大腸菌が生む「石油」
2050年への選択(3)
2015/4/5 2:00
幅約2000分の1ミリメートル、長さ約500分の1ミリメートル――。縦長の楕円形をしたこの微生物は大腸菌だ。人間の腸内など自然界に無数に存在し、誰でも一度は聞いたことがあるだろう。この大腸菌を使って2050年のエネルギー事情を一変させるかもしれないプロジェクトが進行中だ。
横浜市鶴見区にあるバイオベンチャー、ジナリスの実験室。ビーカー内の乳白色の液体が専用装置でかき混ぜられていた。数時間後液体は茶色に変わった。ビーカー内にある大腸菌が活性化し、新しい物質を作り始めたのだ。
■「残りかす」を利用
食中毒など悪いイメージが先行する大腸菌だが、大半は無害。むしろ単細胞のため遺伝子を操作しやすく、研究者の腕一つで様々な能力を備えた「スーパー大腸菌」に変身させることが可能だ。
ジナリスはこの大腸菌を使って廃ペットボトルから工業用の材料を試験的に作っている。使用済みのペットボトルは繊維などの製品に生まれ変わることで有名。だが、それでも再利用できない廃液などの「残りかす」が出てくる。
この残りかす。まだペットボトルの主成分などが、取り出せずに中に残っている。大腸菌の遺伝子を操作して、こうした成分を分解する能力を植え付け、半導体材料やペットボトルの原料としてよみがえらせるというからくりだ。
ジナリスを率いるのは旧協和発酵工業出身の農学博士、西達也(60)。汚い物をきれいにしたり新しい特性を生み出したりする微生物のとりこになり、2001年に協和発酵を退社。翌年、4畳の自宅の一室から同社を立ち上げた。
様々な微生物を研究するうち大腸菌の能力に着目。廃ペットボトルから材料を取り出せば石油の使用を大幅に減らすことができると考えた。現在、樹脂などの工業用材料の多くは石油由来。今のペースで消費が続けば石油は40~50年後に枯渇するとされる。日本は世界の資源の約4%を消費するが、大半を輸入に頼る「持たざる国」である。
大腸菌を使ったリサイクル手法が確立すれば樹脂用の石油使用量は今の10分の1になる可能性がある。近い将来、「廃棄物でなく、植物と大腸菌を使い石油由来と同等の原料を作ることも可能だ」と西は言う。微生物がエネルギーの未来を左右する。
中国や米国などに次ぐ世界有数のエネルギー消費国でありながら、エネルギー自給率は約6%にとどまる日本。そんな持たざる国ゆえの苦悩が新たな発想を生む。今、素材分野で静かに革命が起ころうとしている。
■鋼鉄より強い糸
山形県鶴岡市にある大学発ベンチャー、スパイバーの研究開発施設。機械からはき出された「クモの糸」が次々に巻き取られていく。本物のクモが吐いた糸ではない。クモの遺伝子を組み込んだ微生物が作ったたんぱく質。それを糸状に加工したものだ。
スパイバーはたんぱく質を量産して糸にするまでの一貫技術を持ち、世界のメーカーから注目を集めている。その理由は糸の強じんさにある。軽いのはもちろん、重さ当たりの粘り強さ(頑丈さ)は鋼鉄の約340倍、アルミ合金の300倍。産業利用が拡大する炭素繊維複合材(CFRP)と比べても20倍だ。
さらに天然のたんぱく質だから、化学繊維や樹脂のように枯渇懸念のある石油も使わない。生産工程でも大量のエネルギーを消費しない。とくに資源不足に悩む日本にとっては「夢の素材」というわけだ。
たんぱく質を構成するアミノ酸の配列を組み替えることで、様々な用途の糸ができる。例えば軽さと頑丈さの両立を求められる鉄道車両や航空機の胴体、衣料向けも有望で、2020年までの採用を目指す。
すでに内外の企業からの引き合いも増えており、「金属やCFRPにとって代わる『たんぱく質産業』を2050年に実現させたい」。社長の関山和秀(32)は抱負を語る。
■究極の循環社会
「究極の循環型社会」。日本環境設計(東京・千代田)が目指すのはそんな未来像だ。不用になった衣料やプラスチック製品から石油と同等程度の品質を持つエタノールを取り出す異色の技術を握る。このエタノールを使って再びプラスチックなどを生産し、使い終わればまたエタノールにするという流れだ。
「このリサイクル経済圏を作れば、2050年には日本はもう石油を輸入しなくてもよくなる」。社長の岩元美智彦(50)はこんな持論を唱える。
リサイクル経済圏はすでに広がりをみせる。同社はイオンやビックカメラ、スターバックスコーヒージャパンなど約40社と提携。現在、1千カ所で衣類などの製品を回収しており、愛媛県今治市の工場でエタノールに変えている。
2020年をめどに回収拠点を10万カ所に増やす計画。現在、不用品の原料を3割しかエタノールにできないが、20年にはこのリサイクル率を9割に引き上げるべく技術開発を急ぐ。
国際民間組織ローマクラブが1972年、天然資源の枯渇や人口増大を背景に人類の危機を警告したリポート「成長の限界」。約40年後の今日、その危機は深刻さを増している。エネルギーを持たざるがゆえ、創意工夫に富む日本が素材革命を先導すれば「成長の限界」をいち早く乗り越えられる可能性が出てくる。(敬称略)


桜🌸は数日の☔雨で、殆ど散ってますが、通学路のチューリップ🌷が見送ってくれています⁉

素材の甘みに子どもが大喜び、炊飯器で極上さつま芋
- 2015/4/2 6:30 子ども達が大好きなおやつ。成長盛りで何でも吸収してしまう子ども達に、スナック菓子やジュースではなく、体にいいものを食べさせたいと考えるママ・パパは多いでしょう。忙しいママ・パパのために料理の達人から伝授してもらうのは、週末にささっと作れて、しかも子ども達が大喜びする「簡単ヘルシーおやつ」。料理教室が常に予約待ち状態という人気料理研究家の浅倉ユキさんに、自身の3人のお子さんにも好評という、とっておきのおやつを教えてもらいました。
■ちょっと蒸すだけで甘みが倍増する蒸しりんご
―― 浅倉さんは中学生、小学生と育ち盛りのお子さんが3人いますが、普段はどんなおやつを用意していますか?
浅倉ユキさん(以下、浅倉) スナック菓子や市販のスイーツを食べることもありますが、なるべく手作りするようにしています。とは言っても、手の込んだものは作りません。
例えば、蒸し台を入れて水を張った鍋に、くし形切りにしたりんごを並べ火にかけるだけの「蒸しりんご」。男の子なら、うどんや唐揚げ、お好み焼きなどです。蒸しりんごはとろ~んと軟らかくなって、甘みが倍増し、子ども達に大人気なんですよ。
―― りんごは普通にむいて食べてもおいしいですが、蒸すと子どもが喜ぶ甘いおやつに変身するのですね。
浅倉 オーブンで焼くとなると時間がかかって大変というイメージがありますが、蒸すのは3~4分火にかけるだけ。至って簡単なんです。 かかる手間でいうと、さらに簡単で、今やわが家の定番となったおやつを今日は紹介しますね。
皆さんのために、準備しておきました。ちょうど出来上がったころかな。まずは召し上がってみてください。
■わが家でさつま芋といえば、炊飯器
―― あれ? 炊飯器の中にさつま芋が入っていますね。さつま芋をごはんのように炊いたんでしょうか?
浅倉 そうなんです。さつま芋を洗って皮付きのまま入れ、半分隠れる高さまで水を足してスイッチオン。そのまま1時間半から2時間ほど炊き上がるのを待つだけの簡単スイーツです。シンプルだけど、これがまたおいしいんですよ。
―― 本当だ。まるで石焼き芋のようなねっとりとした濃厚な甘みが……。炊飯器でこの味が出せるなんて。
浅倉 圧力鍋や電子レンジなど、さつま芋をふかす調理機器は色々ありますが、調理機器によって味が全部違うことをご存じですか? 私、様々な機器を使って実験してみたんです。家庭にあるどの機器を使えばいいのか、どのくらいの時間火を入れたらいいのか。そして、その答えを探し出しました。
それは、炊飯器が一番おいしくできるということ。今では、わが家でさつま芋といえば、炊飯器です。
さつま芋の酵素は、高温で一気に加熱すると糖化を止めてしまいます。だから、糖化が止まらないよう、いかに時間をかけてじっくりと温めるかが重要。電子レンジはいきなり中心から温めるし、鍋は熱の伝わり方が早過ぎます。石に移した熱を、またさつま芋に移す石焼き芋って理にかなっているんですね。
家庭では石焼きの代わりに炊飯器でじっくりと温めるのが一番です。砂糖を一切加えなくても、さつま芋だけでまるでスイートポテトみたいに甘くなります。
―― 炊飯器によって時間は異なると思いますが、1時間半なり2時間なり、スイッチを押した後の時間は放っておいて何もしなくていいんですよね。それなら時間も有効に使えそうです。
■まとめて作れば普段の夕食メニューの幅が広がる
浅倉 炊飯器は水が無くなったところで保温に切り替わるので、空だきになる心配も無いですよ。ただ、せっかく時間をかけるので、わが家では仕事が休みの日に2~3本まとめて炊飯器に入れて炊くことが多いです。
まずは休日に家族でそろって、炊きたてのホクホクをいただきます。そして冷めると包丁を入れやすくなるので、残った分はスライスしておきます。ここまでしておけば、平日仕事から帰ってきてからお料理に使うのが簡単。お味噌汁に入れると、ほんのり甘くなるし、角切りにしてごはんに混ぜると芋ごはんになります。芋ごはんはごま塩をかけると翌日のお弁当にも使えます。
まだまだあります。スライスしたものにホワイトソースをかけるとグラタンに、潰して丸めればコロッケに。ポタージュも子ども達に好評です。豆乳と一緒にジューサーに入れて撹拌するだけで、塩で味付けをしなくても、さつま芋の自然の甘みで十分においしいです。
私の留守中は、子ども達が焼きポテトにして食べることもありますよ。スライスした芋の両面を焼いてお好みで塩や砂糖を振りかけると、全く違う味に変化するので何度でも楽しめます。
―― 冷めてしまっても、何変化にもなるので無駄が無いんですね。フルーツやさつま芋は、旬ならではのうまみも取り入れることができて、子どものおやつにぴったりですね。
浅倉 最近、国を挙げて「食育」に力を入れていますが、そういう意味でも、おやつを通して子ども達の食への関心を育むのはとても大切だと思います。例えば、「そろそろ、さつま芋が甘くておいしい季節だね」「身は太いほうがおいしいんだよ」と会話の中にさりげなく素材などの話を忍び込ませます。
わが家では、「炊きたてがおいしいから、3時のおやつを目指して炊飯器に入れようね」と子ども達に言うと、お昼ごはんを食べているころから、炊飯器の存在が気になってソワソワしていますよ。食への関心を養うのは、そういうことから始まるのかなと思います。
■手作りおやつを出さなくても悪い母ではない
私は職業柄、年間2万人のママ達にお会いして話をします。その中で驚くのは、「仕事を言い訳にして、手作りのおやつを作ってあげられない自分は悪い母親」という罪悪感や劣等感を持つお母さんが実に多いということ。そんなママ達はその罪滅ぼしのために、スナック菓子など子どもが喜ぶおやつを常備しているんです。
あとは手作りにこだわって、作れるときは子ども達の好きな砂糖や生クリームをたっぷり使ったケーキを作るなど、サービス過剰になってしまうケース。手作りしてまでそんなおやつを毎日食べさせることが、果たして子どもにとって健康的なことなのでしょうか。それなら、何も与えないほうがよほどいいです。
ちょっと振り返ってみてください。あなたが子どものころ、ママは毎日、手の込んだ手作りお菓子を出してくれていましたか? 今のように便利な家電も無い時代でしたから、家事はもっと忙しかったはず。恐らく多忙な日常で、そんな家庭はごく少数派だったはずです。
週末だけでも、おやつの時間を子どもと一緒に楽しめればいいと思っています。罪悪感を持つ必要なんて全くありません。それに、手間暇かけて一生懸命作ったのに食べてもらえず、妖怪ウォッチのおまけが付いたスナックや当たりが出るアイスクリームのほうがいいなんて言われたらショックですよね。それで子どもを叱ったりしたら、それこそ本末転倒です。
今回紹介したのは、手間が全くかからず、素材そのもののおいしさが体に染み入る極上スイーツ。ぜひ、子ども達と一緒に作ってみてください。