ささやかな幸せ

SUPER EIGHT、本、美術鑑賞、俳句、お茶が好き!
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『高瀬庄左衛門御留書』

2021-07-04 10:52:36 | 
『高瀬庄左衛門御留書』 砂原幸太朗 講談社
 神山藩で、郡方を務める高瀬庄左衛門。50歳を前にして妻を亡くし、さらに息子をも事故で失い、ただ倹しく老いてゆく身。残された嫁の志穂とともに、手慰みに絵を描きながら、寂寥と悔恨の中に生きていた。しかしゆっくりと確実に、藩の政争の嵐が庄左衛門を襲う。
 無難に人生を終えようとしていたら、思わぬことに巻き込まれていく庄左衛門。私は、主人公が淡々としているこの本が好きだな。心にわだかまりを抱えつつ、実直に生きる。物語がどんどんと思わぬ方向へ転がっていき、夢中でページをめくった。今まで関わった人の人生が交差し、大きなうねりを生んでいく。伏線がきれいに回収されて見事。
 庄左衛門と嫁であった志穂との関係もどうなるのかとドキドキ。幼いころの弦之助の姿と現在の姿が二重写しになる場面。裁きの場で強訴の扇動者である幼馴染の名を忘れたと言う場面。どれも印象深い。
「辛うない勤めなどございましょうか」「人などと申すは、しょせん生きているだけで誰かのさまたげとなるもの。・・・されど、ときには助けとなることもできましょう。均して平らなら、それで上等」「選んだ以外の生き方があった、とは思わぬことだ」「すべてを持つ者など、いるわけがなかったな」年を経たからこそ、出てくる庄左衛門の言葉がいい。
コメント
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