「尖閣諸島は日本の固有の領土である」イコール「尖閣諸島に領土問題は存在しない」とはならない

2010-10-31 08:53:49 | Weblog

 確かに尖閣諸島は日本の固有の領土である。だからと言って、中国との間に尖閣諸島を巡って領土問題が存在しないとする理屈は日中間の現実の政治が事実でないことを教えている。

 「尖閣諸島は日本の固有の領土である」と「釣魚島諸島は中国固有の領土である」を日本と中国がそれぞれの事実としている。そのことを認識しなければならないはずだ。

 いわば「尖閣諸島は日本の固有の領土である」イコール「尖閣諸島に領土問題は存在しない」となっていないことを現実の政治が否応もなしに教えている。

 だが、菅内閣は「尖閣諸島に領土問題は存在しない」とする態度を取り続けている。中国との間で中国に対しても「尖閣諸島は日本の固有の領土である」を事実とさせる真正面から取り組む強い意志を持ち得ないでいることからの逃げた姿勢としてある領土問題の否定であろう。

 菅内閣の今回の中国漁船衝突事件の乗組員と船長逮捕で中国に領土問題でのパンドラの箱を開けさせた。中国は単に箱の底にしまっておいたに過ぎない。箱の底には元々領土問題は存在していたのである。「領土問題は存在しない」ではなく、「中国が中国の領土だと主張しているが、日本の領土であることは歴史的にも国際法的にも事実なのだから、日本の領海内の問題として処理する」とする冷静、且つ毅然とした意志を基本的姿勢として問題処理に当たるべきだったろう。

 いわばどのような軋轢や衝突が生じることが予想されたとしても、また実際に軋轢・衝突が生じた局面に立ち至ったとしても、中国漁船が領海侵犯を犯した時点から、「尖閣諸島は日本の固有の領土である」とする日本側の事実に忠実に則った態度を取り、その態度を最後まで維持すべきだった。「わが国の国民への影響や今後の日中関係を考慮すると、これ以上、船長の身柄の拘束を継続して捜査を継続することは相当でないと判断した」などといった中国側の事実に配慮した理由をつけて処分保留で釈放するするのではなく、起訴に持ち込み、罰金刑を科す。中国側が罰金を払わない意思を見せたなら、漁船を差押さて罰金の代わりとし、乗組員と船長を強制送還する。

 だが、菅内閣は中国が取った対抗措置に狼狽し、「尖閣諸島は日本の固有の領土である」に忠実に従った態度を途中放棄した。徹頭徹尾真正面から取り組む姿勢を取ることができずに「尖閣諸島は日本の固有の領土である」とすることから逃げたのである。逃げたことを認めたくないためと国民に隠すために「領土問題は存在しない」を言い続けたに過ぎない。

 もし「領土問題は存在しない」が真正な事実なら、アメリカの助けを借りて、「尖閣諸島は日米安保条約の枠内にある」といった米側の発言を中国への間接的メッセージとする必要はないはずだ。

 ベトナムハノイのASAN首脳会議に各国首脳が集まるのを機会に日本側が求めて最後の最後になって中国側がオーケーした日中首脳会談が中止となった原因の一つが日中外相会議後の前原外相の発言だとしているが、明確にどう発言したかはマスコミも重要視していなかったのか、記事を捜してみたが分からないが、間接的に伝えている記事がある。《レアアース問題 今後も協議 日中外相会談》asahi.com/2010年10月29日14時1分)

 前原外相が中国側がレアアース(希土類)の輸出を止めている対応に懸念を表明したのに対して、中国側が「駆け引きの材料にしない」との認識を示し、今後も密接に協議していくことになったとする内容の記事だが、このことは前原外相が会談後に記者団に明らかにした内容だとしている。

 前原外相「中国への製品輸出として(中国自身に)ふりかかってくる問題だ」

 楊外相「この措置は環境保護、資源管理という中国の考え方に基づく」

 「駆け引きの材料にしない」が、「環境保護、資源管理」の観点から輸出調整、もしくは輸出制限はあり得るとの意思表明であろう。輸出調整、輸出制限が対日禁輸という形を取らない保証はない。
  
 勿論、前原外相は日中間に懸案事項となっている他の問題についても明らかにしている。戦略的互恵関係の構築の確認、そして領土問題。

 〈尖閣諸島の領有権を巡る議論では前原外相から話題を切り出し、「尖閣は日本の領土」とする日本の立場を改めて伝えた。中国側は、中国の原則論を述べたという。〉――

 前原外相自身が領土問題を「尖閣は日本の領土」だと切り出したなら、中国は、「釣魚島は中国固有の領土である」と切り返したはずである。

 だが、「中国の原則論を述べた」としてのみ扱い、日本は「尖閣は日本の領土」だと記者団を通して世界に向けて(少なくとも中国側はそう取ったに違いない)公表した。

 領土問題のこのよう扱いも真正面から取り組む姿勢ではなく、逃げた姿勢の現れであろう。なぜなら、日本側のみが「尖閣は日本の領土」であると言って片付く問題では既になくなっているからだ。その事実を厳しく認識するだけの合理性を取り得ていない。「中国は尖閣は中国固有の領土だと主張した。日本も尖閣は日本の固有の領土だと主張した。いつかはこの領土問題を日中間で解決しなければならないことを申し上げ、解決のための会談を提案した」という、真正面から取り組む態度を取るべきではなかったろうか。

 この日中外相会談に関する中国側の発言の全文を伝える記事がある。《胡正躍中国外務次官補の発言全文》時事ドットコム/2010/10/29-22:43)

 胡正躍外務次官補「周知の通り、中国側は一貫して、中日間の四つの政治文書を基礎に、中日関係の維持と推進に力を尽くしてきた。しかしながら、東アジア指導者による一連の会議の前に、日本の外交当局責任者は他国と結託し、釣魚島(尖閣諸島)問題を再びあおった。日本側はさらに、同会議の期間中、メディアを通じて中国の主権と領土保全を侵犯する言論を繰り返した。

 楊外相は中日外相会談で、中国側の釣魚島問題における原則と立場を説明し、釣魚島と付属の島が中国固有の領土であることを強調した。その後、日本側はさらに、外相会談の内容について真実と異なることを流布し、両国の東シナ海問題の原則と共通認識を実行に移すという中国側の立場を歪曲(わいきょく)した。日本側のあらゆる行為は衆目が認めるように、両国指導者のハノイでの会談に必要な雰囲気を壊すもので、これによる結果は日本側がすべて責任を負わなければならない」

 「東アジア指導者による一連の会議の前に、日本の外交当局責任者は他国と結託し、釣魚島(尖閣諸島)問題を再びあおった」の「他国」とは勿論米国を指し、ハワイでの日米外相会談を非難対象としている。

 楊中国外相は30日にハノイで行った米中外相会談で尖閣問題についてクリントン米国務長官に申し入れている。《尖閣問題に口挟むな=中国外相がクリントン長官をけん制―米は3国会合を提案》時事ドットコム/2010年10月30日(土)20:03)

 楊中国外相「高度に敏感な問題では言動を慎み、中国の主権と領土保全を尊重し、いかなる誤った言論も発表すべきではない」

 尖閣は中国の領土であり、中国の主権問題であるとしている。対してクリントン長官。

 クリントン長官「尖閣諸島は米国の対日防衛義務を定めた日米安保条約の適用対象である。・・・・日中間のいかなる意見の相違も平和的に解決するよう促してきた。日中の平和で安定した関係はわれわれすべての利益だ」

 その上で、〈米国が日中双方に対し、日中関係の緊張緩和に向けて日米中3カ国による外相級会合の開催を提案したことを明らかにした。〉という。

 だが、日中間に刺さっている双方が我が国固有だとする領土問題のトゲを取り除かない限り、本質的、且つ根本的なな緊張緩和は望むべくもないはずだ。日本自身が中国との領土問題解決の会談に乗り込み、歴史的事実を中国に対してぶつける以外に根本的な解決への道筋は見えてこないだろう。

 この真正面から取り組まない、逃げた姿勢は勿論前原外相だけの姿勢ではなく、内閣としての共通した姿勢であり、以前ブログに取り上げたが、菅首相の内閣の長にふさわしい率先した姿勢ともなっている。再度ここに取り上げてみる。

 ベルギーのブリュッセルで行われたASEM=アジア・ヨーロッパ首脳会議閉幕後の10月4日(2010年)夜に行われた菅首相と温家宝首相との例の25分間の懇談。菅首相は懇談後に記者団に発言している。

 b>菅首相「だいたい同じ方向に歩いていたんですが、『やあ、ちょっと座りましょうか』という感じで、わりと自然に普通に話ができました。・・・・温家宝さんの方から原則的な話があったもんですから、私の方も領土問題は存在しないという原則的なことを申し上げた」(朝日テレビ

 双方の「原則」として放置する、いわば「尖閣諸島は日本固有の領土である」と「釣魚島は中国固有の領土である」とそれぞれが主張する双方の事実を双方の事実としたまま放置する逃げた姿勢――真正面から取り組まない姿勢を取った。

 その結果としてある今日まで尾を引いている首脳会談中止だ、反日デモだの関係悪化であろう。

 「尖閣諸島は日本の固有の領土である」イコール「尖閣諸島に領土問題は存在しない」ことにはならないことを厳しく認識して、その認識に真正面から応じる、決して逃げない姿勢を模索すべきであろう。

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