花夢

うたうつぶやく

024:牛乳のうた

2006年11月03日 | 題詠2006感想
牛乳と言えば、

先生が牛乳こぼす1組の教室にだけ集まる光
兵庫ユカ(2003年題詠 065:光 より)

が、とても印象に残っていました。
牛乳と光の真っ白さが焼き付けられていて。

みなさんの牛乳の作品もまた、びっくりするほど広がりがあって、とても面白かったです。


冷蔵庫パタン!と閉じるそのたびに背後の闇で波立つ牛乳
五十嵐きよみ

情景がとてもリアルに、立体的に浮かんできました。
それはきっと、誰もが感じたことのある感覚だからなのだと思います。
でも、たいていの人はその瞬間を感じながらも見逃しがち。
背後の闇で波立つ牛乳の存在を、実は感じていながらも、
なにごともなかったように、なにごとも感じなかったかのように日々を過ごしていく。
この作品は、そんな日常のどこにでもある些事にスポットライトをあて、
私たちの感覚を呼び起こさせます。

闇の暗さと牛乳の白さの対比が印象的。
そして、「冷蔵庫パタン!」は、なんとなくヤケっぱち。
そのヤケっぱちさを受けて、背後で静かに波立つ牛乳。



牛乳にはちみつ入れるあたためるあまえたくないのに哺乳類
おとくにすぎな

牛乳を、あまくあまく、あたたかくあたたかくしているのに、
「あまえたくないのに哺乳類」。
うわー。参りました。

自分が潜在的に求めているものは、
実は人間に最初からそなわっている性質のひとつなのだけれど。

求めたくて、でもそれを認めたくなくて、
けれど、心にそれがあることをどっかで認めているような。

ひらがなの多さがやわらかい。
私たちは哺乳類。



牛乳を飲まずに消えたあの日からノラの行方を風も知らない
まゆねこ

ノラ猫は、死ぬときに人の前から姿を消すんですね。
私もノラ猫を手懐けていたので、よくわかりますが、
なぜだろう。
彼らは最後は、きまって姿を消す。

おそらく、この短歌の最後が「風だけが知る」だったら、
私は立ち止まらなかっただろうと思います。

風も知らない 風も知らない

彼の行方を、誰も知らなくていいのです。
いなくなるということは、そういうことだから。


この題詠期間中に、
家に通ってきていたノラ2匹が、相次いでいなくなりました。
そんな個人的な事情も重なり、この作品はとても沁みこんで来ました。



ひいやりとぼくのまんなか降りてゆく牛乳 たぶんここまでは白
里坂季夜

この感覚もよくわかります。
冷たい牛乳は、その降りてゆく道を描くように感じることができますね。
この作品は、それを描いてしまった。
牛乳の白という色で。

暗いよるの、暗いぼくの体の中、食道あたりが白くなぞられている。



ぶちまけた牛乳がもう白すぎてごめんなさいしかくりかえせない
みち。

「ごめんなさいしかくりかえせない」という言葉が、みち。さんらしく、くっきりと残ります。
ぶちまけた牛乳の白さの違和感のように。

ぶちまけてしまった牛乳。
ひやっとするその心に、白い白い牛乳の存在感がどんどんどんどん染みていく。



牛乳にこうふくな膜きっときっと死んでゆく日の朝もあかるい
村上きわみ

暗い中の牛乳が目立ちがちだった他の作品に対し、この作品は、あかるい朝の日の牛乳。
しかもホットミルク。膜まで張っている。
ほっとするような朝。こうふくな膜のはった、あたたかい牛乳を飲みながら、死んでゆく日のことに思いを馳せる。
静かなあかるい朝に落とされたやわらかい影のように。

その日の朝は、ねがうようにあかるい。



今年の冬は、ホットハニーミルクで乗り切ります。
昨日、おいしいおいしいはちみつ購入。

023:結ぶうた

2006年11月02日 | 題詠2006感想
題詠投稿受け付け期間が終了してしまいました。
あちこちで「おめでとうございます!」の声があがっていて、私まで嬉しくなります。
やっぱり参加してよかった、と思っています。
まだまだ感想で走ります。走らねば。


片方がゆくえを消したゆびきりをおもう二月の髪を結うとき
ひぐらしひなつ

「結」という言葉がとてもさりげなく織り込まれているところが美しいと思いました。
さびしさの琴線をなぞったような作品です。

髪を結うというのは、何か大人びた雰囲気と、きりっとした空気を感じます。
そのような整った空気のなかで、失ったものの気配をそっと感じる。
この短歌の持つ空気は、静かで、決してざわめいてはいなくて、
そのぶん、静かな静かなおもいがぽつんと残されている感じがします。



結論は小鳥がひいたおみくじにまかせて二人海を見ている
市川周

なんだか可愛い情景です。
小鳥がひいたおみくじってどんなおみくじでしょう。
そして、それとは関係なく、二人海を見ている。
パステル調のイラストになりそうな光景。

結論はおみくじにまかせちゃっても大丈夫のような二人。
ただ海を見ている二人。
そういう二人。



<振り返り>
このあたりは、題がしっくり来たせいもあり、安定して詠めた時期でした。