ささやかな幸せ

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『星を掬う』

2022-07-03 20:49:57 | 
『星を掬う』 町田その子 中央公論新社
 小学1年の時の夏休み、母と二人で旅をした。その後、私は、母に捨てられた――。ラジオ番組の賞金ほしさに、母に捨てられた夏の思い出を投稿した千鶴。それを聞いて連絡してきたのは、自分を捨てた母の「娘」だと名乗る恵真だった。この後、母・聖子と再会し同居することになった千鶴だが、記憶と全く違う母の姿を見ることになり・・・。
 冒頭の千鶴の夫のDVのすごさと千鶴の疲弊。母と同居することになるが、その家の同居人のワケアリ事情。母の若年性痴呆症。いやはや、すごい家族の物語。てんこ盛りの不幸が重層的に家族の物語と結びついて、深い話になっていくのだから。人によっては、辛くなるだろうけれども、私はよかった。
「誰かを理解できると考えるのは傲慢で、寄り添うことは時に乱暴となる。・・・相手を傷つける歩み寄りは迷惑でしかないし、自分を傷つけないと近づけない相手からは、離れること。」 例としてハリネズミを出していた。ハリネズミを抱いても傷つくだけだし、ハリネズミも刺したくないものを刺して苦しむ。だから、離れる。なるほど。千鶴も寄り添おうという人をわざと傷つけるような言動をするところがある。「わかる」って言う人ほど結局わかっていなくて、その人の自己満足だったりするから。
 「私の人生は、最後まで私が支配するの。誰にも縛らせたりしない」「家族や親って言葉を鎖にしちゃだめだよ」 「家族は支えあうもの」という恵真に聖子が放った言葉。強い。家族なんだからと泥船にひきずりこんで、皆おぼれてしまうことはしたくないよね。 「誰かに自分の人生を踏みにじられないよう、自分の人生を守ろう」という千鶴の言葉ともリンクするような気がする。
 「親に捨てられて苦しんできた。・・・大変だったかもしれないね。でも、成人してからの不幸まで親のせいにしちゃだめだと思うよ」 千鶴の捨てられたという気持ちが、結城くんのこの言葉や美穂の身勝手とも思える行動で少しずつ変わっていく。家族という鎖から解き放たれ、少しずつ前を向けたらいいなと思う。 
 『星を掬う』という題名。きれいだ。最後に、星を掬うという意味がわかって、さらに感動が深まった。
コメント
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