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江戸期の別子銅山の素吹では、珪石SiO2源の添加操作はなかった?(11)

2020-05-16 11:36:31 | 趣味歴史推論

2020-5-10に公開したブログ表題(11)は、字の読み間違いがあったので、訂正して、2020-5-16に再度投稿しました。

 表題の(10)では、南部藩尾去沢銅山の素吹1枚に必要な経費とその内訳の一覧を江戸期の古文書「御銅山傳書」1)を読んだ。今回は、その後工程である真吹1枚に必要な経費とその内訳「真吹一枚入方積」2)を読んだ。
真吹一枚(一と吹き)の装入量は、銅鈹100貫目、木炭45~60貫目。得る荒銅は約40貫目、銅歩約30貫目。操業時間21~24時間、従事者は、真吹大工1人、手子1人、炭灰搗1人,計3人であった。

「真吹1枚へ入方積
・ 1貫233文6分5厘
  内訳
  ・63文        前1人御給代
  ・22文2分     前1人御扶持米1升、但し100文に付き4升5合積
  ・2文       前1人味噌30匁、但し100文に付き1貫500匁積
  ・3分          同1人塩1勺、但し1升に付き30文積
  ・53文        手子1人1日御給代
  ・22文2分     同1人御扶持米1升、但し100文に付き4升5合積
  ・2文          同1人味噌30匁、但し100文に付き1貫500匁積
  ・3分       同1人塩1勺、但し1升に付き30文積
  ・30文       すばい1人1日御給代
  ・22文2分     同1人御扶持米1升、但し100文に付き4升5合積
  ・2文       同1人味噌30匁、但し100文に付き1貫500匁積
  ・3分       同1人塩1勺、但し1升に付き30文積
  ・900文        吹炭60貫匁、但し炭灰炭共に 但し10貫目に付き150文積にて如此
  ・74文       鉄200匁、但し1貫文に付き2貫700匁積
  ・3文3分      解ねば3貫匁、但し10貫匁に付き11文積 
  ・12文1分      小土2脊負分、
           但し1日30文御給代1升御扶持米よって22文2分 100文に付き45合 加えみそ30匁よって2文 塩1勺3分
  〆54文5分     1日前 右は小土脊負1人かかり物働定目 素吹2軒へ5脊負1軒へ2脊負半ずつ 真吹2軒へ4脊負 1軒へ2脊負ずつ 跡(都?)合9脊負の定目割合
  ・9文7分5厘    衣莚並びに土莚共に入り用、わり金にて5分 但し1枚に付き19文半積
  ・3文        ほぜり棒(掘ぜり?)1本
 〆

惣〆 11貫753文7分5厘
 右の通りに御座候以上   鉑方
 安永5年申戌月改 」
     

真吹1枚の内訳を合計すると、1貫276文1分5厘となって、頭の金額に比べ、42文5分だけ大きい(3.3%の違いは、計算間違い,写し間違い、読み間違いか?)

内容の検討
1. この定目は安永5年9月改(1776)であった。
2. 解ねば3貫匁.(3文3分)が問題である。前報の素吹では「解礬5貫匁」相当する箇所に書かれており、単価が10貫匁に付き11文と同じである。

先に(2020-5-10)「祢知」(ねち)と読んだが間違いで、「祢ば」(ば=は+濁点)「ねば」であると訂正する。「御銅山傳書」の中にあと1ヶ所だけ「ねば」があった。3)炭入方御定目の内に 素吹で入用な炭220貫目、真吹の炭60貫目に次いで、
ねば  通しねば素吹5貫目真吹3貫目
 小土 素吹2叺(かます) 同 真吹1叺
とある。この「通し」との記述と単価が同じことから、「礬」と「ねば」は同じ物を指していることが分かる。
ねば」は、日本国語大辞典によると、方言で「粘土」(ねばつち)のことである。4)
ねば[粘](名)方言②粘土 岩手県和賀郡 福島市 栃木県 群馬県勢多郡 多野郡 埼玉県秩父郡 三重県志摩郡 島根県 岡山県邑久郡 香川県 愛媛県大三島
「ねば」の真吹での使い方は、素吹と同じであろう。

まとめ
1.  素吹、真吹の定目は安永5年9月改(1776)であった。
2.  真吹にも、珪石の添加操作はなかった。
3.  素吹と同様に、解ねば(=解礬 粘土)が使われるが、炭灰と練られて炉の修繕に使われたと推論した。

注 引用文献
1. 「御銅山傳書」 内田周治 嘉永2年(1849.3.10)写 日本鉱業史料集第10期近世編上/下」(白亜書房 1988))
2. 「真吹1枚入方積」は、「御銅山傳書」(上) p140~144 →図1,2
3. 「ねば」は、(下)p5「炭入方御定目」の内にあり→図3 
4. 日本国語大辞典(小学館 1972)
図1. 「御銅山傳書」の「真吹一枚入方積」-1


図2. 「御銅山傳書」の「真吹一枚入方積」-2


図3. 「御銅山傳書」の「祢知」の部分


江戸期の別子銅山の素吹では、珪石SiO2源の添加操作はなかった?(10)

2020-05-16 11:17:29 | 趣味歴史推論

 2020-5-3に公開したブログ表題(10)は、字の読み間違いに基づく間違いがあったので、修正して、2020-5-16に再度投稿しました。

表題の(8)では、南部藩尾去沢銅山の素吹では、珪石の添加操作がなされていなかったようだと記した。今回は江戸期の古文書「御銅山傳書」1)(嘉永2年(1849.3.10)写し)のうち、関係がありそうな箇所のみを辞典を片手になんとか読んでみた。肝心の1字が難く、筆者の読みが正しいのか、お分かりの方は教えていただきたい。
素吹一枚入方積」2)という素吹1枚に必要な経費とその内訳の一覧があった。実施記録ではないが、必要な費用金額が大小合わせ全て挙げられているので、今の目的には合った書面である。
素吹一枚(一と吹き)の装入量は焼鉑600貫目、木炭は約200貫目。得る銅鈹は80~100貫目、床尻銅25~35貫目。操業時間18,19時間、従事者は、素吹大工1人、床前働1人、吹子指1人、炭灰搗1人、計4人であった。

「 素吹一枚入方積
 ・ 4貫387文2分4厘
  内訳
  ・140文       床大工1人1日御給代
  ・22文2分        同1人扶持米1升、但し100文に付き4升5合積
  ・2文        同1人みそ30匁、但し100文に付き1貫500匁積
  ・3分        同1人塩1勺、但し1升 30文積
  ・110文       吹子2人1日御給代、但し1人に付き55文割合い如此
  ・44文4分         吹子2人御扶持米2升、但し100文に付き4升5合積
  ・4文        同2人みそ60匁、但し100文に付き1貫500匁積
  ・6分        同2人塩2勺、1升 30文積
  ・33文        寸吹1人1日御給代
  ・22文2分        寸吹1人扶持米1升、但し100文に付き4升5合積
  ・2文        寸吹1人みそ30匁、但し100文に付き1貫500匁積
  ・3分        同1人塩1勺、但し1升 30文積
  ・519文7分5厘      炭灰4斗 この炭34貫650匁、但し10貫匁に付き150文積
  ・31文        炭灰1人(3分3厘?)1日御給代、但し1ヶ月1人に付き700文候  但し1人働定目3升の割合
  ・23文6分2厘       炭灰1人(3分3厘?)御扶持米1升6才4(弗)、但し(1人に付き8合ずつ?) 100文に付き4升5合積
  ・2文2分       炭灰1人(3分3厘?)味噌33匁(2分5厘?)、但し100文に付き1貫500匁積
  ・3分9厘       同1人(3分3厘?)塩1勺3才3(弗)、但し1升に付き30文積
  ・5文8分5厘      衣莚(ころもむしろ)3(枚)分、但し1枚に付き19厘5(毛)積
  ・3文7分5厘      返し木5(枚)分、但し1枚に付き7文半積
  ・1文5厘      鍰板7(枚)分 1枚に付き15厘積
  ・15文1分3厘      小土2脊負半、但し1日御給代 1人に付き30分 御扶持米1日1升候22文2分味噌30匁代2文 塩1勺代3分 
  ・54文5分      但し1日分已に合計を以て如此
            但し1日9脊負の定目 素吹2軒へ5脊負 1軒へ2脊負半ずつ 外 真吹2軒へ4脊負 1軒へ2脊負候分
  ・5文5分      解礬5貫匁、但し10貫匁に付き11文積
  ・74文         鉄200匁、但し1貫文に付き2貫700匁積
  ・3貫300文       吹炭220貫匁、但し10貫匁 150文積
 〆
 真吹1枚へ入方積
 ・ 1貫233文6分5厘
  内訳
  ・63文       前1人御給代
  ・22文2分     前1人御扶持米1升、但し100文に付き4升5合積
  以下略 」

 素吹1枚の内訳を合計すると、4貫418文1分9厘となって、頭の金額に比べ、30文9分5厘だけ大きい(0.7%の違いは、計算間違い,写し間違い、読み間違いか?)

内容の検討
1. 鍰板7(枚)は、焼鉑と一緒に仕込んで、早く熔けやすくするためであろう。大きさは、長さ1尺7寸幅8寸(51×24cm)厚みの記載なし 厚み1cmと推定すると、比重4.4なので、5.4kgとなる。すなわち1.44貫となり、7枚では10貫仕込んだことになる。3)
2. 解礬5貫匁 が問題である。まず「礬」と読んだのであるが、正しいのかどうか。解礬5貫で5文5分と安価であるのでたやすく入手可能なものである。同じ字がこの傳書の中に1ヶ所だけあった。
「解き礬御買は入の節 小石なき処よく解け候よってごの之有り処を脊負すは申すべき第一なり」3)
「解き礬」の読みは(ときばん ときはん)か。文中の「ご」の言葉もなじみがないが、辞典によると、「ご」は、枯れ落ちた松葉のことである。4) 
小石が入っていない部分は、解けやすいから、山から礬を採取して背負う場合は、枯れ落ちた松葉があるようなところをすべきであることが重要な事だと解釈した。ここで、「解く」とは、「高温炉中で熔ける」、「水に溶解する」、「細かく割る」、「解きほぐす」などどれを意味するのか。

「礬」でないかもしれないと思い、似た字で、下が石でなく、土の字を大漢和辞典で探した。1字だけあった。6)
「」あぜ、くろ、つつみ 
ここは、やはり「礬」の方が適当である。
次報(11)「真吹一枚入方積」で、「礬」=「ねば」(粘土 ねばつち)であることがわかった。
「礬石」(ばんせき)であれば、明礬石である。しかし明礬石を粘土と思うことはないであろう。「礬土」(ばんど)であれば、アルミナであるが、当時は元素がまだ発見されていなかった時代であるから、アルミナを指すのではないであろう。「礬」(ばん はん)で、ある種の土壌すなわち粘土を表していたと結論した。方言や山言葉だったのかもしれない。
3. 「小土」は、粉土を指していると思われ、読み方は、(こなつち こど こづち こひじ)のどれであろうか。辞典には「小土」はなかった。なお 「泥」(どろ)を「こひじ」ともいう。「こづち」は「壌」があてられている。7)
4. 「解き」となにか。床(炉)を毎回修繕するための 炭灰(すばい)が、木炭の粉(炭灰)と小土とを「ねば」(粘土)を混ぜて解きほぐすことを意味しているのでなかろうか。
以上の事から推論して、礬(=ねば 粘土)は、炉に仕込まれたのではない可能性が高い。

まとめ
「御銅山傳書」の素吹一枚の必要経費を記した書面を読んで以下のことがわかった。
1. 珪石の添加操作はなかった。
2. 鍰板7枚(推定10貫目)を添加していた。早く熔けやすくするためであろう。
3.   「礬」5貫が使われるが、「礬」とは「ねば」粘土のことで、炭灰と練られて炉の修繕に使われたと推論した。

お願い
「解礬」「小土」の正しい読みや意味するもの、使い方を知る方は教えてほしい。

注 引用文献
1. 「御銅山傳書」 内田周治 嘉永2年(1849.3.10)写 日本鉱業史料集第10期近世編上/下」(白亜書房 1988))九州大学工学部資源工学科所蔵の内田家文書
  尾去沢銅山は明和2年(1765)南部藩の御手山(直営)となり、それ以降の銅山に関連する稼行仕法の秘伝、定法、定目をとりまとめた筆写本が「御銅山傳書」である。
2.「素吹1枚入方積」は、「御銅山傳書」(上) p135~140 →図1,2
3.「 鍰板」は、「御銅山傳書」 (下)p71 御買入品寸法定法 ・鍰板 長さ1尺7寸幅8寸 10訂にして

4.「解き礬」は、(上)p116「床屋御役所勤務覚」の内にあり。→図3 
5.「ご」(古語辞典 改定新版 旺文社1988)                                                                    

6. 大漢和辞典(大修館 1958)

7. 大辞典(平凡社 1936)

図1. 「御銅山傳書」の「素吹一枚入方積」-1


図2. 「御銅山傳書」の「素吹一枚入方積」-2


図3. 「御銅山傳書」の「解き礬」の部分