TPP日米首脳会談野田発言に対する間違った解釈の放置はその解釈を事実足らしむる

2011-11-17 11:41:39 | Weblog

 11月12日(2011年)の野田・オバマ日米首脳会談での米側発表の野田首相発言が、言った、言わなかった、訂正を求めろ、訂正を求めないで一騒動となっている。Web記事から、その経緯を見てみる。

 《首相「TPP、すべての物品やサービスが対象」》YOMIURI ONLINE/2011年11月13日12時44分)
 
 米側発表――

 野田首相「TPP交渉への参加を視野に、各国との交渉を始めることを決めた」

 オバマ大統領「両国の貿易障壁を除去することは、日米の関係を深める歴史的な機会になる。

  すべてのTPP参加国は、協定の高い水準を満たす準備をする必要がある」

 記事はこれを、〈広い分野での貿易自由化を日本に求めた。〉発言だとしている。

 野田首相「貿易自由化交渉のテーブルにはすべての物品、サービスを載せる」(以上)

 いわば米側は日本側が関税撤廃の例外品目を特定せずにすべての品目を交渉のテーブルに載せる意思表示として野田発言を発表した。

 しかしこれは当然のことであろう。TPPは原則(あくまでも原則であって、鉄則ではないが)関税ゼロを目指しているのだから、「テーブルにはすべての物品、サービスを載せ」た上でそれぞれの国が国益を追求する観点から、ゼロの例外を求めて自国が望む関税率の設定獲得の駆引きに臨み、理想に限りなく近い関税率への着地を謀るという手順を踏むはずだ。

 【原則】「多くの場合に当てはまる基本的な規則や法則」(『大辞林』三省堂)
 【鉄則】「変えることができない固い規則・法則。厳しい決まり」(『大辞林』三省堂)

 この米側発表に外務省が異論を唱えた。《【APEC】日米首脳会談の米側発表に外務省ビックリ! その真相とは…》MSN産経/2011.11.13 17:57)
 
 外務省「そのような発言を首相が行った事実はない」
 
 記事は、〈米側の報道発表を否定する報道発表をして火消しに躍起となった。〉と書いている。

 外務省「(首相は)昨年11月に(菅内閣が)策定した『包括的経済連携に関する基本方針』に基づいて高いレベルでの経済連携を進めると述べただけである」

 〈外務省が米側に説明を求めたところ、米側は同基本方針に「センシティブ品目(自由化に慎重な品目)について配慮を行いつつ、すべての品目を自由化交渉対象とし…」と書かれていたことを踏まえ、報道発表したと説明。誤解を認めたという。〉・・・

 記事、〈とはいえ、この基本方針は菅直人政権が閣議決定したもので、民主党政権のあいまいな姿勢が今回のような誤解を招いたともいえそうだ。〉云々と批判。

 外務省はここで既に錯誤を犯しているが、どのような錯誤か説明する前に先ず首相官邸HPから、『包括的経済連携に関する基本方針』を見てみる。
 
〈2. 包括的経済連携強化に向けての具体的取組

 我が国を取り巻く国際的・地域的環境を踏まえ、我が国として主要な貿易相手国・地域との包括的経済連携強化のために以下のような具体的取組を行う。特に、政治的・経済的に重要で、我が国に特に大きな利益をもたらすEPAや広域経済連携については、センシティブ品目について配慮を行いつつ、すべての品目を自由化交渉対象とし、交渉を通じて、高いレベルの経済連携を目指す。〉・・・・ 

 この文言からすると、「センシティブ品目について配慮を行いつつ」はあくまでも「センシティブ品目」に対して「配慮」しますよという条件であって、「自由化交渉対象」とするか否かに関して「配慮」しますよという条件とはなっていない。

 いわば、「センシティブ品目について配慮」はするが、センシティブ品目であろうとなかろうと、「すべての品目を自由化交渉対象」とすると言っていると解釈しなければならない。

 あくまでも主たる要件は「すべての品目を自由化交渉対象」とするということである。

 TPPが原則関税ゼロの貿易自由化の経済連携協定を目指している以上、当然のこととして要求される措置であろう。
 
 しかも外務省が「(首相は)昨年11月に(菅内閣が)策定した『包括的経済連携に関する基本方針』に基づいて高いレベルでの経済連携を進めると述べた」と言っている以上、「すべての品目を自由化交渉対象」とするということを言ったことになる。

 このことについてはまたあとで述べる。

 このように見てくると、米側の発表が間違っているとは思えないし、間違っているわけではない米側発表に外務省がビックリしたり、あるいは米側に訂正を求めたり、野田首相が国会で弁解に務めることはないはずである。

 外務省の訂正要求を伝える記事がある。《すべての物品自由化? 日米会談、米発表資料に訂正要求》asahi.com/2011年11月14日13時33分)

 米側発表資料「大統領は、野田首相が『すべての物品及びサービスを貿易自由化交渉のテーブルに載せる』と発言したことを歓迎する」

 記事は、〈日本国内にはTPP参加で、主要農産物の関税撤廃や保険診療の崩壊への懸念が根強い。それだけに、首相がいきなり柔軟姿勢を示した印象を与える内容だった。〉と解説しているが、「柔軟姿勢」でも何でもない、当然の姿勢と見なければならないはずだ。日本のコメを「センシティブ品目」として関税撤廃の例外品目とすることを目指していたとしても、既に触れたように一旦はテーブルに載せて交渉の末に獲ち取らなければならない“例外”だからである。

 日本がテーブルに載せる前から、コメは例外にします、交渉相手国が、いいですよ、では自国は何々を例外としますと言って順次無条件に認められていくとしたら、交渉自体が収拾がつかなくなる。最初から交渉に参加しない方がいい。

 米側発表に〈驚いた日本側は「発表内容が事実と異なる」と米側に説明を要求し、米側と協議した上で日本側が訂正資料を発表。〉

 日本側発表訂正資料「日本側がこれまでに表明した基本方針や対外説明をふまえ、米側において解釈したものであり、会談でそのような発言はなかった」

 記事の結び。〈菅前政権が昨年11付きに閣議決定した「包括的経済連携に関する基本方針」では、「センシティブ品目(重要品目)について配慮を行いつつ、すべての品目を自由化交渉対象(とする)」としている。早くも米側が揺さぶりをかけた形だが、外務省は「深読みすべきではない」(幹部)と沈静化に躍起だ。〉――

 昨年の11月の菅内閣閣議決定の『包括的経済連携に関する基本方針』で、「すべての品目を自由化交渉対象とし、交渉を通じて、高いレベルの経済連携を目指す」としていながら、野田首相が発言したとする「貿易自由化交渉のテーブルにはすべての物品、サービスを載せる」は米側の「解釈」に過ぎないとしている。

 上記「MSN産経」記事を踏まえるなら、『包括的経済連携に関する基本方針』に書いてある文言を踏まえて米側が「解釈」を施し、報道発表したということになる。

 野田首相自身も11月15日午前の参院予算委員会で発言を否定している。山本一太自民党議員に対する答弁。《野田首相:TPP米政府発表は誤り 「一言も言ってない」》毎日jp/2011年11月15日 11時14分)

 野田首相「会談で一言も言っていない。方針(『包括的経済連携に関する基本方針』)の中に書かれていることを、米国なりの解釈で書いた。私の言ったことではなかったことを(米側が)認めた」

 山本一太議員「米政府に訂正を申し入れないのか」

 野田首相「米国も認めたことを共有すればそれでいい。意図的にやったとは思わない」

 藤村官房長官も訂正不必要の態度を示した。《官房長官 米に訂正求める必要なし》NHK NEWS WEB/2011年11月15日 12時56分)

 藤村官房長官「アメリカ側に説明を求めたところ、日本側がこれまでに表明した基本方針などを踏まえてアメリカ側で解釈したものであるということだ。以上を踏まえれば、アメリカ側の資料の該当箇所は、野田総理大臣の発言そのものではないので、訂正まで求める必要はないと考えており、双方でその確認はされている」

 米側が報道発表した、野田首相が発言したとする「貿易自由化交渉のテーブルにはすべての物品、サービスを載せる」は「野田総理大臣の発言そのものではない」と真っ向から否定し、ここでも『包括的経済連携に関する基本方針』を踏まえたアメリカ側の「解釈」に過ぎないとしている。

 アメリカ側も訂正の必要を認めなかった。但し日本側とは思惑を違えた不必要性の主張となっている。《米高官 首脳会談後の声明訂正せず》NHK NEWS WEB/2011年11月15日 12時10分)

 アーネスト大統領副報道官「声明はオバマ大統領と野田総理大臣の話し合いや、日本政府の公式な見解に基づいて作成したものだ。声明は今でも正確だと考えており、訂正する予定はない。

 アメリカ政府としては、TPPに対する野田総理大臣の関心を歓迎しており、今後は次のステップに向けて2国間協議を進めていく」

 アーネスト大統領副報道官は『包括的経済連携に関する基本方針』のみを踏まえたのではなく、野田首相自身の発言をも踏まえて作成した報道発表であり、間違ってはいないとしている。

 とすると、外務省の「そのような発言を首相が行った事実はない」の否定ばかりか、野田首相自身の「会談で一言も言っていない」の否定とも真っ向から対立することになる。

 だが、昨日(11月17日)の参議院予算委員会で野田首相は小野次郎みんなの党議員の追及に一転して発言を認めている。なぜ認めたのか勘繰るとすると、あくまでも勘繰りだが、誤魔化しにアメリカが同調しないとなると、ウソつきは野田首相だけとなって、アメリカ側に対しても都合が悪くなるからだろう。

 相手が同調することによってウソの誤魔化しも効くし、相手に対する都合の悪さを免れることができる。

 《【TPP交渉参加】 どうして起きた?日米発表食い違い 同床異夢浮き彫り》MSN産経/2011.11.16 22:39)

 野田首相「私が言ったのは『包括的経済連携に関する基本方針を踏まえて高いレベルの経済連携協定を目指す』ということだ」

 だから、アメリカ側は『包括的経済連携に関する基本方針』が明記している「すべての品目を自由化交渉対象とし、交渉を通じて、高いレベルの経済連携を目指す」の文言を野田首相の言葉とした。

 いわば野田首相は『包括的経済連携に関する基本方針』に則る(基準とする)としたことで、間接的にではあっても、限りなく直接的に近い形で、「貿易自由化交渉のテーブルにはすべての物品、サービスを載せる」と言ったことになる。

 小野次郎議員にしても当然の反応を示して、言ったこととしている。

 小野次郎議員「やっぱり言ってるのではないですか」

 米側が「センシティブ品目について配慮を行いつつ」の文言を付け加えなかったのは、既に触れたように、「センシティブ品目について」「配慮」「すべての品目を自由化交渉対象」とするか否かに関しての条件ではないと解釈したからだろう。

 記事は、〈首相の主張は(1)そもそも言っていない(2)「センシティブ品目について…」の部分が欠落している-の2点に集約される。米側が「センシティブ品目」も加えていれば問題はなかったとみられる。ではなぜ米側はこの部分を除外したのか。そこには日本の前向きな姿勢を明確にしTPPを推進したいとの思惑がちらつく。〉、さらに〈日米間の食い違いは、コメなどの例外扱いを認めさせようとする首相と、早急に成果を求めようとするオバマ大統領が、同床異夢にあることを浮き彫りにした。〉と解説しているが、コメなどを例外扱いとすることを認めさせるにしても、一旦は交渉のテーブルに載せた上での、つまり「貿易自由化交渉のテーブルにはすべての物品、サービスを載せ」た上での話し合いの決着を条件とするはずだから、野田首相の認識不足としか言いようがない。

 野田首相がもしあくまでも米側の解釈であって、自身は言っていないと言い張るなら、いわば米側の解釈は間違いだと拘るなら、間違った解釈の放置はその解釈を事実足らしめ、事実として独り歩きさせる危険性を往々にして抱えることになるから、だから国会で厳しい追及を受けることになっているのだから、強硬に訂正を求めて正しい解釈に変え、その正しい解釈を以って真正な事実だとする一国の首相としての矜持を示すべきではないだろうか。

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