「社会保障と税の一体改革」と「最低保障年金」維持消費税増税率試算は「全く違う話」なのか

2012-01-30 10:13:17 | Weblog

 民主党は2009年総選挙マニフェストで国民年金、厚生年金、共済年金の「年金一元化」と全額消費税財源月額最低7万円支給の「最低保障年金」、さらに保険料納付額に応じた「所得比例年金」を内容とする年金制度改革を掲げた。

 対して自公は、全額消費税財源月額最低7万円支給の「最低保障年金」創設には2075年度時点で、試算で最大7・1%の消費税増税を必要としていると言われていることから、一体改革の与野党協議入りの条件として年金制度改革の具体的な全体像の提示を求めた。

 これを受けて昨1月29日(2011年)政府・民主三役会議を首相公邸で開催、自公の要求の扱いについて協議した。

 《年金の財源試算 公表見送りに》NHK NEWS WEB/2011年1月29日 18時49分)

 輿石幹事長「試算を公表すれば、国民は消費税率が2015年に10%に上がったあと、2、3年後にはさらに6%、7%上がるように誤解する」

 誤解しないように国民に説明することも政治が負う説明責任のはずだが、説明責任の認識もなく、誤解回避を口実に情報隠蔽を謀ろうとする衝動を見せている。

 前原政調会長「試算は党内で議論していないうえ、公表すれば一体改革の議論に集中できなくなる」

 野田首相「公表には、メリット、デメリットがあるので、状況を見極める必要がある」

 何をトンチンカンな。何事も「メリット、デメリットがある」。すべて公平な利益再配分などということはない。メリット・デメリット差引き計算して、より多くの国民にとってメリットが上回る計算を以って政治を行うことが政府の務めであるはずである。

 当然、メリットが上回りますよの公表責任が生じるはずだが、責任を果たそうとはせずに状況眺めと来た。

 結論を記事は次のように伝えている。〈試算は党内で正式に決定したものではないうえに、60年以上も先のことだとして、一体改革とは別の問題だという認識で一致し、直ちに公表することは見送り、野党側の出方を見極めながら対応を引き続き検討していくことにな〉った。

 他の記事を参考にすると、社会保障改革の全体像は示すものの、年金の財源試算の公表のみ先送りするらしい。

 記事が「このあと」と書いているから、会議後の記者会見なのだろう。

 樽床幹事長代行「試算の60年後の姿と、数年後の一体改革は、全く違う話なので、そこを野党にどう理解してもらうかということも含めて、もうちょっと協議していこうという話になった」

 「試算の60年後の姿と、数年後の一体改革は、全く違う話」と言っていることは、一体改革とは別の問題だだとする会議の結論に添う発言であろう。

 前原政調会長は2075年最大7・1%の消費税増税率の「試算は党内で議論していない」と言っているが、他の記事によると、〈厚労省が民主党の指示で昨年3月(2011年)に行った財政試算〉(MSN産経)だそうだ。

 指示し試算を昨年3月に出させておきながら、「社会保障と税の一体改革だ」と騒いでいたにも関わらず1年近くも経つというに「党内で議論していない」とは怠慢も甚だしい。ふざけた連中だ。

 何れにしても2075年度時点最大7・1%消費税増税試算と「社会保障と税の一体改革」は別の問題だとする結論を導き出した。

 民主党2009年マニフェストで年金制度改革案に触れた箇所を改めて振り返ってみる。 

 公平な新しい年金制度を創る
危機的状況にある現行の年金制度を公平で分かりやすい制度に改め、年金に対する国民の信頼を確保するため、以下を骨格とする年金制度創設のための法律を2013年までに成立させます。

(1)すべての人が同じ年金制度に加入し、職業を移動しても面倒な手続きが不要となるように、年金制度を例外なく一元化する

(2)すべての人が「所得が同じなら、同じ保険料」を負担し、納めた保険料を基に受給額を計算する「所得比例年金」を創設する。これにより納めた保険料は必ず返ってくる制度として、年金制度への信頼を確保する

(3)消費税を財源とする「最低保障年金」を創設し、すべての人が7万円以上の年金を受け取れるようにすることで、誰もが最低限の年金を受給でき、安心して高齢期を迎えられる制度にする。

「所得比例年金」を一定額以上受給できる人には「最低保障年金」を減額する

(4)消費税5%税収相当分を全額「最低保障年金」の財源として投入し、年金財政を安定させる。

 この「消費税5%税収相当分」とは現行消費税税収分という意味であることは同じマニフェストで公約した次の記述が証明している。

 消費税改革の推進

消費税に対する国民の信頼を得るために、その税収を決して財政赤字の穴埋めには使わないということを約束した上で、国民に確実に還元することになる社会保障以外に充てないことを法律上も会計上も明確にします。

具体的には、現行の税率5%を維持し、税収全額相当分を年金財源に充当します。将来的には、すべての国民に対して一定程度の年金を保障する「最低保障年金」や国民皆保険を担保する「医療費」など、最低限のセーフティネットを確実に提供するための財源とします。

税率については、社会保障目的税化やその使途である基礎的社会保障制度の抜本的な改革が検討の前提となります。その上で、引き上げ幅や使途を明らかにして国民の審判を受け、具体化します。

インボイス制度(仕入税額控除の際に税額を明示した請求書等の保存を求める制度)を早急に導入することにより、消費者の負担した消費税が適正に国庫に納税されるようにします。

逆進性対策のため、将来的には「給付付き消費税額控除」を導入します。これは、家計調査などの客観的な統計に基づき、年間の基礎的な消費支出にかかる消費税相当額を一律に税額控除し、控除しきれない部分については給付をするものです。これにより消費税の公平性を維持し、かつ税率をできるだけ低く抑えながら、最低限の生活にかかる消費税については実質的に免除することができるようになります。

 「現行の税率5%を維持し、税収全額相当分を年金財源に充当します」と公約している。

 いわば「現行の税率5%」「税収全額相当分を年金財源に充当」することによって「最低保障年金」も含めて、民主党が創設を公約した新しい年金制度は維持できると、これまた公約しているのである。

 またマニフェストで公約した政策は4年間での実現を責任制約とされている。このことは1月26日(2012年)の衆院本会議代表質問での次の野田答弁が証明してくれる。《【代表質問】野田首相と谷垣自民党総裁の発言要旨》MSN産経/2012.1.26 22:48)

 谷垣自民党総裁「民主党が消費税増税に突き進むことは議会制民主主義の根本を否定する行為だ。マニフェスト(政権公約)違反は明らかだ」

 野田首相「民主党が前回の衆院選で国民に約束したのは、衆院議員の任期中に消費税を引き上げないことだ。政府・与党案は第1弾の引き上げについて平成26年を予定しており現在の衆院議員の任期終了後だ。公約違反ではない」

 この答弁を逆説すると、当然のことながら、マニフェストは衆院4年任期の間の公約ということになる。

 以下参考までに記事が取り上げている各発言を記載しておく。

 谷垣自民党総裁「首相は先の衆院選の街頭演説で『マニフェストに書いていないことはやらないのがルールだ』と述べている」

 野田首相「行き過ぎや言葉足らずの点があったら反省し、国民におわびする。政府の政策は状況の変化の中、優先順位を適切に判断することも必要だ」

 谷垣自民党総裁「首相がなすべきことは与野党協議を呼びかけることではなく、衆院選でウソをついたことをわび信を問い直すことだ」

 野田首相「社会保障と税の一体改革は与野党共通の課題として実現を目指す。改革の方向性について自民党との間に大きな違いはなく、ぜひ協議に応じていただきたい。やり抜くべきことをやり抜いた上で国民の判断を仰ぎたい」

 谷垣自民党総裁「消費税率引き上げ法案の国会提出の前に新年金制度の詳細設計や財源を明らかにすべきだ」

 野田首相「新制度への切り替えには長期の移行期間が必要であり、(消費税率を10%に引き上げる)27年の段階で大きな追加財源は必要にならない」

 マニフェストで公約した政策は、野田首相も言っているように4年間での実現を責任制約としている以上、民主党2009年マニフェストで公約した「最低保障年金」にしても、衆院任期の4年間での実現を責任制約としている。

 4年以内の実現に対して、他の財源の助けを借りることはあってもマニフェストで約束したように現行消費税税収分で賄い切れば公約違反とはならないが、野田首相が「第1弾の引き上げについて平成26年を予定しており現在の衆院議員の任期終了後だ。公約違反ではない」と言っていることは、現行消費税税収分では賄い切れないということであり、例え衆院任期4年後の話ではあっても、マニフェストに「現行の税率5%」で賄うことができるとしたことと明らかに食い違うことになる。

 「最低保障年金」を4年以内の実現政策として掲げて、「現行の税率5%」で維持可能だとしたのである。

 それでも言い逃れするだろう。衆院任期4年の間は現行5%で賄い切れるが、衆院任期終了の2013年から1年も経たない2014年4月から2015年にかけて段階的に増税していかなければ不可能だと。

 だが、この不可能にしても、1月6日(2012年)に閣議決定した「社会保障・税一体改革素案について」で、地方分を除いた最終10%増税税収全額を「社会保障財源化する」としている以上、4年以内に実現させるとした「最低保障年金」制度を含めて素案で決定した10%の税収で賄わなければ、素案に対する野田内閣の“公約”違反となり、どこが「社会保障と税の一体改革」だとなるはずだが、記事冒頭で触れたように10%でも不可能という話になっている。

 素案には次のように書いてある。
 
 「社会保障・税一体改革素案について」(閣議決定/2012年1月6日)

 今を生きる世代が享受する社会保障給付について、その負担を将来世代に先送りし続けることは、社会保障の持続可能性確保の観点からも、財政健全化の観点からも困難である。社会保障の機能強化・機能維持のために安定した社会保障財源を確保し、同時に財政健全化を進めるため、消費税について2014年4月に8%、2015年10月に10%へと、段階的に地方分を合わせた税率の引上げを行う。

 その際、国分の消費税収について法律上全額社会保障目的税化するなど、消費税収(国・地方、現行分の地方消費税を除く。)については、その使途を明確にし、官の肥大化には使わず全て国民に還元し、社会保障財源化する。

 つまり、「最低保障年金」は衆院任期4年間は「現行の税率5%」で維持可能としたのに対して2015年以降は10%でなければ維持不可能ということにめまぐるしく変遷した。

 一体何のためのマニフェストだったのだろう。

 しかもその10%にしても、年々の少子高齢化の進行によって社会保障制度を支える現役世代の減少と逆の現象としての高齢者の大幅な年々の増加、このことによる毎年1兆円規模にものぼる社会保障費自然増というマイナス局面に抗した持続可能な社会保障制度の維持には行く先々追いつかなくなるということなのだろうが、少子高齢化の進行はもう何十年も前から分かっていたことで、先を見通した計算があってもいいはずである。

 もしも月額7万円「最低保障年金」制度導入の場合、2075年度最大7・1%の消費税率引き上げが先を見通した試算だとするなら、「最低保障年金」制度創設を「社会保障と税の一体改革」に含んでいる以上、一体改革とは「全く違う話」ではなく、逆に一体も一体、一体となった問題であるはずである。

 だが、「全く違う話」だと言って、試算の公表を見送った。

 これを国民に不都合を隠す情報隠蔽と言わずして、何と言ったらいいのだろうか。


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