今日の記事は前々日(2011年2月10日)エントリーの当ブログ《党首討論 菅首相は問題意識を欠いている - 『ニッポン情報解読』by手代木恕之》と少々重なるが、そこに大体次のようなことを書いた。
菅首相は党首討論で(他の機会にもだが)、「社会保障のあるべき姿」を言うが、大まかな骨子が見えない、「社会保障のあるべき姿」とは消費税増税を一体としている以上、5%やそこらの増税でも生活に不安を抱えない安心所得層はさておいて、5%でも生活に不安を来たす、中には果たしてやっていけるだろうかと絶望的になる生活者もいるかもしれないから、不安心所得層を対象とした増税による生活圧迫を解消するセーフティネットこそが安心社会の構築に必要不可欠となるはずであり、そのセーフティネットとして、《民主党政策集INDEX2009》に〈逆進性対策のため、将来的には「給付付き消費税額控除」を導入します。これは、家計調査などの客観的な統計に基づき、年間の基礎的な消費支出にかかる消費税相当額を一律に税額控除し、控除しきれない部分については給付をするものです。これにより消費税の公平性を維持し、かつ税率をできるだけ低く抑えながら、最低限の生活にかかる消費税については実質的に免除することができるようになります。〉と提言している以上、「社会保障のあるべき姿」を云々する前に不安心所得層に対するこういった情報発信が必要ではないかと。
次の日の2月11日(2011年)、「NHK」のサイトに、《低所得者への軽減策 検討急ぐ》(2011年2月11日 4時10分)なる記事が載っているのに気づいた。「4時10分」の発信となっているから、前の晩(10日)の報道かもしれないが、党首討論はその前日の9日午後4時からで、菅首相が「社会保障のあるべき姿」を盛んに発信していたものの、「逆進性」については一言も触れていないばかりか、安心、あるいは不安心の解消についての言葉は、「この団塊世代の前後にとって、社会保障の将来は、不安感を持ってみておられます。同時に私たちの、ちょうど子供の世代の若い皆さんは、果たして自分たちのときに、今のような社会保障の給付が受けられるのかという、不信感を多く持っておられます」、だから、「我々世代がやらなければならないのは、この問題を、ある意味では一刻も早くですね、しっかりとした案を作って、そして実行に移すことじゃないでしょうか」と「社会保障のあるべき姿」の推進を言っているのみで、他に一言も発信していない。
《民主党政策集INDEX2009》に既に逆進性対策を約束し、政権を担って国民との契約に格上げしておきながら、党首討論では一切触れずに、こに来て「低所得者への軽減策」の検討を急ぐとするのは、遅過ぎる準備と言わざるを得ない。
このことは関係閣僚もそうだが、「社会保障のあるべき姿」を散々に発信していながら、肝心要の菅首相の頭に逆進性に関してしっかりと頭に入っていなかったことによる今更ながらの“検討”であり、これまでの失念であろう。
尤も菅首相は昨年の参院選前に不用意且つ与党としての主体性を持たずに消費税発言をして支持率を下げると、それを挽回するために躍起となって参院選の遊説地の先々で「消費税分全額還付」等の逆進性対策を打ち出しているが、このこと自体が消費税増税のしっかりとした全体像が菅首相の頭にしっかりとは入ってはいなかった、はっきりとした全体像を描いていたわけではないことの暴露となっていた。
いわば「社会保障のあるべき姿」を盛んに情報発信しているが、具体像の構築は他人任せの丸投げで、菅首相自身は具体的中身のない情報発信を専ら行っていたということではなかったか。
先ず上記「NHK」記事を見てみる。
〈政府は、消費税を含む税制の抜本改革に関連して、消費税率の引き上げにあたっては、所得が低い人ほど負担が重くなる「逆進性」の解消が課題となっていることから、低所得者に対する負担軽減策の検討を急ぐことにしています。〉
今になって気づきましたと言っているようなものである。菅首相は党首討論で自公政権成立の平成21年度の税制改正法附則104条に従って〈社会保障に充てるために消費税率を引き上げるとした税制改正の法案を来年3月末までに国会に提出する考えを示した〉が、〈消費税を巡っては、所得が低い人ほど負担が重くなる「逆進性」が指摘されており、これをどう解消するかが課題となっています。社会保障と税の一体改革を担当する与謝野経済財政担当大臣は、内閣府の担当者らに対し、この具体策の検討を急ぐよう指示しており、所得の低い人に現金を払い戻す「給付付き税額控除」や、食料品などの生活必需品の税率を低くする「軽減税率」の導入について、議論が進められる見通しです。〉と記事は続けて書いている。
まさに順序は逆である。低所得の生活不安心所得層に対して逆進性緩和のセーフティネットを講ずるのか、最初の消費税導入時と比較して所得格差が進行、国民の多くが所得を下げている状況を無視して従来の導入形式と同様に無差別に網を掛けるのか、そのことを提示してから、その提示をベースに「社会保障のあるべき姿」と「税制改革」の構築に進むべきを、「社会保障のあるべき姿」と「税制改革」を最初に持ってきている。
また、記事は〈社会保障と税の一体改革を担当する与謝野経済財政担当大臣は、内閣府の担当者らに対し、この具体策の検討を急ぐよう指示しており〉と解説しているが、元自民党、自民党を離党し、新党どっこいしょたちあがれ日本をたちあげ、共同代表となった、現在菅内閣に参画しているものの、反民主であった与謝野が逆進性の検討指示を行う。
いわば少なくとも逆進性の検討に関しては《民主党政策集INDEX2009》で触れてはいるものの、民主党の主体性が見えない。この逆説は何を意味するのかと言うと、やはりリーダーである菅首相の頭には入っていなかった消費税逆進性対策と言うことであろう。
記事はまた、政府の税制調査会がこの件についての検討を始めると10日の懇談会で決めたことに触れているが、要するにこれからの検討だということである。このことを裏返すと、まだ検討していなかったということを示すことになる。
〈政府の税制調査会も、10日、有識者を交えた懇談会で、この論点について議論を始めることを決めました。政府は、「給付付き税額控除」や「軽減税率」の利点や問題点を整理したうえで、社会保障と税の一体改革の議論に合わせ、ことし6月に向けて、低所得者に対する負担軽減策の検討を急ぐことにしています。〉
低所得の生活不安心所得層程、日々生活設計に負われているというというのに、そういった状況を考慮できずに何とまあ、スローモーションなことである。
菅首相は消費税発言で劣勢を強いられることとなった参院選の戦況を覆すべく、遊説の先々で逆進性対策を打ち出した。殆んどが知っているようにそれは発言のブレとなって現れた。このこと自体が菅首相の頭の中に消費税逆進性対策がしっかりと入っていなかった証拠そのものと言える。
このことはブログ《菅首相と野党の消費税提示の違い――その稚拙さ》に書いた。
年収別に応じて消費した金額にかかる消費税分を全額還付するという逆進性緩和対策を打ち出したのである。
秋田市内での税還付発言――
菅首相「年収が300万円とか350万円以下の人は、かかった消費税分は全額還付をするというやり方もある。あるいは食料品などの税率は低いままにしておくというやり方もある」――
だが、青森市での遊説では「年収200万円とか300万円」、山形市では「年収300万~400万円以下の人」
テレビも新聞も、400万円以下だと46.5%の世帯が該当することになり、消費税を増税する意味を失うと伝えていた。少なくとも税収を半減させることになる。
菅首相の頭にあったのは生活不安心所得層に対するセーフティネットとなる自らが思い描いていた逆進性緩和対策の「あるべき姿」ではなく、参院選の劣勢挽回のみであったからだろう。いわば消費税発言が生み出したマイナスの影響を打ち消して劣勢を挽回するため逆進性緩和対策としての「税還付」方式を持ち出したに過ぎなかったと言うことである。
だから遊説先によって還付すべき年収にバラつきが生じた。
「社会保障のあるべき姿」と言いながら、あるいは「消費税を含む税の一体改革」と立派そうに言いながら、単に言葉を費やしているだけのことで、実質的には具体的な姿を思い描かないままの情報発信だったのである。
だから上記「NHK」記事が伝えるように今更ながらに低所得者への軽減策の検討を急ぐことになる。
尤も「給付付き税額控除」であろうと、食料品などの生活必需品の税率を低くする「軽減税率」であろうと、消費税を増税した場合の生活不安心所得層に対するセーフティネットをしっかりと構築した上での消費税増税であったとしても、衆議院任期4年間の増税は自らのマニフェストに違反することに変わりはない。
さらにこのマニフェスト違反に加えて、《高橋洋一の民主党ウォッチ いよいよ民主党の内乱起こりそう 菅・与謝野の「詭弁」に反発》(J-CAST/2011/2/10 17:01)が触れている記載が障害となって立ちはだかることになる。
〈与謝野大臣は、09年度の税制改正法付則104条に、「遅滞なく、かつ、抜本的に消費税を含む税の抜本的改革を段階的に行うため、11年度までに必要な法制上の措置を講ずる」と書かれていることを強調している。
しかし、よく法律を読んでみよう。その付則には「平成二十年度を含む三年以内の景気回復に向けた集中的な取組により経済状況を好転させることを前提として」と書かれている。「平成二十年度を含む三年以内」とは、2008年4月から2011年3月までだ。この間にまともに景気回復の取り組みはなされておらず、デフレから脱却できず、経済状況も好転しているとはいえない。ということは、付則の前提条件が崩れている。〉――
これは多くの政治家、識者が「先ずは景気回復が先だ、消費税増税はそれからだ」に合致する。
勿論、このような考え方が正しいかどうかは別問題である。だが、税制改正法付則104条に則って消費税を含めて「11年度までに必要な法制上の措置を講ずる」とするなら、その前提条件たる「経済状況の好転」をも制約とする義務を負うはずである。
菅首相が菅内閣発足早々、参院選前から消費税増税を先に持ってきたということはこういったことも菅首相の頭には入っていなかったことを示す。すべてに亘ってノー天気だったとも言うことができる。
|