平岡法相が11月4日(2011年)の閣議後の記者会見で村木事件は「冤罪に該当しない」と定義づけたという。 《岡法相 郵便不正事件無罪の村木さん「冤罪とはならない」》(MSN産経/2011.11.4 12:48)
平岡法相の記者会見に先立つ閣議。村木事件が冤罪かどうかを問う質問主意書に対する答弁書――
答弁書「法令上の用語ではなく、政府として定義について特定の見解を有しておらず、特定の事件が冤罪か否かについても見解を有していない」
この質問主意書はHP「衆議院-質問答弁」で調べたところ、提出日平成23年10月27日、提出者浅野貴博民主党・無所属クラブ議員、質問件名「いわゆる郵便不正事件に係る国家賠償等に関する質問主意書」以外に該当すると思える件名が存在しないから、このことだと思うが、答弁書が閣議決定を受けていながら、「質問情報」も「答弁情報」も記載に2週間程度だったと思うが、遅れがあってまだ記載されていないために新聞報道に頼らざるを得ない。
この情報時代に情報の発信と同時に公表が同時進行を伴わないタイムラグが生じることによって情報への直接的な接触が不可能となる分、その解読・判断、いわば正確な評価自体を一定期間不可能、もしくはより困難な状態に置くことになって、情報自体の必要性の解読・判断・評価自体にもタイムラグを生じさせることになり、このことがときには必要とする行動を誤らせたり、遅れさせたりする。
例えば東電福島第1原発事故で放射性物質を拡散予測する「緊急時迅速放射能影響予測システム」(SPEEDI)の予測結果が事故から約2週間に公表が遅れたために住民が必要とする避難行動を誤らせたのは一つの好例であって、「緊急時迅速放射能影響予測システム」(SPEEDI)が予測という情報を発信したと同時進行で公表が伴っていたなら、生じなかった避難行動の誤ちであったはずだ。
政府答弁書は要するに「冤罪」に関して「特定の見解」を有していないために特定の事件に関しても冤罪かどうか見解を述べることができないと言っている。
だとすると、菅谷利和氏が犯人として逮捕され、起訴・有罪となり、再審の末無罪を獲ち取った足利事件も、冤罪そのものでありながら、「冤罪か否かについても見解を有していない」ということになる。
一方平岡法相の見解は次のようになっている。
平岡法相(冤罪の解釈について)「答弁書の内容通り」
平岡法相「法務省内部(の報告書)でも冤罪という言葉が使われている。そこでは無罪の者が有罪判決を受ける状況を指していると理解している。その意味では、村木さんは有罪判決を受けておらず、該当しない」
前後の発言が矛盾している。「答弁書の内容通り」であるなら、「特定の事件が冤罪か否かについても見解を有していない」とすべきを、村木事件は冤罪ではないとする見解を堂々と述べている。
但し平岡法相の解釈は足利事件と整合性を分かち合うことができる。
有罪判決を受けていないから、村木事件は冤罪に当たらない。
平岡法相が言っていることは検察・警察の取調を受け、お前は真犯人だ、有罪だと起訴されたとしても、有罪判決が降りなければ、冤罪ではないということになる。
法解釈ではそうであっても、理不尽さが残る。浅野貴博議員の「いわゆる郵便不正事件に係る国家賠償等に関する質問主意書」という質問件名からすると、村木事件は冤罪だから、国家賠償に相当するのではないかといった内容でもあるのだろうか。
但し村木氏が冤罪自体を対象としてではなく、不当な逮捕、起訴で精神的苦痛を受けたとして訴えた国家賠償請求訴訟に関しては、休職中の給与分など約3770万円について請求を認める「認諾」を表明している。
村木事件が捜査側の証拠(=情報)から汲み取る解釈の思い込みや過誤による犯人特定であるならまだしも、重要証拠であるフロッピーディスクの作成日付を書き換える証拠(=情報)を改竄・捏造して自分たちに都合のいい証拠(=情報)に作り替え、「疑わしきは罰せず」の法的根拠となっている刑事訴訟法336条「被告事件が罪とならないとき、又は被告事件について犯罪の証明がないときは、判決で無罪の言渡をしなければならない」の規定を検察段階で破って犯人に仕立て、罪に陥れようとし、それを上司も知っていた検察ぐるみの犯罪はその逆説性から言っても悪質な冤罪未遂事件に相当するはずである。
いわば証拠(=情報)の改竄・捏造が露見して裁判で無罪が言い渡され、有罪とまでいかなかったゆえに未遂に終わった検察の冤罪ということであって、平岡法相が言うように有罪判決を受けていないから、冤罪には該当しないという裁判段階の問題とするのではなく、あくまでも検察段階の問題と把えるべきではないだろうか。
法務省幹部(平岡法相の発言について)「法務省として冤罪を定義づけていない以上、村木さんが冤罪かどうかを判断したわけではない」
政府答弁に即した判断を示していて、検察による冤罪未遂事件だとまで認識していない。
もし浅野貴博議員の質問主意書が村木事件を国家賠償に相当する冤罪だとする内容のものであるなら、検察とて法務省所管の一機関であって、正義を正すその国家機関が裁判で有罪判決を受けなかったとしても、証拠(=情報)を改竄・捏造までして正義を曲げ、真犯人に仕立てたのであり、例え政府が冤罪の定義について特定の見解を有していなかったとしても、無実の者を罪に陥れる事実上の冤罪を仕組んだのである以上、国家賠償の責任を負う立場にあるはずである。
村木氏が検察の不当な逮捕、起訴で精神的苦痛を受けたとして訴えた国家賠償請求訴訟請求を認める「認諾」を表明している整合性から言っても、冤罪未遂にも適用すべき国家賠償であろう。
繰返し言うが、有罪判決を下さなかったという裁判の問題ではなく、あくまでも冤罪未遂事件を起こした検察の問題で扱うべきであろう |