8月7日テレビ朝日『橋下×羽鳥の番組』で橋下徹が発言した「閣僚個性無要論」の奇妙な妥当性

2017-08-10 12:00:47 | 政治

 2017年8月7日の夜11時15分からのテレビ朝日『橋下×羽鳥の番組』で橋下徹が閣僚個性無用論なるものを展開していた。この番組は原則事前収録だそうだから、8月7日以前の各出席者の発言ということになる。

 またこの番組はNHK「日曜討論」のようないわゆる硬派な討論番組ではなく、討論バラエティ番組だそうで、お笑い芸人の平成ノブシコブシの吉村崇や、知らない人物だったから、名前からネットで調べてみたのだが、タレントでモデルの、22歳でまだ若い谷まりあなどが出演していて、吉村崇がときどき冗談を突っ込んで笑わせたりしていた。

 主な個所だけを拾ってみた。文飾は当方。

 「緊急放送 安倍内閣国民の疑問SP」と題して第3次安倍改造内閣の点数を尋ねられた各出席者はそれぞれがフリップに点数を記入。

 自民党山本一太95点
 民進党玉木雄一郎40点
 自由党森ゆうこ20点
 慶應大学院教授岸博幸30点
 元NHKでジャーナリストの木村太郎50点
 橋下徹60点

 森ゆうこ(20点)「0点にしたかったけど、余りにも可哀想なので。結果出す『仕事人内閣』と言っていたけど、出す前に記録出せよ、と。資料出せよ、と。

 だって、兎に角記録がない、記憶がない、確認ができない、この一点張り。だから、こんな内閣ありませんよ。早く辞めるべき。加計問題、森友門題、安倍友ファーストの独裁政治。自分の気に入らない人たちはどんな手を使ってでも潰していくという恐怖政治。

 これはやめて頂きたいと思いますが、さすが0点では悪いかなと思って――」

 玉木雄一郎(40点)「内閣支持率ぐらいかなと思う。個々の大臣は優秀な方が多いと思いますし、存じ上げている方も多いのですが、安倍総理が代わらない限り同じです。防衛大臣は防衛省、文科大臣は文科省の隠蔽を引き継ぐなら、ダメです」

 木村太郎(50点)「この内閣は火消し内閣。安倍内閣の尻についた火を消すための内閣。まだ消火活動を始めていないんで、いいとも悪いとも言えない。それで50点だけど、この内閣は色々と不安要素がある。

 凄く気になったのは河野さんの外務大臣。外務大臣というのは代えてはいけない。代える、これはどういったメッセージなのだと外国は考える。こういうメッセージを発信するために代えるわけだから、すぐ隣の韓国では河野談話の息子がなったということは、安倍内閣が違う、慰安婦問題で違うメッセージを出していくんではないかと、そういうふうに受け取られる。

 アメリカも河野さんは凄くアメリカ通で、アメリカの大学を出ていて、英語も凄くうまい。この方の友達は全部民主党なんです。(アメリカの)民主党(寄り)の外務大臣をどうして持ってきたのか、みんな考える。これから大変だと思う」

 橋下徹(60点)「安倍さんを代えるかどうか、勿論野党の人は代えるべきだと言っている。代えるんだったら、玉木さん、今度代表選に出るんでしょ?代えろ、代えろと言ってるんだから、自分が責任を持ってやらないと。

 他の番組で出ないということを聞いて、『えっー』と思った。それダメでしょ」

 玉木雄一郎「原則は執行部だったので、幹事長や代表が辞めた選挙に自分が出るのはちょっと筋ではないと思ったんです」

 橋下徹「そういうことではなくて、今安倍さん代わるべきだと言われたんだったら、責任を取って、自分が代表になって政権交代を目指すんだということではないと、説得力が出てこないと思うし、民進党が新しい若手の人がどんどん声を上げないと変わっていかないと思うので、ちょっと苦言を言いました。

 で、60点としたのは、安倍さんが意識しているか意識していないか、内閣っていうのは変質してきているんですよ。大臣は個性は要りません。大臣は個性は要らない。

 要は行政のトップして決められた大方針を粛々としてこなしていくのが大臣になっていくんです。と言うのは、例えば防衛大臣と言っても、防衛大綱を今度改正するって話になっていますけども、大きな方針は誰がつくるかと言うと、国家安全保障会議の中でも首相が敵基地攻撃能力については検討しないよと。

 防衛大臣の方は敵基地攻撃能力については検討したいと言っているのに、もう総理の方は上から検討しないと決めちゃうわけですよ。教育についてはこれは教育実行再生実行会議というものがあるし、経済については経済財政諮問会議があるし、規制改革については規制改革国家戦略特区会議がある。

 いわゆる総理を中心としたその会議体が大きな方針を決めて、その方針を粛々と実行していくのが大臣の役割になってきているから、僕は個性のない今回の内閣というのは合格点だと。

 今度は色んな会議体の中に僕は民主党が政府と政党と一体化するということに挑戦したけれども、うまくいかなかった。いよいよここでね、経済財政諮問会議とか色んな首相直轄の会議体の中に自民党の、与党の幹部が入って来始めると、政府と国会の一体化というものが完成するのかなと思いますよ。

 内閣に(於ける)各大臣に個性を求める時代ではないと思っている

 山本一太(95点)「私はそうは思っていません。総理は適材適所を貫いた。野田聖子さんと河野太郎さんは高い評価を与えている。私は河野太郎さんは活躍すると思っている」

 橋下徹「個人の発信というのは抑えながら、大方針に従っていくというのが内閣のあるべき姿だと思う。(自信がないからと一旦断ったが、派閥のボスから、派閥の総意だから受けろと言われて、沖縄・北方担当大臣は引き受け、同じ自信がないという理由で国会答弁は役所の答弁書を朗読すると発言した江崎鉄磨を指して)あの姿がこれから求められる大臣の姿と僕は思う」

 玉木雄一郎「総理の指示自体が明確な一貫性とかメッセージがないことが問われている。橋下さん、(閣僚の)打診なかったですか」

 橋下徹「ないですよ。本当にない」

 玉木の質問はバライティー番組としては面白い。

 誰一人、橋下徹の「閣僚個性無要論」なるものそのものについては反論も批判もなかった。山本一太が「私はそうは思っていません」と言っていることは、個性を持った閣僚として野田聖子と河野太郎を挙げたに過ぎない。

 橋下徹は「内閣に(於ける)各大臣に個性を求める時代ではない」と言い、「大臣は個性は要らない」と二度言い、「僕は個性のない今回の内閣というのは合格点だ」と断言している。

 決して、「閣僚は個性を抑えなければならない」と言っているわけではない。あくまでも「閣僚個性無用論」であって、「閣僚個性抑制論」ではない。そして無個性の象徴的代表として江崎鉄磨を挙げた。

 これを妥当な発言とすると、ここに奇妙な矛盾が生じる。個性のない閣僚の中から次期首相を狙う者が出て、次期首相となった場合、個性のない首相と言うことになり、個性のない閣僚と個性のない首相が無個性を基準として循環する奇妙な現象が起きることになる。

 それとも閣僚のとき無個性で、首相になった途端に個性が現れるとでも言うのだろうか。

 閣僚のとき個性を抑えていて、首相になると、個性を全開にすると言うことは可能である。但し全開にすることができる能力があればの話だが。

 また、「総理を中心としたその会議体が大きな方針を決めて、その方針を粛々と実行していくのが大臣の役割になってきている」を各閣僚のルールとするなら、国家安全保障会議という会議体が敵基地攻撃能力の保有を決めていないことに対して小野寺五典が防衛相になったからと言って、8月3日の就任記者会見早々に敵基地攻撃能力保有の検討に言及することは明らかにルール違反となる。

 対して安倍晋三が「現時点で敵基地攻撃能力の保有に向けた具体的な検討を行う予定はない」と否定することである意味ルール違反を明らかにたということになる。

 だが、物事はそう単純ではない。2017年1月26日衆議院予算委員会で小野寺五典は安倍晋三に対して敵基地攻撃能力保有の必要性を訴えている。安倍晋三は2016年の北朝鮮の2回の核実験、20発以上の弾道ミサイル発射等、日本を取り巻く日本の安全保障環境が厳しくなっていることに触れてから、次のように答弁している。

 安倍晋三「議員御指摘のように、我が国自身によるいわゆる敵基地攻撃については、政府として、従来から、法理上の問題として、他に手段がないと認められるものに限り、敵の誘導弾等の基地をたたくことも憲法が認める自衛の範囲に含まれ、可能であると考えているわけでございます」

 その上で、「敵基地攻撃を目的とした装備体系を保有しておらず、また保有する計画もない」と敵基地攻撃能力保有を否定し、「専守防衛を日本の防衛の基本的な方針として堅持していく」ことを約束している。

 問題は安倍晋三自身が「他に手段がないと認められるものに限り」という条件付きながら、敵基地攻撃能力保有を憲法が認める自衛の範囲だとしていることであろう。

 対して小野寺五典は1月26日の衆議院予算委員会から2カ月後の3月29日に自民党安全保障調査会の座長として敵基地攻撃能力の保有を要請する提言を纏めて、翌3月30日に安倍晋三に提出している。

 そして8月3日の就任記者会見で、「今度は提言を受け止める側に回りました。提言で示した観点も踏まえ、問題意識と危機感を持って、わが国の弾道ミサイル防衛に何が必要かということを突きつめ、引き続き弾道ミサイル対処能力の総合的な向上のための検討を進めてまいりたい、そのように思っております」(防衛省)と国家安全保障会議という会議体が敵基地攻撃能力の保有を決めていないにも関わらず、防衛大臣として自身もメンバーバーの一人となるその会議で保有を働きかけていく姿勢を示している。   

 安倍晋三の軍事的な政治姿勢から言っても、憲法が認める自衛の範囲内だとしていることからも、国民に対して「敵基地攻撃能力」という言葉に徐々に慣れさせていって、最終的に保有に持っていく安倍晋三と小野寺五典の連携プレーによる慣らし運転という見方もできる。

 この見方からすると、敵基地攻撃に関する二人の個性はギラギラしていて、「総理を中心としたその会議体が大きな方針を決めて、その方針を粛々と実行していくのが大臣の役割」という個性無用論の従属的な関係性は必ずしも当てはまらないことになる。

 閣僚に於ける個性有用・無用は関係ない。また、政策の一致・不一致も関係ない。個性を持っていようが、持っていまいが、あるいは政策が一致しようが一致しなからろうが、一般的にはある政策に関して首相自身が確固とした方針を持っていた場合、その政策に関係する行政機関の長(=大臣、長官)は首相の方針に従う影響下に置かれることになる。

 しかしこのことは橋下徹がこれからの閣僚は個性は必要ではなく、首相の方針に粛々と従うことだけが役割だと言っている「閣僚個性無用論」とは全く以って異なる。

 行政機関の長だけではなく、政府の様々な会議体に於いても、そこで議論する政策に関して首相自身が確固とした方針を持っていた場合、そこでの議論にしても結論にしても、首相の方針の影響下に置かれて、議論も結論も、その方針に誘導されることになる。

 でなければ、首相の意味はなくなる。誘導できなくなったときは首相としての力を失ったときである。

 首相の支持率が高い程、誘導の力は強まる。国家戦略特区諮問会議で安倍晋三の政治関与によって今治市への獣医学部新設を認めて、その事業主体に加計学園とすることができたのも、諮問会議のメンバーの政府側委員が支持率の高さを背景とした安倍晋三の影響下にあったから、安倍晋三の前以っての方針を認めさせることができて、政府側委員が誘導した結論を民間有識者議員に「異議なし」で機械的に承認させていく、二重に影響を働きかけることができる構図を取っていたからだろう。

 かつて国会同意人事であるNHKの経営委員候補者に安倍晋三寄りの人物を集めて国会に諮って、安倍晋三の巧妙な選挙術で獲ち得た、それゆえに安倍晋三の影響下にしっかりと置くことができた自民党多数という国会の頭数を力に同意を得てNHKに送り込み、その経営委員の選挙で安倍晋三寄りの籾井勝人をNHK会長に選任できたのも、安倍晋三自身の前以っての方針が持つ影響力の作用であるはずである。

 要するに個性が必要とか無用とかは関係しない。

 安倍晋三自身の慰安婦に関わる歴史認識は「日本軍兵士が家に押しいって人を人攫いの如く連れていくと言った種類の狭義の強制性はなく、日本軍の関与は慰安婦所の設置、管理及び慰安婦の移送と業者に対して行った慰安婦の募集のみで、勿論強制売春はない」とする内容となっているが、前外相の岸田文雄と韓国の外相との間で2015年12月28日に結ばれた日韓慰安婦合意は10億円という拠出金も力として安倍晋三のこのような慰安婦に関わる歴史認識の影響下で決着を見たもので、岸田文雄が慰安婦に関してどのような歴史認識を抱えていようとも、それが安倍晋三と同じ内容であったとしても、自身の歴史認識に絡めた決着ではない。

 外相という地位が安倍晋三に任命されている上に日韓との間で慰安婦に関わる歴史認識の決着の付け方に安倍晋三自身が確固とした方針を持っている以上、岸田文雄はその影響下に立たされることになるからだ。

 河野太郎にしても新しく就任したばかりで、その上河野太郎の息子ということで持て囃す動きが内外に見受けるが、2017年8月6日からのASEAN10カ国外相会議に出席、その後も各国を訪れて首脳や外相と次々に会談しているが、発言していることは中国に対しては北朝鮮のミサイル発射や核実験をやめるよう働きかけると同時に中国の南シナ海での一方的な現状変更を伴った海洋進出に対して法の支配に基づく平和的解決の訴え、韓国に対しては日韓慰安婦合意の速やかな履行、その他の外国に対しては国連で決議された北朝鮮のミサイル発射に対する制裁の着実な履行を中国に対して一致して要求するといったところで、これらの言動は安倍晋三の政策の範囲内で、そこから一歩も出ていないものであって、何も河野太郎が外相として新規に打ち出した独特の政策というわけではない。

 河野太郎はいくらハト派を名乗っていても、今後共安倍晋三の外交政策の影響下に置かれて、その範囲内の活動しかできないだろう。安倍晋三の「積極的平和主義外交」と言いつつ、自衛隊の海外進出を強めていく外交政策を外交担当の閣僚として推し進めていく。

 それが任命権者と被任命者の違いである。

 首相と閣僚の関係に於いてこれからの閣僚は個性は必要ではないといったレベルで、その関係を維持していくことは決してない。個性とは関係のない場所で首相が方針とする政策の影響下に置かれて行動しなければならないというだけのことに過ぎない。

 このことは昔も今の変わらない。もし閣僚を首相自身の政策の影響下に置くことができなかったら、それは首相自身のリーダーシップを欠いていた場合のみである。

 もし河野太郎が自身の政治・外交に於ける個性を打ち出したいと思ったら、橋下徹が玉木雄一郎に「安倍晋三を代えるべきだと言うなら、自身が民進党の代表になって政権交代を目指すべきだ」と言ったように自身が首相になって、自らが個性とする政治の影響下に全ての閣僚を置いて、思い通りにどのような政治で今後の日本を形作っていくか、その実現を図るしか道はない。

 首相になったときにこそ、一閣僚の身であるゆえに他の首相が方針としている政策の影響下に立たされることの桎梏から解き放たれる。

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