トランプの場当たりなシリア攻撃 化学兵器使用ではなく、独裁者が問題であることに気づかないバカさ加減

2017-04-08 08:51:21 | Weblog

 2017年4月4日、シリア政府が同国西部の反政府勢力支配地域を空爆、マスコミは当初死者を70人余と公表、それが80人に拡大となり、現地医療関係者の話として少なくとも100人になったと伝えるマスコミも出た。

 その多くが外傷はなく、死に至らない場合でも、住民の多くに呼吸困難や痙攣などの症状が現れ、猛毒のサリンのような神経ガスや塩素ガスなどの化学兵器が使用された疑いが強まっていると伝えている。

 シリア政府は過去にも化学兵器を使用している。2017年4月6日付「Newsweek」が2013年8月に首都のダマスカス郊外でサリンを使った攻撃があり、数百人の民間人が死んだと伝えている。    

 また2017年4月5日付の同じ「Newsweek」誌が国連の調査として2014年と2015年に反体制派の支配地域で化学兵器を使用と伝え、4月4日の今回の空爆は、〈数百人の死者を出した2013年8月のアサド政権によるガス攻撃以来、最大規模の化学兵器を利用した攻撃となる。〉と伝えている。  

 記事は、〈オバマ前政権は2013年8月、化学兵器使用を「レッドライン(越えてはならない一線)」と規定し、シリアへの軍事攻撃に踏み切る姿勢を示したが、化学兵器使用が明らかになっても介入を見送った。また2013年の化学兵器使用後には、アメリカとロシアがシリアの化学兵器廃棄に乗り出したが、完全廃棄には至らなかったか、製造が続いていたと見られる。〉と解説している。

 そして、〈ドナルド・トランプ米大統領は、今回の化学兵器攻撃はシリア政府によるものだと認めた上で、これはバラク・オバマ前大統領の「弱さと優柔不断」が招いた「当然の結果」だと声明で語った。〉と伝えている。

 この発言の“当然の結果”として、トランプは自身が「弱さと優柔不断」を抱えていないことを示さなければならない立場に自分で自分を追い込んだことになる。

 また2017年1月20日に大統領に就任したトランプは約1カ月後の2017年2月17日に就任後初の単独会見で、「この短期間でこれ程成果を上げた大統領は他にはいないだろう」と自己能力を最大限に誇っている。

 この自己愛性的な能力誇示からも、前任者であるオバマへの対抗心からも、トランプがさして日を置かない4月6日にシリアの化学兵器使用への対抗措置として同国内にあるアサド政権の軍事施設を巡航ミサイルで攻撃したことは十分に納得できる。

 この攻撃後、トランプは同4月6日に記者会見を行い、このとき発表した声明を2017年 4月7日付「ロイター」記事が伝えている。 

 〈米国民の皆さん、シリアの独裁者であるアサド大統領は4日、罪のない市民に対し、恐ろしい化学兵器を使用して攻撃を行った。致死率の高い神経ガスを使い、無力な男性や女性、そして子どもたちの命を奪った。

あまりに大勢の人に対する、緩やかで残忍な死を招いた。残酷なことに、美しい赤ちゃんたちもこのような非常に野蛮な攻撃によって殺された。神の子は誰一人としてそのような恐怖に遭ってはならない。

 今夜、私は化学兵器を使用した攻撃の拠点となったシリアの飛行場に対し、軍事攻撃を命じた。化学兵器の拡散・使用を阻止し抑止することは、米国にとって不可欠な国家安全保障上の利益の一部である。シリアが禁止されている化学兵器を使用し、化学兵器禁止条約に違反し、国連安全保障理事会の要請を無視したことに議論の余地はない。〉云々と続いている。

 確かに化学兵器は「緩やかで残忍な死」を招く。だが、通常兵器であっても即死以外の重傷を受けたなら、「緩やかで残忍な死」を招くケースは多々あるはずである。

 また、化学兵器であろうと通常兵器であろうと、それが即死であろうと緩やかな死であろうと、家族や親類縁者の立場にある一般市民からしたら、不条理な酷い仕打ちであることに変わりはない。

 要するに使用兵器が本質的な問題ではなく、死の形が、やはり本質的な問題でもなく、本質的な問題は別のところにあるはずである。

 「Wikipedia」によると、シリアは現大統領の父親のアサドが1971年2月から2000年6月まで大統領としてバアス党一党独裁体制を敷き、29年間も独裁者の地位にいた。

 現大統領のアサドは父親の独裁体制を受け継いだ。2011年から始まったアラブの春を受けた一連の改革要求や反政府活動に応える形で2012年に憲法の抜本的改正が行われて、表面的には民主主義を装い始めているように見えるが、憲法改正前はバアス党が「国家を指導する政党」と規定されていた文言が改正によって消されたとしているものの、バアス党一党独裁体制の歴史的な影響で巨大組織化し、党員が350万人、衛星政党の党員と合算すると400万人に達していると伝えている。

 2014年統計で約1800万人の人口のうち約22%を占めるに至っていることになる。

 日本の自民党の2015年党員数が約98万7千人だそうで、日本の2013年人口1億2700万人のうちの約8%に過ぎない割合と比較したら、党員数400万人が約1800万人の人口のうち約22%というのは天文学的数字に近い。

 そしてシリアに於ける大統領選任は2012年の憲法改正前はバアス党の提案を受け人民議会が1名を大統領候補とし、国民投票で承認するという方法が採られていたが、憲法改正によってバアス党の専権であった大統領候補者提案権は削除され、新たな候補者要件は人民議会35名による推薦という形となったとしている。

 但しシリアはバアス党圧倒多数のもとにある。当然、人民会議にしてもバアス党員が多数を占めていないはずはない。

 民主主義の体裁を取った独裁に過ぎない。

 日本の人口約8%に過ぎない自民党が、公明党の支援を受けているものの、ほぼ一党独裁体制を敷いている。シリアの独裁体制が如何程に強力かは否でも理解できる。

 独裁体制とは国民の基本的人権を無視し、ときには抑圧し、そうすることによって自らの政治を恣(ほしいまま)にすることを言う。

 当然、民主的な手段による政権交代を許さない。

 独裁体制に批判的な勢力が民主的な手段に訴えて独裁体制終焉の行動に出た途端に非民主的な手段――暴力的・軍事的な手段でその行動を抑圧するのは目に見えている。

 この行動と抑圧の経緯が内戦という形になって現れた。シリア政府軍は抑圧するために反政府勢力支配地域に情け用のない攻撃を仕掛け、一般市民まで巻き添えにして多くの死をもたらしているばかりか、膨大な数の難民を生み出している。

 本質的な問題は民主主義を許さない独裁体制にある。

 だが、トランプは側近たちに「イスラム国打倒が最優先だ」だとか、「アサド氏の長期的な地位はシリア国民が決めることだ」、あるいは「我々の優先課題はもはや腰を据えてアサド氏を追放することではなくなった」(毎日新聞)等々言わせて、シリアの独裁体制を容認する政策へと転換を図ろうとした。    

 トランプのこのようなシグナルをアサドは間違えて受け止めたのかもしれない。間違えたとしたら、トランプが間接的に誘導した化学兵器の使用ということになる。

 アサドはアメリカの巡航ミサイル攻撃に手痛い思いをして化学兵器使用に懲り、再びの使用を思いとどまるにしても、反政府勢力を壊滅するまで通常兵器を使った攻撃を、一般市民をいくら犠牲にしようとも、子どもの生命(いのち)をいくら奪おうとも、自らの地位を守るために続けるだろう。

 トランプは前記声明で、化学兵器によって〈残酷なことに、美しい赤ちゃんたちもこのような非常に野蛮な攻撃によって殺された。〉と言っているが、〈残酷なことに、美しい赤ちゃんたちもこのような非常に野蛮な攻撃によって殺され〉るシーンは化学兵器ならずとも通常兵器によって繰返されることになるだろう。

 問題の本質がどこにあるのか理解できいないノー天気だから、「イスラム国」壊滅を優先させて、場当たりにも一旦はアサドの独裁体制を容認しようとした。どれ程に国民の基本的人権を抑圧・無視しているか理解しようとしなかったし、理解できなかった。

 そう遠くな内にトランプは自己愛性的な能力誇示や前任者であるオバマへの対抗心に駆られる余り、「一線を越えた」と勇み立つのはいいが、逆にその勇み立ちに足を救われることになるように思える。 

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