「あ! ゆき、だ」
の声で、目が覚めた。
ベッドから抜け出して、書斎の窓を開けた。
窓を開け放ち、降りしきる雪を眺めた。
ボタンの花のような雪が舞う。
みるみるうちに、積もる。風景のなかの白さが厚みを帯びて来る。
窓から、ひらり、ひらり、牡丹雪が飛び込んでくる。
机の上で、着地した牡丹雪が、ぽたっ、ぽたっ、ゆっくり溶ける。
やがて、机の上が、濡れた。
それでも、黙って、降りしきる雪を眺めた。
隣の家の屋根越しに、桜林がある。
枯れ枝に雪が積もる。
初春、桜が咲き始めた姿、に似ている。
雪桜。
少年の頃―8才から13才まで―
雪の深い北海道の鉱山で育った僕は、馴染み深い景色だ。
青年のころから、今日まで、横浜育ち。
20代・30代・40代の僕は、大雪が降ると、
犬っころみたいに、ワクワクドキドキ、したものだ。
体のなかの、血が騒ぐのだ。
降れば降るほど、積もれば積もるほど、
雪の中に飛び込んで行きたくなる衝動に駆られた。
降りしきる雪の中に、身を置きたくなった。
少年の僕になって。
ある冬、3,4日、雪が降り続いた。
錆び付いたスキーを取り出して、
家から、スキーを履いて、行けるところまで行った。
坂を上り、坂をくだりして、気づいたら、横浜駅近くまで来ていたっけ。
しかし、50代・60代になると、 血が騒がなくなった。
雪の中に飛び込みたい衝動は、かすかに思い出されるのだが、・・・・・。
なぜだか、わからん。
あの、ワクワクドキドキ、が起きない。
なつかしい、遠い、思い出になった。
「雪」は僕にとって、恋人、にちかい。
雪と、どれだけ、戯れたか。美しさに、魅了されたか。
しかし、また、
「雪」は僕にとって、恐ろしい殺人者 でもある。
12才の時、友の命を奪った雪崩。
今朝、積もった雪を、書斎から眺めて、
ふと、雪の中に、身を置きたくなった。
で、 出かけた。
歩いて、20分ほどのところにある、銭湯ー露天風呂ーヘ。「満天の湯」。
雪道を歩いて出かけた。
牡丹雪が舞う、露天風呂の湯に浸かった。
67才にもなると、こういうことになるのか。
3,4日、雪が降り続いて、雪が積もったら、
僕は、スキーを取り出して、また、出かけるだろうか?
露天風呂、だろうか。
でも、その状況に置かれてみないと、わからない、な。
今朝、雪を眺めながら、筆で書いた「書」ふたつ。
「 雪が降る音、って、
なんて、
静か、なんだ・・。」
「雨は、ザーっ。
風は、ピューっ。
雪は、しんしん。」
おわり
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