生に親切に話しかけるものだろうか。
校長は紳士という言葉がぴったりの人だった。今まで、ああいう大人になりたいと思う人がいなかったが、初めてああいう風になりたいと思う大人と出会った。
大人になり、タイサンボクの季節になると、私は、校長のような大人になれたかと思う。誰に対しても謙虚であるか。礼儀正しくあるか。なかなか理想には近づけない。タイサンボクが咲く頃は、一年に一回の猛反省の時である。
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