「北斎漫画」の「素麵」を墨・面相筆を使って模写してみました。(半紙大)
水性ボールペンを使っての“点景人物”の練習をしていましたら、
ネット上で『北斎漫画』なるものがあることを知りました。
葛飾北斎と言えば、世界的に有名な、大波の間から遠く富士山が見える「神奈川沖浪裏」
などの『富嶽三十六景』は知っていましたが、
恥ずかしながらこちら漫画の方は知りませんでした。
ネットで見ていると何やら物凄いものを感じ、
原本15編を3巻に再編集して纏めた『北斎漫画』(青幻舎 2010.12初版)を
取り寄せました。
開いてびっくり、まずはそのモチーフ対象の多さに圧倒されました。
青幻舎版の巻頭解説によれば、
「北斎漫画」というタイトルも、
(今流のストーリーをもった所謂“漫画”ではなく、)
「漫然と描いた画」に由来するとのことで、
(以下趣旨引用)「元々、北斎が弟子たちに絵の手ほどきをするための教科書として描いた絵手本だ。
ところが弟子ばかりでなく一般庶民にも人気を博し、江戸時代のベストセラーになり、
その後も続編の刊行は続き、全15編が刊行されたのが、初刊から64年、
当の北斎没後19年目にしてのシリーズ完結で、紛れもなくロングセラーでもあった。
その内容も他に例を見ない。まずそのボリューム。
総ページ数970,収録された図版数は4000を下らない。
そして描かれている主題も実に多種多様。
描けぬものは何もないと言わんばかりに
人物から動植物、風俗、職業、市井の暮らしぶり、建築物、生活用具、名所・名勝、
天候などの自然現象、故事や説話、歴史上の人物、妖怪から幽霊まで描きつくした。
しかも描法も一筆書きで描いた略図から、厳密に描き上げた画、
動きを意識したアニメーションや漫画のコマ割りまで登場する。
もはや絵手本というよりも、むしろ百科事典といった体裁である。」(引用終わり)と。
この「北斎漫画」、
19世紀前半にはオランダ商館医のシーボルトなどにより西欧に伝わり、
19世紀後半同地において巻き起こった「ジャポニズム旋風」(浮世絵でも錦絵が中心)
の引き金を引く役割を果たしたとのことです。
その約4000の中の1コマ“素麺”を模写しました。
長い素麺を豪快に食べる二人の男の所作がたまらず、チャレンジしてみました。
手や足の表現も参考になりそうです。
最初は比較的操作が容易そうな水性ボールペンで描き始めましたが、
原画は“墨”ではと思い直し、“面相筆”での再挑戦。
しかし、自分の力では直接筆で描くのは無理なので、
鉛筆で下書きをし、その上に半紙を乗せ、なぞっての模写作業、
と相成った次第です。
この模写作業だけでも大変なのに、
こういう素麺を食べる光景を題材として考え、
それを大胆かつ精緻にしかもスピーディーに筆で表現する
・・・素麺や着物の柄線なども、自分の模写とは違って、もっともっと斉一です・・・
信じられないことです。
北斎は90歳になるまで描き続けたとか。
これからもこの漫画集の内容だけでなく、残り人生を生き抜くエネルギー源として、
もろもろの力をもらいたいと思います。
それにつけても江戸の素麺はなぜこんなに長かったのでしょうか・・・?
この説明を読むまで葛飾北斎にこのような作品があることも知らず、日本の文化の奥深さを知ることができました。
この作品その繊細なタッチや力強さ、衣服の細かい描写、誇張とすら思える素麺の長さなど、模写とはいえ素晴らしいものと思います。
北斎は90歳まで制作をつづけたとのこと、作者も負けていない探求心の塊と感じます。
御謙遜していますが、素晴らしい出来だと思います。
素麺に向かう姿勢とでも言いましょうか、食べることへの執念とでも言いましょうか、が表情にも姿勢にも良く出ていますよね。それを見事に模写されていると思います。
何処かの線の描き方・太さ・細さが少しズレただけでも絵の雰囲気が変わると思いますが、線の勢いとでも言いましょうか躊躇なく描かれていて気迫が感じられます。