MATTのひとりごと

ご覧いただいた際に何か一言でもコメントを残していただけると励みになりますのでよろしくお願い致します!!

ナイルガット「発見」のいきさつ。

2005年12月23日 | 

現在でこそAquila社のNylgut弦はたくさんのプロ、アマのミュージシャンが愛用する「ウクレレ弦」の一角を占めるようになりましたが、この弦を「発見」した当時には、今日の姿を想像することなどできませんでした。そしてこの「現在の姿」の陰には友人のshinfujiさんによる詳細な研究レポート(「ukuleleといっしょ」内の「ukuleleな研究」13~17、)と、同じく友人のコバさんの普及活動が大いにチカラとなっていることをお礼とともにご紹介しておきます。

もともとウクレレ誕生(1879年)から第二次世界大戦までの間、ウクレレに使う弦の素材としてはほとんどガット弦が使われていました。ガット弦というのは羊の腸を縒り合わせて作った「糸」や「紐」のことで、楽器用の弦やテニス・バドミントン用の網として使われたわけです。ただ、このガットは天然素材であるために温度、湿度や摩擦に弱く、楽器に張った場合、周囲の温湿度の影響を受けてピッチ(音の高さ)が狂うばかりか、フレットに擦れてちょっとでも傷がつくとすぐに切れてしまうという大きな欠点をもっていました。

第二次世界大戦中にガットが入手困難となったときに、わが国では三味線の「糸」をウクレレ用の「弦」に代用したことがありました。しかし三味線の「糸」も天然素材である絹を用いていたため、ガット同様切れやすい欠点をもっていたのです。

一方そのころ米国のデュポン社が画期的な合成繊維「ナイロン」を開発しましたが、このナイロンがウクレレはもちろん従来ガットを使用していたギターその他の弦楽器用として最適であったために、またたく間に楽器用の弦として重用されるようになりました。

NUAの創設者灰田有紀彦氏の高弟であった渡辺直則氏が灰田さんから聞いた話によると、一回のステージで2回、3回とガット弦が切れていたのが、ナイロン弦になってからは忘れたころに切れるまでになったので「戦後強くなったのは○○とウクレレの弦ですね」と言っておられたとか。

私がウクレレに目覚めて以来(・・・っていつの時代?)ガット弦(および代用品としての三味線の「糸」)というものに興味を持ち続けていました。そしてあるとき二つの出来事がほぼ同時に起こったのです。ひとつは親しくしていただいていたウクレレの名工であるカヴィカさん(家宝のウクレレ2参照)から秘蔵の「ウクレレ用ガット弦」を頂戴したこと、そしてもうひとつは米国の友人でウクレレのコレクターであるロバート・ウィーラーさんから、かれのコレクションのウクレレにそれぞれガット弦を張って演奏したCDを頂戴したことでした。(写真のCDです)。
このCDで初めて聴いたガット弦の音は「ウクレレ本来の音はこういうものなんだ!」と納得させられる音でした。そしてカヴィカさんから頂戴したガット弦を手持ちのウクレレに張ったのですが、残念ながらちょっと古かったようで十分なテンションで張ることができなかったのです。(つまり、切れやすかったのです)。
そこで、当時はまだネットからの情報も潤沢には得られなかったのですが、やっとのことで数社のガット弦メーカーを探し出し、それぞれのメーカーからいろいろなゲージ(太さ)のガット弦を購入し、手持ちのウクレレに次々に張っては鳴らすようになり、上で触れた「ガット弦の欠点」も再認識いたしました。なお「ガット」というのは羊に限らず「腸」のことを指す単語です。以前コバさんに教えてもらったのですが「キャット・ガット」と称して猫の腸線をウクレレに張った、という記事が雑誌に載ったそうですが、次に紹介するAquila社に問い合わせたところ、この会社の「ガット弦」は極細のものからコントラバス用の極太のものまですべて羊の腸から作っているそうです。

そして1990年代の後半にそれらのガット弦のメーカーのなかでAquilaというイタリーの会社が「世界初の人造ガット弦Nylgut」を開発したと発表しているの知って、これまたいろいろなゲージのNylgut弦を購入しました。もちろんAquila社の発表ではこの弦をリュートなどの古代からのクラシック音楽用楽器でつかうガット弦の代用として紹介してあるだけであり、私自身もこの「代用品」には大して期待していませんでした。

ところが届いたNylgut(当時は「ニルガット」なのか「ナイルガット」なのかさえ知りませんでした)弦をウクレレに張ったところ、ガットの代用というよりはまったく新しい分野を感じさせるクリヤーな音が得られたのには本当にビックリしました。そこで、カヴィカさんから頂いた古いガット弦や私が収集した三味線の糸などといっしょにshinfujiさんの研究所?に持ち込み、それぞれを解析していただいたのです。「ukuleleな研究13~17」をご覧頂くと分かりますが、shinfujiさんはいろいろな測定装置を駆使して丁寧な研究をしてくださいました。この研究結果がNylgutの普及活動に大いに役立ったのです。

私が集めたたくさんのゲージのNylgut弦をそれぞれ「スタンダード用」「コンサート用」「テナー用」等々いろいろなセットにまとめ、内外の演奏家や販売店にタダで(涙!)バラ撒きました。この作業では私が主としてオータサンやぷあぷあを始めとした海外の演奏家や販売店を、そしてコバさんがアキオ楽器やそこに顔を出すミュージシャン達に配布する、という分担になっていましたが、この際shinfujiさんのレポートを弦のエンベロープに納まるサイズの冊子

にして添付したことが普及のための武器となりました。海外にもこの研究を紹介する目的でAquila USAのCurtis Dailyさんにも英訳を手伝っていただきました。

この「普及活動」にもかかわらず始めの1~2年はあまり反響がなかったので、ちょっと落ち込んだ時期もありましたが、しばらくしてご本家のAquila社にも私が作成したセット(写真参照)が流れていったようで「日本でこれだけ頑張っているのだから儲かるかも・・・」とAquila社も「ウクレレ弦セット」を各種発売することとなったことを受けて私たちの「普及活動」は終焉を迎えました。でも可哀そうだったのは、普及活動に協力してくれたAquila USAのCurtisさんはイタリーの本社から「もともとの代理店契約の項目にないから」という理由でウクレレ弦の販売を許可されなかったそうです。そしておなじことがコアロハでも起こりました。当時はパパをはじめとして皆さんNylgut弦に惚れ込み、Aquila USAと大量購入の話まで進行していたのですが、同じ理由で購入ができなかったことで、この弦の安定供給が心配になったそうで、採用を断念しました。

最近になってこのナイルガットを標準装備するウクレレがいろいろとあらわれてきましたので、そのひとつであるブッシュマン・ウクレレをご紹介しておきます。

ところでこの弦の素材はどのようなものなのでしょうか。NylgutとあるのでNylon(ナイロン)の親戚のような響きですが、比重が違うことと音色もナイロンよりも硬いこと、さらにはナイロンより切れやすい、等々どうも別の素材のようです。Aquila社からは単に「自動車のダッシュボードなどでよく使われている素材」とだけ発表されています。自動車のことは良く分からないのですが、密度(比重)の数値から推定してポリアセタールではないか、と思っていました。
でも分析技術が発達した現在、私のためにこの素材を分光分析してくださったかたがおられます。その結果から判断すると極めて一般的なプラスチックのひとつであると推定できましたが、私自身この弦をつくるつもりはありませんので、データを頂いたことだけで満足しています。

私とこのNylgutとの偶然とも言える「出会い」が現在の「ウクレレ用Nylgut弦」につながったことは大変嬉しい出来事です。

まいたけさんの「ウクレレ錬金術」の2002年7月の記事で「こうして見ると、Nylgut弦の伝道者MATT小林さんはまたウクレレ界に残る偉業をひとつ残したのではないでしょうか?!」と過分なお褒めの言葉を頂いてしまいました。しかし「また」というからには複数の出来事なのでしょうがほかにはちょっと思い当りません。(汗)

コメント (12)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« お世話になったウクレレ2台 | トップ | あけましておめでとうござい... »

12 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ナイルマット (きま)
2005-10-23 23:34:06
家に有る殆どのウクレレに、張ってある白い弦。

黒いナイロンの弦とも、フロロカーボン弦とも違う、心地よい響きは大発見でしたね。



きっとウクレレの歴史の本(そう言う本が有れば、、、)に刻まれる、ウクレレ界のコロンブス、、(バスコ・ダ・ガマかも)と末永く語られる事でしょう(汗;汗)。
返信する
「ブス」よりは「ガマ」にして! (MATT)
2005-10-23 23:50:53
どうしても前者だと女性を連想してしまうので・・・(連想するのがイケナイのですが・・・)
返信する
ウクオーナーの責務。 (shu-san)
2005-10-24 00:29:14
マイウクに最もふさわしい弦を見つけてあげるのはウクオーナーの責務と小生は思っています。



そういう小生のウクはみなナイルガットになってしまいました・・・。





返信する
弦の可能性はまだまだあると思います。 (MATT)
2005-10-24 17:03:18
ナイルガットに限らず、ワースの高橋さんのように5社のメーカーからフロロカーボンを入手して検討したり、ベース用のシリコンゴム弦に代わる素材としてのポリウレタンの研究をされるかたもおられますし、RYUさんのように九州まで手を廻してフロロカーボンの釣り糸をいろいろと検討しているかたもおられます。

世の中に存在するプラスチック素材はまだいくらでもあるので、今後も弦の分野は発展の余地があると思います。
返信する
まだ試行錯誤。 (ゆたか)
2005-10-24 19:22:33
良い楽器はナイルガット、古い楽器は羊ガットなど色々試して遊んでます。こないだ、マルチフィラメントの人造ガットと言うことでバトミントンのガット張ったらしょぼい音でがっかり。銅線巻きの羊ガット ルクスラインは合う楽器では良い感じです。 戦後丈夫になったもうひとつの方を細くして張ったらどうなるのでしょう。 今度試してみましょう。
返信する
それは極めてキケンです! (MATT)
2005-10-25 08:03:40
> 戦後丈夫になったもうひとつの方を細くして張ったらどうなるのでしょう。 



「○○」は丈夫すぎて細くならないのでは?
返信する
ラーメンから白メンにシフト (ユージ)
2005-11-01 01:54:21
ニッシン教室のユージです。お盆の練習会の場で、ウクレレの構え方やストローク等をご指導戴き有難う御座いました。その後、右手人差し指のハジキや親指のタメに注意して練習を続けた結果、現在は高速のバトキン(もどき)が出来るようになりました。還暦を過ぎてもなお『発展途上人』の仲間である事が判り、とてもうれしく思っています。 お時間が御座いましたら、是非また日進へお越しください。



アツ、ここはナイルガットのコーナーでしたね。 

ナイルガットと言えば、先週に続き今日も、日進教室の仲間から頼まれたコンサート弦セットを2パック買いに、御茶ノ水まで出かけました。顔馴染みの店員さんいわく『ナイルガットを購入する客が近頃増えている。おまけにまとめ買いをする人も居る。その為イタリーに追加注文を頻繁に出すのだが、最近は入荷する数が発注数より少なくて、直ぐに品切れになる』、『ナイルガットを採用するウクレレメーカが増えて、供給がタイトになっている様だ。その為、楽器店への出荷が絞られているんだろう』との事でした。 

実際、先週入荷したばかりのコンサート弦はもう1パックしか残っていませんでした。 仕方なく依頼された残りの1パック分は、テナー8弦用セットを購入しました。 (円高時に仕入れた売れ残り品なのでコンサート弦セットと同値の特価でした) 8弦セットにはコンサート用と同径の弦が一組入って居る事は、以前Aquila本社のPeruffoさんから送って戴いた資料で判っていたのです。

われらニッシンでも白麺-ではなくこの白弦が急速に増殖中です。



話は変わりますが、『テンションの事に気を配らず、闇雲に新種の弦を張ると、サウンドホール周りを変形させる事があるよ』ーーと云う話をアキオ楽器で聞いた事があります。

最近6弦テナーを購入したのですが、ナイルガットに張り替えるに際して、総合テンションの事が気になり、計算に必要なナイルガットの比重(素材密度)を検索しまくった結果、実測値が載ったオーダーメードのウクレレメーカーのサイトを見つけました。

実測結果は約1.32g/cm3=1320kg/m3、因みにフロロは約1.82g/cm3と有りました。

テンション計算はAquila本社ホームページの『Arto's String Calculator』を使いました。 Aquilaは弦のバラ売りをしていますので、テンション計算が出来ると合理的な弦のセッティングが可能になりますね。

例えば、私の6弦テナーの3コース(C弦)は2弦間の直径差を出来るだけ少なくしようと思い、Calculatorを使って50NGと0.81mmフロロの組み合わせに決めました。テンションはそれぞれ5.35kgと4.84kgです。 ウクレレ保護の為に6弦合計テンションは、オリジナルのナイロン弦(密度1.12g/cm3)の場合と同等になるように、他の弦の径を選択しました。



私も長文ですね、申し訳ありません。これはきっと私の血液型のせいです。 因みに私の血液型は440HZです。 MATTさんは--?

返信する
ユージさん ようこそ! (MATT)
2005-11-01 09:55:08
ユージさんがネットからいろいろな情報を発見してはご紹介くださっているので、いつも助かっています。

ナイルガットも万能な弦ではありません。まずローG用としてはちょっと太すぎるのでブリッジにセットバックをつけないとピッチが狂います。このためにローG弦としてだけフロロカーボンを使う方がおおいのですが、どうしても音色がつながりません。

逆に1弦用として細い弦を使うとフレットとの摩擦で切れ易くなります。

このあたりはやはり「釣り糸」として使われるフロロのほうが優れていますね。

フロロをウクレレ用の弦として商品化し、コアロハにも採用されることになったワースの高橋さんに開発の苦労話をうかがったことがあります。プラスチックとしての使用量が極めて少ないこの弦の開発を5つもの会社に依頼するという努力には頭がさがりました。みなさん良い音を求めてがんばっているんだなぁという印象でした。



また長くなりそうなのでこのへんで。あ、血液型は違ってます!
返信する
ついでと言ってはナンですが (ユージ)
2005-11-01 11:14:42
以下は、Nylgutとフロロ(Worth)の比重(密度)を真面目に計算しているサイトです。

http://www.ukuleles.com/spreadsheets/

このページの17番目と18番目の表計算書があります。

ホームページはhttp://www.ukuleles.com/です。



AquilaUSAのCurtis Daily さんはテンション計算に以下のフリーソフトを使っているそうです。(但しWinしか使えない。)

http://homepages.enterprise.net/wadsworth/software.htm



所で、巻き弦はNylgutベースの"TypeD"が高次高調波が適度に抑えられ、耐用寿命も長く従来の物と一味違って良さそうなのですが、何かご存知でしょうか。

返信する
早速情報をありがとうございます。 (MATT)
2005-11-01 11:50:13
ユージさん 最初の情報のデータ測定用資料は私がカヴィカさんに差し上げたものなのです。彼もナイルガットに興味をもっていたのでそれじゃ、と提供しました。

カーチスさんには大変お世話になったのですが、本文中にあるようにイタリーからイジワルをされているようで可哀そうです。でも単品の販売は問題ないのでバラで購入しています。
返信する

コメントを投稿