菅首相はロシア北方四島見解「第2次大戦の結果認めよ」を乗り超える否定論理構築の責任を負う

2011-02-16 09:24:24 | Weblog



 「北方四島は我が国固有の領土」と言うだけの常套句化した公式見解だけでは北方四島ロシア領土化の企みは阻止できない

 記事が冒頭で書いているように、北方四島に関してこれまでもロシア側は機会あるごとに第2次大戦の結果が決めた領有だとの立場を取ってきたが、ラブロフ露外相が15日、このことを直接的に言及したと、《ロシア外相、日本を牽制 「第2次大戦の結果認めよ」》asahi.com/2011年2月15日23時37分)が報じている。

 ラブロフ外相が〈日本が第2次世界大戦の結果を認めない限り、平和条約交渉をするのは無意味だと述べた。〉とした上で、

 ラブロフ外相「第2次世界大戦の結果を認めるという他の国がしていることを、日本がする以外に方法はない」

 と言うことなら、日本側はこのロシア側の論理を否定する論理を構築する必要に迫られる。ただ単に「認めるわけにはいかない」と言うだけでは現実に進んでいる北方四島の着実なロシア領土化進展を止めることはできない。

 ラブロフ外相のこの発言は、菅首相が2月10日の夕方、首相官邸でのぶら下がりで、2月10日から12日までの(13日午前帰国)前原外相の北方四島問題を話し合うロシア訪問に関して、「北方四島は我が国の固有の領土であるというこの基本的考え方は全く変わりません。その上で強い気持ちを持ってですね、いい会談をしてもらいたいと、そう期待しています」(asahi.com)と述べたものの、その訪問が殆んど意味を成さなかった、効果がなかったことを証明することになる。

 いわば「北方四島は我が国の固有の領土である」とする日本側の発言は最早ロシアには通じない、日本国内向けの公式見解となりつつあることの証明ともなっていると言うこともできる。

 2月12日午前の首相公邸前のぶら下がりでは次のように発言している。

 菅首相「昨日ロシアで前原大臣とロシア外相との会談が行われました。なかなか厳しい雰囲気の中ではあったようですが、非常に、前原大臣頑張って、しっかりした議論をしてくれたと、こう思っております。

 帰ってきてまた報告を受けることにしておりますが、いずれにしても北方四島は、歴史的に見て我が国の固有の領土であるという、この基本はいささかも揺るがない、揺るがなかったと、このように考えております。私からは以上です」 (asahi.com

 「この基本はいささかも揺るがない」と言っているのは菅首相、あるいは前原等の菅内閣の閣僚のみで、北方四島の現実からしたら既に揺らいでいる。

 夫が他の女性を愛し、妻から心も身体も離れているのに妻が私は夫を信じている、その気持に揺らぎはないと言っているようなものである。

 ロシアによる北方四島ロシア領土化が着々と進んでいるにも関わらず、日本側は既に手垢のついた公式見解に過ぎない「北方四島は我が国の固有の領土である」を繰返すだけとなっている。空文化ならぬ空言化しているとまで言うことができるというのに。

 日本側は北方四島の開発に向けた日本の投資をロシア側の管轄権を認めることになるとして制約してきたが、ロシア側が日本に代る中国や韓国企業に対する開発誘致へと姿勢転換、2月9日、メドベージェフ大統領が次ぎの方針を公表している。

 メドベージェフ大統領「協力を侮辱的とは考えない近隣諸国と協力する用意がある」(asahi.com

 「近隣諸国」とは日本を除いた中国や韓国を指す。この2月9日のメドベージェフ発言は2日前の2月7日の菅首相の「昨年11月のメドベージェフ露大統領の北方領土、国後島訪問は許し難い暴挙」とした発言への対抗措置なのは誰の目にも明らかである。

 メドベージェフの発言から1週間も経たない2月15日の「NHK」の報道――《北方領土 中国企業が経済活動》(2011年2月15日 1時11分)

 〈日本政府が北方領土での第三国の経済活動を容認できないとするなか、中国の企業が、国後島で水産物を養殖するプロジェクトをロシア側と共同で始めることで合意したことが分かりました。
 合意したのは、北方領土の国後島の有力者が代表を務めるロシアの水産会社「ボズロジジェーニエ」社と中国・大連の水産会社です。このロシアの水産会社によりますと、両者は今月初め、地元の行政府の立ち会いの下、国後島で水産物を養殖するプロジェクトを始めることで合意し、覚え書きに署名しました。〉

 サハリン州政府の公表によると、北方領土で第三国と合弁会社を設立するなどして共同事業を運営するケースは初めてだという。

 ナマコやホタテ貝などを養殖する施設の共同建設だそうで、輸出先は主として中国ということだが、中国迂回で日本に入ってこない保証はない。

 ロシア側企業代表「中国企業の豊富な資金力を生かしてビジネスを発展させたい」

 記事は最後に次のように解説している。〈北方領土での第三国の経済活動を巡っては、先の日ロ外相会談後の記者会見で、ラブロフ外相が「中国や韓国からの投資を歓迎する」と述べたのに対し、前原外務大臣は、ロシアによる実効支配を正当化しかねないとして、容認できないとの立場を重ねて示し、神経をとがらせています。〉――

 記事が書いている状況から窺うことができる光景は日ロ外相会談に於ける前原外相の努力が何ら効果がなかったことの一部始終である。

 そして中国企業に遅れてはならないと続いたのか、韓国企業。韓国企業がロシアの水産会社と国後島で共同事業に乗り出す合意文書に署名する段階まで進んでいる様子を《韓国企業、国後島で事業展開へ ロシアの水産会社と共同》asahi.com/2011年2月16日3時1分)が伝えている。

 2月11日の日ロ外相会談で前原外相が、〈日本の主権を侵害しない形でとの条件をつけて〉、〈北方領土の経済協力についてハイレベル協議を進める意向を示し〉ていた中での中国企業と韓国企業との共同事業の公表となっている。

 前原外相が示した条件はこれまでも日本が取っていたロシア側の管轄権を認めない範囲内と同じで、ロシア側にとっては別に目新しいものではなく、ハイレベル協議が一定の成果を上げたとしても小規模、且つ限定的となることは見通すことができることから、日本を除外することは外相会談前からの決定路線だったに違いない。

 いや、却って日本との協議は障害と見ている可能性もある。日本を除いた国の企業の中にはロシアの水産会社と共同事業を行うことになった中国企業や韓国企業のように利益が認められることなら、日本の「北方四島は我が国の固有の領土である」は問題外と看做す企業がいくらでも存在すると見ることができるからだ。

 記事は書いている。〈北方領土の返還を求める日本政府は、第三国からの投資はロシアの管轄権を認めることにつながるとして容認できないとの立場だ。韓国企業の進出が現実になれば、ロシアの実効支配がいっそう固められ、領土交渉は困難になる。 〉と上記「NHK」と同様のことを解説している。

 ロシアは北方四島に於けるロシアの管轄権を認めさせる手段としても日本を除いた「近隣諸国」の企業誘致に打って出たのかもしれない。

 だとしたら、日本はロシアの管轄権を認めることにつながりかねない第三国からの投資を阻止する手を打たなければならないことになる。打つことができなければ、ロシアの北方四島領土化は修復できないところまで進み、実効支配を確定的とすることになる。

 2月15日夜の菅首相の首相官邸でのぶら下がり。《「予算関連法案、予算と並行して成立を」15日の菅首相》asahi.com/2011年2月15日20時55分)

 ――北方領土の国後島で中国企業がロシアと共同で水産物の養殖プロジェクトを行うことが一部報道で明らかになりました。北方領土における第三国の経済活動については初めてとなりますが、日本政府としてどのように受け止めますか。また、日本とロシアの4島における経済協力を今後、どのように進めていく考えでしょうか。

 「報道が確認されたものではないと認識しています。いずれにしても、そういうことがあるとすればですね。それは、我が国の姿勢とは相いれないと、こう思っています」 ――

 「我が国の姿勢」とは「北方四島は我が国の固有の領土である」ということであり、ロシア側の管轄権を認めることになる日本を含めた外国からの投資は認められないとする姿勢なのは断るまでもないが、現実的にロシアによる北方四島の開発が進展し、尚且つ中国や韓国からの投資を進めようとしている状況下で、これらの進行を「我が国の姿勢」と言っているだけで果して阻止することができるのだろうか。

 菅首相が「我が国の姿勢」と言っている間にも北方四島ではロシア領土化の様々な進展が進んでいるのである。進めば進むほど「北方四島は我が国の固有の領土である」は手垢がついた空言化の度合いを高めていく。

 「北方四島は我が国の固有の領土である」と言っているだけでは、あるいは「我が国の姿勢」と言っているだけでは何の問題解決にもならないところまで突き進んでいるということである。

 菅首相はこのことを認識して、「北方四島は我が国の固有の領土である」とか、「我が国の姿勢」と言っているのだろうか。いや、認識していないからこそ、常套句化の公式見解とすることができているのだろう。どうも緊張感も切迫感も感じることができない菅首相の態度に見える。
 
 北方四島のロシア領土化は抜き差しならないところまできているのである。菅首相は「北方四島は我が国の固有の領土である」の空言化を払拭して有効な言葉とするためにロシア側の「第2次大戦の結果認めよ」を打ち砕く新しい言葉を構築する責任を負う。


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