我が日本のホープ、野田首相が日本時間11月(2011年)3日夜からフランス南部のカンヌで開催のG20サミットにアジアの偉大な指導者として大歓迎で迎えられ、出席、尤も米誌評価の「世界で最も影響力のある人物70人」中62位と人物を見る目のない不本意な誹謗、「まだ就任してから2ヶ月しか経っていないっちゅうのっ!」の見当違いなのか、先の先までの先見性を持った確信的判断なのかは分からないが、安全運転ながら世界の指導者の中で精神的にも立ち位置の点でも常に中央に位置する存在感を輝かせつつ、「2010年代半ばまでに消費税率を段階的に10%まで引き上げる」と自信たっぷりの大見得を切った。
そして日本時間4日早朝、カンヌ市内で同行記者団と懇談。《“消費税引き上げ実施前に総選挙”》(NHK NEWS WEB/2011年11月4日 8時23分)
消費税率の引き上げを巡って、自民・公明両党が必要な法案を来年の通常国会に提出する前に衆議院の解散・総選挙を行うよう求めていることに関連して――
野田首相「法案を通して、税率の引き上げの実施前に国民に信を問いたい」
記事の解説によると、〈消費税率の引き上げに必要な法案を来年の通常国会で成立させたうえで、引き上げを実施する前に衆議院の解散・総選挙を行う考え〉を示した発言だという。
先に法案を通して法律として世に出してから、これでよろしいですかと国民に問うのが正しいのか、法律として世に出す前に消費税の増税自体を国民に問うのが正しいのかの問題がここで生じることになる。
岸田文雄自民党国対委員長(11月4日の記者会見)「順番が全く逆なのではないか。国民の声を聴くことの方が法律を成立させるより先ではないか」(MSN産経)
対して閣僚の見解。《「既定方針」「公約違反ではない」=首相の消費税発言に閣僚》(時事ドットコム/2011/11/04-13:05)
11月4日閣議後の記者会見。
藤村修官房長官「(消費税率引き上げの)実施は先だ。実施の前に信を問うということはずっと言い続けている」
この「実施の前に」とは、「消費税増税の法律を成立させて施行前に」という意味である。果たして「ずっと言い続けて」きた約束なのだろうか。
細野原発事故担当相「マニフェストに違反しているとは思わない」
一川防衛相「リーダーとして、国民にそういう姿勢で臨みたいということだろう」
蓮舫行政刷新担当相「現時点でそういう発言をされるのはごく自然なことだ」
「ごく自然なこと」で、何ら間違っていないと言っている。
だがである、法案を通して法律として制定し、その実施前(施行前)に国民に信を問うために衆院解散、総選挙、民主党が過半数の議席を獲得できればいいが、国民が野田政権・民主党政権にノーを突きつけ、政権交代が起こったとしても、消費税増税の法律――税率の引き上げは残る。
法律は既に成立しているのだから。
いわば消費税増税が選挙前に法律として国会で成立した場合、国民が選挙で問うのは直接的には消費税の増税自体に見えるが、そうではなく、実質的には野田政権・民主党政権自体の信任か否かのみとなる。
安全運転を言いながら、なかなかの巧妙・狡猾さである。
巧妙・狡猾さはこれだけで終わらない。藤村官房長官が11月4日の閣議後会見で2012年度予算案は将来の消費増税分を財源に織り込んだ編成になるとの見通しを示したと《消費増税分、来年度予算編成に織り込み 官房長官見通し》(asahi.com/2011年11月4日12時4分)が伝えている。
増税しないうちから、その増税分を計算に入れて、予算を組む。給料が上がらないうちに昇給分であれを買おう、これを買おうと計算するようなものである。
何と早手回しな予定表なのだろうか。巧妙・狡猾にも裏で着々と準備を進めてきた。
〈野党側が求める衆院解散・総選挙の時期に影響を与える可能性もある。〉と記事は解説、
3年続けて埋蔵金を充ててきた、2009年度に3分の1から2分の1に引き上げた基礎年金の国庫負担分に充てる方針だという。
消費税増税分は国民に還元されるという理屈は成り立つ。
藤村官房長官て「年度内に(消費増税の)法案をきちんと出して、成立させるのに全力をあげる」
細野氏は「マニフェストに違反しているとは思わない」と言い、一川氏は「リーダーとして、国民にそういう姿勢で臨みたいということだろう」と言い、蓮舫女史は「現時点でそういう発言をされるのはごく自然なことだ」と言って、正しいことだとしている。
しかし2009民主党マニフェストを詳しく解説した政策集を仔細に見てみると、何度か当ブログに利用したが、些か怪しくなる。
《民主党政策集INDEX2009》
〈消費税改革の推進
消費税に対する国民の信頼を得るために、その税収を決して財政赤字の穴埋めには使わないということを約束した上で、国民に確実に還元することになる社会保障以外に充てないことを法律上も会計上も明確にします。
具体的には、現行の税率5%を維持し、税収全額相当分を年金財源に充当します。将来的には、すべての国民に対して一定程度の年金を保障する「最低保障年金」や国民皆保険を担保する「医療費」など、最低限のセーフティネットを確実に提供するための財源とします。
税率については、社会保障目的税化やその使途である基礎的社会保障制度の抜本的な改革が検討の前提となります。その上で、引き上げ幅や使途を明らかにして国民の審判を受け、具体化します。
インボイス制度(仕入税額控除の際に税額を明示した請求書等の保存を求める制度)を早急に導入することにより、消費者の負担した消費税が適正に国庫に納税されるようにします。
逆進性対策のため、将来的には「給付付き消費税額控除」を導入します。これは、家計調査などの客観的な統計に基づき、年間の基礎的な消費支出にかかる消費税相当額を一律に税額控除し、控除しきれない部分については給付をするものです。これにより消費税の公平性を維持し、かつ税率をできるだけ低く抑えながら、最低限の生活にかかる消費税については実質的に免除することができるようになります。〉 |
「現行の税率5%を維持」するとは、マニフェストは4年間の公約だから、4年間は「現行の税率5%を維持」するとの約束となる。
これはきっと守るだろう。
消費税を増税する場合の「税率については、社会保障目的税化やその使途である基礎的社会保障制度の抜本的な改革が検討の前提となります」云々は、「基礎的社会保障制度の抜本的な改革」を税率「検討の前提」とするということであり、逆説するまでもなく、「基礎的社会保障制度の抜本的な改革」なくして、消費税増税はあり得ないということでなければならない。
だが、社会保障給付費が年々増加の一途を辿って平成19年度は94兆848億円の過去最高を更新したという状況は消費税増税で得た税収を例え「社会保障以外に充てない」と約束したことを守ったとしても、増税がいつかは追いつかなくなる一時凌ぎでしかなく、再び増税して一時凌ぎを繰返さなければならないという状況を言うはずであり、その原因は特に年金問題に現れているが、「基礎的社会保障制度の抜本的な改革」に効果ある方策を打ち出し得ず、社会保障給付費が年々増加の一途を辿る状況を放置してきたからだろう。
「前提」を「前提」とするためには、「基礎的社会保障制度の抜本的な改革」を実効性ある形で具体的に成し遂げてからの消費税増税としなければならないはずだが、この点に於いてマニフェスト違反となる消費税増税と言うことができ、細野氏やその他が言っていることは詭弁に過ぎないことになる。
このように見てくると、もはやマニフェスト違反云々よりも、「基礎的社会保障制度の抜本的な改革」がなければ、際限もない消費税増税の泥沼に陥る危険性の方がより大きな問題となる。
野田首相自身も自分の言葉で消費税増税に前提条件をつけている。一度ブログに書いたが、8月29日(2011年)の民主党両院議員総会で行った民主党代表選の立候補者演説のときのことである。多分、他の機会にも発言しているはずである。
野田首相は「それでも、どうしてもおカネが足りないときには、国民にご負担をお願いすることがあるかもしれません」と消費税増税も含めてだろう、増税の前提として、「議員定数の削減、そして公務員定数、あるいは公務員人件費の削減」と行政改革の達成を約束した。
向こう3年間に亘って公務員人件費を平均7.8%削減する臨時特例法案を既に国会に提出しているが、議員定数の削減と公務員定数の削減は手つかずであり、手つかずの状態のまま「法案を通して、税率の引き上げの実施前に国民に信を問いたい」と言っている。
自分の言ったことに反する約束違反そのものであろう。
だが、何よりも問題なのは「逆進性対策のため、将来的には『給付付き消費税額控除』を導入します」と謳っていることである。
これこれこのような内容の消費税にしますという宣言である。
だが、野田首相はどのような内容の消費税にするのかの説明は一切無く、G20で国際公約したように「2010年代半ばまでに段階的に消費税率を10%まで引き上げる」の一点張りである。
菅首相は2010年7月参院選挙前に2010参院セマニフェスト発表記者会見で内容を詰めもせずに不用意に消費税増税を打ち出して支持率が急激に下がると、参院選挙遊説先でどういう内容の消費税にするか発言している。
菅首相「年収が300万円とか350万円以下の人は、かかった消費税分は全額還付をするというやり方もある。あるいは食料品などの税率は低いままにしておくというやり方もある」――
具体的に詰めもせずに思いつきのように提示しただけだから、支持率のなお一層の低下に役立ったのみであったが、要するに中低所得層に対して全額税還付方式、あるいは食料品などの生活必需品は税率据え置きの軽減税率方式を打ち出した。
野田首相にもあって然るべき内容提示であり、説明であろう。「全額税還付方式」もない、「軽減税率方式」もない、マニフェストに謳った「年間の基礎的な消費支出にかかる消費税相当額を一律に税額控除し、控除しきれない部分については給付をする」〉「給付付き消費税額控除方式」もないということなら、無いことを説明する責任を負っているはずである。
「従来どおり、税率を上げた分、一律に負担して貰います」と。
いわば、「法案を通して、税率の引き上げの実施前に国民に信を問いたい」の順番よりも、先ず為すべきは新たに増税する消費税はこういう内容にします、こういう形にしますと提示し、増税によってどのくらいの税収となるか、社会保障関係の財源に回したとしても、そこで浮いた既存予算がどう使われることで、どう財政再建に役立つか、さらに日本の経済に及ぼす影響、特に中低所得層の生活にどのような影響を与えるのかの懇切丁寧な説明であろう。
このことを要約すると、中長期的に消費税増税でどのくらい国民生活を満足させることができるのかの提示・説明ということになる。
もしこの提示・説明ができないということなら、具体的全体像を描かずに単に税収アップのための消費税増税ありきということになる。
野田首相は何ら説明責任を果たさないままに消費税増税の話をしている。安全運転ということは自己保身のために説明責任から逃げることを言うのだろうか。 |