池田信夫氏記事《非正社員を規制すると何が起こるか-日本郵便の「人体実験》の矛盾

2011-02-20 06:32:33 | Weblog



 池田信夫氏が日本郵便の雇い止めを例に挙げて民主党政権の非正社員の正社員化政策を批判している。かの著名な経済学者の書いた記事をド素人が再批判するということは恐れ多いことだが、どうも池田氏の批判の前提条件が間違っているように思えて仕方がない。全文は《非正社員を規制すると何が起こるか-日本郵便の「人体実験(エコノMIX異論正論)》にアクセスして確かめて貰うことにして、内容を箇条書きに纏めてみた。 
 
●民主党政権は、製造業の派遣労働を禁止する労働者派遣法の改正案を出すなど、非正社員の規制に乗り出
 している。
●この人体実験が日本郵政グループの郵便事業会社(日本郵便)で行われた。
●非正社員を禁止すればみんな正社員になると思っているようだが、決してそんなことはない。
●企業の人件費は決まっており、正社員のコスト(賃金・年金・退職金など)は非正社員の約2倍なので、
 規制によって正社員を増やすと雇用できる人数が減り、非正社員が職を失う。
●国民新党の亀井静香氏は、鳩山内閣の郵政担当相だったとき、郵政民営化を見直すと同時に「日本郵政グ
 ループにいる22万人の非正社員のうち、10万人を正社員に登用する」という方針を打ち出した。その結
 果、正社員募集に応じた非正社員のうち、8400人(うち日本郵便は6500人)が正社員に登用された。
●日本郵便は郵便物取扱量減少に加えて、「ゆうパック」の「ペリカン便」との統合失敗、大幅な遅配等に
 よる経営混乱で顧客離れが発生、経営危機が表面化。
●このため2012年度は新卒採用中止、約2000人の雇用喪失、さらに今年3月末で採用期限切れの非正社
 員のうち2000人の契約更新中止の「雇い止め」を決定。

●以上を以って、6500人の非正社員を正社員にした結果、新卒採用予定の約2000人の雇用喪失+雇い止
 め2000人≒4000人の雇用減が生じた。
●日本郵便の場合、正社員と非正社員の賃金はひとり年間200万円の較差と言われている。正社員
 化6500人×200万円増=130億円の人件増を結果的に4000人の雇用減で埋め合わせることとなっ
 た。

 池田氏は〈特に非正社員のうち、雇い止めされる2000人は、正社員に登用された6500人の犠牲になったわけだ。〉と非正社員の正社員化政策を情け容赦もなく切捨てている。

 そして結論。〈非正社員の雇用が不安定で気の毒だというのは、その通りだろう。しかし企業は、彼らを慈善事業で雇っているわけではない。人件費以上の売り上げがなければ、赤字が出て雇用を維持することはできない。それを無理やり正社員にしろという規制を行うと、経営が悪化して結局は雇用が失われるのだ。〉――

 企業の非正社員雇用はその人数分の働き手(労働者)を必要とするからなのは当然だが、その人数は経営規模に応じる。経営が悪化したとき、経営規模も縮小することになるから、雇用調整が必要となって、企業の都合でいつでもクビを切ることができる便利な雇用調節弁であると同時に非正社員の人件費が日本郵便のように正社員の半額なら人件費調節弁としても便利な存在となる。

 だが、雇用調整弁・人件費調整弁は常に非正社員にのみ宿命づけられているわけではない。非正社員のみの人員整理で済めばいいが、さらに経営規模を縮小しなければ経営維持ができない場合、正社員を人員整理の対象とし、早期退職者を募ったり新規採用を停止したりして雇用調整と人件費調整を同時に行い、残った正社員に対しても賃金カットやボーナスカット等で人件費のなお一層の調整を行わなければならないケースも生じる。

 こうした正社員対象の調整はこれまでも行われてきた。企業がもし非正社員を全員正社員化しなければならないと法律で定められて経営状況に応じて働き手(労働者)を必要とする人数分非正社員から正社員に切り替え採用したとしても、今まで非正社員採用で抑えることができていた人件費の増加分は基本給や定期昇給を抑えたり、固定給を能率給に変えたり、初任給を低くしたりすることで調整することになるだろうし、まともなところでは一人ひとりのスキルアップを図って生産性を上げ、相対的に人件費減と雇用者数減に持っていくといったことを併行して行うことになるに違いない。

 こういった企業努力にも関わらず、企業のみの力ではどうしようもない景気の影響や企業自身の問題となる経営失敗等の理由で経営が悪化して採算が合わなくなれば、企業維持の当然の措置として人員整理に走らなければならなくなる。 

 勿論対象は非正社員は存在しないから、すべて正社員対象の雇用調整・人件費調整となる。非正社員が存在しようと、全員正社員化して非正社員が存在しない社会となろうと、どの道景気次第・経営次第を条件として人員整理は起こり得るということである。

 となると、雇用に於ける基本的問題は常に経営状況が前提となることになる。しかし池田信夫氏の上記記事は経営が悪化状況にある日本郵便を取上げて、非正社員の正社員化は失敗だったと批判し、それを以て非正社員の正社員化政策を間違いだと談じる矛盾がある。

 経営次第で雇用調整が行われるとしたら、身分よりも非正社員と正社員との間の様々な待遇の格差に問題があることになる。日本郵便に限らず、非正社員と正社員との間の同一労働の場合の賃金格差であろう。もし日本郵便が同一労働で非正社員と正社員の賃金格差がひとり年間200万円だとすると、日本郵便は非正社員から正社員と比較して年間200万円も余分に利益を上げていることになる。

 同一労働でありながら、正社員と比較して報酬が低いこと程の人間軽視はあるまい。先ずは政府が行うことは同一労働・同一賃金に持っていく政策であろう。

 次に非正社員の方が正社員と比べて簡単にクビを切られる待遇上の欠点の是正、企業側から言うと、簡単にクビを切ることができるという利点となるが、例え非正規社員を雇用調整弁として首切りを行う場合でも、正社員同様の退職金、再就職準備金等を支払うことを法的に義務付けることで、人間的に対等関係に持っていくことではないだろうか。

 後の政府の役目は景気が悪化した場合、早期の景気回復策を講じ、企業の経営規模縮小を可能な限り阻止することではないだろうか。


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